作品タイトル不明
古道具屋の外で野営
「古道具屋は鑑定品を山ほど抱えてるから、優先してもらえるよう冒険者ギルドの依頼書を持って行け。お前、書いてやってくれるか」
ギルドマスターが職員に話しかけた。
「もちろんです。少々、お待ちくださいね」
職員は俺たちに断りを入れてから、すごい早さで書類を書き始めた。
「……すごいにゃ」
古道具屋は何軒かあるが、一番ダンジョンに近い店を紹介された。街中ではないので、往復に時間がかかる。
馬を借りて急ぐか、明日改めて行くか。
鑑定に時間がかかるかもしれないので、野宿できる準備を整えて翌朝立つことにした。
街からダンジョンへ向かう途中に、その店はあった。
「装飾品なら婆さんの方がいいな。おーい」
「はいはい、なんですか」
奥から作業着の婆さんが出てきた。
事情を簡単に説明し、サークレットを装着したまま見てほしいと依頼する。
フォンを椅子に座らせて、婆さんは立ってサークレットを観察した。
「この魔石の止め方は妖精族っぽいね」
婆さんは腰を叩きながら言った。
「この魔道具の機能と安全性の確認ということでいいかい? 装着したままだと完全な鑑定はできないから、緊急性があるかどうか観るだけだよ」
俺たちは了承するしかない。
「じゃ、こっちの遮断部屋に入って。
ここなら魔法も魔道具の効果も外に出ないからね」
そういう婆さんに、少しだけ不安げなフォンがついていった。
残された俺たちは、野営の準備をした。
テントを張り終わったので、三人で組み手をやったり、ダンジョンの反省会をやったりしていた。
店から若い男が走ってきた。
「あの姉さんの具合が悪くなった。来てくれ」
駆けつけると、フォンがぐったりとしている。吐いてしまったようだ。
「悪かった。魔道具を装着したままってのは難しいね」
「だい、じょうぶ、なので……」
フォンは婆さんの腕にすがろうとした。
「いや、明日、改めた方がいい。この辺りには宿がないけど、何とかなるかい?」
婆さんは俺たちに問いかけた。
「鑑定が長引いたときに備えて、野営の準備をしている」
ルナがフォンの肩を支えながら返事をした。
「さすがだね。じゃあ、気をつけて運んでおやり」
呼びに来てくれた青年が手伝ってくれて、大きな板に乗せて運ぶ。
「おんぶすると、また気持ち悪くなりそうだったから、助かった」
俺がお礼を言うと、青年は気にするなと手を振った。
「いや、養い親に変な物を装着させられていたなんて、精神的なショックもあるだろうさ。お大事にな」
そう同情して、戻っていった。
そういえば、そういう観点が抜けていたな。
テントにフォンを寝かして、背中をさする。
「人がいない方がいいなら、テントの外にいるけど」
「――さすっていてほしい。人肌がきもちいいわ」
小さな声でフォンが言う。
丸まって横になっているフォン。なんだかとても儚く見える。
しばらくしたら、サァラが交替すると言ってくれた。
そっとテントの外に出る。
ルナが半月刀の手入れをしていた。
「親がどうとか言われても、ピンと来ないよなぁ」
とルナがぽつりと言う。
そういえば、俺たちはあまり子ども時代の話をしないな。
「ああ、あたしは孤児院で育ったんだ。
そこから冒険者に向いている子を師匠が引き取って、鍛えるんだよ。
食事の量だけは確保されるから、みんな選ばれたくて頑張った」
そういえば、師匠から独り立ちするときにビキニアーマーを贈られたと言っていたな。
「多分、『親だから愛があるはず』って説教しないから、トーマは一緒にいて警戒しないですむんだ」
この話はどこに向かっているんだろう?
「フォンもさ、『養い親がそんなことするはずない』とか『事情があるはず』とか下手な気休めを言われなくて、よかったと思うよ」
「古道具屋で、何か言われたと思ってるのか?」
「ん~、職人ってさ。派手な親子げんかしても、結局のところ技の継承で『いつかわかりあえる』ってのがあるんじゃない? よくわからないけど」
確かに、「親の愛」というものを前提に世の中を見る人と、感じることができずに育った人では、話が通じないことがある。悲しいことに、俺たちは後者だということか。
「こんなとこで何してんの?」
ちょっとシリアスな雰囲気を壊すように、顔見知りの冒険者に声をかけられた。
「古道具屋で鑑定してもらうの、待ってんの」
ルナが明るい顔に戻って、返事をした。
「何? いい物がドロップしたわけ?」
探るような声だ。最新情報の交換はとても大切だからな。
「いい物かどうか、わかんない。鑑定待ち」
「あはは、そっか。あたしたちは今からダンジョンに潜ってくるよ」
「気をつけて行ってきな」
ルナが親指を立てた。
「おう!」
手を振って、冒険者たちは去っていった。
「……夕飯、何にしようか」
気まずさを振り払うように口を開いたら、やっぱり食べ物の話になってしまった。
「フォンはあっさり目のものが好きだよね」
ルナはすぐに答えてくれる。
「魚系か。でも干物じゃないとここまで運べないだろ。弱った体にはしょっぱいかな」
ちょっと考えてしまう。
「ひとっ走り行って、買ってこようか」
ルナが立ち上がった。
「線香一本分(約二時間)はかかるだろ」
「でも、ほら、暇だし」
「……喜ぶかもな」
俺たちは目を合わせて、ニッと笑った。