作品タイトル不明
古道具屋のまわり
その日の夜は、魚の干物を使った「おじや」を作った。
俺たちの様子を見に来た青年に少しだけお裾分けしたら、感動された。「徹夜する時にうってつけだ」と不穏な言葉を残していったぞ。
翌朝、朝食後にフォンを古道具屋に送り出した。
「具合が悪くなったら、すぐに婆さんに言うんだぞ。あたしたちもすぐに迎えに行けるように、ここにいるからな」
ルナは、少しだけ不安そうなフォンをそう言って励ました。
「ちょっと考えたんだけどさ。馬を借りてくるか?
馬がいたら気軽に街に買い物に行けるし、フォンの体調が悪かったら馬に乗せて戻れるだろ」
ルナが朝食で使った食器を洗いながら提案した。
「いいね。誰が借りに行くにゃ?」
サァラは食器を拭きながら、目を輝かせた。
「サァラが一番見る目が肥えてるんじゃないか?」
ルナがニヤリと笑う。これで、サァラの担当に決定した。
「馬がいたら俺は乗馬を練習するかな。メンバーの中で一番下手だからさ」
宿屋で働いていたときも、乗るよりも世話をする方が多かったんだ。
「んじゃ、大人しそうな子を借りてくるねん」
サァラが徒歩で街に向かうことになった。
「昼は向こうで食べて来てもいいぞ」
俺に気を遣って腹ぺこな状態で戻ってくることはない。
「ん? 馬に乗ったらすぐに戻ってこれるじゃん。好きな食材を買ってくるから、トーマが料理してよ」
「飼い葉も忘れんなよ。結構な量があるはずだぞ」
ルナが注意する。
「あ、そうだったにゃ。買い出しする余裕ないか」
俺たちは、そんなのんきな会話をしていた。
その日も古道具屋の調査は終わらなかった。
サァラが不満を漏らしたが、婆さんに「わけわからんものが、そう簡単にわかるか」と叱られた。
俺は、借りてきた馬と仲良くなれたと思う。乗馬の腕は……まあ、急激に上達はしない。
数日後、俺たちは古道具屋に呼ばれ、説明を受けた。
婆さんは、フォンに向かって解説を始めた。
「あんたが盗聴の魔法を使うときに、同時に盗聴される仕組みだ。
その時の魔法と魔力を利用して、自分たちのところにも飛ばしてる。あんたは意識を盗聴する先に向けているから、その違和感に気付かないってわけだ。
まあ、よく考えられてるよ」
「つまり、フォンが盗聴の魔法を使わなければ、こっちも盗聴されないってことか?」
ルナが簡単にまとめる。
「そういうこったね」
安心するのと同時に、俺たちの武器が一つ取り上げられるに等しい。それに、外すと頭痛がするというのが気になる。
「……私の身の安全のためじゃなく、道具として利用するためだけのものなのね」
フォンが寂しそうに笑った。
「これで、育ててもらった恩とか、もう関係ないにゃ」
サァラがフォンに抱きつき、彼女の代わりに怒っている。
店の奥から爺さんが顔を出した。手にカップを持っていて、俺たちの会話に参加する気らしい。
「頭痛か。王都で診てもらうのがいいと思うぞ。冒険者なら、護衛任務をしながら王都に行けばよかろう?」
爺さんが助言をくれた。
「そんな都合のいい依頼があるかな。それにCランクだと入れてもらえないこともあるだろ」
ルナが考えながら言う。護衛は自分を守るだけでなく、人と荷物を守るわけだから、相当腕が立つ人材が求められるのだ。
「あんたたちぬいぐるみの『花猫風月』だろ? あれで倒産を免れた小さい店が、共同で王都に運ぶ荷物があると聞いているぞ」
爺さんが髭をなでた。
「そういう伝手を使えば、護衛に入り込めるんじゃないか」
婆さんは伸びをしながら、俺たちを見る。
「冒険者の腕も、どうしたって肉体的な衰えに逆らえない。そうなったとき、どうしたいか意識しながら周りを見とくといいよ。
楽しそうに生きている元Cランクもいれば、あっという間に落ちぶれるAランクもいる。小さな選択の積み重ねなんだろうさ」
「死ぬまでは生きないといけないからな。どう生きるかは、てめえ次第だ」
爺さんはそう言ってカップに口をつけた。