作品タイトル不明
257 また一万年後に
パジャレンジャーの主題歌を考えているうちにローラ、シャーロット、アンナ、ハクが眠ってしまったので、大賢者とアルピナは彼女らをベッドに寝かせてから、場所を変えることにした。
「やれやれ。とんでもなく元気な子たちだった。パニッシャーと戦うより疲れたよ」
「ふふ、そうかもね。でも楽しいでしょ?」
「うん。一万年以上経って色々と変わっていたけど、でも人々に笑顔があってよかったよ。かつてボクたち魔法少女がパニッシャーから世界を守ったことに意味があった。そしてボクの意識を懐中時計に封じた意味も。これで安心して、次の一万年後のために眠りにつけるというものだ」
大賢者とアルピナは、学長室の隣にある仮眠室に移動し、そこのベッドに寝転がりながら語り合った。
もちろん、サメとペンギンの着ぐるみパジャマのまま。
「……やっぱり、懐中時計の中に戻るのね?」
「戻るよ。実はこうして実体化しているだけで、もの凄く魔力を使うんだ。本当はパニッシャーの魂を宇宙に送った時点で懐中時計に戻るべきなんだけど……もう少しキミたちとお話がしたくてね。少しズルをしてしまった」
アルピナは自嘲した。
その壊れてしまいそうな笑みこそが、彼女の素顔のように大賢者には思えた。
彼女は一万一四二五年前に、自分の意識をコピーして懐中時計に封じた。
オリジナルのアルピナは、そのあと自分の人生を完遂したのだろう。
しかしコピーである彼女は違う。
彼女の時代の人間は全て死に絶え、それどころか建物も、国も、文化も、何もかもが滅びてしまった。
まるで別の世界に来たのと同じだ。
一体、どれほどの孤独だろう。どれほどの不安だろう。
なのに彼女は、今の世界のために戦ってくれた。
そして次の世界のためにまた眠りにつくという。
更に一万年経ったとき、世界がどうなっているのか、誰にも想像できない。
もしかしたら、もう人類はいないかもしれない。
それでも、彼女は眠りにつくのだ。
「ねえ、アルピナ。あなたはやっぱり、私の御先祖様なのかしら?」
「そうだと思うよ。そうであって欲しい。そのほうがロマンチックだからね。そういえばカルロッテ。キミには子供、いないのかい?」
「いないわねぇ」
「それはいけない。ボクの血を絶やさないでくれよ。次に目覚めたときに、ロマンチックを感じられないじゃないか」
「そうねぇ……考えておくわ」
「はは、頑張ってくれ。それにしても、あのローラちゃんって子には驚かされたなぁ。あの子、戦闘中にボクらを見て『 反射(リフレクト) 』を覚えたよ。凄すぎる。あと何年かしたら、ボクもキミも追い越されちゃうかもね」
「ローラちゃんの才能は本物よ。私から見てもたまに信じられないくらいに。ローラちゃんもあなたの血を引いているのかしら?」
「違うと思う。たんに髪の色が違うということだけじゃなくて。ボクごときの血を引いたくらいじゃ、あの桁外れの才能は説明できない。多分、ローラちゃんはボクの血とは関係のない『本物の突然変異』なんだと思う」
「じゃあ、ローラちゃんは世界で唯一無二の存在なのね。世界で一番の孤独を味わうかもしれないのね……」
大賢者は、自分と並び立つ強さの者がいないことに、ずっと孤独を感じてきた。
それがローラが現われたことで、大賢者は希望を感じた。
いつか同じ領域に来てくれるはずだ、と。
しかし、同じ領域どころか、きっとローラは大賢者を追い抜いて、遙か彼方へと行ってしまうだろう。
そうなったとき、ローラは何を思うだろう。
この世界に自分より強いものが誰もおらず、その気になれば世界を滅ぼせるほどの存在になったとき、ローラの心は耐えられるだろうか。
「はは、大丈夫さ。ローラちゃんにはいい友達が沢山いる。それにカルロッテ。キミだってまだまだ努力して、もっと強くなればいい。ローラちゃんに簡単に追い抜かれちゃ駄目だし、抜かれたら抜き返すんだ」
「気軽に言ってくれるわねぇ……でも、そうね。あなたの言うとおりだわ、アルピナ」
大賢者カルロッテ・ギルドレアはまだ生きている。
生きているということは、変化するということだ。
何の努力もせずに強くなってきた。
かつては苦戦した魔神とて、今なら一対一でも勝てると自負している。
だから今以上の強さなんて必要ないと思っていた。
しかし今日、自分の強さはパニッシャーに遠く及ばなかった。
世界は思っていたよりも広かった。
「昼寝の時間をちょっと減らして、修行でもしてみようかしら」
「頑張れカルロッテ。ついでに不老の魔法を究めて、その姿のまま、一万年後まで生きていたらいい。また一緒に戦おうぜ」
「気の長い話ねぇ。まあ、気が向いたらね」
「期待してるよ。そして次こそは、パニッシャーを魂ごと、完全に破壊しよう。封印なんて半端なことをしなくてもいいように。未来に負の遺産を残さずに済むように」
「できるかしら?」
「できるさ。一万年経って、人間は進化したよ。キミは強い。ローラちゃんもいる。シャーロットちゃんとアンナちゃんだって大したものだ。あとラーメンが旨かった……更に一万年経てば、パニッシャーなんか敵じゃない」
「アルピナ。あなた、人間を信じているのね」
「当然さ。そうじゃなかったら、やってられないよ」
「ふふ、そうね。私はまず自分を信じるところからやってみるわ」
「キミならできるよ。さて、ボクはそろそろ眠ることにする。キミたちに出会えてよかった。懐中時計、大切に扱ってくれよ。ボクの家なんだから」
「言われなくても、これはずっと私のお気に入りなのよ。肌身離さず持ち歩くわ」
「ありがとう。おやすみカルロッテ。また一万年後に――」
アルピナは目を閉じる。
するとその体が薄くなり、銀色の光の粒になっていく。
そして大賢者が首からさげている懐中時計に吸い込まれて、消えてしまった。
大賢者はアルピナが寝転がっていたところに手を伸ばす。
体温が残っている。
けれど、彼女はもういない――。
「いいえ。ここにいるのよね。おやすみなさいアルピナ。ええ、また一万年後に会いましょう」
大賢者は懐中時計のふちをそっと撫でながら、自分も目を閉じた。
ずっと孤独だと思っていた。
自分と並ぶ強さの人間なんていないと思っていた。
しかし、ずっとそばにいたのだ。
今もここにいるのだ。
そのことを知り、いつもより希望に満ちた気持ちで眠りについた。