作品タイトル不明
258 冬休みの続きです
さて、今日もアルピナを連れ回すぞと勇んで目覚めたローラたちだったが、もう懐中時計に戻ってしまったらしい。
ションボリだ。
しかし死んだわけではないから、そのうち会えるだろう。
気を取り直して、ミーレベルンの町に戻った。
そして、また雪だるまで遊んだり、ドーラが作ったオムレツを食べたりして、楽しく冬休みを過ごした。
そんなある日の午前中。
「ローラさん。わたくしに雪玉を投げるのですわ!」
「え、雪合戦ですか? 望むところです。ていっ!」
ローラは雪を丸めて、シャーロットに投げつける。
すると。
「 反射(リフレクト) !」
と叫んでシャーロットは腕を突き出した。
しかし雪玉はそのままシャーロットの顔面にペシャッと直撃する。
「冷たいですわぁ……」
「そりゃそうですよ。反射の魔法は難しいんですよ」
「しかし、ローラさんはパニッシャーの光線を反射していたではありませんか」
「あれは……学長先生とアルピナさんと三人がかりだったので」
「三人がかりだろうと何だろうと、できたことに変わりありませんわ。そして雪玉くらいなら一人でできるはずですわ。さあローラさん。もう一度!」
「はあ……風邪を引いても知りませんよ」
ローラは雪玉を投げる。
シャーロットが気合いの入った声で「 反射(リフレクト) !」と叫ぶ。
雪玉がシャーロットの喉元から服の中に入っていった。
「冷たいですわ! 冷たいですわ!」
「避ければいいじゃないですか……」
「それは駄目ですわ。あくまで反射するのですわ!」
しかし、そのあと何度繰り返しても、シャーロットが雪玉まみれになるだけだった。
「シャーロットさん。雪に埋まっちゃいましたねぇ」
「ぴー」
シャーロットはあまりにも雪玉を喰らいすぎた結果、大きな雪玉から頭だけをピョコッと出している状態になった。
まさに手も足も出ないというやつだ。
「酷いですわ……ローラさん、こうなるよう狙って投げましたわね」
「何のことか分かりませんねぇ。せっかく丸くなったので、転がしてみましょう。ごろごろ」
「ああ、やめてくださいましぃ!」
△
アンナはローラやシャーロットとは別行動だ。
ブルーノと真面目に剣の修行をするため、町を離れて雪原の真ん中に来ていた。
「師匠。本気でお願い」
「ん? どうしたアンナ。いつもよりすげぇ気合いだな」
「……普通にやってたら、いつまで経ってもローラには追いつけない。殻を破りたい。きっとシャーロットも同じことを思ってる」
「なるほどな。しかし、そう都合よく強くなれるものじゃねぇ。日々の地道な鍛錬で、少しずつ成長するしかない……と言いたいところだが」
ブルーノはそこで意味ありげに言葉を切り、ニヤリと笑った。
「地道な鍛錬が必要なのは当然だ。しかし成長ってのは必ずしも少しずつとは限らない。ある日突然、コツを掴むというか……生まれ変わったように強くなることもある。いや、俺はそっちのほうが多かった」
「つまり?」
「つまり、アンナ。お前もある日突然、覚醒して一気に強くなることもありえるってことだ。その手伝いをしてやる。かかってこい」
ブルーノは『気合いの本気モード』になり、全身から魔力をシュワシュワと噴出する。
アンナは魔法の双剣を両手に持ち、ふぅ、と息を吐き、集中する。
思えば「突然、覚醒して一気に強くなる」というブルーノの言葉には、アンナも覚えがあった。
例えば、冒険者学園に入学してローラとシャーロットに強化魔法を教えてもらったとき。
あるいは、この魔法の双剣を入手し、使いこなせるようになったとき。
アンナはパニッシャーとの戦いを経て、焦りを感じていた。
どうやったら成長できるのだろうと悩んでいた。
毎日努力しているのだから、毎日少しずつ強くなるはずなのに、どうしてそうならないのだろう、と。
だが、そうか。
殻を破る瞬間がこなければ、自分の成長はなかなか実感できないものなのだ。
もっとも、その殻を破るには、日々の鍛錬が必要。
やることは今までと変わらない。
努力しないで強くなる方法とか、近道が見つかったわけではない。
それでも、焦りが消えた。
「ありがとう、師匠。それじゃあ――征きます」
アンナは全力で真正面から斬りかかった。
ブルーノが相手なら、純粋な剣技を学べる。
ローラが相手だと、アンナはもう剣技では圧倒できてしまう。それでもローラは強化魔法による身体能力でアンナの剣に対抗してくる。もちろん、自分よりも圧倒的に速い相手と戦う練習にはなるが、『剣の技術』という点で学ぶことはもうない。
だからこそ、ブルーノはアンナにとって大切な師匠なのだ。
「おお、いい太刀筋だ」
ほら。こうやって余裕綽々でアンナの剣を弾き返してくれる。
戦士学科の教師でも、こうはいかない。
「アンナ。お前はどんな剣士になりたい? 剛力で全てを蹴散らすか? 疾風のような速さで相手を翻弄するか? 常に先手を取り続けて圧倒するか? あるいは相手の動きを見てから対応するか?」
ブルーノはアンナの攻撃を全て跳ね返しながら問いかけてくる。
雷を使おうが風を使おうが、全て対応されてしまう。
何をやってもブルーノに刃が届く気がしない。
だから安心して何でも試せる。
――私がどんな剣士になりたいか。
アンナは改めて考えてみる。
剛力で蹴散らす……のはイメージできない。将来のことはともかく自分は小柄だ。強化魔法の才能がそんなにあるわけでもない。
スピード。そうだ、自分の戦いは、いつも手数を重視していた。それが性に合っていた。こちらが攻撃し続けていれば、相手は防御するしかない。そしていつかは防御が崩れ、アンナの刃が敵に届く。
攻撃だけでなく、相手の攻撃を防御するにせよ回避するにせよ、スピードは重要だ。
どんなに巨大なパワーを持っていても相手に当てられなければ意味がない。しかしスピードは全てを制する。戦局を自分でコントロールできる。
「私は、もっと速くなりたい」
今までは漠然と強くなりたい思っていた。それが具体的な渇望となってアンナを突き動かし始めた。
そのとき。
左手に持つ 雷の魔法剣(ケラウノス) から、稲妻がほとばしった。
アンナが意図してのことではない。
だがアンナの想いに応えているかのようだった。
自分をもっと使え。
雷の魔法剣(ケラウノス) がそう言っているように感じた。
とはいえアンナはすでに、筋肉に電気を流して速度を上げるという方法で 雷の魔法剣(ケラウノス) を使っている。
これ以上、どう速度に活かせというのか。
「どうしたアンナ。思い詰めた顔をして。剣速が鈍ってるぞ。気分を変えて、俺から攻撃してやろうか?」
ブルーノはそう言って、アンナの頭部に剣を振り下ろした。
刃ではなく剣の腹だ。ゆえに当たっても斬れることはないが、脳震盪は覚悟しなければならない。
剣で防ぐか? いや、それよりもギリギリで回避して反撃したい。できるならブルーノの背後に回り込みたい。
しかし、どんなに強化魔法を使っても、筋肉に電気を流しても、それだけの加速は不可能。
ブルーノの背後に回り込むなど、それこそ稲妻そのものにでもならない限り。
――そうだ。私は稲妻になりたいんだ。シャーロットにもローラにも置いて行かれたくない。稲妻のように疾走して追いつきたい!
と。
次の瞬間。
アンナの目の前に、ブルーノの背中が広がっていた。
「え?」
何が起きたのか分からず、硬直してしまう。
「はっ?」
ブルーノも期せずして剣を素振りすることになり、少しつんのめっていた。
「おい、アンナ。お前、どうやって移動した……俺にはお前の体が光って……そう、稲妻みたいになって俺の脇を通っていったように見えたぞ!」
こちらを振り返ったブルーノは、声を震わせていた。
驚愕。恐怖。あと、歓喜?
色々な感情が交ざった表情。
それはアンナも同じだった。
ようは反応に困っている。
ただ一つハッキリしているのは、アンナの身に何かが起きて『瞬間移動』してしまったということだ。
「分からない……ただ、稲妻になりたいって思ったら、師匠の後ろに立ってた……」
「分からない、か。アンナ。お前、おそらく、もの凄い殻を割ろうとしているところだぞ。さっきのと同じことを自分の意思でできるようになれば、Aランクになれる」
Aランク。
それはドラゴンを一人で倒せる冒険者という意味。
エミリアと同じランクだ。
「やるぞ、アンナ。稲妻になりたいならなっちまえ。俺は魔法のことは全く分からないが、ようは気合いだ。俺は気合いで魔法を使っているし、お前も今そうした。努力を重ねて、頭を使って、気合いを入れたら、大抵のことはできる!」
ブルーノは改めて剣を構える。
どうやってやったのか分からない。だから分かるまで繰り返す。
いかにもブルーノらしい修行方法。
いや。きっと、それは。剣や魔法に限らず、あらゆる分野に通じる、当たり前のこと。
ローラや大賢者のような怪物級の天才でない限り、誰もが通る道。
「師匠。お願いします!」
真っ当なことをして、怪物級の天才たちに並んでみせる。