作品タイトル不明
256 新生パジャレンジャーです
魔法少女から元の服に着替えたローラたちは、約束通り、女王陛下の私室に向かった。
門番に「学長先生との待ち合わせがあるんです」と言ったら、簡単に通してくれた。
もはや顔パスに近い。
「ローラです。入っていいですかー?」
そして扉をノックし、女王陛下の許可を得てズカズカ入っていく。
「やれやれ。一国の女王の部屋が待ち合わせ場所になるとは……ファルレオン王国はいつからこんな国になってしまったのじゃ」
女王陛下は机に頬杖をついてボヤいた。
そんなケチくさいことを言わなくてもいいじゃないか、とローラは一瞬思ったが、よくよく考えるとボヤいて当然の状況だったので、笑って誤魔化すことにした。
「ああ、やっぱりこの状況は普通じゃないんだね。随分と大雑把な時代だなぁと思ってしまったよ」
ソファーに座ってチョコレートを食べていたアルピナは、そう言ってケラケラ笑う。
「いくら時代が進んでも、王宮に一般人がズカズカ入り込むのが普通にはならんのじゃ。いや、王宮とか関係なく、人の家に勝手に入ってはいかんと思うぞ。大賢者はよく王宮に勝手に入ってくるが、くれぐれもお主らは真似するなよ」
女王陛下は深刻そうに言って、ローラ、シャーロット、アンナを見回した。
その言葉には一理どころか百理くらいありそうだったので、三人とも深々と頷いた。
「さあ。皆が集まったから、晩ご飯を食べに行きましょ」
アルピナの隣に座っていた大賢者は、チョコレートを口にひょいと入れてから立ち上がる。
「晩ご飯……どこに行くんですか?」
「あら、ローラちゃん。王都で晩ご飯と言ったら決まってるじゃない。ラン亭よ」
「おお、やっぱり! 丁度ラーメンを食べたい気分だったんです」
「ラーメン? ボクの時代にはない食べ物だね。どんな料理なんだい?」
アルピナは興味深そうに尋ねてくる。
「それは見てからのお楽しみ」
「ラーメンとの出会いは食文化の新たな一ページですわ。アルピナさんもラーメンの虜になること間違いなしですわ!」
「そこまでハードル上げても大丈夫なのかい? ボクは結構グルメだぜ?」
期待に目を輝かせるアルピナを連れて、皆でラン亭に向かう。
ただし女王陛下だけは留守番だ。
一国の王族ともなると、自由に遊び歩くこともできないらしい。かわいそうに。
ローラは女王陛下の分まで美味しくラーメンを味わおうと心に誓う。
「ランさん、ニーナさん、こんばんわー」
「おお、ローラちゃんたちアルか。見たことのない女の子を連れているアルな」
「あんたたち、冬休みの宿題が終わったから旅行に行ったんじゃなかったの?」
ラン亭の店長ランと、店員のニーナが出迎えてくれた。
「このアルピナさんにラーメンを食べさせてあげたくて、ちょっと帰ってきたんですよ」
「ふぅん。アルピナさん……魔法少女みたいな格好ね」
ニーナはアルピナをしげしげと見つめる。
「そうさ。ボクは初代魔法少女なんだから当然だよ」
アルピナは澄まし顔で胸を張った。
「初代……?」
何のことやら分からないという顔をしながら、ニーナは席に案内してくれた。
幸い、大きめのテーブルが一つ空いていたので、待つことなく着席できた。
いつも混んでいるラン亭でこれは珍しい。
きっと頑張ってパニッシャーをやっつけたから、そのご褒美だ。
「さて。アルピナさんには普通のラーメンを食べてもらいましょうか。それとも一番人気のある冒険者ラーメンにしましょうか。悩むところです……」
「難問ですわぁ」
そうローラたちが悩んでいると。
「初めての人は普通の醤油ラーメンを食べて欲しいアル。伝統の味アル」
ランが厨房から顔を覗かせて語った。
そう言えばランは、元々この国の人間ではなかった。
遙か東にある 羅亜(ラー) という国の出身で、ラーメンはそこの伝統料理なのだ。
ランの一族は世界にラーメンを広めるための活動をしており、すでに大陸の東方では一般的な食べ物になっているらしい。
だが、大陸西方ではまるで知られていない。
そこで最初の一歩として、このファルレオン王国の王都レディオンが選ばれ、ランが送り込まれてきたのだ。
「なるほど。ラーメンには色々なバリエーションがあるけど、基本はその醤油ラーメンなんだね。じゃあボクは醤油ラーメンにするよ」
「ありがとうアル。きっと気に入るアルよ」
それならばということで、他の四人と一匹も醤油ラーメンを食べることにした。
なにせ近頃、ずっと冒険者ラーメンのニンニクマシマシなどが続いていた。
何事も基本をおろそかにしてはならない。
「じゃあ、醤油ラーメン五つと、小さいどんぶりね」
ニーナが伝票に注文を書いていく。
「はい、それでお願いします」
「ぴーぴー!」
「何ですか、ハク? もしかしてラーメンを一人分まるごと食べたいんですか?」
「ぴ!」
「駄目です! またマシュマロみたいな体型になっちゃいますよ!」
「ぴぃ……」
ハクはテーブルの上で悲しそうにうなだれる。
その姿があまりにも哀れなので、ローラはついラーメンをもう一人分追加注文しそうになった。
が、メタボリックな体型になるのはハクの健康に悪い。ここは心を鬼にしなければ。
「ニーナさん……醤油ラーメン五つと小さいどんぶりでファイナルアンサーです……早くその伝票を持って厨房に行ってください……私が正気を保っていられるうちに……!」
「ローラって何でも大げさに表現する子よね……」
ニーナは呆れた声を出しつつ、伝票をランのところに持っていった。
「ふぅ、危ないところでした。ハクが可愛らしい仕草で私を誘惑するから困ります」
ローラは額の汗を袖で拭った。
「ぴー」
そうしている間も、ハクはテーブルの上をコロコロ転がって、愛らしさを振りまいている。何てあざとい生き物だろうか。
「神獣の幼体をじっくり見るのは初めてだけど、こんなに可愛いものだったんだね。勉強になるなぁ」
アルピナはしきりに感心した様子でハクを眺めている。
すると、その視線に気づいたハクが、「ぴー」と鳴きながら、アルピナの胸元に飛びついた。
「あはは、くすぐったい。ボクの胸はそんなに大きくないから、しがみついたって楽しくないと思うぜ?」
アルピナはそう言ってから。
「ああ、でも、ローラちゃんよりは楽しいだろうけどね」
などと、たわけたことを言い出した。
「むむむ。私は育ち盛りだから、小さいのは仕方がないんです。あと何年かしたら、この中で一番大きな胸になっているかもしれませんよ」
「あら、駄目ですわ。ローラさんは何年経ってもそのままの姿ですわ」
「そうそう。全世界がそれを望んでいる」
「確かに、大きくなったローラちゃんって想像できないわねぇ」
シャーロットとアンナだけでなく、大賢者までそんなことを言い出した。
冗談にしても酷い。
ローラは体が小さいことを気にしているのに。
「はは。ボクもローラちゃんはそのままがいいと思うよ」
「アルピナさんまで! ひぇぇ、古代文明の人にも成長するなと言われてしまいました……でも私は沢山食べて大きくなりますよ。たとえ世界を敵に回しても……」
なんてことを言っていたら、ニーナがラーメンを持ってきてくれた。
「あなたって本当に何でも大げさに言う子ね……」
「そんなことはないですよ。ニーナさんが淡泊すぎるんです」
「冷静と言って欲しいわね」
そしてラーメンを皆で食べる。
ローラたちはまずレンゲでスープを飲む。あっさりした中にもコクがあり、実に美味しい。
アルピナもそれを真似してスープからいった。
「へえ! へえ! こりゃ美味しい!」
目をまん丸にして食べる。
美味しさは場所や時代を超越するのだ。
世界平和への第一歩である。
そうやってラーメンを食べながら、ローラ、シャーロット、アンナはようやく、パニッシャーの詳しい話を聞けた。
またアルピナは、パニッシャーが復活することを予見し、自分のコピーを懐中時計に封じ、後世に残していたというのも初めて教えてもらった。
「魔法少女にはそんな壮大な物語があったとは……知りませんでした」
「今までドタバタしていて、説明する暇がなかったからね」
「魔法少女の変身ポーズを取る時間はあったのに」
アンナの鋭いツッコミに、流石の古代文明人も唸った。
「いやぁ、それにしてもラーメンは実に美味しかった。こんな素晴らしい店に案内してくれてありがとう」
「どういたしましてです!」
「次はどこに連れて行ってくれるんだい?」
「そうですねぇ……では、パジャレンジャー発祥の地に行きましょう」
「パジャレンジャー……?」
いぶかしげなアルピナを連れて、ローラたちは行きつけの雑貨屋に行く。
そこは、あの着ぐるみパジャマを買った店だ。
「色んなものがあって楽しい店だね。いくらいても飽きない気がするよ」
「分かります。しかし、まずは着ぐるみパジャマを買いましょう。アルピナさんもパジャレンジャーになるのです」
「パジャレンジャーにはまだ鳥類がいませんわ。なので鳥類がよろしいですわ」
「ペンギンとか可愛いよ」
「本当だ、可愛い! 現代にはこんな可愛いパジャマがあるのか、凄いなぁ」
「早速買って、皆でパジャレンジャーになりましょう!」
会計を素早くすませて、バヒュンと学生寮に行く。
そしてローラとシャーロットの部屋に集まり、皆で着ぐるみパジャマになる。
ローラのイヌ。
シャーロットのウサギ。
アンナのネコ。
大賢者のサメ。
アルピナのペンギン。
「これで陸海空を制覇です!」
「凄いですわ、パジャレンジャーは無敵ですわ!」
「まさかこんな大規模な組織になるとは思っていなかった」
創立メンバーの三人は、それぞれ喜びの声を上げる。
しかし。
「あれ? ペンギンって確かに鳥類だけど、空は飛べないよね」
「そうよねぇ。その代わり泳ぎは達者だけど」
アルピナと大賢者がそんな指摘をしてきた。
それを聞いたローラたちは固まってしまう。
「……え? 鳥なのにペンギンは飛べないんですか?」
「飛べないのに鳥を名乗るのはおかしいですわ。鳥の道理から外れていますわ」
「ある意味、詐欺」
「キミら辛辣だねぇ……よし、分かった。ボクが空を飛んだペンギン第一号になろうじゃないか!」
アルピナは両手を広げて、パタパタと動かした。
すると見事、床から浮かびあがったではないか!
「凄い! やはり鳥は飛べるんですね!」
「これでペンギンが鳥類であることが証明されましたわ!」
「一件落着。めでたし」
もちろん、それは羽ばたきによる浮力ではなく、魔法の力で浮かび上がったのだが、そんな無粋なことは誰も言わない。
ペンギンが飛んだ。
大切なのはその事実だ。
「きぐるみ戦隊パジャレンジャーはついに五人になりました。陸海空、敵はありません。次に悪い奴が現われたら、この五人で集まって戦いましょう」
「ぴ!」
「五人と一匹でした」
「ぴぃ」
ハクはベッドの上で満足げに頷いた。
「というわけで、気を取り直して……五人と一匹になった新生パジャレンジャー! 平和のために戦いましょう!」
「「「「おぉぉっ!」」」」
「ぴー!」
と皆でかけ声を上げると、寮長のおばさんがやってきて「今何時だと思ってるんです!」と叱られてしまった。
平和の道のりは険しい。
頑張れ、パジャレンジャー!
負けるな、パジャレンジャー!