作品タイトル不明
255 これが魔法少女の力です
「おっと。ドラゴンが沢山でてきたぜ」
パニッシャーが流した血が変形し、数十体のドラゴンとなって羽ばたいた。
多くは地面を離れる前に、大賢者とアルピナの攻撃魔法で蒸発したが、五匹ほど弾幕をすり抜けて空に昇る。
「あれは私が倒します!」
「ローラさん、わたくしとアンナさんに一匹ゆずってくださいな!」
「分かりました! 頑張ってください!」
ローラはシャーロットのやりたいことをすぐに察した。
だからドラゴンを四匹だけ倒し、残る一匹を放置する。
「さあ、アンナさん。今度こそ、わたくしたちで倒しますわよ」
「望むところ。二人がかりでドラゴンも倒せないようじゃ、この先、話にならない」
二人は迫るドラゴンを睨みつける。
シャーロットは魔力を溜めて溜めて――。
アンナは魔法の双剣から魔力を練り上げて練り上げて――。
そして一気に、同時に解き放つ。
光の破城槌が。雷と嵐が。ドラゴンの頭部を貫いた。
「やった! やりましたわ!」
「本当にドラゴンを倒せた……なせばなる……!」
シャーロットとアンナは勝利の余韻に一瞬浸る。そう一瞬だけ。
なぜなら真の敵はパニッシャーだ。
ドラゴン一匹は彼女らにとって大きな一匹でも、戦い全体には何の影響も及ぼさない。
それでも。
「よかったですね、シャーロットさん、アンナさん」
ローラもまた、二人の勝利を喜んだ。
「キミたち、悪いけどそういうのはあとにしておくれ。ほら、来るぞ」
アルピナの真剣な声。
そして、こちらを向いているパニッシャーの三つの口。
「シャーロットちゃんとアンナちゃんが頑張ったんだもの。私たちだって負けてられないわ」
「そうだね。今なら何でも跳ね返せそうだ」
馬鹿げた魔力を込めた光線が三本、発射された。
それに対して大賢者とアルピナは、魔力障壁を展開する。
普通の防御結界とは違う……防ぐのではなく、あれは。
「「 反射(リフレクト) !」」
三本の光線がぐにゃりと歪み、パニッシャーへと返っていく。
そして胴体に直撃。
大穴が空き、内臓がぼろりとこぼれ落ちた。
そんな状態になってもパニッシャーは活動を止めず、それどころか、
「連射ですって!?」
もう一度、三本の光線が迫り来る。
大賢者とアルピナが構築した反射の壁は、二射目に耐えられそうもない。
「私も手伝います!」
ローラはさっきの攻防を見て、反射の魔法を覚えた。
よって既にある反射の壁に、ローラは重ねがけをした。
それで強度を取り戻した反射の壁は、無事、光線をUターンさせ、パニッシャーの前足を一本、切断せしめる。
「わぁお、キミは凄い子供だね、ローラちゃん。キミが手伝ってくれなかったら、今のは危なかった。ありがとう」
「どういたしまして。さあ、あと一歩です。トドメと行きましょう」
腹の穴も、切断された前足も、なかなか元に戻らない。
それどころか、自分の長い首を支える体力も残っていないらしく、ぐにゃりとしおれて地面に横たわっている。
「最後はド派手な技がよろしいですわ!」
「シャーロットちゃん、いいこと言うね。ボクと気が合いそうだ。じゃあ、ボクがパニッシャーの上に光る球を浮かべるから、皆、それに魔力を集めるんだ」
アルピナはボールを投げるような仕草で、光る球を空高く放った。
言われたとおり、ローラたちは天に腕を上げて、魔力をそこに流していく。
「私、そういう器用なことできないんだけど」
魔法少女でありながら本来は剣士であるアンナが、申し訳なさそうに呟いた。
彼女は自前の魔力で強化魔法や防御魔法を多少は使える。二本の魔法剣のおかげで、風魔法と雷魔法を自在に操ることもできる。
しかし、遠く離れた場所に魔力を流すテクニックは持ち合わせていないのだ。
「アンナさんは私の肩に手を置いて魔力を流してください。それを私が自分のとまとめて送っちゃうので」
「ぴ!」
「あ、ハクのも送りますよ」
「ありがとう、ローラ。それじゃよろしく」
「ぴー」
そうやって集まった魔力は、空中に巨大なピンク色のハートマークを作り出した。
どのくらい巨大化というと、パニッシャーより大きいくらいだ。
「よーし。そろそろオッケーだね。それじゃ、皆、マジカル・ラブリー・ハートアタックと叫ぶんだ!」
「え、なに、その恥ずかしい技名」
アルピナの言葉を聞いたアンナは、露骨に嫌そうな顔を見せた。もう誰が見ても分かるくらいハッキリと嫌がっていた。
しかし。
「あら、可愛くていいじゃないの。魔法少女っぽいわ」
大賢者はノリノリだ。
「だろう? まあ、初代魔法少女のボクが考えた技なんだから、魔法少女っぽくて当然だけどね。ボクの思想が現代まで残っていて嬉しいよ」
「素晴らしい思想を残してくださり、感謝ですわ」
「魔法少女は女の子の憧れですからね! あんなに可愛い攻撃魔法が似合うのは魔法少女だけです!」
もちろんローラもシャーロットもノリノリだ。
その勢いに押され、アンナも渋々頷いた。
「……まあ、私も可愛いとは思うけど……」
皆の心が一つになった。
今こそ魔法少女最大の必殺技が放たれる。
「「「「「マジカル・ラブリー・ハートアタァァァック!」」」」」
「ぴー」
大きなハートがパニッシャーを押しつぶす。
それは平和を愛する魔法少女たちの想いが具現化されたものだ。
愛の力だ。
悪いパニッシャーなど一撃で粉砕し、そしてハートは地面に染みこんで見えなくなる。
あとには何も残っていなかった。
あの巨大なパニッシャーは、死体すら残さず消えてしまった。
「やったー、私たちの勝利です!」
ローラはグッと拳を握ってガッツポーズをする。
が。
「いいや、まだだよ。パニッシャーの肉体を倒しただけだ。魂を封印しないと、また復活して暴れ出す」
「え!? この状態からでも再生するんですかっ? だって全然残ってませんよ!」
「跡形がなくても再生しちゃうから恐ろしいのさ。だから、ボクがパニッシャーの魂を封印し、宇宙に打ち上げる」
そう言って、アルピナは目を閉じた。
何かに集中している。
やがて、パニッシャーがさっきまでいた場所が、淡く金色に光り始めた。
その光は徐々に強くなり、舞い上がって、空中で一点に集まった。
小さな一点。しかし強い光を放っている。
「あれがパニッシャーの魂……」
大賢者が小さく呟く。
「黄金の獣よ。破壊の化身よ。お前は敗れた。魂だけの哀れな姿だ。ああ、何と惨めだろう。抗う力は消え去った。我が檻の中で悠久の眠りにつき、宇宙をさまよいたまえ」
アルピナが呪文を唱える。
すると空に立方体が現われた。
それは変形し、十字架の形になり、内部にパニッシャーの魂を閉じ込めてしまった。
「さらば、 断罪者(パニッシヤー) 。お前の裁きなど、誰も必要としていないと知るがいい――」
十字架は弾かれるように、上に向かって加速した。
その勢いで周りの雲が吹き飛び、青空が見える。
十字架は青空の中を飛び、あっという間に見えなくなってしまう。
「……ふぅ、終わった終わった。少なくとも、これでまた一万年くらいは大丈夫だろう。そのうちパニッシャーの肉体だけがこの地に再生すると思うけど、魂がなければただの肉の塊さ。昔のボクがそうしたように、穴でも掘って埋めるんだね」
「お疲れ様。あなたがいなかったら、どうなっていたか分からないわ。本当にありがとう、アルピナ」
大賢者は手を握り、心の底からという感じで礼を言った。
「それはこっちのセリフさ。ボク一人じゃ、為す術もなかった。この時代に強い魔法使いが沢山いてくれてよかった。この調子なら、次の一万年後も大丈夫だろうね」
「私たちは次の世代へと力を残していくわ。それがずっと続けば、何万年経ってもパニッシャーには負けないわ」
「うん。そうであって欲しいと願ってるよ。ところでカルロッテ。問題が片付いたことだし、ボクにちょいとこの時代を案内してくれよ。さっきの街だけでもいいからさ」
「そんなのお安いご用よ。王都は楽しい街だから、きっとあなたも気に入るわ」
古代文明人である初代魔法少女アルピナを案内する――。
そんな楽しそうなイベントを逃すローラではない。
「私も一緒に行きます!」
「無論、わたくしもですわ」
「私も私も」
「ぴぃ」
当然のごとく、全員が手を上げた。
しかし。
「あら。あなたたち、ローラちゃんの実家から飛んできたんでしょ? 帰らなきゃ、ブルーノとドーラが心配するんじゃなぁい?」
大賢者に真っ当な指摘をされてしまった。
ローラとしても両親に心配をかけっぱなしな状態は本意ではない。
「むむ……これは確かに一度帰るしかないです。でも私たちだってアルピナさんと遊びたいです! すぐ追いかけるのでどこかで待っててください!」
「そう? じゃあ陛下の私室で待ち合わせしましょ。お菓子を食べながら待ってるわ」
「陛下のお菓子! 美味しそう! 大急ぎで向かいます!」
というわけで、二手に分かれることになった。
パニッシャーという前代未聞のモンスターに勝った直後だというのに呑気すぎる気もするが、負けた直後に呑気にしているよりはいいだろう。
何せ勝ったのだ。あとは遊んでも大丈夫なのだ。
と、呑気な気持ちでミーレベルンの町に向かって飛んでいたら、途中でブルーノとドーラが走っているのとすれ違った。
そして「いくら冒険者だからって危険に飛び込みすぎだ!」とメチャクチャ怒られてしまうローラたちであった。