軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

別れと出会い

防御壁南側へ展開する帝国軍一個連隊三〇〇〇は、後方の支援部隊群をふくめると五〇〇〇を超える規模だ。これを防御壁と一〇〇〇の兵力で防いでいるグラードバッハの戦力は、見習いとはいえ魔導士の数が多いからこそできることだと思える。

しかし、攻撃され続ける防御壁は破損がひどく、崩れかけた箇所などもある。そこに帝国軍は攻撃を集中し、防御側も修復作業と戦いを同時に進めるという激戦区となっていた。

三月の九日、午後二時過ぎ。

リュミドラ率いる遊撃隊が、森の中から防御壁を攻撃する帝国軍の背後に出た。

倒した帝国兵たちの鎧を奪い、偽装した前衛――俺たちがまず帝国軍へと接近する。

俺はヴァスラ語で叫んだ。

「おい! 大変だ! 大変だ!」

後方に配置されている兵たちは、自分たちが攻撃する順番までは休憩ということでだらけていた。そして、視界前方奥には、多数の旗に囲まれる敵の本陣らしきものも見える。

兵士が俺に近づいてきた。

俺は小走りをとめない。

「なんだ!? なにがあった!」

「大変なんだよ!」

「だから、どう大変なんだ!?」

俺はイングリッドを抜く。

「これだ!」

一閃し、意味がわからないという顔の兵士の頭が宙に跳んだ。

「突っ込むぞ!」

俺は叫び、前方へと加速する。俺に続く前衛三〇人は、休んだり食事をしたりと戦う準備のできていない敵後方へと急襲したのだ。

血煙がふきあがり、絶叫と悲鳴の連鎖に怒声が重なる。

俺は 炎姫演舞(ヴァルガサルタール) を、敵本陣を中心に発動させた。

直後、幕舎や幕が燃え上がるも、控えていたであろう魔導士によって炎が消される。

指揮官らしき男や、侍従たちが慌てて逃げ出す姿を見つけ、俺は 火炎弾(フレイム) を放った。

魔封盾(スクトゥム) で防がれた!

騎士が、上官を守っている。

騎士で魔導士!

俺は追う。

帝国騎士は、兵士たちに上官を任せると立ち止まって剣をかまえた。

!?

「デイフリーズ!?」

思わず声が出ていた。

あの時の、奴隷たちを指揮していた騎士!

戦場は絶叫、断末魔、馬蹄、轟音、鉄と鉄のぶつかり合いで俺の声など彼に届いていない。

デイフリーズは、俺の声にも無表情で剣をかまえている。

無理もない。

十五歳だった頃の俺を、しかも一度か二度しか見ていない俺の顔を覚えているはずもないので、わかるわけがない。

無言で対峙する。

強いのがわかった。

傭兵の一人が、俺へと意識を向けているデイフリーズに横から斬りかかる。

帝国騎士は盾で斬撃を受け止め、弾き飛ばしながら剣を一閃した。

傭兵が剣で受けて、後退する。

デイフリーズは、攻撃をしながらも視線は俺から離さない。

傭兵が俺の隣に並ぶ。

「つえぇ」

「ああ……二対一だ。勝てる」

「俺は囮になる。エリオット、頼む」

「任せろ」

デイフリーズが挑発的な笑い声をあげた。

「おい! 卑怯だろ! 一人ずつ来い!」

「馬鹿か!? 決闘じゃねぇんだ! 戦争やってんだ! 勝てばいいんだよ!」

俺は言い返しながら、少しずつ間合いをつめていく。

俺の間合いまであと少し。

だが、彼の間合いもそろそろだ。

傭兵が、砂を蹴り上げてデイフリーズに突進した。

帝国騎士が盾で砂を防ぎ、傭兵へと剣をみまう。

同時に、俺は地面を滑るように前進しつつイングリッドを下から上へと斬り上げた。

傭兵を攻撃したデイフリーズの腕を、イングリッドが切断する。

傭兵は、突っ込むとみせかけてギリギリでわざと倒れていた。彼の髪の毛数本が宙に跳ぶ光景を、デイフリーズは見たに違いない。

俺は斬り上げた剣を振り降ろしていた。

デイフリーズは、首の付け根から胸までを斬られ、大量の血液を傷口と口からこぼしながら崩れる。

帝国騎士が、俺を見て血まみれの口を動かした。

「がぼ……お……奴隷……」

!?

「強くなったな」

明瞭な発音に驚いた時、彼は目を開いたまま死んでいた。

ここで、リュミドラ率いる中衛と後衛が一気に突入してくる。

奇襲は大成功だ。

だけど、素直に喜べない自分がいる。

俺はそれから、リュミドラの指揮のもと、帝国兵を倒しまくった。

防御壁からも撃って出た自治軍によって、帝国軍は散々に撃ち破られ、南へと大きく後退する。

歓声が支配する戦場。

リュミドラを讃える声が賑やかだ。

倒れた帝国兵たちは、自治軍の傭兵たちによってトドメをさされ、私物は奪われていく。

俺は、デイフリーズを倒した場所へと戻った。

彼の遺体は、甲冑をはぎとられ、剣も奪われて転がっている。

近づき、膝をつき、デイフリーズの顔を見て、ずっと言えなかった言葉を口にした。

「認めてくれて、ありがとうございました」

俺は、彼の亡骸を埋めるために、地面を掘り始めた。

-Elliott-

防御壁の北側で、イヴァノフから 代表(シェフ) を紹介された。

「 代表(シェフ) 、こいつがエリオットだ。クリムゾンディブロといえば知ってるだろ?」

「おいおい! 兄ちゃんがそうなのか!? すげぇな!」

壮年の傭兵はマーカスと名乗り、俺の手を痛いくらいに握りしめた。

実は、俺はイヴァノフに 大怪獣(ベヒモス) 退治に参加しないかと声をかけて、ならば 代表(シェフ) と話をしてもらったほうが早いということで今になっている。

戦勝祝いで酒が振る舞われたので、たき火を囲って輪になる。彼、イヴァノフ、俺の三人は、鉄爪の傭兵団の傭兵たちが見守るなか、仕事の話をした。

「 大怪獣(ベヒモス) か……」

マーカスの表情は暗い。

二百万はでかい数字だが、勝たないともらえないのだ。

「そうだ。イヴァノフには偵察と中距離からの援護を頼みたかった。それに 事故(アクシデント) にも冷静だ。協力してもらえないか?」

「イヴァノフ、お前はどうだ?」

マーカスの問いに、本人は笑う。

「クリムゾンディブロに頼まれた。死ぬまで自慢話にさせてもらえる。やるに決まっている」

「わかった。イヴァノフがいいなら異論はねぇ……だが、二人では無理だろ?」

「ああ……俺と一緒に前衛を務めてくれる戦士、後方で魔法支援をしてくれる魔導士がほしい……」

「エリオット、ちょっと来い」

マーカスが立ちあがり、俺は彼に続いて歩く。

鉄爪の傭兵団の 代表(シェフ) は、違う集団へと近づき、赤い髪の傭兵へ声をかけた。

「ギュネイ、お前んとこから一人、いい仕事に参加させねぇか? エリオット、こいつはギュネイ。この傭兵団の 代表(シェフ) だ。ギュネイ、こいつはエリオット、クリムゾンディブロだ」

「クリムゾンディブロ! 光栄です!」

ギュネイという二十代後半の傭兵は、酒を置いて立ち上がると握手を求めてくれた。

「人を探してるんです?」

彼の問いに、頷いて仕事内容を話す。

「 大怪獣(ベヒモス) ……」

「戦士、魔導士がほしい」

「……魔導士は実際、きついですね。前衛なら……おもしろい奴がいますよ」

おもしろい奴?

「ディハーン!」

ギュネイに呼ばれた男は、オークと人間のハーフだと見てわかった。

「おでに用?」

「ディハーン、お前は頑丈だから、エリオットと仕事をしてみないか? うまくいけば二百万をもらえるぞ?」

「にひゃくまん……何する?」

「 大怪獣(ベヒモス) を倒す」

「……ぎゅねい、おで、頭わるいからよくわからないけど、やったほうがいいか?」

「危険な仕事だ。だから絶対にやったほうがいいとは言えない。だけど、お前の頑丈さと馬鹿力がエリオットを助けると思う。お母さんに楽させてやれるぞ」

「わかった。する」

ディハーンが俺を見ている。

握手を求めると応じて……痛い!

馬鹿力だ。

ギュネイが彼に、荷物をまとめろと言って、ディハーンは離れていった。

「あいつ、ああいう奴だから大変だった……差別、貧困……迫害だよ。俺たちがまだ三人ほどの傭兵団で苦労していた時に出会った。熊に襲われて大変だった時に、あいつが助けてくれたんだ」

「お前、傭兵なのに親切なんだな?」

「命の恩人を大切にする。傭兵の掟だ」

掟と言うが、いい奴なんだろうと思う。

「あいつのお母さんがオークでね……」

ギュネイは言う。

人間がオークのメスを捕まえて、おもちゃにした。そのメスは非常に稀だがそれで妊娠して、男の子が産まれた。

「母親はオークたちと暮らせない。我が子を食べられてしまうからと群れを出て、一人で彼を育てた……今は俺たちが拠点にしている村に住んでるけど、苦労がたたって身体が悪い……」

「お前、いい奴だよ、やっぱり」

「違いますよ。掟だし、仲間のためです。当然のことをしてるだけですよ、 代表(シェフ) としてね」

ディハーンが荷物を抱えて戻ってきた。

「おで、準備できた」

イヴァノフとディハーン。

魔導士はどうするかなぁ……。