軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夜襲

陽が落ちてから、ノアを中心とした急襲部隊が出発した。

魔導士見習い五十人だ。意外だったのは、生徒たちの中にも冷静な奴らはいて「いや、ノアが悪いだろ」ということで、三割ほどは拠点の防衛ということで残ることになった。

リュミドラは俺たちの後発組にまじり、先発のノア隊は生徒たちだけだ。

後発組は、先発組の後ろをこっそりとついていく。

あの時、森の中にいた帝国軍部隊の規模は、都市国家連邦の編制だと中隊規模になる。おおよそ二百人だ。歩哨、幕舎、炊事の煙で判断した。

「あいつら、うまくやるかね?」

自分の訴えが発端となったことで少し気まずい様子のイヴァノフが、俺の隣で心配そうだった。

「俺たちでなんとかするさ。それより、彼らはあんたの仲間?」

イヴァノフの背後に、五人ほど傭兵が続いている。百人ほどの後発隊のなかに、小さな集団がいくつもあるように見えるが、それが傭兵仲間同士なんだろうと思う。そのひとつが、イヴァノフたちだ。

「ああ、防御壁のほうに 代表(シェフ) がいるが、俺たちは山脈の北で仕事をしてたんだ。あっちでは戦闘がなくなったんで、南に来た。鉄爪の傭兵団っていやぁバルティアでは有名だぜ?」

なんで傭兵団は名前をつけたがるんだろう……騎士団のつもりか?

まぁ、つっこんだら怒りそうだからしないが……。

おっと……普通に歩いていたら先発組に接近してしまう。

「速度を落とせ」

俺の手信号が、次々と後ろに伝わる。

隊列中央にいるリュミドラから、傭兵伝いで伝言が届いた。

「エリオット、姫様は撤退路に目印をつけておいたほうがいいと言ってます」

「目印? そんなもん見て覚えておけば……あ、そういうことか」

なるほど。

いざという時、生徒たちに、あれこれを目印に逃げろ! と教えるためだ。

リュミドラの案を採用し、包帯を木の枝にくくりつけながら進むことにした。

夜はさらに森が暗い。

前方……遠くで光が浮かびあがる。

……?

まさかな?

「エリオット、あの馬鹿ども、魔法で光を作って道を照らしてないか?」

イヴァノフ! お前もそう思うか!? 実は俺もなんだよ! あっはっは! て笑えるか!

「なんてことしてんだ……」

注意にも行けない今、これはもう本当に奴らの撤退を助けてやるしかないなと覚悟する。

「あいつらの自由にさせた途端にこうなるのか……」

イヴァノフが嘆く。

これまでの戦いにおいては、引率の魔導士の指示があったからこういう馬鹿なことはなかったんだろう。

「ノアだろうな」

俺は、誰がこれをしているかわかった。

彼は、敵と戦いたい。それも、奇襲での圧倒ではなく、苦戦からの逆転を希望している。そして、その自信が彼にはあるから、わざと目立つ方法をとった。

傭兵部隊が先発隊との距離を縮める。

早くやめさせて、撤退させると決めた。

情けない。

俺が思っていた以上に、あいつは自信過剰で仲間たちは盲目的かよ!

突如、派手な爆発が前方で発生する。

どちらがやった!?

帝国軍野営地へ、ノアが魔法で爆炎を発生させたのだと合流して知った。

「あ! エリオット! 見てください! 勝ちますよ!」

ノアは再び、呪文の詠唱に入る。

俺は違和感で周囲を警戒し、傭兵たちに命じた。

「円陣! 魔導士たちを守れ!」

内心はどうあれ、傭兵たちは戦いのプロだ。彼らは素早く命令を実行し、盾を連ねて見習いたちを自分たちの後ろへと隠す。

魔導士見習いたちが、敵野営地へと次々に魔法を放つ。

反撃がまったくなく、逃げていく様子もない。

これは、野営地を空にされて囮につか――!

俺の思考を止めた爆発が、近くで発生した。

傭兵数人と、魔導士見習い数人が吹き飛ぶ。

「 防御魔法(ディフェンシォ) !」

戦いなれた部隊なら、複数の魔導士がいる場合、攻撃と防御で役割分担をしているものだが、彼らは攻撃に全振りしている。

千切れた身体の部位が転がり、足がノアの足元へと転がってきた。

「うわ!」

彼はそれを蹴飛ばし、攻撃を受けた味方に叫ぶ。

「反撃だ! 反撃!」

だが、魔導士見習いたちは混乱で逃げ出していた。自分たちを守ってくれる傭兵たちを突き飛ばし、防御陣形の外へと飛び出して、拠点の方向へと一目散に走り出す。

「馬鹿!」

暗闇の向こうから、矢の斉射がおこなわれる。

若者がバタバタと倒れ、数は一気に半数ほどになった。

俺は矢が放たれた方向へと 火炎弾(フレイム) を撃ちこむ。

リュミドラの声を聞いた。

「生きたければ倒れていろ!」

彼女はそう叫ぶと、敵が潜むであろう方向へ部隊を前進させつつ、周囲の策敵を魔法でおこなう。

「風の妖精、大気の流れ、 風使(エンプ) 」

その魔法を索敵に使う奴を初めて見た……。でも、たしかに極めればそれも可能かと思う。

風使(エンプ) は、大気の流れを感じて暗闇でも進む方向を判断するのに便利なものだ。洞窟や地下遺跡で明かりが断たれた時に有効で俺も何度か使ったことはある。

リュミドラが言う。

「三時の方向! 五時の方向! エリオット! 三時の方向をお願い!」

「了解!」

俺は盾をかかげて矢を防ぎながら進み、同時に魔法の射程に敵が入り次第、発動できるように準備をする。

こういう夜戦で苦戦する時は、さっさと終わらせないとまずい。終わらせ方を勝って終わらせると判断したリュミドラのために、俺は敵がいる方向へと一気に加速した。

ここで、魔法を発動する。

火炎弾(フレイム) を前方へとぶつけ、燃える森で照らされた帝国軍の小隊を発見した。

俺に続く傭兵たちが、交互にたちどまり弓矢、弩をやつらに撃つ。その掩護を受けて接近できた俺の剣が、悲鳴をあげる敵兵の顔面をまっぷたつに切断した。頭蓋が断たれて脳と髄液をぶちまけた兵士を蹴り飛ばし、剣を水平に一閃する。右と左に死体をつくり、俺は前へと跳躍した。

敵兵のただ中で、右から迫った槍を躱し、左からの斬撃を盾でうけて、左右に剣と魔法で反撃をした。

イングリッドの斬れ味は、敵を屠るたびに増すかのようにすさまじく、盾で防ごうとした敵兵は盾ごと腕を切断され、悲鳴をあげてうずくまる。その顔面を蹴り上げ、体当たりで突き飛ばした。

ふっとんだ敵兵は、味方の槍で背から腹へと貫かれる。

傭兵たちも敵へ躍りかかった。

ここで、巨大な炎の塊が俺たちが攻撃する敵の頭上に現れたのを見る。

「馬鹿野郎!」

俺は 防御魔法(ディフェンシォ) で味方を守りながら叫ぶ。

「後退!」

傭兵たちは、理解できなくても身体で反応し後退した。直後、敵小隊を巨大な爆炎がつつみ、阿鼻叫喚の地獄絵図となる。

ふりかえると、勝ち誇ったノアがいて、彼はリュミドラが攻撃する敵部隊へと魔法を発動するべく、次の呪文詠唱を始めようとしていた。

味方を巻き込むのを、まだわからないのか!?

俺は駆けた。

敵味方が接近しての攻防中に、広い範囲を攻撃対象とする魔法は駄目だ!

「天帝の怒――」

ノアが呪文を詠唱していたが、俺が彼を掴む。

「な? なんです!?」

「危ない! 味方を殺すぞ!」

「手柄を取られるからって邪魔をするんですか!? なにがク――」

俺はノアの腹へ拳をうちこみ、彼を悶絶させた。

「げぇ……げぇえ……」

地面に伏せて震える魔導士見習いたちに声をかける。

「お前らの大事なノアくんを連れて、離れてろ」

幾人かが俺を見たが、誰も立ちあがろうとしない。

「いいから早くしろ!」

「は! はい!」

二人が慌てて立ちあがり、ノアを抱えて戦闘が発生している場所から離れるように移動する。彼らに続いて、生き残った奴らも逃げ出した。

リュミドラの部隊が、敵を圧倒している。

「矢! 絶やすな! 前衛は中衛と交代!」

姫様の指示に、傭兵たちの隊列が見事な動きをみせる。敵を殺すことに特化した機能美は、錬度の高い正規兵かと思うほどの統制だった。

攻め疲れた前衛を、中衛と交代させた見定めも見事だ。

天才は、ここにもいた……。

俺は、夜の森で白く輝く 戦姫(ヴァルキリー) から、目が離せなかった。

-Elliott-

リュミドラは果敢だ。

森の中にいた敵中隊を壊滅させた直後、このまま敵軍へと迫ると言う。

「このまま、防御壁南側へ展開する帝国軍に攻撃をしかけます」

「あちらは、ここの騒ぎで気づいていると思うが?」

俺の忠告に、彼女はうなずくも断定する。

「それでも、また部隊配置を見直されるよりは今が攻め時です。二人ほど、防御壁の味方へ走ってこのことを知らせて」

「俺が行きます」

イヴァノフだった。

彼は同じ傭兵団の男を誘って、防御壁の方向へと森の中を走る。

見送った俺たちは、リュミドラを中心に集まった。

彼女は言う。

「防御壁の近くまで拠点を前進させます。今後は敵が北上してきたら、防御壁と森からの攻撃で迎撃できるように……その前に、敵を一度、大きく南へ押し返す必要があります。エリオット、ここからだと敵軍までどれくらいかかる?」

「……今は午後十一時過ぎなので……急げば明日の朝には到着するものと」

「一刻の休憩をとり出発します。怪我人は後方に。戦える者だけで行きます。学生たちは役にたたないので引率は責任をとって拠点まで帰しなさい」

ミゲルたち教師が、情けない表情となるも彼女は気にせず、傭兵たちを見ていた。

「傭兵のみで戦います。休みましょう」

傭兵たちが一斉に頷き、低い声を出す。

姫さんは、俺に歩み寄って肩を叩いてきた。

「エリオット、前衛を頼みます」

「お任せを、殿下」

彼女は、照れたように笑った。