軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ベヒモス退治へ

翌朝、グラードバッハへと帰還した俺は、連れ二人と一緒にギルドへと入る。

「戦争中に魔導士を抜かれるのはきついっていう傭兵団の事情がわかるんで、なんとかジークから学長さんに話をしてもらえないか?」

俺の依頼に、ジーク爺さんは腕を組む。

「あいつは頑固だから」

「……」

「それに、戦闘で見習いに死者がけっこう出たそうだな?」

「ああ、俺たちも悪いが、ノアってやつも悪い」

爺さんが目を丸くした。

「ノア・アルキメトスか?」

「そうだ。天才らしい」

俺の言葉に、イヴァノフが苦笑して言う。

「人をイラつかせる天才」

おまえ、気があうな!

「彼は、北方騎士団の有力騎士の息子だ。留学生のなかでも抜群の素質……幼い頃から古代ラーグ語を操ることができたそうだ」

だから周囲がもちあげて、チヤホヤしたのかな?

「……まぁ、とにかく学長にはもう一度、話をしてみよう……お前ら留守番しとれ。ちょっと行ってくるわ」

「ギルドの仕事、俺たちはできないぞ」

俺の抗議に、爺さんは笑う。

「どうせ、誰も来ん」

「……」

歓談室で待たせてもらうことにした。

「エリオット、 大怪獣(ベヒモス) 、どうやって戦う?」

ディハーン、いいことを聞いてくれた。

考えたかったが、いろいろとあってまったくできていない。

「でかいカバだって聞いたが?」

イヴァノフの問いに、俺は答えられない。

実物を見たことがないのだ。

「でかい牛じゃないか?」

俺が知っている情報だと、でかい牛だ。

「かばの頭が、うし」

ディハーンが言った。

「見たことあるのか?」

「おで、ある」

天才か!?

「お前、すごいぞ! 教えろ」

「でへへ……」

照れたディハーンが、説明してくれた。

頭は牛のようだが、目はない。でかい角はまっすぐに前方へと突き出している。身体はカバのように丸みを帯びているが硬い。前足が異様にながく爪が鋭い。それで地中を掘って進み、餌を食べる。

「えさ、なにを食べているのかわからない」

ディハーンはそう言い、あのでかい身体を維持するには、そうとうに食べないと駄目ははずだと付け足した。

「おで、いっぱい食べる。おでよりもでかいあいつ、もっといっぱい食べるはず。でも、食べてるところ、見たことない」

「なんでそんなに詳しい?」

イヴァノフの問いに、ディハーンはクリクリとした目を輝かせて答える。

「おで、動物の博士になりたい」

どう関係してる?

「だから、あの穴に住んでる 大怪獣(ベヒモス) のことも、観察してた」

「……お前が暮らしていた場所、近いのか? 傭兵団に加わる前」

俺の問いに、ディハーンはこくこくと頷く。

「とんねる、入ったこと何度もある。部屋あって隠れられる」

おお……おおおお!

俺とイヴァノフは同時に立ちあがり、がっちりと握手をすると二人でディハーンの肩を抱いた。

「お前、最高だ!」

「ギュネイに感謝しないと! 彼を紹介してくれたイヴァノフのとこの 代表(シェフ) にもお礼言いたい!」

「おで、さいこうか?」

最高だ!

三人で抱き合って笑う。

そして、部屋に隠れておいてから急襲しようという作戦をたてていたが、爺さんの帰宅で空気が重くなった。

爺さんは、左の頬を腫らして帰ると、俺たちに言った。

「あのババアを殺す仕事を依頼する。やってくれ」

駄目だったんか……。

-Elliott-

三月十一日の朝。

仲間集めに時間をかけても仕方ないとなり、三人でグラードバッハを出る。

前をディハーンに任せて、俺とイヴァノフが後衛を務める。魔法は俺が担当することにした。

ディハーンの武器は二本の長剣で、ふつうは両手で扱うでかい剣を彼は片手で使う。

グラードバッハの北東へ進むこと半日で、森へと入った。ここは昔、隧道が使われていたころは街道が通っていたので、森の中には今もその跡がある。石板を敷き詰められた道路がところどころ見えているが、多くは草、木の根、泥に隠されていた。

宿場町の跡地がある。

朽ちた小屋は広く、鍛冶職人がここにいたのだろうと遺棄された道具類を眺めて思った。

宿の建物は、もう放置されて長いことを教えてくれる。屋根は半壊し、壁は崩れている。中を覗けば動物が逃げていった。

ふと、声が聞こえてグラードバッハの方向へと振り返る。

白い外套を着たリュミドラが、俺たちを追いかけてきていた。

「追いついたぁ!」

お前は馬鹿か!?

爺さんとの約束は!?

肩を弾ませて立ち止まった彼女は、驚く俺へにっこりと笑った。

「仲間、足りないんでしょ? 任せて!」

「いや、姫さまはやめたほうがいいです」

イヴァノフ、お前とは気があう!

「南の戦場はハモンズに任せて来た。わたしも戦う」

「駄目だ」

「これは、国にとっても大事なの! 隧道が使えれば、グラーツとグラードバッハが繋がる! 部隊を派遣する余裕がないなら、わたしたちでやるしかないでしょ」

……いや、それはそうだが……。

「絶対についていく。駄目だといってもついていく!」

「……わかった」

俺は諦めた。

こいつは、やっぱり戦闘馬鹿だ。見直して損した!

「ただし、突っ込むな。俺とディハーン……彼がディハーンだ。二人が前衛、イヴァノフが中衛、あんたが後衛。魔法援護をしてもらう」

「了解!」

彼女はそこで微笑むと、初対面のディハーンの肩を叩いた。

「よろしく! でかいね! すごぉい! 頑張ろうね!」

胃が痛い……。

-Elliott-

五か国半島(ファイブペニンシュラ) の中央を東西に走る半島山脈は、北方大陸全体でも有数の山脈といわれている。その山脈を越える方法はいくつかあるが、あくまでも数人の旅人が 案内(ガイド) を雇っておこなうというものだ。

過去、この山脈をぶち抜く隧道を造ったら早いとドワーフたちが思ったのか否かは不明だが、彼らは山脈を南北に貫く隧道を造った。

これはとても便利だったそうだが、ドワーフたちがその地を去った後、魔物たちが住みつくようになり、今では 大怪獣(ベヒモス) と呼ばれる巨体を誇る化け物が寝床にしているせいで、誰もその隧道を利用することができないでいる。

長い年月が経過した現在、俺たちはその隧道を利用するために、 大怪獣(ベヒモス) 退治で現地へと入った。

戦争のために、というのは皮肉な話だ。

その有名な隧道の入り口を前に、俺たちは止まる。

穴の入り口は巨大で、縦十メートル以上、横五メートル以上はある。そして隧道は中で少し広がっているように見えた。

中へと進むと、道の両端は溝になっていて水が流れている。よくよく観察すれば、道路は中心線が両端よりも少し高く整えられていた。

排水のことも考えて造られているようだ。

ディハーンが先頭に立ち、 大怪獣(ベヒモス) を観察していたという地点まで案内してくれる。

それは作業をしていた時代に、休憩や食事などをとるために造られた小部屋だとわかった。隧道の中には、複数の小部屋が存在すると彼は言う。

「 大怪獣(ベヒモス) 、今はこっちにいない。北側にいるのかも」

ディハーンは、化け物が隧道の南側と北側を往復する習性があると教えてくれた。

小部屋のひとつに入り、全員で装備を確認する。

イヴァノフは矢筒の矢を数え、小瓶を用意する。小瓶の中身は毒で熊を倒す時に使うものだと教えてくれた。

リュミドラは剣だが、彼女は魔法支援が任務とあってぶつぶつと呪文を詠唱して練習をしている。瞬時に発動している魔法でも、ふだんから呪文を詠唱して練習することで錬度が高まり、発動した時の精度、威力、範囲が増すからだ。

俺はイングリッドの刀身を手でなでて、艶を確かめた。

「すごい綺麗なけん」

ディハーンが言い、剣を見つめる。

「相棒からもらった宝物だ」

「北のまりゅうの牙みたいにあかい」

北の魔竜とは、北方騎士団とバルティア王国の北に浮かぶ島に生息する魔竜のことである。

深紅の鱗に覆われた飛竜で、世界に今も存在が確認されている竜のなかでもっとも危険といわれているが、接近しなければ問題ない。

ふと、リュミドラが視線を転じた。

彼女は出入り口と見ると、指を鳴らす。

どうやら、 大怪獣(ベヒモス) が南側へと移動してきたようだ。

身を隠して、姿をおがもうと呼吸も小さくする。

小部屋の中から隧道を眺める俺達の前を、その巨躯が馬のような速さで駆け抜けた。

うそだろ……あの図体で?

頭はやはり雄牛のようで、角は前へと二本、突き出ている。そして前脚は太く長く、するどい爪は隠されているようで今は見えない。後ろ足と尻尾は短い。

四肢で立つ化け物の高さは三メートルから四メートル、幅は通路のほとんどを塞いでいるから四メートルはあるだろう。頭から尻尾までも五メートルほど……横からみると少し間抜けな印象をうけるが、なめたら殺される。

正面に立てば、間違いなく蹴散らされて終わりだ。

後ろから、狙うしかない。

だが、奴はピタリと立ち止まると、その場で素早く反転した。

……どうやって?

「あいつ、身体を捻じりながら少し跳んだ」

イヴァノフの説明で、方向転換の 術(すべ) を知る。

くるりと反転した化け物は、また北側へと駆けていった。

小部屋から出る。

「あれ、やばいな……隙がない」

俺の感想に、イヴァノフが頷く。

「近くで見ていないが、身体の表面、硬そうだ。矢は腹や首……急所を狙ってみるが……常に動いてやがって難しい」

「おでもあれと体当たりしょうぶは負ける」

「わたしの魔法で奇襲して、接近戦をしかけますか?」

リュビドラの案に、俺は悩んだ。

奇襲を仕掛けるという案は、ボツだ。

あの皮膚、そうとうに硬いと見てわかる。

イヴァノフが口を開いた。

「あとをつけてみる。危なかったら引き返す。奥の様子を確認しておきたい。小部屋にいてくれ」

「了解」

俺たちは小部屋へと戻り、それぞれに武器を抱えてイヴァノフの帰りを待つことにした。