軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

答え

ミーシャの上方に、魔法陣が描かれ、そこに疑似魔王城デルゾゲードが構築される。

<創造の魔眼>を、彼女は迫りくるサーシャへ優しく向けた。

刹那――

「< 獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ) >」

漆黒の太陽を乱れ打ち、空に浮かぶ疑似魔王城を炎上させる。

ミーシャを追い越し、俺は右手を黒炎に染めた。

「< 焦死焼滅燦火焚炎(アヴィアスタン・ジアラ) >」

一直線に疑似魔王城へ向かい、その城を最下層から最上層まで一気にぶち抜いた。

輝く黒炎に飲まれ、創造された城がみるみる灰へと変わっていく。

「わがまま言わないでよっ! 約束したでしょ。今度は、三人で会おうって。やっと、会えたのに。やっと思いだしたのにっ!」

ミーシャの<創造の魔眼>が、サーシャを見つめ、彼女の体を氷で覆っていく。

「お願いごとは、これだけ」

伸ばしたサーシャの手が凍りつき、上方へ向かう彼女の勢いが止められる。

「あとはぜんぶあげるから。あなたはあなたの願いを叶えて」

瞬く間にサーシャの体が凍りついた。

かろうじて無事だった首から上も、次第に氷へ創り変えられていく。

それはやがて溶けるのだろう。

すべてが終わった、その後に。

「恋をして、幸せになって。アベルニユー。あなたの顔を、わたしはこの世界になって毎日、優しく見守るから」

サーシャの顔が完全に凍りついた。

瞬間、その瞳に魔法陣が描かれる。

<破滅の魔眼>がその空域を睨みつけると、パリンッと氷が粉々に砕け散り、サーシャの体が解放された。

「馬鹿じゃないのっ! 恋なんていらないわっ! 願いごとなんて叶わなくていいっ!」

<創造の魔眼>を<破滅の魔眼>で相殺しながら、< 飛行(フレス) >にてサーシャは再び飛び上がる。

そうして、その右手がミーシャの左手を、その左手がミーシャの右手をつかんだ。

「なにも叶わなくていい。わたしも諦めるから、ミリティアも諦めて。一緒にいられれば、もうなにもいらないから。だって、わたしは……」

<破滅の魔眼>を赤く染め、涙をはらりとこぼしながら、至近距離でサーシャはミーシャに言った。

「ミリティア。わたしはもう幸せだったのよ」

「アベルニユー」

優しく、ミーシャは言う。

「わたしたちが二人でいる限り、創造神と破壊神の運命は消せない。あなたはまだ魔族になりきれていない。ただ秩序を失っただけ。秩序を失った神は、滅びへ向かう」

サーシャの手を、ミーシャはそっと握り返した。

「最後に会えてよかった」

「……冗談言わないで。運命なんて、ぶち壊してやるわ……何度でも……」

震える声で、それでも毅然とサーシャは言った。

「あのときと、同じじゃない。わたしがまだ魔族じゃなくても、創造神と破壊神の運命が、わたしたちを滅ぼすのだとしても、それが世界の秩序だとしても、そんなの、なにもかもぶち壊してあげるわっ!」

強く、強く、これまでよりも遙かに強大に、その<破滅の魔眼>は輝いていた。

「ふむ。よく言った。それでこそ、俺の配下だ」

疑似魔王城を焼き滅ぼした俺は、降下し、ミーシャの背後をとった。

「転生が不完全なアベルニユーは、やがて滅ぶ。まず先送りにしたその問題を解決した後、ミリティア、お前の犠牲をなしに世界を真の平和に導けばそれで文句はあるまい?」

すると、ミーシャは薄く微笑み、左手を俺へ伸ばした。

体を僅かに移動させ、俺はその小さな手を握る。

「犠牲じゃなく、願い」

淡々と彼女は告げる。

「祈り続けた。願い続けた。この冷たい世界を、ただ見守ることしかできなかった。そうして、七億の年が重ねられた。今、ようやくわたしの願いは成就する。だから、悲しまないで」

ミーシャが、俺とサーシャの手を優しく握る。

「笑って」

サーシャが泣きながら、首を左右に振った。

金の髪が悲しく揺れる。

「わたしは生まれて初めて、創造神として相応しい行いができる。ただの一度も、創世の神と呼ばれるに値しなかったわたしが」

彼女はじっとサーシャを見つめる。

「アベルニユー。世界をまっすぐ愛したわたしを、困った姉だと送り出して欲しい」

次いで、ミーシャは俺を見つめる。

「アノス。神の正道を行くわたしを、この世界の王として誇らしく見守って欲しい」

俺とサーシャの背中を、彼女はその手で優しく抱く。

「わたしは決して不幸じゃない。大好きな人たちを、この世界になって、優しく見守り続けることができる。ずっと、ずっと……輪廻するあなたたちを、ずっと見てるから」

ミーシャは笑った。

俺たちの憂いを吹き飛ばすよう、柔らかく。

「悲しいお別れは、どこにもない。わたしは、ただ神であり続けただけ」

「それでも……」

震える声で、サーシャが言う。

「……ミリティアのお願いでも、わたしは嫌っ! 絶対、送り出してなんかあげないわ。絶対にっ。だって、そうでしょ。わたしが笑っていても、アノスが笑っていても、ミリティアは笑わない。話すことも、こうして手をつなぐこともできない。ただ見ているだけ。そんなの寂しいだけじゃないっ!!」

ぱちぱちと瞬きをして、ミーシャは言う。

「寂しくない」

「ミリティアがよくても、わたしが、寂しいのっ!! 一生、泣いてやるわ。ミリティアの名前を呼び続けてあげる。そうしたら、きっと後悔するわっ。絶対、絶対、後悔させてあげるんだからっ!!」

困ったような顔でミーシャは、サーシャは見つめた。

「放さないから」

ミーシャにすがりつくようにして、サーシャは言う。

「この手は絶対に放さないわ。世界の終わりが来たって」

「ありがとう」

ミーシャは一度瞬きをする。

その瞳が白銀に染まり、二度目の瞬きで<創造の月>へと変わった。

< 源創(げんそう) の神眼>である。

瞬間――周囲が真白に染まった。

「見てるから。大好きなわたしの妹を」

なにもない真っ白な空間に、氷の雲が創造される。次いで氷の大地が構築され、草花や木々が生えた。氷の山が盛り上がり、大きな海が出現する。

『氷の世界』

ミーシャの声が< 思念通信(リークス) >で響く。

俺たちは、彼女が創り出した氷の世界の中にいた。

眼下には、戸惑ったような様子のエレオノールが見える。

ゼシア、エンネスオーネ、ウェンゼル、ウェズネーラも飲み込まれたようだ。

「出してよっ、ミリティアッ! 出しなさいっ!」

『そこにいて。もう時間がない』

サーシャが<破滅の魔眼>を氷の世界へ向ける。

氷という氷が砕け散るも、世界自体はびくともしない。

『破壊と創造の力は整合がとれている。けれど、いつも、いつだって、ほんの少しだけ破壊の方が多い。それが今の世界の秩序。創造するためには、破壊するしかない。だけど、破壊神が消えて、これまでに破壊されなかった命が、その順番を待っている』

優しい声が、氷の世界に響き渡る。

『軍神が生まれてしまった。世界には裂け目ができ、神の扉が開いていく。秩序の兵士たちが一斉に押し寄せてくる』

「そんなの、ぜんぶ蹴散らしてやるわっ!」

『戦わなくてもいい。敵も味方もいない。争いはもう沢山だから、世界は優しく生まれ変わる』

「馬鹿なのっ!! 馬鹿っ!! 馬鹿ぁぁっ!! 早く出しなさいっ! 出さないと、ぜんぶ、ぶち壊すわよっ!!」

<破滅の魔眼>が空を破壊し、海を割る。

彼女は自らの根源を見据え、その力にて滅びへと近づけ、魔力を底上げしているのだ。

刻一刻と彼女は滅びへ向かい、その力はかつての破壊神へ限りなく近づいていく。

しかし、サーシャは神体を失っている。このままでは体がもつまい。

「そのぐらいにしておけ」

サーシャの魔眼を手で覆い、力を止めた。

糸が切れた人形のように彼女はがくんと脱力する。

荒い呼吸を繰り返し、サーシャは譫言のように姉の名を呼んだ。

回復魔法をかけながら、俺は口を開く。

「ミリティア。創造の神の創った世界とて、俺を閉じ込めておけると思ったか?」

『あなたの滅びを、わたしは優しく受け止める』

ミーシャは言った。

『おいで。わたしが新しく創る世界は、決して滅びはしない。これはその証明。今度は、あなたが力一杯走り回れる世界を創ってあげる』

その声は、優しく微笑む。

『子供のように、駆け出せる世界を』

相も変わらず、健気なものだ。

新しい世界は、俺がうっかり滅ぼす心配をする必要もない。

なんの気兼ねなく生きられると、そう言いたいのだろう。

馬鹿め。大馬鹿め。

お前は変わらぬ。記憶があろうとなかろうと、こんなにも人のことばかりを考え、慈愛に満ちている。

「ミリティア。お前は優しい。お前がこれから創り直そうとしている世界は、確かに優しいのだろうな」

氷の世界の外にいる彼女に、俺は言う。

「だが、それは優しい嘘だ」

その言葉に、ミーシャは黙って耳を傾けている。

「嘘は優しくとも脆いものだ。そんな有様ではたとえ世界を創り直したとて、やがて壊れる。いいや――」

はっきりと俺は断言する。

「俺が創る世界にすら及ばぬ、チャチなハリボテだ」

沈黙が僅かに流れ、彼女は言った。

『信じて』

「ならば、一つ勝負といこう」

俺はその場に魔法陣を描く。

「どちらがよりよい世界を創造できるのか。俺の方がマシな世界を創れると知ったなら、考えを改めてもよかろう?」

『わたしと創造魔法で競う?』

驚いたようにも聞こえるその声に対して、ふっと俺は笑ってみせた。

「俺がこの氷の世界を創り変えたなら、俺の勝ちだ」

じっとミーシャは考えている。

世界の創造を競い合うならば、彼女が遙かに有利だ。

そして、俺に負ける程度の創造魔法では、到底世界を優しく創り変えることなどできぬ。

彼女が不可解に思っているのは、なぜ俺があえて勝てない勝負を挑んできたのか、といったところか。

『< 契約(ゼクト) >は?』

その言葉に俺は笑う。

「俺たちがか?」

『わかった。魔王アノス。あなたに挑もう』

俺は描いた魔法陣に手をかざし、魔力を込めていく。

それはみるみる大きく膨れあがった。

デルゾゲードよりも遙かに巨大な立体魔法陣が、この氷の世界を覆っていく。

「緑に満ちよ」

< 創造建築(アイビス) >の魔法にて、氷の大地に緑を溢れさせる。

黒き魔力の粒子がそこに集えば、みるみる木々が生えていき、肥沃な土壌が構築された。

『氷と雪』

瞬く間に、俺が創造した緑の大地は、氷に創り変えられた。

「ふむ。さすがは、創造神の力だ」

『あなたの力は世界の枠から外れている。だけど、創造魔法なら届く』

「どうかな? これは世界を創り変える勝負だ。あいにくと俺の創造はお前のように優しくないぞ」

俺は目の前に手をかざし、多重魔法陣を描く。

それを砲塔のように幾重にも重ねていき、標準を空へ向けた。

漆黒の粒子が激しく渦を巻き、魔法陣の砲塔に絡みつく。

強力な魔法の余波が、空気を震撼させ、氷をどろりと溶かしていった。

サーシャを守るように、俺はその体を抱きよせる。

ウェンゼルとエレオノールたちは空へ飛び上がり、全員で魔法の結界を構築していた。

黒き粒子が砲塔を中心に七重の螺旋を描く。

氷の大地と空を四つに分けるが如く深い亀裂が走った。

「< 極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア) >」

魔法陣の砲塔から、終末の火が放たれる。

七重螺旋を描くその暗黒の炎は、終わりを予感させる轟音とともに空へ向かい、なにもかもを蹂躙しながら直進した。

二千年前の創造神ミリティア、破壊神アベルニユー、魔王アノス・ヴォルディゴードの魔力を借りる起源魔法。

ミリティア本体には効かぬが、彼女が創った世界なら話は別だ。

終末の火が、空の果てに到達し、そして世界の一切が炎上した。

氷の雲が燃え、どこまでも広がる空が燃え、大地や山々が燃え、あらゆるものが黒き灰に変わっていく。

そうして、世界はただ白と黒に染め上げられた。

だが、その枠組み自体は健在だ。

その証拠に、俺たちは芽宮神都に戻っていない。

「< 極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア) >でも壊れぬとは、なかなかどうして、大したものだ。俺の滅びを受け止めるといった言葉に偽りはないようだな」

『嘘はつかない』

「いいや――」

ゆるりと右手を下げ、天に向けて開く。

そこに影の剣が現れた。

氷の世界に侵入するよう、空には魔王城デルゾゲードが姿を現していた。

右手を握れば、影が反転するように闇色の長剣が俺の手に収まる。

「お前は嘘をついている。今から、それを暴いてやろう」

理滅剣ヴェヌズドノアを天にかざす。

そこから投射された影が、白黒の世界に様々な像を浮かび上がらせる。

城や街、山々や森、砂漠、湖、そこに住む人々が立体的な影絵のように現れた。

幾億もの影絵が世界を新しく創っていく。

しかし――

『わかっていたはず』

影絵が一つ、凍りついた。

『理滅剣は破壊神の力。あなたが誰より優れているのは滅びの魔法。滅びと滅びを重ね創造の力に変えても、創造神の世界は創り変えられない』

影絵の世界が塗り替えられるように、大地が再び凍りついていく。

『嬉しかった』

彼女は言う。

『忘れないから』

あたかも別れの言葉のように。

『あなたは最後まで、わたしの創った世界を滅ぼそうとはしなかった。こんなときでさえ』

一瞬の静寂、腕の中でサーシャが震えていた。

『滅びの魔法が得意な暴虐の魔王が、わたしを引き止めようとして挑んだのは、世界の創造を競うこと。それが、わたしへの一番のはなむけ』

淡々としたミーシャの声、それでも彼女が笑っているのがわかった。

『ありがとう』

白銀が一気に世界を覆いつくす。

『わたしはこの世界を見てきた。見守り続け、ずっと考えてきた。悲しまないで。笑って欲しい。これが、七億年、考えて、ずっと考えて出した、わたしの正解。だから――』

言葉が途切れた。

見れば、白銀の氷が世界を半分覆いつくしたところで止まっていた。

「……俺が、奇跡をくれてやったと言ったな、ミリティア……」

白銀の世界が半分、影絵の世界が半分。

一瞬にして世界を塗り替えられるはずの創造神は、けれども、その影絵を消せなかった。

「世界を壁で隔て、平和を見せた。<破滅の太陽>を落とし、神の恋を見せた。アベルニユーが魔族へ転生するところを見せた、と」

白銀の世界が、再び影に塗り潰されていく。

ゆっくりと、しかし確実に、影絵は数を増した。

「それが嘘だ。俺がお前に見せた奇跡は、そんなものではない」

創造魔法と創造魔法の鬩ぎ合いでは、俺が不利だ。

にもかかわらず、影絵の世界は再び凍りつくことはない。

「転生した俺とお前は、この時代の初めての友となった」

遙か視線の彼方、そこに浮かんだ影絵はミッドヘイズで、俺とミーシャが出会った光景だ。

「< 分離融合転生(ディノ・ジクセス) >の一件で、サーシャと仲違いをしたお前は、俺とともに彼女を追いかけ、仲直りをした」

また違う場所に浮かび上がった影絵は、デルゾゲードの地下ダンジョン。

ミーシャにすがりつくサーシャの姿がそこにあった。

「お前に誕生日の指輪をくれてやった」

俺の家の影絵が浮かぶ。

そこには<蓮葉氷の指輪>をつけ、満面の笑みを浮かべるミーシャがいた。

それらを確かに、彼女は奇跡だと思っていたのだ。

「いつぞやの魔剣大会でお前は言ったな。俺は暴虐の魔王ではなく、クラスメイトで友達だと。生まれ変わり、今は一人の学生だと。楽しんできて――と。お前はかつての魔王ではなく、今の俺を見ていた。生まれ変わった俺を」

彼女の言葉で、俺は求めていた平和を肌身で感じることができた。

「そっくりそのまま返してやろう。お前はもう創造神ではない。ただの学生であり、俺の友だ。俺だけではないぞ。ここにはいない学友たちに、一言も告げることなく、ただ消えて、彼らが笑顔でいられると思ったか」

氷の世界を見つめるミーシャの 神眼(め) に、無数の影絵が映っただろう。

それはレイやミサ、シンやレノ、ファンユニオンの少女たちや、エミリア、エールドメード、父さんや母さん、魔王学院の生徒たちの姿だ。

「お前と出会ってから半年、もう七ヶ月になるか。その記憶と想いを遠ざけていたのだろう。覚悟が乱れぬよう、創造の力で創り変え、心の奥に秘めていた。それがお前の嘘だ。だが、知っていよう。神の秩序は、愛と優しさには決して敵わぬ」

目を背けた彼女に、突きつけるように俺は影絵の世界を創った。

「ミーシャ」

彼女の名を呼ぶ。

誰も呼ばないと悲しみに暮れていた、彼女の名を。

創造神ではなく、一人の魔族として生まれ変わった、彼女の名を。

「あまり馬鹿を言うな。お前を失うなど、ありえぬ」

「そうだぞっ、ミーシャちゃんっ!」

空を飛ぶエレオノールが大声で叫んだ。

「魔王軍は全戦全勝、誰一人欠けることなく、今回も帰るんだぞっ! それで一緒にお酒を飲むんだ。ミーシャちゃんがいなかったら、誰が酒乱のサーシャちゃんを止めるんだっ!?」

「ミーシャは……ゼシアに優しいです……!」

ゼシアが負けじと大声で叫ぶ。

「ミーシャがいなくなったら……誰がゼシアの草をこっそり……食べてくれますかっ!?」

両拳を握り締めて、この世界の外にいる彼女にゼシアは強く訴える。

「ゼシアは……草食動物には……なれませんっ……!」

「……ミーシャ……」

俺の腕の中で、サーシャが声を発する。

「……ねえ、ミーシャ。あなたの願いはわかったけど、本当にそれでいいの……?」

とても優しく、ひどく悲しげに、サーシャは語りかける。

「わたしたちは、いつも二人だったわ。創造神とか、破壊神とか、関係ない。あのときだってそうだった。一人じゃなきゃ生きられないってわかっていたって、そんなの無理だわっ。だって……」

涙の雫が、<破滅の魔眼>からこぼれ落ちる。

「……だって……」

と、サーシャは言葉を重ねる。

「……だって、わたしたちは二人じゃなきゃ生きられないっ! あなたが世界になるなら、わたしもなる。創造神と破壊神じゃなくなったって、このつながりは絶対切れない……どうしても世界に生まれ変わるっていうなら、一緒に来てってわたしに言ってよっ!」

ゆっくりと彼女は震える手を伸ばす。

ここにはいない、ミーシャに向かって。

「わたしはあなたの妹だけど、あなたのお姉ちゃんだわっ……! あなたより後には死ねない。あなたより先にも死ねない。一緒じゃなきゃ、だめなのっ! ねえ、そうでしょ、ミーシャッ!」

強い意志を込めて、サーシャは叫んだ。

かつての姉へ、かけがえのない妹へ。

決して欠けてはならぬ、自らの半身へと。

「二千年前なら、答えは違ったやもしれぬ。だが、お前は、すでに一人の魔族として生きたのだ」

一旦言葉を切り、俺は周囲を見つめた。

「最早、優しい世界になどなれぬぞ。これだけの者たちの悲しみを生む世界が、優しいはずがあるまい」

心優しき友へ、俺は笑いかけた。

大きく手を広げれば、この背中に、影絵の世界が踊った。

「そうでないと言うなら、今、この場で創り変えてみせよ。俺たちがともに歩んだ、この七ヶ月の世界を」

俺の創造魔法が、世界に影を広げていく。

現れた無数の影絵は、どれもこれも、俺たちが過ごした七ヶ月の日々を見せつける。

創造神の秩序がそれを創り変えることができようとも、彼女の心はこれを消すことができない。

愛しい思い出を、消すことはできぬ。

滅ぼす必要など、決してないのだ。

俺たちが歩んだこの日々が、嘘や魔法で創り変えることなどできぬ、なによりの奇跡なのだから。

「なあ、ミーシャ」

理滅剣を手放す。

剣はいらぬ。魔法もいらぬ。

ただこの心さえあればよい。

「一人で考え抜いたたった七億年の答えが、俺たちの七ヶ月に敵うと思ったか?」

音もなく、目の前に、無数の破片が舞う。

それは世界の欠片。

ガラスに映った思い出の数々が、くるくると踊るように回転し、影絵の世界が遠ざかる。

七ヶ月の日々が走馬燈のように通り過ぎていき、気がつけば目の前は芽宮神都の空だった。

瞳いっぱいに涙を溜めたミーシャがいた。

「……ぁ……」

彼女がなにかを口にするより先に、サーシャがぎゅっとその体を抱きしめた。

「おかえり、ミーシャ。もう放さないわ」

涙の雫が頬を伝ってこぼれ落ちる。

掠れそうな声で彼女は言った。

「……ただいま……」