軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

協力者

魔導要塞を出た俺たちは、エティルトヘーヴェの遺跡都市を南下していた。

『オマエのことだから見ていたと思うのだが、どうやら緋碑王は< 母胎転生(ギジェリカ) >の魔法のこと以外は、殆どなにも知らされていないようだ』

< 思念通信(リークス) >にて、エールドメードの声が響く。

ギリシリスを隷属させた後、熾死王は奴から知っている情報を引き出したのだ。

「ふむ。予想通りか。セリスに良いように使われていたな」

『だが、< 母胎転生(ギジェリカ) >の魔法は興味深いぞ。あのギリシリスでさえ、あれほどの魔力を得たのだからなっ! 果たして、セリス・ヴォルディゴードがなにを企み、どう魔王の敵を生み出そうとしていたのかっ!? 考えるだけで――うぐぅっ!!』

熾死王が呼吸困難になった呻き声が聞こえる。

しかし、どことなく嬉しそうで不気味だ。

めげずに奴は言う。

『あるいは、あるいはだ。もう生まれている、ということも考えられるではないかっ!』

面倒な話だな。

主を失った化け物に、そこらをうろつかれても迷惑だ。

「ヴィアフレアは、暴食神ガルヴァドリオンを腹の中で転生させ、覇竜にしたと言っていた」

『ああ、待て。今、確認しよう。まったくコイツはワンとしか答えないのだから、困りものだ。少しは口が利けるようにしておいてやるべきか』

自分でやっておきながら、熾死王はそんな風にぼやく。

『……なるほど、なるほどぉ』

直接ギリシリスの記憶を探っているのだろう。

エールドメードはそんな風に呟いた後に、説明した。

『睨んだ通り、< 母胎転生(ギジェリカ) >とのことだ。ヴィアフレアは腹を改造され、覇竜を生んだ。母胎と子の組み合わせによって、転生時に与えられる特性が違うようではないか』

ヴィアフレアは、暴食神を覇竜へと生まれ変わらせることができる母胎だったわけか。

しかし――

「それだけとは思えぬな」

『確かに、確かに。冥王イージェス、詛王カイヒラムは、ヴィアフレアをさらっていった。オマエの考えはこうだな、魔王。ヴィアフレアはなにかを生むための母胎。< 母胎転生(ギジェリカ) >によって暴食神を覇竜へ転生させたのは、彼女をより良い母胎に改造するため、その副産物にすぎないのだとっ!!』

興奮した口調でエールドメードが声を上げる。

まだ見ぬ敵が生まれていてくれと言わんばかりだ。

『匂う、危険な匂いが、漂ってきたではないカーッカッカッカッカッ!!」

「その前にヴィアフレアを捕らえよ。ガングランドの絶壁にいる可能性は高い。創星エリアルとともに捜せ」

『……その前にかぁ。なるほど、なるほどぉぉ……』

口惜しそうにエールドメードが返事を渋っていると、シンは短く言った。

『承知しました。幻名騎士団の残党は?』

「任せる」

『御意』

< 思念通信(リークス) >を切断する。

そのとき、前方の行き交う人々の合間に、黒い靄のようなものが見えた。

「止まれ」

俺の声に、ミーシャやサーシャたちが立ち止まる。

黒い靄が、六本の角がある魔族に変わった。

「カイヒラムだわ……」

サーシャはぐっと身構え、その魔眼を奴に向ける。

「待って!」

奴はそう言った。

周囲の人間たちが、一瞬何事かと振り返った。

ゆっくりとその魔族はこちらへ歩いてくる。

「話がしたいの。魔王様と。会わせてくれる?」

「……ジステ?」

呟いたのはミーシャだ。

彼女の言う通り、今の詛王の根源はジステのものだ。

人格が切り替わったのだろう。

「お願い。カイヒラム様を助けて欲しいのよ。嘘じゃないわ。< 契約(ゼクト) >をしてもいいから。創星エリアルの在処も教えるからっ。だから、話だけでも聞いて」

切実な声でジステは訴える。

ミーシャは彼女をじっと見つめ、俺のそでをそっとつかむ。

「……悲しい気持ち……」

ジステの感情を言っているのだろう。

「……大切な人が、いなくなってしまう……」

ふむ。まあ、ジステの人格ならば、さほど警戒することもあるまい。

「来るがいい」

そう言って、俺たちは人気のない路地へ移動した。

ジステは大人しくついてくる。

「カイヒラムはどうした?」

言いながら、俺は< 契約(ゼクト) >を使う。

嘘をつかないといった内容だ。

「今は、寝ているわ。でも、いつ起きるか、わからないから」

ジステは俺の< 契約(ゼクト) >に調印した。

「あの……魔王様は?」

「ああ、俺だ」

< 成長(クルスト) >の魔法を使い、一六歳相当にまで体を戻す。

ジステは驚いたように目を丸くしていた。

「それで、カイヒラムがどうした?」

「……あ、うん。その、冥王様がディルヘイドの名前のない騎士団にいたのは知ってる?」

ジステはそんな風に切り出した。

うなずき、肯定を示せば、彼女は続けて説明した。

「亡霊は、亡霊として闇に葬らなければならないって、冥王様が言ってるのを聞いたわ。名前のない騎士団の亡霊が、今もこの時代を彷徨っていて、それがどうしても許せないんだって」

「セリス・ヴォルディゴードが生きているということか?」

ジステは首を左右に振った。

「わからないわ。セリス・ヴォルディゴードのことかって聞いてみたら、冥王様は違うって言ってたけど。だけど、詳しくは教えてくれないから、その亡霊が誰なのか、よくはわからないの。でもね、冥王様はずっと、二千年前からその亡霊を捜してたんだって。そのために、セリスにも手を貸していたんだって」

亡霊を闇に葬るために、意に沿わぬ相手に手を貸したか。

「アハルトヘルンにいたのも、その亡霊を捜していたんだと思う」

「それをようやく地底で見つけたか?」

「たぶん、そうなんだと思う」

幻名騎士団の亡霊。

ならば、セリス・ヴォルディゴードが関わっているのは間違いない。

「……冥王様は負けるって、カイヒラム様は言っていたわ……」

「その亡霊とやらにか?」

ジステはうなずく。

イージェスとて並の魔族ではない。

格上の相手に挑むとしても、勝算なく戦うような愚か者ではないはずだ。

それが詛王の 魔眼(め) から見て、負けると言い切るほどの相手か。

「冥王様は、刺し違えても倒す覚悟だから、そのとき、自分の出番だって」

「カイヒラムがか?」

ジステは、思い詰めた表情でうなずく。

「冥王の身代わりになるという意味か?」

「そう」

カイヒラムの呪いならば、敵の攻撃をその身に引きつけることができるだろう。

身代わりになるような呪詛魔法も、あるのかもしれぬ。

「カイヒラム様は、冥王様に借りがあるんだって言ってたわ。命に代えても、返さなければならない借りがあるって」

「二人の仲が良かったとは知らなかったが」

ジステが苦笑する。

しかし、その笑みには温かいものを感じた。

「カイヒラム様は、わがままで、傍若無人で、素直じゃない人だから。でも、困ったところも沢山あるけど、本当はとっても義理堅いの」

命を捨てる決意をさせるほどの恩か。

気になるところだな。

「大体わかった。要は冥王と詛王よりも先にその亡霊を捜し出し、滅ぼしてやればいいのだろう?」

こくりとジステはうなずく。

「きっと魔王様なら、できると思って」

「なぜその冥王という魔族の子は、お兄ちゃんに頼らないのだろう?」

アルカナが問う。

「セリスや幻名騎士団は平和を妨げる。お兄ちゃんにとっても、障害のはず」

「うーん、そういえばそうよね。目的が一致してれば、冥王っていつも協力してくれるのに、なんでそれに限ってはアノスの助けを借りないのかしら?」

サーシャが不思議そうに首を捻った。

「冥王様は、魔王様の助けだけは借りられないって言ってたわ」

「それって、アノス君以外だといいってことかな?」

エレオノールが訊く。

「対抗意識……ですかっ……!」

ゼシアがよくわからないながらも、強引に会話に入ってきた。

「それが、自分が引き継いだ役目なんだって言ってたわ。二千年前も、今も、魔王の行く道と、亡霊の行く道は、交わることはないんだって」

まどろっこしい物言いだな。

ジステを煙に巻いただけかもしれぬが。

「本当はこんなことを魔王様に伝えたら、カイヒラム様に怒られちゃうんだけど……でも、このままじゃ、二人とも、本当に死んじゃうような気がして」

心配そうな表情でジステが言う。

「心配するな。二人とも助けてやる」

「本当?」

うなずけば、ジステは笑った。

「ありがとう、魔王様っ。いつもいつも、ごめんね」

「どうやって捜す?」

ミーシャが問う。

亡霊を、ということだろう。

「幻名騎士団のことは、二千年前に手がかりがありそうだ。俺の誕生を、奴らは見届けていた。ボミラスが言っていたこともある。少なくとも、俺と奴らにはなにかしらのかかわりがあったのだ。それを思い出せれば、自ずと亡霊にも辿り着くだろう」

「えーと、じゃ、やることは結局同じで、まずは創星エリアルを見つけるってことでいいのかしら?」

サーシャが確認するように訊いてくる。

「ああ」

ジステの方を向くと、彼女は口を開いた。

「創星エリアルは、遺跡の各箇所に埋まっているわ。掘り出すのには時間がかかっているみたい。詛王様や冥王様はそれを守るように言われているの」

「誰にだ?」

「魔導王様よ。ボミラス様はセリスと協力していて、彼がいなくなってからも、幻名騎士団は変わらず、協力しているみたい」

ふむ。冥王の指示か?

ボミラスへの協力が、亡霊を倒すことにつながると考えるのが妥当だろう。

「でも、魔導王はアノス君がぶっ飛ばしちゃったぞ」

エレオノールが人差し指を立てると、ゼシアは得意気な表情を浮かべる。

「エリアルは……ゼシアたちのものです……!」

すると、ジステは首を左右に振った。

「たぶん、魔導王様は滅んでいないと思うわ。彼は炎の体を分離させた、 分体(ぶんたい) を持っているの。分体が滅んだら、別の分体に魔導王様の根源が転写されるから、すべての分体を滅ぼさないと、完全に滅ぶことはないって」

「滅んだら転写されるって……それって、もう別人なんじゃ?」

サーシャが言う。

「ふむ。まあ、同じ人格、同じ魔力ならば、こちらにとっては同じことだがな」

案の定、滅びの対策をとっていたか。

二千年前、魔導王と呼ばれただけのことはある。

「創星エリアルの場所は?」

「カイヒラム様が守るように言われていたのが、エティルトヘーヴェにある一二番の縦穴。そこは今、警備が手薄だと思うわ」

カイヒラムがいないわけだからな。

「それとイージェス様がいる三○番の縦穴。あとは、お城の最奥にある遺跡の壁画に、創星が埋められているって聞いたわ」

第一皇女コロナから聞いた七番目の縦穴。

カイヒラムが守護する一二番目の縦穴。

イージェスが守護する三〇番目の縦穴。

エティルトヘーヴェ城最奥の壁画。

シンたちがいるガングランドの絶壁に一つあるとすれば、これで合計五つか。

「城へはレイたちが近い。まずは先に他を押さえる」

俺が魔力で地図を描くと、そこにジステが縦穴の場所を記した。

「エレオノール、ゼシア、アルカナは、一二番目の縦穴へ。ミーシャとサーシャは七番目の縦穴へ向かえ」

各々がこくりとうなずき、行動を開始する。

「アルカナちゃん、一緒に元気出して頑張るぞっ!」

「……頑張ってみよう……」

「……創星……一番乗り……です……!」

エレオノール、アルカナ、ゼシアが去っていく。

「気をつけて」

「ていうか、わたしたちの行くところだけ、創星があるかわからないのよね」

ミーシャとサーシャは、七番目の縦穴に向かって走っていった。

「ジステ。お前は俺とともに来い」

ゆるりと歩き出し、背中越しに言った。

「イージェスのもとへ向かう」