軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三神に選ばれし者

魔剣が煌めく。

緋碑王が得意気に語った頃には、シンはすでに間合いを詰めていた。

その巨大な石の瞳、魔眼神ジャネルドフォックに、断絶剣デルトロズを振り下ろす。

「断絶剣、秘奥が弐――< 斬(ざん) >」

ガギィィイッと甲高い金属音が鳴り響く。

あらゆるものを断つ魔剣、断絶剣デルトロズ。

その秘奥が、突如、魔眼神ジャネルドフォックの前に現れた荘厳な剣に防がれていた。

美しい刃文が浮かぶ魔剣。

それは辺りに静寂をもたらすほどの神秘を醸す。

キラリ、と刃文が揺らめけば、それだけで夥しいほどの魔力が溢れた。

神の秩序が。

「フフフ」

勝ち誇るかのように、緋碑王ギリシリスが声を上げた。

「魔王と違い、吾輩を選んだ神は一人ではなくてねぇ」

いつのまにか、彼の指には二つの選定の盟珠がつけられている。

「魔剣神へイルジエンド」

ギリシリスの言葉とともに、その荘厳なる魔剣に輝く手が添えられる。

魔剣から明かりが滲むが如く、そこに顕現したのは、光で作られた人形の姿だ。

剣を握るその構えには、一分の隙とて存在しない。

「ヘイルジエンドは、あらゆる魔剣を統べる、剣技の神でねぇ。手にしているその魔剣は、 流崩剣(りゅうほうけん) アルトコルアスタ。千本のなまくら魔剣を集めたところで、到底太刀打できない、真の魔剣なのだよ」

あげつらうようにギリシリスは言う。

「そうですか」

断絶剣デルトロズを、流崩剣アルトコルアスタは、その剣身にて真っ向から受け止めている。

直後、光の人形――魔剣神ヘイルジエンドの剣を打ち払い、シンはその首筋に断絶剣デルトロズを一閃した。

しかし、その剣はなにかに引っかかったようにぴたりと止められ、ヘイルジエンドの流崩剣が逆にシンの首を斬り裂く。

鮮血が散るも、彼は身を引き、紙一重で致命傷を避けた。

シンの魔眼が、断絶剣を受け止めた結界を睨む。

「フフフ、魔王と違い、吾輩を選んだ神は一人ではないと言ったはずだねぇ」

ギリシリスの指にもう一つ、三つめの選定の盟珠が現れている。

「結界神リーノローロス」

シンの剣を阻んだのは、結界神の秩序。

神々しくも透明な布が、断絶剣デルトロズに巻きついている。

その先には、布を裸体に巻きつけた淑女がいた。

結界神リーノローロスだろう。

「やりたまえ。リーノローロス、ヘイルジエンド。たかだかディルヘイド一の剣の使い手に、神の剣技を見せてやることだねぇ」

緋碑王が選定の盟珠を光らせ、命令を発する。

すると、結界神リーノローロス自体が透明の布へと変わっていき、まるで蜘蛛の巣のように、それを四方八方へと伸ばす。

シンと魔剣神を、その結界の内側に閉じ込めた。

「リーノローロスの 結界布(けっかいふ) は、外からも内からも決して破れなくてねぇ。味方には世界の滅びにさえ耐える加護を、敵には動きを封じる呪縛を与えるのだよ」

ギリシリスがぐにゅぐにゅと表情を歪めながら解説する中、シンは、断絶剣の秘奥が弐< 斬(ざん) >にて、魔剣に絡みついていた結界布を斬り裂いた。

返す刀で、彼は魔剣神ヘイルジエンドに肉薄し、剣を振り下ろす。

一呼吸の間に、断絶剣と流崩剣が幾度となく衝突し、無数の火花を散らした。

「剣技の神というのは、伊達ではないようですね」

みるみる加速していくシンの連撃に、しかし、剣技を司る神は難なくついていく。

魔剣神ヘイルジエンド。その姿は輝く人形。

声も発さず、表情すらない。だが、その剣は雄弁になにかを語っていた。

「断絶剣、秘奥が 肆(よん) ――」

刹那の間に、一万回、断絶の刃が閃いた。

「< 万死(ばんし) >」

秘奥を使ったシンに対して、ヘイルジエンドは素の力で万死の刃を悉く打ち払う。

リーノローロスの結界布により、シンの速力が妨げられているからだ。

互いに刃と刃を交換し、その体を斬り裂くも、結界により魔剣神は無傷。反対にシンは打ち合う毎に裂傷を増やしていた。

秘奥の終わり際、ゆらりとヘイルジエンドの体が揺れる。

人形が手にした流崩剣から、微かにせせらぎが聞こえた。

彼とその神との間に、薄い 水鏡(みずかがみ) が現れる。

シンを映したその水面から、再びせせらぎ聞こえた。

水鏡に一粒の水滴が落ちるが如く、小さな波紋が一つ、彼が手にした断絶剣デルトロズの切っ先に立つ。

直後、水鏡を貫き、流崩剣アルトコルアスタが突き出される。

それをシンはデルトロズにて打ち払ったが、しかし、魔剣神の放ったその突きは、寸分の狂いなく、先程波紋が立った切っ先を貫く。

パリンッ、と音がした。

薄氷が割れるが如く、シンが手にしていた断絶剣が砕け散り、破片も残らず手からこぼれ落ちた。

その根源もろとも斬り裂かれ、最早時間を置き、魔力を与えようと再生は不可能だろう。

魔剣は、滅びたのだ。

「……流崩剣の秘奥……ですか……」

シンが魔法陣を開けば、そこから斬神剣グネオドロスの柄が現れる。

しかし、再びせせらぎが聞こえたと思うと、彼の前に一枚の水鏡ができていた。

それが波紋を立てた直後、流崩剣アルトコルアスタが収納魔法陣を斬り裂いていた。

同時に斬り裂かれたシンの手は血を流しているものの、まだ動く。

咄嗟に飛び退き、彼は険しい視線をアルトコルアスタに向けた。

デルトロズを滅ぼした一撃にしては、弱すぎる。

恐らくは、波紋が立ったその一点のみを滅ぼす秘奥なのだろう。

「フフフ」

と、嬉しそうな笑声が響き渡った。

「あちらは決着がついたも同然だねぇ。魔王の配下と吾輩の配下、同じ剣使いでもどちらが有能か、わかってしまったということだよ」

石の瞳、魔眼神ジャネルドフォックの上に立ちながら、緋碑王ギリシリスは言った。

「カッカッカ、それは早とちりなのではないか。オマエは、自分の力に自惚れ、相手を見ようとしない。だから、いつも負けるのだ」

エールドメードの髪が黄金に変化し、その 魔眼(め) が燃えるような赤い輝きを発する。

背中には魔力の粒子が集い、光の翼を象った。

彼が手の平から、黄金の炎を立ち上らせると、神剣ロードユイエがそこに創造される。

「行きたまえ」

シンに向かって勢いよく射出されたロードユイエは、しかし、リーノローロスの結界に触れる前に、ぴたりと宙に静止した。

「遅かったねぇ。< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >は、殆ど完成したのだよ」

ギリシリスが手を伸ばせば、神剣ロードユイエがくるりと反転し、エールドメードの方へ向いた。

「神の魔力、神剣とて、< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >の前には服従あるのみでねぇ」

「カッカッカ、なるほどなるほど。さすがは魔眼神ジャネルドフォック。これほど複雑な魔法術式を構築できるのは、その神の魔眼を借りているからというわけだ」

エールドメードの指摘に対して、ギリシリスは不快そうにジェル状の顔を歪めた。

奴のプライドに障ったのだろう。

「頭では理解できようとも、オマエの魔眼では、その術式を見ることはできまい」

「負け惜しみはみっともないねぇ。汝の助けは来ないのだよ。< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >が完成すれば、汝は吾輩の犬だ。ワンとしか言えぬようにしてやろうかねぇ」

ギリシリスはその隷属魔法にてロードユイエを飛ばす。

熾死王は寸前でそれを躱したが、くるりと刃が返り、後ろから胸を貫いた。

「それまでは、せいぜい嬲ってやるのだよ」

剣を胸に刺しながらも、熾死王は笑う。

「まだ完成していないのか?」

「それがどうかしたかのかねぇ」

苛立ったように、緋碑王は言う。

「いやいや、オマエの魔法は、実戦向きではないというだけのことだ。こんな大規模な魔法陣を壁に描き、その上、時間がかかるときた。更に言えば、魔法陣に冗長性がない。ほんの少しでも壊してやれば、それで< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >の発動は止まるではないか」

「また負け惜しみかね? 止められるというのならば、やってみたまえ」

カッカッカ、とエールドメードは笑った。

「どこを見ている? もうやったではないか」

ギリシリスは不可解そうな反応を見せる。

「さあ。さあさあさあ! ご自慢の魔眼神で、この熾死王の体をくまなく見たまえっ!!」

ギリシリスが視線を険しくした。

そう、確かにおかしいのだ。

ロードユイエがエールドメードの体を突き刺さったにもかかわらず、彼は血を流していない。

ただの一滴も。

「< 熾死王遊戯答推理(エルドメドラン) >」

まるでショーのように大仰に手を広げると、エールドメードは自らに刺さった神剣ロードユイエを抜き放った。

その胸にも、剣にも、やはり、一滴の血もついていない。

「遊戯のルールを説明しようではないかっ!」

大げさな身振りで言い、熾死王は杖でギリシリスを指す。

「オレの質問にオマエが答える。回答時間は一〇秒。回答した場合に限り、オマエの攻撃はオレに通用する。オマエの答えを、オレはこのカードに予想して書いておく」

シルクハットから、エールドメードは黒いカードを取り出す。

「一言一句違わず当てたならば、オマエの攻撃は反転し、オマエ自身に襲いかかる。質問は三回まで。一回も答えを当てられなければ、オレは罰ゲームとして死ぬ」

エールドメードがくるりとカードを手元に隠して、再び現す。

黒いカードが三枚に増えていた。

「天父神の秩序を持ちて、熾死王エールドメードが定める」

唇を吊り上げ、愉快そうに奴は言った。

「神の遊戯は絶対だ」

人を食ったような熾死王の遊戯魔法。

強い力を持つ天父神の言葉を利用することで、その術式を実現しているのだろう。

「つまらん魔法だねぇ。吾輩の答えを当てる? < 契約(ゼクト) >で嘘をつけないからといって、一言一句当てることができるかねぇ。三回外せば死ぬなど、汝のそれこそ、欠陥魔法なのだよ」

「早速、始めようではないかっ! 最初の質問だ、ギリシリス」

ギリシリスの言葉を完全に無視し、エールドメードは言った。

「オマエが、本当は憧れを抱き、嫉妬してやまず、だからこそ超えたいと思っている、偉大な魔族の名前をフルネームで述べよ」

ギリシリスは絶句し、その魔眼でエールドメードを睨みつける。

「いないのならば、いないと答えればいいぞ。ああ、勿論、一言一句だ。『アノス・ヴォルディゴードなのだよ』と『アノス・ヴォルディゴードだねぇ』は別物と見なされる。この熾死王とて、さすがにそれは悩みどころだが」

くつくつと喉を鳴らして笑いながら、黒いカードに、熾死王は指先で魔力を送り、文字を書いた。

「実のところ、未来神ナフタと預言者ディードリッヒにすでに答えは聞いてきた。まあ、あの二人の予知もなかなか難しくなっているが、この状況では九九パーセント、オマエの答えは決まっている――」

一瞬、動揺をあらわにしたようにギリシリスの魔力が揺れる。

「――というのは、嘘だ! さあ、残り3秒。時間切れは、罰ゲームだ」

「答えは――」

口を開きながら、ギリシリスは全身から魔力を放出する。

「――こんなくだらん遊びには、つき合っていられないのだよっ!!」

< 熾死王遊戯答推理(エルドメドラン) >へ向けて、ギリシリスは< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >を発動する。

熾死王の遊戯魔法を隷属させれば、その遊戯自体が成り立たない。

回答を当てられる前ならば、どうとでもできると見抜いたのだろう。

部屋中の魔法陣が光を放ち、< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >が、熾死王の描いた< 熾死王遊戯答推理(エルドメドラン) >の魔法陣に干渉していく。

「フフフ、残念だったねぇ。何度も何度も言ったように、所詮、汝の魔法はこけおどしとハッタリにすぎないのだよっ。吾輩の魔法は、そんな遊びにつき合う必要すらないのだからねぇ」

今まさに< 熾死王遊戯答推理(エルドメドラン) >にギリシリスの魔力が入り込み、< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >によって隷属される。

勝ち誇ったようにギリシリスはジェル状の顔をぐにゃぐにゃと歪めてはあざ笑う。

だがその直後、< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >の発動が止まった。

部屋中に描かれた魔法文字が、ふうっと光を消していく。

「……な…………なぜだ……?」

緋碑王が呆然と声をこぼした。

「ありえない……術式は完璧だったはず……なぜ発動しないっ!? いったい、なにを間違えた……? 吾輩の構築した理論と術式に、不備があったなど……」

「おいおい、オマエ。まだそんなことを言っているのか」

熾死王は歩き出し、壁付近でくるくると回転している杖、< 杖探査悪目立知(ヘイヘイ・ド・ヘイ) >を手にした。

その光を消せば、投射されていた壁の魔法文字がなくなった。

「……な……書き換えられていた……だけ…………!? 馬鹿な、魔眼神の魔眼を持つ、この吾輩が、そんな単純な見落としをするわけが……」

「魔眼神の 魔眼(め) があるから、気がつかないはずがない。その慢心が、魔王の名を出されたときに盲信に変わったのだ。なぜならば!」

ダンッと杖をつき、エールドメードは高らかに言った。

「オマエはあの恐るべき魔王に憧れ、妬み、そねみ、真っ暗な欲望を抱いていたからだ」

エールドメードは杖の先端で、緋碑王を指す。

「必然だ、必然、まったくただの必然ではないかっ! あの魔王の前では、誰であろうと心乱されぬ者はいない。オマエはオレが質問した瞬間、その答えだけは口にしたくなかったのだ。口にさえすれば、遊戯はオマエの勝ちだ。この熾死王には難なく勝利することができる。ああ、だが、しかし、しかしだ、緋碑王」

ニヤリ、と笑い、熾死王は言葉を突きつける。

「オマエは魔王に心の底から負けを認めることになってしまう」

黒いカードを三枚取り出し、それを増やしたり、減らしたりしながら、エールドメードは手遊びをする。

「オマエは、それだけはしたくなかった。そう思うあまり、魔王のことで頭がいっぱいになるあまりに、一瞬、術式から魔眼を離してしまった。その隙にオレは魔法文字を書き換えた。魔王を認められず、嘘をつけないオマエの出す答えは一つしかない」

エールドメードはカードをひっくり返した。

そこに書いてある文字は――

「『無回答』。質問に答えないことでぎりぎりプライドを保ったつもりかもしれないが、緋碑王。アノス・ヴォルディゴードと簡単に答えられないオマエは、誰よりもあの魔王を称え、嫉妬しているとは思わないか?」

言いながら、熾死王は書き換えた壁の魔法陣を、杖で元に戻す。

「オマエの攻撃は、オマエに返る」

< 熾死王遊戯真偽(エルドメドラン) >に向けた< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >は、緋碑王自身に跳ね返る。

すなわち、エールドメードに、ギリシリスが隷属する。

「なあ、ギリシリス。< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >はどのぐらいで効いてくるのだ?」

血相を変えて、顔をぐちゃぐちゃに乱しながら、ギリシリスは叫んだ。

「へっ……ヘイルジエンド、リーノローロスッ! 一分以内に、こいつをやりたまえっ!!」

ギリシリスが、その神の方へ視線を向け、次の瞬間言葉を失った。

魔剣神ヘイルジエンドとシンの間には、一枚の薄い水鏡が出来ている。

シンの右胸に波紋が立ち、刹那の間に閃いた流崩剣アルトコルアスタに対して、シンは丸腰のまま前進し、その柄をつかんだのだ。

まるで、魔剣神の刃がどう振るわれるか、知っていたかのように。

「水鏡に立つは、滅びの波紋」

ぐっと柄を握り締め、シンは流崩剣に全魔力を注ぎ込む。

退こうとしたヘイルジエンドから、彼はその魔剣をいとも容易く奪い取った。

それはまるで、水の流れに従うかのように。

「あなたは使い手を求め、彷徨う剣の神。その魂を、引き受けましょう」

シンの魔力が研ぎ澄まされ、流崩剣アルトコルアスタをねじ伏せる。

彼はその魔剣を屈服させ、それを示すように、思いきりに振るって見せた。

そのときだ。

光の人形――魔剣神ヘイルジエンドは輝きを失い、がくんとその場に崩れ落ちる。

人形の体から外に溢れ出たその光は、まるで元の住処に帰るように、流崩剣アルトコルアスタに吸い込まれていく。

魔剣の放つ魔力が途方もなく跳ね上がった。

「……馬鹿、な……なにを……なにをしているのかねっ、ヘイルジエンドっ!? 汝は吾輩と盟約を交わした神、魔王の配下如きに下るつもりかっ!!」

「いかに盟約があろうとも、剣も使えぬ主に、仕える魔剣がどこにいますか?」

その言葉に、ギリシリスは押し黙る。

「まして魔剣の秩序。相応しい担い手を選ぶのは、当然のことでしょう」

魔剣神ヘイルジエンドの本体は、あの光る人形ではなく、流崩剣アルトコルアスタだったというわけだ。

剣で語り合い、シンはそれを察した。

魔剣神は言葉が使えぬ。

ギリシリスには、かの神がなにを求めていたのか、ついぞわからなかったのだろう。

「え、ええいっ! この役立たずめがっ! まったく使い物にならないねぇっ! リーノローロス、ジャネルドフォック、こいつらを皆殺しにしたまえっ!!」

「魔王の右腕が、たかだか神の剣技に劣るとお考えのようでしたが」

水鏡が一瞬シンの前に現れたかと思うと、僅かに、せせらぎが響く。

静かに立てられた二つ波紋を、その手の魔剣が斬り裂いた。

リーノローロスが変化した透明の布が脆くも砕け散り、彼に突進した魔眼神ジャネルフォックは薄氷が割れるように崩れ落ちた。

二人の神は、流崩剣アルトコルアスタの前に、滅び去っていた。

「ご覧の通りです」

ゆっくりとシンはギリシリスのもとへ歩いていき、流崩剣アルトコルアスタをその顔に向けた。

「万死では足りないようですね」

水鏡が二人の間に現れる。

ギリシリスは恐怖に染まったようにジェル状の体をぶるぶると震わせた。

「カカカカ、脅しはそれぐらいにしておけ、シン・レグリア」

シンが振り向くと、ニヤリと熾死王は笑う。

「もう時間ではないか」

「うぐぅぅっ……!!」

ギリシリスが膝を折り、頭痛に耐えるように頭を押さえた。

「……が……あぁ…………う、ぁぁ…………」

< 魔支配隷属服従(エンペルム・ディデイヤ) >が発動し、ギリシリスとエールドメードの間に隷属の鎖が結ばれる。

最早、抗うことは叶うまい。

「オマエは犬だ、ギリシリス」

そう口にすると、緋碑王のジェル状の体がみるみる四つ足に変わっていき、尻尾が生える。

立派な犬がそこにいた。

「返事はなんだったか?」

ワン、とギリシリスは吠え、尻尾を振ったのだった。