軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大魔王教練中断

ジオルヘイゼ竜着き場――

俺たちは一〇人は、全能者の剣の力により、永久不滅となった天蓋を見上げていた。

「永久不滅の隔たりって……で、でも、わたしたちはリヴァインギルマで斬って通ればいいわけだし、逆に地底の竜人たちは地上へ行けなくなったんだから、侵略されなくていいわよね?」

サーシャが考えながら、そう言葉を発する。

「あー、そっかそっか。特に困らないのかな?」

エレオノールが言ったちょうどそのとき、突如、地響きが鳴った。

がくん、と空が落ちてくる。

震天(しんてん) 。地底の秩序に従い、天蓋はガタガタと震えながら、大地へ押し迫っているのだ。

「アノス」

ミーシャが天蓋を指す。

彼女の言わんとすることが、よくわかった。

「ふむ。天蓋の一部が落ちるか。さほどの大きさではないようだが」

「落ちるって、だって、あれ、永久不滅なんじゃなかったのっ? 一部分だけ落ちるなんてことある?」

サーシャが慌てたように声を発する。

「天蓋は一枚岩ではない。秩序の柱が、天蓋を持ち上げ、そのように見せているだけ」

アルカナが言った。

「百年に一度、震天により、その秩序が乱れる。それを 震雨(しんう) という。地底に降る、岩の雨。ただし――」

「まだ百年経っていない、か?」

「そう」

天蓋の一部分が外れ、ぬっと大岩がそこからせり出した。

ちょうど場所は、このジオルヘイゼの真上だ。

「カッカッカ、あれが落ちてきてはこの街は終わりではないか? なにせ永久不滅の岩の塊だ。勢いさえあれば、一方的にすべてを押し潰すだろう」

エールドメードが興味深そうに声を上げた。

「平時ならば、落ちるまでには猶予がある。震雨は震天の日より、七日間の後に、地底に降る」

アルカナが言ったそのとき、更に大きく天が揺れ、天蓋の一部が外れた。

大岩がまっすぐジオルヘイゼに落下した。

「おっ、落ちて来ちゃったぞっ……!!」

「……逃げます、か……?」

エレオノールとゼシアが言う。

「ふむ。しかし、ここで逃げてはジオルヘイゼが壊滅するだろう」

アルカナに手を差し出せば、彼女が俺にリヴァインギルマを渡した。

「< 波身蓋然顕現(ヴェネジアラ) >」

波の如く、俺の体がゆらゆらと揺れる。

可能性の身体は、地面を思いきり蹴り、落下する震雨に向かって飛んでいった。

一閃、リヴァインギルマの力にて、落ちてきた大岩を切り裂いた。

無論、結果だけがそこに生じ、実際の俺はジオルヘイゼの大地に立ったままだ。

降り注いだ岩の雨は、原形も残さず消滅し、空に霧散する。

「どうやら厄介なことになったようだな」

アルカナがうなずく。

「天蓋が永久不滅と化したことで、秩序の柱に背いている」

百年に一度の震雨、震天の日より七日後に降り注ぐはずのその雨は、どちらの秩序にも反し、今ここに落下した。

「もっと多くの雨が降るかもしれない」

「都に落ちれば、壊滅するだろうな」

七日の猶予がなければ、逃げることも難しかろう。

「……わたしの犯した罪なのだろう……」

アルカナが言った。

「背理神であるわたしが、これを引き起こした。すでにわたしは、お兄ちゃんを裏切っている……」

悲しげな表情を浮かべるアルカナの頭に、そっと手を載せ、撫でてやる。

「天蓋から雨を降らせるとは、可愛い悪戯だ。こんなものは裏切ったうちに入らぬ」

息をのみ、アルカナは俯いた。

「背理神の意志がこれを引き起こしたなら、なんらかの理由があるだろう。まずはそれを突き止める。なにを偽り、どう裏切るつもりかしらぬが、滅ぼしてやればそれで終わりだ」

「……うん」

恥ずかしそうに、アルカナはそう返事をした。

「地上の大地はどうなっている?」

「……表面的には、これまでの通りの秩序を保っている。大地の恵みは変わらない。畑は耕せるし、果樹の実もなる。ただし、地中深く潜ろうとすれば、岩や土が永久不滅の壁となって阻むだろう」

大地がまったく掘れぬとあっては大事だが、とりあえずは問題ないか。

しかし、いつまでも、その秩序を保っているとは限らぬ。

地底の震天に異常が見られたように、地上の秩序も狂うと考えておいた方がよい。

「地上に戻るのはやめだ。先にアルカナを縛る制約を解き、天蓋を元に戻す」

「ガデイシオラに行く?」

ミーシャが訊いてくる。

背理神のことを調べるならば、確かにそれが早いだろう。

ガデイシオラの覇王、それからセリスはアルカナについて知っている可能性が高い。

あるいは奴らの企みといったことも、考えられよう。

ついでに、ゴルロアナも取り返してくればいい。

「ガデイシオラにも行くことになるだろうが、最初にアガハへ行く。ディードリッヒの預言があれば、大凡のことはわかるだろう」

次の震雨の場所と時間がわかれば、それを防ぐことも容易いはずだ。

安全を確保し、情報を得た後に、ガデイシオラに向かうのが最善だろう。

「エールドメード。司教ミラノに震雨のことを伝えて来い。勢いがつく前ならば、魔法で岩を防ぐこともできるだろう」

「カカカ、任せておきたまえ」

エールドメードは魔法陣を描き、< 転移(ガトム) >を使った。

ミラノに伝われば、ジオルダルの教団中で対策は練られるだろう。

最悪防げぬにしても、逃げる準備を整えることぐらいはできる。

「さて、残るは魔王学院の生徒か」

俺は魔王城の内部に< 思念通信(リークス) >を送った。

「魔王アノスが命ずる。一〇秒以内に外へ来るがいい。遅れるな」

「一〇秒って、間に合うかしら……?」

サーシャが言った瞬間、魔王城の正門が開け放たれた。

ドタドタドタッと足音を響かせながら、血相を変えた生徒たちが俺の目の前に現れた。

ふむ。まるで一〇秒以内に来られなければ、俺になにかされるといった形相だな。

なかなか、どうして、素早い動きだ。

「よく来た。今後の予定を説明する」

生徒たちに向き合い、俺は言った。

「実は一度、地上へ戻ろうと思ったのだが、少々、事態が変わってな。あの天蓋が永久不滅と化してしまった。早い話、俺以外には穴を空けられぬ」

ただならぬ事態だと察知したのか、生徒たちは皆険しい顔つきになった。

「先の唱炎はミッドヘイズを狙っており、また響いていた神竜の歌声は、一五〇〇年もの間、ジオルダルで練られてきた地上を消滅させようとする魔法であった。無論、その企みは潰してやったが、当初考えていた以上に、地底は危険が溢れているようだ」

すると、生徒たちがざわめき始める。

「地上を消滅ってなんだよ、それ……?」

「……あの歌声が、そんな馬鹿げた大魔法だったのかよ……」

「ていうか……待てよ。一五〇〇年もかけたその恐ろしい大魔法が、さらりと止められたってことは……」

「……やっぱり一番恐ろしいのは、暴虐の魔王じゃねえか……」

想像を超えた事態に、彼らはごくりと唾を飲み込む。

「今日以降も大魔王教練を行おうと思っていたが、どうやらそうも言ってられぬ。最悪、地底は戦場になるだろう」

ぶるぶると生徒たちは体を震わせる。

「よって、授業はこれまでとする」

俺の言葉に、彼らはほっと胸を撫で下ろした。

「まあ、不幸中の幸いだよな……」

「大魔王教練で死んでもおかしくなかったわけだしなぁ……」

「無事に家に帰れてよかった……」

安堵のため息を漏らす彼らに、俺は笑いかけてやる。

「今日からは実戦だ。気を引き締めよ」

「「「……は?」」」

生徒たちの心が一丸となった。

「さすがに一度、ミッドヘイズへ帰しておいた方が安全じゃありませんの? アノス様も彼らの面倒を見るのは大変ですわ」

ミサがそんな風に提案した。

「なにを言う。彼らは次代の魔皇だ。守られる側ではなく、守る側になろうというのだ。命のかかった実戦の一つや二つ、経験しておかぬわけにはいくまい。そう考えれば、少し早いかもしれぬが、ちょうどいい機会だ」

「……それは、そうかもしれませんけども……」

口元に手を当て、思案するミサに、生徒たちは手を組んで祈った。

ジオルダル式だ。なかなか、どうして、勉強しているようだ。

「……頼む、頼む、ミサさんっ……」

「説得を……魔王を説得してくれっ……!」

「なんでもっ、なんでも言うことを聞くからっ……!!」

すがるような目が、ミサに向けられた。

「……そんな目で見られましても……」

困った素振りを見せるミサに、助け船を出すようにレイが言った。

「強くなるまで待ってくれないのも、戦いだよね。そういう意味では彼らは恵まれているよ。僕たちもいることだしね」

生徒たちの怨念の 魔眼(め) が、レイを強く睨みつける。

「……てめえ……なに言ってくれてんだ、レイ。いや、勇者カノン……」

「魔族だからって、見捨てるのかよ……お前が守るのは人間だけかっ? 違うよなっ? 違うと言ってくれっ……!」

「俺たちクラスメイトだろっ……!! 魔剣大会のとき、散々応援したじゃないかっ!」

「お前とミサさんの恥ずかしい写真、学院中にバラまくことになるぜっ……!」

爽やかに微笑み、レイは俺に言った。

「見なよ、アノス。彼らのあの目。覚悟はできているみたいだよ」

「ふむ。そのようだな。いい目をしている」

生徒たちはその場にがっくりとうなだれる。

まあ、誰しも安全な場所にいたいものだ。

しかし、敵は待ってはくれぬ。

厳しい経験こそが、彼らの糧となるだろう。

「では、これより全員でアガハへ向かう。そこを治める剣帝はなかなかの人物だが、それゆえこちらも礼を尽くす。お前たちには手土産を用意してもらおう」

疑問の目を向けてくる生徒たちに、俺は言った。

「歌と踊りだ」