軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

迷宮の入口(前編)

97話

俺はベルーザの陸戦隊を連れて、ロッツォを後にする。ラシィとパーカー、それに人狼たちも一緒だ。

道中の護衛は十分すぎたというか、さすがに盗賊たちも恐れて全く手出しをしてこなかった。

「ヒャッハー山賊狩りだぁ!」

「海賊と山賊、どっちが強えか勝負してやるぜ!」

「おう、治安を乱すヤツらは許さねえ!」

そこらの盗賊より凶暴そうなのが、五百人も徒党を組んでるんだからな。

そして俺は久しぶりに、リューンハイトの城門を目の当たりにする。

おや?

城壁が完成しているな。立派な城壁がぐるりとリューンハイトを囲み、魔都を隙なく守っていた。

「アズールの説明では、まだもうしばらくかかるはずだが……」

首を傾げながら城門をくぐった俺を、アイリアが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ、ヴァイト殿」

魔人公アイリアの背後には、リューンハイト衛兵隊がつき従う。

それはいつも通りなのだが、今回はさらにその背後に巨大な人影が立っていた。

巨人族だ。

身長数メートルの屈強な巨人たちが十人ほど、アイリアを守るように控えている。

第二師団の生存者が再編されてリューンハイトに来るのはわかっていたが、巨人族が人間のアイリアに従っている光景は異様だ。

同じことを思ったらしく、ベルーザ陸戦隊のモヒカンどもが怯えている。

「きょ、巨人だ……」

「まじかよ、こんなにいやがる……」

「お、おい、こいつら味方なんだよな?」

いい怯えっぷりだ。

やっぱりこいつら、世紀末から来たらしい。

俺はアイリアに挨拶を返して、この光景について訊ねる。

「アイリア殿、城壁が完成しているようだが。それに巨人族とも打ち解けられたのか」

するとアイリアは微笑んだ。

「巨人工兵隊のみなさんが、城壁の工事を完成させてくれました。あっという間でしたよ」

人間の指を持つ重機だからな。確かに作業員としては適任だろう。

それにしても、よくここまで手懐けたものだ。

俺は巨人たちに声をかける。

「お前たちが城壁を完成させてくれたのか。ご苦労だった」

すると巨人たちは照れたような顔をして、こう返した。

「俺たち、言われた通りに動いただけだから……」

「人間たちが喜んでくれて、たくさんお礼を言ってくれた。ここは北部と違う」

巨人たちの顔は穏やかだ。

元々、生き残ったのは穏和な連中が多い。血の気が多い連中はほとんど、北部戦線で戦死してしまったからだ。

だが生き残った彼らはすっかり覇気を失い、人間に対しても恐怖心を抱くようになっていた。

それが今は人間たちのために働くことに、喜びを見いだしているようだ。

アイリアが笑う。

「城壁が完成した後も、家の建築や道路の整備など、巨人のみなさんには助けられています。リューンハイトにとっては大事な存在ですよ」

アイリアの言葉に、巨人たちが頭を掻いている。

そこに犬人たちがてこてこ歩いてきた。現場監督らしいテリアそっくりの犬人が、もふもふの毛をなでながら叫ぶ。

「おーい、作業始めるぞー」

すると驚いたことに、巨人たちが振り向いた。

「わかりました、親方ー!」

「じゃあヴァイト様、アイリア様、いったん失礼します」

俺たちに頭を下げると、のしのしと歩いていく巨人たち。

その肩にちゃっかりと座っているのは、犬人だ。

「じゃあさっそく、ドワージとグロウトは、あっちの現場で兵舎の基礎を作ってくれ。ズーヴとグラングは製材所から木材を運んできて」

「任せてください、親方」

巨人たちがうなずき、犬人が気合いを入れる。

「新市街をボクたちで作るぞー!」

「作るぞー!」

俺も長いこと魔族をやってきたが、こんな光景は初めてだ。

小さく弱い犬人や人間たちが、巨人を指揮している。

工事現場には作業員や見物人などの人間も大勢いた。みんな笑顔で、巨人たちに声援を送っている。

「おお、巨人隊のみんなが来てくれたぞ!」

「すごーい、おっきいー! うわあ、ちからもちー!」

「よし、こっちは頼んだぜ、ドワージさん、グロウトさん!」

大人も子供も、巨人の恐ろしいほどの怪力に驚嘆している。

アイリアがくすくす笑う。

「今ではすっかり、街の人気者ですよ。最近はちゃんと彼らを名前で呼んでくれる人も増えてきました」

「予想以上だな」

俺も彼らが変化することを期待していたが、まさかここまでうまくいくとは思っていなかった。

おそらくアイリアの指導力、それに魔王軍幹部たちの管理能力のおかげだろう。

「さすがは魔人公といったところか」

俺が感心していると、アイリアがまだ笑っている。

「いいえ。あなたの功績ですよ、ヴァイト殿」

「俺か?」

確かに多少は彼らの指導もしたが、そこまでのことはしてないぞ。

しかしアイリアはまじめな顔でこう続けた。

「彼らに人間との接し方を教えたのはヴァイト殿でしょう。『大賢者の弟子』『勇者殺しの魔狼』、そして『魔王の代理人』。実績と実力を持つ最高幹部のあなたが行動で示したからこそ、彼らも従ったのです」

そう言われるとそうかもしれないが、割と適当に動いているのであんまり自覚はない……。

「いや、敗戦と逆境が彼らを変えたんだよ。苦労したぶん、あいつらも謙虚になったんだ」

「それも確かにあるとは思いますが……」

誰の功績かなんて、どうでもいいことだ。

アイリアが溜息をつく。

「ヴァイト殿は不思議な方ですね」

「そうかな?」

外側が人狼で中身が人間だから、そう見えるのかもしれないな。

うまくいっているのなら、それでいい。

やることは他にも山ほどある。

俺はアイリアと並んで歩きながら、今後の予定について相談をする。

「ベルーザとロッツォは魔王軍と同盟を結んでくれるそうだ。南部は残り二都市だな」

「迷宮都市ザリアと、工芸都市ヴィエラですね。ヴィエラの太守はアラム殿が懇意にしているので、交渉を進めてもらっています」

「任せても大丈夫そうか?」

ちょっと心配した俺に、アイリアがうなずいた。

「心配なさらずとも、ヴィエラとシャルディールは交易で深くつながっていますから。細かい条件をまとめて、魔王様の御許可を頂ければ」

ああ、あのとき見たガラスの茶器はヴィエラ製か。いい品だったな。

「じゃあ彼に任せておくか。ザリアはどうだ?」

するとアイリアは表情を曇らせた。

「ザリアは元老院から最も警戒されている都市です。統一戦争の際の激戦地ですからね」

聞けばザリアは一度完全に壊滅し、城壁は破壊されたという。

その後に復興したものの、城壁の再建は認められなかったというのだ。

しかしそれじゃ、盗賊や獣に怯えないといけないだろう。

そんな俺の疑問に、アイリアが答える。

「ザリアは街全体を入り組んだ小路と壁で構成し、迷路のようにしてしまいました。住民は最低でも三階建ての建物で生活し、建物の入り口は巧妙に隠されています」

「敵を右往左往させて、上から攻撃する作戦か」

「はい。ザリアの民は罠や弓の扱いに長けていて、侵入者を容赦なく攻撃します。そのため盗賊たちも恐れて近寄りません」

生き延びるためとはいえ、なかなか気合いの入ったライフスタイルだ。

そんな生活をしている連中だと、説得には少し苦労しそうだな。

「仕方ない、俺が行って説得してみよう」

「それならば、私も同行します。密書のやりとりで、一度直接相談したいとの申し出を受けていますし」

アイリアが意外なことを言い出したので、俺は止める。

「危険だぞ? 貴殿は今や、ミラルディアの怨敵だ。こうして新市街にいるだけでも危ないのに、他の都市に赴くなど許可できん」

「ですがザリアは地理的にも北部と接しているだけに、不安定な立場なのも事実です。うまく説得できなければ、逆に北部との同盟強化に走るかもしれません。極秘の話もありますし、部下には任せておけない問題です」

俺は悩んだが、アイリアが交渉に参加してくれると心強いのも事実だ。

「せめてザリアの太守をこっちに呼べないか?」

「無理でしょう。ザリアにとって、リューンハイトはまだ敵です。魔王軍の本拠地と思われている場所に、太守自らがやってくるはずはありません。元老院に発覚したら大変なことになります」

「それもそうだな」

ベルーザやロッツォで割とあっさり受け入れてもらえたので忘れていたが、俺たちは人にあらざる侵略者たちだ。

交渉を始める前から何かと苦労する。

となるとやはり、アイリアと俺が直接出向くのがいいか。俺だけだとまた怖がられそうだ。

「ザリアの太守が罠を仕掛けてくる可能性はないか?」

「あります。暗殺には絶好の場所ですから」

アイリアは冷静に答える。

だが、こうも答えた。

「しかし今のザリアに、魔王軍を敵に回す余裕はありません。城壁のない街に人狼や巨人が侵攻すれば、どうなるかは明らかでしょう?」

「魔族相手に小細工したところで無駄だからな。それぐらいの知恵は回るヤツか」

どうやらまともに交渉はできそうなので俺は安心したが、アイリアはそんな俺の心配がおかしかったらしい。

「ザリア太守メルギオ殿は、非常に慎重な性格の男性です。ザリアの立場上、慎重でなければ務まりませんよ」

「慎重すぎないといいんだが」

「それは私も心配しているところですね。だからこそ、私が直接赴いて決意の強さをお見せしたいのです」

まともに交渉はできそうだが、難航は覚悟しておこう。

アイリアの警護という厄介な課題ができてしまったし、まずは人選からだな。