軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

チーズと食材のマリアージュ

チーズフォンデュの準備は簡単だ。

ニンニクを擦りつけたお鍋にほんのちょっぴり白ワインを注ぎ、沸騰させてアルコールを飛ばしておく。そこに、混ぜてる間に分離しないよう片栗粉やコーンスターチをまぶしたチーズと温めた牛乳も加えて混ぜ、チーズを溶かせば、それでOK!

本式はたっぷりの白ワインでチーズを溶かすそうなんだけど、運転のことを考えて今回は風味付け程度にしておいた。

あとは焦げないようにだけ注意してね!

「今日はなんだか手抜きした気分ですな……なんだか申し訳ないです」

「良いんじゃないか? リンが楽しく作ってくれるのが一番だからな」

「ヴィルの言う通りです。それに、先ほども言ったでしょう? いつもであれば、そのまま齧るしかなかった生活なんですから、こうして『料理』として出てくることがどれだけ嬉しいか……!」

「そう言ってもらえると、美味しいご飯作ろう……っていう気になりますね!」

なぜか腕一杯にお土産を抱えた見回り組が帰ってくる頃には、ある程度の準備は整っていた。

なんだかこう……謎の罪悪感が襲ってきてしまった私を励ますように、ヴィルさんの掌が背中をぽんぽん叩いてくれる。

セノンさんも、全力でヴィルさんに同意しながら笑顔でこちらを宥めてくれた。

うん。こうやって気を配ってくれているのがわかる分、今日の夕ご飯もまた気合を入れて作ろう、っていう気になるよねー。

「具材は、ベーコンにソーセージ、芋二種とカボチャ、ニンジン、ライ麦パン、小粒トマト、お土産のウズマキシダ……ですね。足りなくなってもすぐ追加できるので、遠慮なく申請どうぞ!」

「ソーセージをチーズに浸ける……考えただけで美味そうだ……」

「こうやって、採ってきたのがすぐにご飯になると、採ってきてよかったなぁ……って思うよねー!」

「ん……おやさい、だけど……」

「さっぱりしてるので、箸休めにはいいと思いますよ? ほろ苦さがチーズと合うんじゃないかなぁ?」

輪切りのニンジンに、一口大に切ったさつまいもとかぼちゃは、それぞれレンジ機能で柔らかくしてある。

ジャガイモはお鍋で茹でて、敢えての粉吹き芋にしておいた。その方が表面が荒れるため、チーズが絡みそうな気がしたからだ。

お土産の中から、チーズと合いそう……と思ったものをさっと塩茹でして、これも食卓へ。先っぽの葉になる部分が、ぐるぐるとゼンマイのように巻いている植物だ。

見た目は、山菜のコゴミによく似てる。実家の爺ちゃんが春先になるとよく採ってきたやつ!

生存戦略(サバイバル) さん曰く、「ウズマキシダ」という植物の新芽らしい。季節を問わず次々と新芽を出して生息範囲を広げる性質上、手に入りやすい食料のようだ。

あとはこんがり焼いて角切りにしたベーコンと茹でたソーセージを出して……。

「あとは、チーズといったらトマト、だと思うんですよ!」

「……この前買ってきたのと比べると、ずいぶん小さいな……」

「ああ。粒が小さめに育ったものを集めたお得セットがあったので。これはこれで美味しいらしいです!」

転がらないようザルに入れていたトマトを取り出すと、ヴィルさんが不思議そうに首を傾げる。

うん。トマトのこと、覚えていてくれて嬉しいです!

お店の人が言うには、小さいけど、その分味が濃縮されてて美味しい……ってことなので、つい購入してしまいましたとも!

日本(むこう) のプチトマトよりは大きくて、ピンポン玉より一回り小さい……っていう、フォンデュするにはなかなか良いサイズだと思うのですよ、ええ。

テーブルにキャンプ用に持ち込んでいたカセットコンロをセットして、そこにチーズソースの入った鍋をでんと据える。

その周りに具材のお皿とフォークを並べて……。

「さてさて。あとは各自フォンデュしてお召し上がりくださいな!」

「ん! ありがと、リン!」

弾んだアリアさんの声と、みんなの食前の祈りが聞こえたかと思うと、みんなの手が具材に殺到した。

やっぱりお肉が人気みたいだ。

なくならないうちに、私もお肉から食べよう……!

手近にあったソーセージをフォークに突き刺すと、ぽこんぽこんと表面を弾けさせるチーズの海へ。

持ち上げればつぅっと伸びるチーズをくるくると巻いて糸を切って……。

「あふっ……! あ、うま! このコンビ美味しい!!」

「わかります。ソーセージとチーズは外せませんね」

「ベーコンも美味いぞ! やはり、肉にチーズは合うな……!」

「さつまいもも美味しいよー! 甘いサツマイモに、しょっぱいチーズがとろっと絡んで……意外と合うよ、コレ!」

テーブルのあちこちであがる歓声を聞きながら、肉汁でぱっつんぱっつんに張った皮をぷつんと噛み切ると、脂が混じった濃厚な肉汁が口の中にどっと溢れてくる。

お肉に特製ハーブミックスをよーく練り込んで作ったというソーセージは、ほんのりとハーブの香りが鼻に抜けて、それだけでも美味しい。

そこに、チーズのコクが加わるとだねぇ……もうねぇ……旨味の大爆発だよね。旨味の暴力だよね。

舌が痺れそうなくらいにアミノ酸が暴れまわってるよぅ……!

それを鎮めるべく、間髪入れずに小玉トマトをフォンデュする。

何種類かチーズを混ぜたおかげで「濃厚だけどくどくない」という神がかった仕上がりのチーズソースが、真っ赤なトマトと絡む。クリーム色のソースとの色の対比が良い感じですなぁ。

色の妙味も楽しんだのち、これも一口でパクリと。

……普通一口で食べるか? って? 細かいことは良いんだよ!!

「ああぁぁぁ……トマトとチーズ、めっちゃ合います……! 口がさっぱりして、次の一口がなお美味しく感じられそうです……!」

「ん。トマトと、チーズ……おいしい……これは、食べられる……!」

「アリアが積極的に野菜食べるんだもん。リンちゃんの影響力、凄いよね……!」

こちらもプツンと皮を噛み切れば、溢れ出してくるのは甘酸っぱいトマトの果汁。

「トマトは種の部分が青臭くて苦手」っていう人がいることも知っているけど、このトマト、その青臭さがほとんどない。

あるにはあるけど本当に仄かに香る程度だから、それがかえってチーズの風味とよく合ってるように感じるよ。

果肉の部分が口の中で蕩けて、舌に残っていた肉汁の旨味とチーズの旨味と仲良く手を繋いで喉の奥へと消えていく。

飲み込んだ後は、口の中は爽やかなトマトの後味が残って……これなら次のお肉も美味しく頂けると思う。

私に倣ったアリアさんも、チーズ&トマトコンビの美味しさに目覚めてくれたようで目を輝かせている。

野菜を食べるアリアさんがそんなに珍しかったのか、エドさんが目を丸くしてるけど、この前の海鮮BBQの時のトマトチーズ焼きも気に入ってくれてたし、トマチーコンビ推しになる素養はあったと思いますよ。

「あ! ウズマキシダもチーズと合う!」

「これは、確かに……酒が欲しくなる味だな」

「旅の途中でのお酒は、ねぇ……」

「飲めることなら飲みたいものですが……」

「ん……ざんねん……」

塩茹でしたことで一層鮮やかな緑になったコゴミ……もとい、ウズマキシダもチーズの海へとぷんと沈める。

口に運べば、じゃくじゃくとした植物らしい歯触りだ。仄かな苦みがあるけれど、そこにチーズの 塩味(えんみ) と乳製品ならではのほのかな甘さとコクが加わると、妙に後を引く旨さが口の中に残る。

恐る恐るという態でウズマキシダに手を出したヴィルさんの瞳も、思いがけない味に輝いているようだ。

ただまぁ、感想がまさに酒飲みのアレだね。

それに続く皆さんも、ちょっぴり残念そうな顔で様々な具材をフォンデュしている。

……あー……チーズとお酒も仲良しですもんね……。

今回の旅が終わったら、打ち上げメニューとしてまた作ろうかなぁ、と……ほくほくのかぼちゃにチーズを纏わせながら頭の片隅でそんなことを考えていた。

なお、ベーコン&チーズ、ジャガイモ&チーズも間違いのない美味しさだったことをここに主張しておく。