作品タイトル不明
168話 先人の教え
「おや、そんな年でFランクかい? そんなロートルよりも、僕の方がずっと頼りになるとは思わないかな?」
横から聞いていたらしき、さっきの男が割り込んでくる。
そして、エレメアが笑いを堪えている。
「なに? このおじさん」
迷惑顔で睨み付けるアリスちゃん。
マリーちゃんは基本的に傍観する様子。酒場の給仕をしているときは良く喋るんだけど、勝手が違うのかな。店員の立場に慣れてしまうと、客として店に入るのが違和感すごいって言うし。
「はっはっは。おじさんは酷いな。僕のことはフランツと呼んでくれたまえ」
と、前髪をかきあげるフランツ君。見ない顔だし、最近冒険者になったのかね?
「どうだろう、君たちは初心者のようだし、今日は僕がパーティを組んであげようか?」
「いらないわ」
すげなく断るアリスちゃん。
ああ、フランツ君の動きが止まったな。
「うーん、聞き間違いかなぁ。冒険者は危険な仕事だよ。僕なら君たちを安全に……」
「ぼ、坊っちゃん、あまりしつこくすると……」
「ええいっ、お前は黙っていろっ」
大男の方が諌めるものの、フランツ君は止まらない。
坊っちゃん、ねえ。
うーん、まあ、悪い話ではないんだよな、一応。悪い虫とかだと問題だけど。主に俺の肩の骨とかが危険。
「ま、まあ、これも経験だし、他の人とパーティを組んでみるのもいいんじゃないかな?」
と、俺の方から一言、援護を入れておく。
決して、その方が楽っぽいとか思っている訳ではない。
ま、強さで言うとフランツ君がアリスちゃんに敵うわけないだろうしね。
「むうん、ヨシツグおじさんがそういうんなら……」
こうして、俺たちは五人パーティになった。
依頼は、少し背伸びをして黒虫の討伐と甲殻の納品。
今さらアリスちゃんに角ウサギとかと戦わせてもね。
もちろん、獲物を探すスキルとかそういう経験も大事なのだけれど、それはバードマウントでもできるしな。冒険者ギルドに来たと実感できるには北の大地に行ってこそだろう。
そんなわけで。街の北にある門をくぐる。
「わあぁ、凄い門ですねぇ」
「何か悪趣味って言うか、エルフってこういう文化なの?」
「うーん、どうだろうねー」
子供達の感想を聞き咎めたのか、こちらを睨んでくるエルフの門番。
ああ、なんか見覚えある気がするな、あの人。
玄関から出ようとしたら、野良の動物が粗相をしているのを見つけた、みたいな目で見てくる。
「この門はね、この先は危険なので、引き返すなら今だぞっていう教訓を示しているんだよ」
と教えてくれるフランツ君。
へえ、知らなかったな。てっきりどこかのおっさんが、調子にのってウケ狙いで作ったのかと思ってたよ。
門を抜けると遠くに海が見える。潮の香りも強くなり、ここがエルフの森とは違うということを強く主張してくる。
しかし、それは心地よい自己主張だ。今まで被っていた皮を脱ぎ捨てて、本当の空気に身を晒した印象さえ受ける。
実際、世界樹の守りから外に出たことになるわけだけどね。
左右に遠く広がる海に、北に向かって連なる島々、それをつなぐ橋。遠くに見える大樹。それらを一望できる場所でもある。
この風景で絵葉書でも作れば良い感じだろうか。……その前に郵便システムを作らないとダメか。
「あの大きな樹までたどり着けるかどうかが、冒険者として最初に試されることになるんだ。そこに行くまでにも魔物は出るからね」
フランツ君の説明は、案外きちんとしたものだった。
「今日はそこまでは行かないよ。門から近いところでも黒虫は出るから。それを狩る方が安全だからね」
やっぱり、長く活動しているとそういったノウハウが蓄積されて行くものらしい。
冒険者ギルド様々である。俺一人で行けるところまで探索したって、こうはいかない。
すでに探索拠点は北の大陸入り口まで届いているからな。途中にあるメイベルの樹は安全が約束されたようなものなのだ。