作品タイトル不明
167話 やって来た大型新人
「ヨシツグおじさんっ、お願いっ」
我が家で読書に勤しむ俺のもとにやって来たのはアリスちゃん。
ドラスレ君の愛娘である。
なお、読書のお供はコーヒー牛乳。
そのためにインスタントコーヒーを作りました。
といっても、買ってきたコーヒーを真空乾燥で粉にしたものだ。
密封容器に入れて、サイズ拡張することで低圧力状態を作り、水分を揮発させる。
まだ、こちらの技術での再現はできておらず、流通もしていない。まあ、コーヒー牛乳を飲みたがる人間も俺くらいだとは思うけど。
で、アリスちゃんも結構身長が伸びているな。そろそろ成人だっけ? この国は十五才で成人らしい。
そのアリスちゃんが何をしに来たかというと。
「私、冒険者になりたいの」
だそうだ。
「ドラ、じゃないや、領主様は何て?」
反対してるんじゃない?
「そんな遠くに私だけで行くのはダメだって……」
そりゃそうだろうな。
ちなみに、冒険者自体はどこの国でも存在しているけれど、なるのは自由だ。定職に就かずに酒場で紹介される仕事を受けて日銭を稼ぐことで生活している連中のことを冒険者と呼んでいるだけ。
なので、冒険者になりたいと言う場合は、冒険者ギルドに所属して北の大地探索者になることを言うことになる。
つまり、ジェル島北にあるエルフの里で活動するってことだ。バードマウントからは端から端と言って良いほどに離れている。
「でも、シンディお姉さん達はここから通ってるんでしょ。私たちも週に一度くらいならお願いできないかなって思って」
なるほど。それでお願い、なわけね。
拠点をエルフの里にしたあとでも、変わらずみんなバードマウントに住んでいる。で、毎日俺のスイッチ能力で通勤している格好だ。
ヒース君もこっちに住んでるしな。いつも俺と一緒にお風呂に入っているぞ。
エレメアが里に住まないのかについては今でもたまに苦情が来ているけど。
で、そこに乗っかりたいというわけだな。
「って、私たち?」
「うん。私と、マリーちゃん」
酒場のウェイトレス兼マスターの娘さんだな。ファーレンのマスターの娘さんだけれど、今はバードマウントのマスターのところで仕事をしている。
……本当にわかりづらいな、あのマスターって生き物。冒険者ギルドにもいるし。
まあ、年も近いしで仲良くなったっぽいな、アリスちゃんとマリーちゃん。
それが、冒険者になりたい、か。
「送るのは良いけど、ちゃんと二人ともお父さんの許可をとること。それと夕方には帰ることが条件だぞ」
でないと、そもそも許可なんて出ないと思うけど。
「わかった。ありがとう、ヨシツグおじさんっ」
返事は良いのだけどね。はてさて、どうなることやら……。
ま、その皺寄せが俺の方に来るのはわかってた。ドラスレ君とマスターの二人から両の肩を掴まれて、くれぐれもよろしくと言われた。
言葉はお願いの様に聞こえるかもしれないが、あれは脅迫だ。条件付き犯行予告と言っても良いだろう。
まあ、俺にとっても姪っ子みたいなものだから、ちゃんと面倒くらい見るけれどね。
そしてまた、前途ある若者が冒険者ギルドへと訪れる。
「ここが冒険者ギルドなんだね、アリスちゃん」
「そうだよ、マリーちゃん。これで私たちも冒険者になれるんだよ」
そこに立つのは二人の少女、及びお付きのおっさんが一人。俺だ。
「はーい、彼女達。どうしたのかな? ここは可憐な花が似合う場所とは違うよ? 迷ったのかな?」
そんな二人に話しかけてくる男。その背後にはこれまたお付きらしき大男が控えている。
冒険者にしては、色の違う感じだな。
と、そんな感想を持ったのも俺だけらしい。二人は男に目もくれない。
「あ、あそこだよ。受付。登録だって」
「いこいこ。ヨシツグおじさんも、早くっ」
今日の受付はエレメアか。
背中を押されて冒険者登録の受付へ。
「本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「冒険者登録をお願いします、エレ……受付のお姉さん」
事務対応をするエレメアに対して、あくまで一般利用者としての立場で話すアリスちゃん。
よしよし。ちゃんと言いつけを守ってるな。身内扱いとかしても良いことは無いからね。他の冒険者から絡まれてもつまらない。
「そちらの年配の方もご一緒に登録なさいますか?」
「はい。お願いします」
この際、俺も冒険者として登録することにしたのだ。もちろん、マツダ=ヨシツグとして。
ブラックボルダー・カトゥーラとかは、あれは別枠だから。
アリスちゃん達には秘密だし。