作品タイトル不明
169話 直伝の技
一行は西側、海岸に向かって坂道を降りて行く。先導するのはフランツ君の従者である大男。
間にアリスちゃん、マリーちゃん、フランツ君が並び、最後尾に俺。
これって、ちゃんと隊列を考えた結果なんだろうか? まあ、お試しパーティだし良いか。
フランツ君は積極的に女の子二人に話しかけているが、内容は如何に自分が冒険者として優秀か、という自慢話に移行している。
マリーちゃんは相づちを返しているが、アリスちゃんは退屈そう。
「坊っちゃん、その先に一匹いますだよ」
大男が前から視線をそらさずに後ろに声をかける。
「よし、まずは僕と従者で見本を見せようか。いくぞ、アーノルド」
そう言って二人で先行するフランツコンビ。
アーノルドさんが灌木の茂みに向かって大盾を構えたとほぼ同時に、そこから飛び出す黒い虫。
黒虫と呼んではいるが、Gから始まる油虫ではない。背中にはしっかりとした甲殻があり、細い六本の足とハサミのような口で襲いかかってくる。
見た目で近いのはてんとう虫なのだけれど、翅はない。雰囲気が近いのはカブトガニかフナムシって所だろうか。
まっすぐ突っ込んでくる黒虫の前に盾を構えて立ち塞がる大男ことアーノルドさん。
ガキィッ。
金属同士をぶつけたような音をたてて、黒虫の動きを止める。
上手いな。激突の後、黒虫が左右上下と方向を変えようとするのを盾の角度を小まめに変えることで押さえ込んでいる。
「さあ、見たまえっ。ライトソードッ」
動きを止めた黒虫に光を発する剣を振り落とすフランツ君。
たしか、Aランクパーティのリーダーもやってたな、あの技。流行ってるのかな?
見た目、勇者って感じはする。もしくは理力の騎士。
剣は黒虫の甲殻に打ち付けられ、浅い傷を付ける。
なんでわざわざ防御力の高そうな所を攻撃するんだろう? まあ、ひっくり返すのが面倒とかかな。
そこでアーノルドさんが黒虫の甲殻縁を蹴り上げる。それで黒虫はひっくり返った。
「とどめだっ」
黒虫の腹へフランツ君の突きが刺さる。
……こっちは技の名前とか言わないんだな。何だったんだろ、さっきのライトソード。
全ての足を空を掻くように動かす黒虫に、刺した剣を残して距離をとるフランツ君。アーノルドさんが盾を構えて間に入る。
黒虫はやがて足の動きを止めた。
「どうだい。今のが見本かな」
前髪を掻き上げながらフランツ君がそう言う。
参考になるかなあ?
「じゃ、次は私たちね」
アリスちゃんはフランツ君の見本とか見てなさそう。
「この先に進むともう一匹来るだよ」
アーノルドさんが教えてくれる。
アースサーチでも見つけてたけど、どうやって判断してるんだろうな、この人。ここから見えない位置だと思うんだけど。
「じゃ、ヨシツグおじさんはアーノルドさん役ねっ」
……えー、本人がいるんだしやってもらえば……。
はい、分かりました。姪っ子の期待に満ちた視線は強制力高いな。血縁はないけど。
久々の攻撃盾を構えて前に出る。
こっちから行かなくても向こうから近づいて来るな。
こちらを見つけると共に地面を滑るような黒虫の突撃。それを地面に突き刺して固定した盾で受け止める。
いつもなら、穴に落として必殺コンボなんだけど、今それをやるとアリスちゃんたちに何を言われるか判らない。今日の主役は彼女たちなのだ。
足を止めた黒虫が態勢を変えようとするのに対して、両手持ちした攻撃盾を棍棒の要領で振り回し、両端を使っての打撃で抑え込む。
を、俺でもアーノルドさんっぽくできてるジャナーイ。
「世界の根元たるマナよ、我が呼び掛けに応じ力を示せ。大地より生まれし槍よ、突き上げよ」
マリーちゃんの魔法。ストーンニードルかな? 詠唱の内容から推測すると。
俺も良く使う魔法ではあるが、呪文は初めて聞いたなあ。
地面からまっすぐに伸びた石の槍が黒虫を下から襲う。
それは黒虫の中心を外したが、そのまま持ち上げてひっくり返す。
「えーいっ」
そこに一閃するアリスちゃんの剣。
ドラスレ君直伝の、何でも両断しちゃう剣だ。
その剣は黒虫の片側の足三本を切り、頭から尻まで真っ二つ、甲殻も真っ二つ。
ひっくり返した意味はどこ? 俺が頑張って抑え込んだ意味は?