軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

4:一端の開示

「それでは只今より、騎士ソシルコット・フォン・ヤーラカスと魔術師ミーメの模擬戦を行う。審判は私、『船の魔術師』ヘルムス・フォン・トレガレーが務めさせてもらう」

ヘルムス様の声が練兵場に響き渡る。

「ルールは単純だ。お互いに魔術を準備していない状態で定位置に立ち、私の合図と共に模擬戦を開始。どちらかが負けを認める、気絶、拘束されるなどしたら決着とする。ただし、これは模擬戦である。万が一にも相手に致命傷を与えるような事態があれば、即座に私が介入し、加減できなかった方を負けとさせてもらう。では、両者、定位置へ」

ルールについては問題なし。

ヘルムス様に介入されないようにだけは気を付けないといけないところだが。

「貴様の化けの皮を剥がしてやるぞ。平民……」

「……」

定位置に移動したワタシがそんな事を考えていると、距離を離して向き合っている騎士……ソシルコットがワタシの事を睨みつけながら、話しかけて来ている。

なるほど。こうして敵意を直接向けられれば、流石のワタシでも前世知識と合わせる事で分かる。

ソシルコットとやらは恐らくだが、ワタシの事が……平民で、闇属性で、年下で、であるのにヘルムス様から師匠と慕われているのが気に入らないのだろう。

それこそ、ほんの一時であってもワタシが王城に勤める事が許せないほどに。

「だんまりか。いや、それとも私と戦うなどと言う想定外の事があって頭が真っ白になっているのか?」

「……」

まあ、反応してやる義務は無いので、ワタシは無視してソシルコットの装備などを確認していく。

身に着けているのは何かしらの魔法が付与された金属製の板金鎧だが、こちらの事を舐めているのか兜は着けていない。

既に鞘から抜かれて両手で持ち、構えているのは、鉄製と思しき両刃の直剣だが、こちらも何かしらの魔法が付与されているのを感じる。

周りの騎士たちも同じような装備なので、王城からの支給品と言ったところだろうか。

ソシルコットの属性は瞳が紅色なので肉体属性……より正確には瞬発力に優れた肉体属性。

体に流れている魔力は淀みあり、ムラあり、循環は最低限で発散多し、総量は貴族らしくワタシより多いが……酷いな。

ヘルムス様や、物陰からこちらを見ている方々、ディム様辺りを見習ってほしいものだ。

この分だとワタシのように隠している事もないだろうし、隠し玉の類だってないだろう。

うん、本当にヘルムス様に介入されないようにする方が大変かもしれない。

「それでは、両者構えて……ミーメ嬢?」

ヘルムス様がワタシとソシルコットに構えるように促す。

が、ワタシは背中の杖を手に持つこともなく、両腕を広げる事もなく、胸の下で構えたままである。

「大丈夫ですので進めてください。ヘルムス様」

「分かりました」

「貴様……! 平民の分際で……!」

結論を言おう。

ワザとでない限り、ワタシにとってソシルコットは負ける方が難しい相手だ。

なのでワタシはもっと楽にするべく、相手のプライドを逆撫でするために構えない。

「では……はじめ!」

ヘルムス様が模擬戦の始まりを告げる。

「目に物を……」

ソシルコットが何故か前口上を言い始める。

「見……せ……!?」

ワタシはその前口上を言い切る事も許さなかった。

ソシルコットの前に闇人間を出現させ、拳を振らせ、その文字通りの眼前で拳を止めてやった。

自分の顔に押し寄せる風圧で、もしも拳が振り切られていたら自分の首から上が無くなっていた事はソシルコットにも分かったのだろう。

言葉が止まり、口は声を発することなくただ動き、頬を汗が伝う。

それを確認したところで、ワタシは闇人間を一度消してやる。

「さて、実質的には決着だと思いますが、ヘルムス様から決着したと言う言葉はありませんし、続けましょうか。次は、待って、差し上げますね」

ワタシは一歩も動く事もなく、組んだ腕を解く事もせず、ただ告げる。

もう決着はしているが、ワタシの慈悲で続けるも終わらせるもお前の自由にさせてやる、と。

これで素直に引くならばよし。

もしも突っかかってくるのであれば……言い訳の余地がないくらいに押し潰すだけだ。

ワタシの経験上、この手の地位などが下の人間を舐め腐った貴族と言うのは、半端な潰し方をすると逆恨みするし、温情をかけると増長するものなのであり、残しておくと周囲に迷惑をかけて、その迷惑は巡り巡ってワタシの方へとやってくる。

なので、今しているように徹底的に潰した方が後々の面倒が少なくなりやすい。

だからワタシは仕込みだけして待つ。

ヘルムス様もワタシの考えを読み取ってくれたのか、笑みを浮かべたまま状況を見守ってくれている。

「な、な……舐めるのも大概にしろ! この平民女が! 後悔させてやる!! 我が肉体に大いなる力を! 我が腕に岩をも砕く力を! 我が脚に風よりも速く駆ける力を! 『フィジカルブースト』!!」

ソシルコットが肉体属性の魔術によって自身の肉体を強化する。

ただひたすらに魔力をつぎ込んだだけの、特化もなにもされていない、とても粗雑な魔術だった。

「死ねぇ!」

だがそれでも貴族の魔力量で、その魔力の大半をつぎ込んでいるからだろう。

イメージを固めるための詠唱通り、ワタシに向かって駆け飛んでくる姿は風のような速さだったし、到着と同時にワタシの頭に直撃するように振り降ろされつつある剣の勢いはそれ以上だった。

「はぁ……」

「!?」

が、それだけだった。

あまりにも稚拙だった。

こんなのが国の中枢たる王城を守る騎士とは、あまりにも情けないと感じ、思わず溜め息が出てしまった。

そして、ワタシが溜め息を吐いた時点で、既にソシルコットの足を地面から……正確にはソシルコット自身の影から生えてきた手が掴んでいた。

その箇所はちょうど練兵場のど真ん中で、どうあってもワタシには剣が届かない位置。

そんな場所で足首を掴まれたソシルコットの動きはその時点で前進を止め、けれど勢いが残ったままであるために前進の勢いは回転へと変換され、急な動きの変化に対応できなかったソシルコットは頭から練兵場の地面へと突っ込んでいく。

このままでは怪我をするだろう。

だからワタシはわざわざソシルコットの全身を支えるように影の手を増量し、掴み、支えつつも拘束して、地面に縫い留めつつも拘束する。

「自分の影に魔力を流し込まれている事にすら気づかないとは……残念極まりないですね」

「!?」

その上で。

ワタシは闇人間を改めて出すと、ソシルコットの剣を取り上げる。

そして雑巾を絞り上げるように、剣を絞り上げて、真っ二つにしてから放り投げた。

「この模擬戦。ミーメ嬢の勝利とする」

ヘルムス様がワタシの勝利を告げる。

ワタシはソシルコットの拘束を解除してやる。

歓声は上がらない。

ソシルコットも、騎士たちも、他にも多くの人間がワタシの事をどこか怯えた目で見つめている。

「見事だミーメ嬢」

だからだろうか、場の空気を払うような明るさで……いや、単純に嬉しがっているように見えるが、とにかく明るい雰囲気でヘルムス様がワタシに声をかけ、近づいてくる。

「流石は少なくとも五年以上もの間、単独で王都近くの魔境『グロリベス森林』に立ち入り、中型以上の魔物を狩り続けているだけの事はありますね。分かっていた事ではありますが、騎士二年目程度では相手にもなりませんか」

「どうしてそれを?」

「むしろ何故知られていないと? 王城の諜報部隊も我が家の情報網もこれくらいは簡単に調べられるに決まっているではありませんか」

「ワタシはただの平民ですよ。そんな人間の事をどうして調べているんですか。人材の無駄遣いでは?」

「ははははは、ミーメ嬢は冗談が上手いですね」

何故だろうか。

ワタシを見る騎士たちの目に含まれる恐怖がさらに増したように思える。

同じ人間だと思っていないような感じだ。

ヘルムス様の言葉の意味は……私がどうしてこれほどに強いのか、その根拠を示す事で騎士たちの恐怖を解こうとしたのだろうけど、残念ながらその効果は無かったらしい。

「さてミーメ嬢。これでミーメ嬢の属性が闇属性である事は無事に証明されました。そういう訳なので、事前の予定通りに進めましょう」

「分かりました。次は身体測定との事でしたね」

「その通りです。専門の女性医官が待っているはずですから、案内しましょう」

まあいいか。

騎士たちの怯えをどうにかするのも後始末の一環。

となればヘルムス様がやるべき事であって、ワタシがやる事ではない。

ワタシはそんな事を考えつつ、ヘルムス様に連れられて練兵場を後にした。