軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

3:属性証明

「よく来てくれました。ミーメ嬢」

数日後。

ワタシは王城へとやって来ていた。

服装はヘルムス様からこれなら大丈夫と太鼓判を貰った上質な物。

背中には自分で作った魔物の骨製の杖を挿して、手には仕事道具の一部などを詰め込んだバッグを持っての登城である。

「これからお世話になります」

「ええ、よろしくお願いします。まあ、ミーメ嬢の実力を考えれば、世話になるのは私たちの方だと思いますが」

ワタシの出迎えはヘルムス様と、先日の時も居た騎士の二人。

ワタシが頭を下げる中で、ヘルムス様はウキウキとしているが、騎士の方は怪しいものを見るような目を向けている。

反応としては……騎士の方が正しいとは思う。

ワタシは平民で闇属性の魔術師だし、隠し事も……まあ、色々とあるので。

「ではミーメ嬢。まずはこちらへ」

「はい」

ワタシはヘルムス様に先導されて城の中へと入ると、周囲を壁に囲われ、足元は地面がむき出しになっている場所へと案内される。

練兵場、と言われるようなところだろうか。

人もだいぶ集まっていて、壁際に集まってこちらの様子を窺う者、一般的にはこちらから見えない位置から様子を窺っている者、純粋に警備としてこの場に居る者、合わせて数十人は居るようだ。

「先日話した通りです。まずはここでミーメ嬢が闇属性の魔術師である事を証明してもらいます」

「目の色を詐称する人間が極稀に居るから、ですね」

「その通り」

この世界の生物の魔法の力は瞳に宿るとされている。

だから、魔法の力……第一属性に目覚めた生物は、その瞳の色を目覚めた属性に応じた色に変える。

白っぽい灰色から、火属性なら赤、水属性なら藍、風属性なら黄緑、土属性なら茶色、氷属性なら水色、雷属性なら黄色、金属属性なら黒に近い灰色、精神属性なら紫、肉体属性なら紅から桃色、植物属性なら緑色、光属性なら白に近い黄色、闇属性なら黒、と言った具合だ。

この内、属性を詐称する意味があるとしたら、犯罪や工作に使われがちな精神属性と闇属性。

なので、ワタシのように目を黒く染める意味など普通に考えればないのだけれど……。

「昔……と言っても百年以上前の事のようですが、精神属性の侍女が他の属性だと偽った上で研鑽を積んでいないから魔術を使えないと言いつつ城に勤めたことがありました。そして、その侍女の魅了魔術によって城内が荒れました。事態判明後、敢えて属性を偽っていた侍女は当然処刑。その後、この件の反省として、城に新しく勤める人間は最初に複数人の前で自分の第一属性の証明を行う事が義務付けられたのです」

まあ、過去にそんなトラブルがあったのなら、確認するのは当然の事だろう。

「そちらが例のお嬢ちゃんかの。『船の魔術師』殿」

と、ここで黒の瞳……つまりは闇属性の老人が私たちに近づいてきて、声をかけてくる。

『船の魔術師』と言うのは……ヘルムス様の二つ名のような物か。

「ええ、その通りです。ミーメ嬢、こちらは君が闇属性の魔術師である事を同じ闇属性の魔術師として確認してくださる。ディム・アンカーズ殿です」

「ミーメと申します。平民でも末端の方ですので、姓はございません」

「ディム・アンカーズじゃ。ようやく、儂の後任になってくれそうな若者が来てくれて、ジジイとしては嬉しいことこの上ないの。まあ、お嬢ちゃんが本当に闇属性なら、じゃがの」

「闇属性ですのでご安心ください」

ワタシはディム様と握手を交わす。

シミが多く、細い腕であるが、こちらの手を握る力はしっかりとしたものなのが、手と指のタコを中心に伝わってくる。

こう言っては何だが、もう十数年は問題なく生きれそうな感じである。

「では早速始めるかの」

「はい」

ディム様とワタシは少し距離を取る。

ヘルムス様も何処かへと移動し、騎士の方も他の騎士たちが集まっている方へと移動する。

「まずは儂と同じような物を出して欲しい。闇よ。集まりて球を為せ。『ダークボール』」

ディム様の指先から黒い液体のようなものが滲み出すと、指先の空中にそれが集まっていき、表面が波打ちデコボコし続けている黒色の球体になる。

深く考えるまでもなく、最も単純な属性の顕現の一つとされるボール系魔術の闇属性版だ。

「分かりました。ただ、ワタシは我流ですので、詠唱は気になさらないでください」

「構わんよ。それは知っているし、指導者がまるで居ない闇属性では、大抵の場合において我流にならざるを得ないからの」

「ありがとうございます。では」

ワタシも一応の断りを入れてから、右手を前に出し、手のひらを上に向ける。

「闇よ。瞳ほどに集まりて球となれ」

ワタシの手の平から魔力が放出されて、手のひらの上の空中で闇が生成され、生成された闇は眼球ほどの大きさにまとまって球体となる。

波打たず、滑らかな表面の、黒色の真球。

人によっては空中に穴が開いたかのように見える事だろう。

「ほう……」

ワタシの生成した闇の球体にディム様は感心すると共に目を輝かせている。

対して、周囲に居る騎士たちの反応は……大抵は無関心に近く、一部に至っては嘲笑を浮かべているようだ。

なるほど、ヘルムス様が闇属性の人材枯渇が深刻と言うのも納得である。

あんなのが同僚では、貴重な闇属性の人材が加わっても、直ぐに離れてしまうに違いない。

「よいのよいの。では続けてミーメのお嬢ちゃんの得意魔術を披露してくれ」

「分かりました」

まあ、あの辺は何かして来たら殴り返せばいいので、今は無視しておこう。

今はディム様の求めに応じる方が先である。

さて、ワタシの得意魔術となると色々とあるが……一番日常的に使っているものをこの場で披露しておけば、後も含めて都合が良さそうか。

「来い。闇人間」

ワタシは自分の足元、そこに在る影に向かって魔力を流し込む。

すると影が盛り上がっていき、身長2メートルほどの黒一色なヒトガタが現れる。

これが闇人間。私が日常的に用いり、最も得意とする魔術である。

「ふむ。闇を用いたゴーレム魔術の一種。と言うところかの?」

「だいたいそれで合っていると思います」

「なるほどの。強度、出力、範囲、数、精度と言ったものは……ああ、答えづらい事なら答えんでええぞ。独自魔術と言うのはその者の研鑽の結晶じゃからな。明かせない事は明かさんでええ」

「えーと、では。大抵の魔物相手に前衛を務められる強度と、ワタシが自分の体を動かすのと同じくらいの精度はあるとだけ」

「ほー! それは素晴らしいのう……いや本当に素晴らしいのう……」

ディム様が子供のようにはしゃいでいる。

いや実際、この魔術……『闇人間』は非常に便利な魔術なのだ。

十分な強度があるので狩りの時に前衛として使えるし、壊されたところでワタシには何の影響もないのだから。

そして、その気になれば詠唱すらせずに出せるので、日常で熱せられたヤカンを掴むとか、重い物を運ぶとか、高い所にある物を掴むとか、急いで移動する時にワタシを運ばせるとか、本当に便利に使える魔術になっている。

「よろしい、本当によろしい! ミーメのお嬢ちゃん。歓迎しよう。今日から君は……」

「お待ちください! ディム殿!」

さてこれで属性確認は終わり。

ワタシはそう思っていたし、ディム様もそのつもりだったと思うのだが……その前に騎士の一人、ヘルムス様についていて、先日も会った騎士が声を上げる。

「なんじゃ……」

「彼女は呪いなどの闇魔術でなければ対応できない事柄に対処するために、規則を無視して招き入れるのでしょう? であるのならば、呪いに対処できる能力があるかも今この場で示すべきでは?」

「……」

騎士の言葉は正しい、とワタシは思う。

だが、ディム様は面倒くさい事を言いおってからにと言わんばかりの表情をしている。

「仕方がないの。ミーメ嬢、申し訳ないが、儂が今から出す呪いに対処してもらいたい。対処方法はこの練兵場の外に出さなければ、どんな方法でも構わん」

「分かりました」

「では出すぞ。周りの者にも分かり易いように色付きじゃ。闇よ。風邪招く呪いとなり、彼の者を襲え。『コールドカース』」

ディム様の手から黒い靄のような物が放出されると、ゆっくりとワタシの方へと向かってくる。

きっと、この呪いにかかったなら、風邪を引いたかのような症状に見舞われるのだろう。

正直なところ、この程度の呪いならば防御の必要すらないのだけれど、対処できることは示した方が良い。

だが対処をどうするかと言われれば……弾く、封じる、消し飛ばす……一番、確実で周囲に影響も出ないのはこれか。

「では対処します」

ワタシは自分に向かっている黒い靄に手を伸ばし……掴む。

掴んで、軽く手を回して絡め取り、まとめる。

「ふんっ!」

「「「!?」」」

で、握り潰して魔術の構築を完全破壊した上で、闇属性の魔力から純粋な魔力に還元して散らす。

「無茶するのー……」

周囲の騎士たちが呆然とし、何も言えないで居る中でディム様が呆れた様子で呟いている。

「そうですか?」

「あー、ミーメの嬢ちゃん視点では無茶でも何でもないんじゃな。なるほどのう……」

ただ、ワタシとしてはこの程度は本当に何でもない事である。

と言うか、この程度で驚かれるのか、なるほど。

覚えておこう。

「あ、あり得ない! なんだ今のは!? こ、こんなのはデタラメだ! 何か仕掛けがあるに違いない!! そうか! そこの平民はディム殿と口裏を合わせていたんだな! そうでなければ、魔術を握り潰すなど、そんな非常識な事が出来るはずがない!!」

さてこれでこの場は完全に終わりと思っていたのだが……まだ何かあるらしい。

先ほど、ディム様に呪いについても確かめるべきだと口にした騎士が何か騒いでいる。

うーん、これ、どうすればよいのだろうか?

そんな風に私が悩んでいるとだ。

「ではソシルコット。お前が直接、その身をもってミーメ嬢の実力を確かめればいい」

ヘルムス様が無表情で現れて、全員の目を惹くように大きな声でそう告げた。

「実力を……確かめる? そうか、それならば……」

騎士……ソシルコットが自分の装備品を急いで確かめ始める。

「ヘルムス様」

「申し訳ありませんミーメ嬢。こうなったら、こうでもしないと場が落ち着かないし、後で余計な憶測をされることになりますので。ですが、こうなった以上は……殺さない、後遺症を残さない。この二つだけ守ってくれれば、後は好きにしてくれて構いません」

ワタシは近づいてきたヘルムス様に文句を言おうとする。

が、それよりも早くヘルムス様は理由を話し、頼み込んでくる。

確かにこうなったら殴った方が早いとは思うけれど……仕方が無いか。

「分かりました。ただこれでこの場は終わりにしてください」

「勿論です。後始末の方も私の方で何とかしますので、安心してください」

こうしてワタシはソシルコットと言う名前の騎士と戦う事となった。