軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

192:バルコニーにて

「静かな場所でしょう?」

「そうですね。屋敷の音も街の音も微かで、落ち着くには良い場所だと思います」

ヘルムス様に連れられてやって来たバルコニーは人払いが事前にされていたのか、ワタシとヘルムス様の二人しか居なかった。

勿論、護衛や警備の人たちも居るには居るが、彼らもバルコニーを照らす照明の範囲外であり、ワタシたちの会話内容を聞けるような距離には居ない。

そのような場所なので、舞踏会の音楽も、祭りが行われている街の喧騒も微かにしか届かない。実に静かな場所だった。

「アレは……花火ですか」

そんなバルコニーを不意に閃光が照らし出す。

光の出元の方へと視線を向けてみれば、夜空を彩るように様々な色の光が打ち上げられていた。

「そうですね。我が家に所属する光属性魔術師が作り上げた、魅せるための魔術です。こう言う場で撃つと、実に盛り上がります」

「盛り上がるだけではなく、安全対策も兼ねていますよね?」

「お気づきになられましたか。その通りです」

光には弱いが魔物除けや呪い払いと言った、ちょっとした祝福のような効果も含まれている。

そうする事で、祭りの最中に魔物が襲い掛かってきたり、祭りに乗じて流行り病が広がったりするような事態が起きる可能性を下げる意味も担っているようだ。

王都でも時折見かけたが、実に素晴らしい魔術だと思う。

「さてミーメ嬢。先ほどは申し訳ありませんでした。あのような無礼者を招いてしまったのは当家の落ち度です」

「気にしないでくださいヘルムス様。ワタシには何もありませんでしたから。それでも気に掛けるのなら、矢面に立ってくれたキャシーさんか、驚かされたストリンさんに対してです」

「そうですね。後で二人にも詫びを入れておきましょう。そして、あの男たちについては相応の抗議をしておこうと思います」

「あー、抗議については程々でお願いします。やり過ぎて逆恨みされても面倒なので」

「分かっています」

謝罪をして、顔を上げたヘルムス様がまた怖い笑みを浮かべていたので、釘は刺しておく。

まあ、実のところ、あの男性たちについては、ワタシやヘルムス様が何かをしなくても、これから針の筵になるだろうから、そこまで気にしなくていいだろうけど。

「そして此処からが本題なのですが……」

「はい」

人払いもしてあったので当たり前だが、ヘルムス様は謝罪の為だけにワタシをこの場に招いたわけではないらしい。

真剣な表情で、ワタシの顔を見つめている。

なので、ワタシも真剣な表情でヘルムス様を見つめ返す。

とは言え、いったい何の話だろうか?

これほど真剣な表情を必要とする話題について、ワタシには心当たりがない。

敢えて挙げるならば魔術関係か婚約関係だとは思うけれど……前者は今する事ではないだろうし、後者は舞踏会で紹介があったばかりで、ついさっき愛しているとも言われたばかりだから、何も恐れる事は無いと思う。

そんな事を考えながらワタシはヘルムス様の言葉を待って……。

「ミーメ嬢。貴方の中にはこの世界とは異なる世界の知識があるのではありませんか?」

「はい?」

言われたのは全く以って想定外の言葉であった。

本当に想定の範囲外過ぎて、ワタシに出来るのは首を傾げる事くらいなものだった。

いや確かに、ワタシの中には前世知識……異なる世界の知識は存在している。

一応は隠しているそれが何故バレたのかは分からない。

と同時に、この世界において異世界の知識がどう扱われているかを一応思い出してみるが、実証できなければただの妄想であり、自分から明かすのなら狂人の類として扱われても仕方がないが、宗教や社会通念上の問題はない事は確かだった。

なので、恐れたり、慌てたりする必要はなかった。

「えと、その、ヘルムス様……流石に話が唐突過ぎて見えないのですか……」

無かったが……本当に文脈とか、何故バレたのかとか、どうしてこの場で問うのかとか、そう言う部分が本当にまるで分からなかった。

「そうですね。では、順を追って説明させていただきます」

「お願いします」

ヘルムス様曰く、疑念を特に抱いたのは『海坊主』の名前の件だったらしい。

調べても、『海』を『ウミ』と言う言語は見当たらないし、『坊主』に至ってはどう繋がれば、そうなるのかがまるで分からなかったらしい。

そして、他にも『 ひとのまのもの(ジャガーノート) 』やら、銃型の『万能鍵』やら、ワタシがこれまでに明かした知識の中でも積み重ねが無ければ辿り着けない部類の知識やら、状況証拠は色々と積み重なっていたそうだ。

それで、先日、昔のトレガレー公爵家の人間が残した日記を読んだところ……。

「聖地トリニアでは、かつて数多の知識を得るための儀式魔術が行われたそうです。それが具体的にどのような物であったのかは不明ですが、効果は確かだったそうで。ミーメ嬢の使う筒型『万能鍵』を大型化したような外見の大砲や、今も打ち上がっている花火。他にもマヨネーズや時計、アイスクリームなど、様々な物が得られたようなのです」

「なるほど。ですがワタシの知識は本から得た物だと以前言ったと思いますが?」

若干意地悪かもしれない。

そんな事を思いつつも、ワタシは一応の反論をしておく。

だが、ヘルムス様は直ぐに首を横に振る。

「ミーメ嬢、お忘れですか? 『八顕現』の発想はどこの本にもありませんでした。ミーメ嬢はアレを地道な研鑽と分析の下に見出したのでしょうし、それも真実なのでしょう。しかし、一人で導き出すには、『八顕現』の理論は軸が確固たるもの過ぎます。その他の広範な知識も含めて、全てを本とミーメ嬢自身の経験で得たというには無理があります」

「『人間』属性からかもしれませんが?」

「『人間』属性を得る前からミーメ嬢は非常に聡い子だった。と言う情報は以前から私は持っています」

「そうですか」

なるほど、誤魔化しが利かないくらいには確たる証拠を以ってヘルムス様は問いかけているらしい。

「私としては。かつて聖地トリニアで行われた、異世界の知識を得る儀式魔術は未だに効果を保っており、世界中の人間から不定期かつ極僅かな人間を選び出しては、異世界の知識を授けているのではないかと考えています」

異世界の知識を得る儀式魔術か……。

正直なところ、ワタシにはどのようにすれば、そんな事が可能であるかは殆ど想像できない。

『扉』『時空』『次元』、そう言った属性は関わっていそうだなとは思うが、それだけである。

とりあえず、居るであろうトリニア神が対処していない辺り、宗教や世界にとっては問題のある魔術ではない。これだけは確かだとは思うが。

そして、今この場において重要なのは、実のところ、ワタシの知識の有無ではないだろう。

「そうですか。ヘルムス様」

「はい」

「ヘルムス様は異世界の知識を得て、何をしようと思うのですか?」

ワタシは改めて真剣な表情を取り繕い、ヘルムス様の顔を見る。

そう、今この場において最も重要なのは、これからヘルムス様が何をしようと言うのか。その点だ。

平和的な利用ならば別に構わないが、前世知識の中には少々洒落にならない情報も含まれている。

もしもそれを悪用しようと言うのならば……気が付かれてしまった者の責務として、国を守る宮廷魔術師として、ヘルムス様の婚約者あるいは師匠として、相応の対処はしなければいけないだろう。

だからワタシは問う。

持てる魔術の腕の全てと知識の全てを用いて、一切の嘘偽りを見逃す事の無い状態でヘルムス様に尋ねた。

そんなワタシの問いに対してヘルムス様は……。

「私はミーメ嬢を守るだけです。今ここで尋ねたのは、答え合わせをするためでしかない。私はミーメ嬢の示した答えを真実としましょう」

僅かに目を逸らす事もなく答えた。

ワタシの言葉を……それが仮に嘘だとしても、真実として扱い、守るのだと言う覚悟と共に。

そこまで言われてしまえば……ワタシも真摯に応じる他なかった。

「降参です、ヘルムス様。そうですね。ワタシの中には確かにこの世界の物ではない、異世界の知識が存在します」

だからワタシは口を開き、言葉を紡ぐと共に、両手を上げて降参のポーズを取った。