作品タイトル不明
187:舞踏会の始まり
「彼の者は本作戦において~……」
今日の催しはトレガレー公爵家主催のイストフィフス侯爵討伐作戦の成功を祝った物。
参加した騎士と魔術師の無事を祝うと共に、彼らの活躍を公爵領に属する貴族たちに知らしめ、褒賞を与える場である。
なので、客である貴族たちが会場に集まった後、作戦に参加した騎士と魔術師が名前を呼ばれ、パートナーと共に入場し、褒賞を受け取っていく。
人によっては、この場で新たに男爵位に叙され、家を興す事になったりと、とても重大な祝いの場である事もあるようだ。
ちなみに、活躍の内容としては、敵貴族を討った、都市や村を一時的に任された、スタンピードの際に強大な魔物を倒した、あるいは仲間を庇ったなどの目に見えて分かり易い功績だけでなく、討伐作戦終了後の事務処理や輸送活動の指揮を行った者もきちんと評価されているようである。
ぶっちゃけてしまうと、作戦に参加した騎士と魔術師のほぼ全員が褒賞を受け取っていると言っても良い。
「それでは最後に。先の作戦において最も多大な貢献をしたと言っても過言ではないお二人をお呼びいたしましょう。『船の魔術師』ヘルムス・フォン・トレガレー様と『闇軍の魔女』ミーメ・アンカーズ様です」
「ではミーメ嬢」
「はい」
ワタシはヘルムス様に手を引かれて、舞踏会の会場へとゆっくりと入る。
ワタシたちは歓声と拍手で出迎えられ、数多の視線が注がれているのを感じる。
その視線は多少興味や好奇心に偏っているのも感じるが、概ね好意的な物だった。
「公爵様の三男でもあらせられるヘルムス様は先の作戦において、侯爵の甥であり、レリックを用いていたトレイタル・イストフィフスを一騎討ちにて討ち取るだけでなく……」
ヘルムス様の功績が述べられていく。
ヘルムス様に言わせれば、レリックの仕様さえ割れればトレイタルは大した相手ではなかったとの事だったが、それでも並大抵の魔術師では相手にならなかったであろう敵を一方的に倒して見せたのだから、こうして称賛されるのは当然の事だろう。
なんだか、ワタシも誇らしくなってきた。
「そのヘルムス様の婚約者でもあらせられるミーメ様は先の作戦中に起きたスタンピードに際して、『ウミボウズ』と名付けられた魔物を打ち倒し……」
続けてワタシの功績が述べられるが……。
ヘルムス様は誇らしげにしているが、ワタシとしては少々こそばゆい。
海坊主との戦闘はともかく、他は大した活躍ではなく、スケクロとの戦闘は称賛の場で出すには難しい内容で省かれているからかもしれない。
「また、お二人は先日領都に現れましたギガントスイムクラブとの戦いにおいても多大な活躍をお見せになられました。こちらが、そのギガントスイムクラブの遺骸の一部となります」
「「「!?」」」
ここで会場の端に準備されていた、巨大な何かに掛けられていた布が取り払われる。
布の下から現れたのは、ギガントスイムクラブの胴体部分の殻。内臓が抜かれ、両目はなく、脚はもがれているが、それでもなお巨大で重厚感があるそれを目にして、貴族、騎士、魔術師のいずれも唖然としている。
「それでは、公爵様」
「ヘルムス。儂の息子よ。見事な活躍であった。父として、公爵として、儂はお前を誇りに思う。これからも国の為、トレガレー公爵家の為、民の為、その力を尽くしてくれると嬉しい」
「勿論です。父上」
「ミーメ嬢。本当にありがとう。貴方に対しては、儂は百万遍の感謝を伝えてもなお足りないと思っている。どうかこれからも息子と仲良くし、道を共にしてくれればと思う」
「勿論でございます。公爵様」
空気が落ち着くのを待ってから、ワタシとヘルムス様は公爵様の前に出る。
そして、事前に教えられていた礼儀作法に従って言葉を受け取る。
なお、褒賞は無しである。
これはトレガレー公爵家がケチなのではなく、ワタシとヘルムス様が宮廷魔術師であり、その所属が王城側であるため、ここで褒賞を受け取ってしまうと、色々と面倒くさい事になってしまうのだ。
まあ、表向き渡せないだけで、裏では実質的に色々と貰っているのだけど。領都での滞在にかかる費用とか、お土産や素材の購入にかかる費用とか、ギガントスイムクラブの買い取り費用を適正と言いつつ、市場価格的には少し高くするとか、そんな感じで。
「では続きまして、交流の時間と参りましょう。音楽隊、前へ」
「ミーメ嬢」
「はい」
様々な楽器を持った方々が準備を始める。
それと同時に、料理が乗ったテーブルも奥から出てきて、白ワインまたは色のないジュースが希望者には配られていく。
料理の内容は多種多様。
ギガントスイムクラブの脚肉をただ焼いただけの物は勿論あるが、それ以外にも脚肉を中心としつつも、海の幸も陸の幸もたっぷりで、国内外の貴重なスパイスも惜しげなく使われている、彩り鮮やかな……トレガレー公爵家だからこそ出せる料理なんかもある。
その香りと見た目に何人かは口惜しそうにしつつも、ダンスの為のスペースに男女のペアで入ってくる。
そして、ヘルムス様とワタシもまた、そのスペースへと入っていく。
と言っても、ヘルムス様とワタシはもう食べた事があるので、ギガントスイムクラブ料理にそこまで惹かれたりはしないのだが。
「では、ヘルムス様が踊り易くなるように、少し失礼させていただきますね」
ダンスの為のスペースの中心、この場において、最も地位が高い人物が立つべき場所に立ったところで、ワタシは一つの魔術を行使する。
ワタシの身長は約140センチ。高めのヒールで補ってもまだ150センチには届かない。
これだと、ヘルムス様との身長差を考えると、ダンスをするには少々厳しいものがあると言う事で、ワタシは闇を操り、足の先を継ぎ足すようにして、少しばかり身長を高くする。
「お見事です。ミーメ嬢」
「ありがとうございます、ヘルムス様」
周囲の人たちはワタシの頭の位置が急に上がった事に驚いているが、ヘルムス様はただ嬉しがるばかりである。
ちなみに、この闇は当然のように四属性混合なので、ワタシ自身の身体よりもよっぽど高出力で安定している代物である。
その上、ワタシ以外の人間には触れないようにしているので、誰かの足を踏み抜くような事もない、非常に便利な代物になっている。
「それではミーメ嬢。一曲、お願いできますか?」
「はい、喜んで」
やがて音楽が始まる。
ゆったりとした、初心者でも踊りやすいとされる曲だ。
ワタシはヘルムス様の手を取ると、指導された通りに、そして、ヘルムス様のリード通りに丁寧に踊っていく。
周囲の貴族たちも同様で、誰かが輪を乱すような事もなく、綺麗に踊り続ける。
そうやって何事もなく踊っていられると思ったら……。
「ミーメ嬢」
「何でしょうか、ヘルムス様」
「愛しています」
「っ!?」
ヘルムス様の不意打ちで、ワタシは魔術の制御を一瞬乱し、体勢を崩してしまいそうになった。
ヘルムス様の助けで傍目には何事もなかったように見えただろうが、そもそもの原因もヘルムス様なので、感謝はせず、むしろ急に何ですかと睨みつけておく。
「そう睨まないでください。こう言う場なのですから、婚約者として愛の囁きの一つくらいは許してください、ミーメ嬢」
「それはそうかもしれませんが……。驚かせるのはほどほどでお願いします」
「分かりました、ミーメ嬢」
やがて音楽は終わり、ワタシたちは踊りの為のスペースから二人揃って一度引く。
この後、ヘルムス様は誰かと追加で踊る事もあるかもしれないが、ワタシについては色々と特殊なので、ヘルムス様以外と踊る事はたぶんないだろう。
なので、後はほどほどに雑談と料理を楽しみつつ、舞踏会が終わるまで静かにしている事。
そんな事を考えつつも、耳で次の曲が始まりつつあるのを捉えつつ、ストリンさんたちが居る方へと、ワタシとヘルムス様は向かっていった。
「えーと、そのですね……」
「「……」」
そして、向かった先で見たのは、困った様子のストリン嬢の前で跪く一人の若い男性貴族の姿と、どうしたものかと言う顔をしたキャシーさんと旦那さんの姿だった。