軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

186:黒に白の煌めき

「出来上がりました」

「ありがとうございます」

侍女の言葉と共にワタシは目を開けて、立ち上がると、準備されていた鏡と闇人間の目で、自分の状態を確かめる。

うん、ワタシではないと一瞬思いそうなくらい、綺麗に着飾ってもらえた。

「ミーメ嬢。準備は済みましたか?」

「ヘルムス様。はい、大丈夫です」

さて、今日は舞踏会当日である。

ギガントスイムクラブの後続は予想通り来なかったものの、舞踏会の準備が単純に忙しくて大変だった。

まあ、この後も大変なのは既に確定しているのだけど。

なんなら、不安で不安で仕方がないのだけども。

それでも……ここまで来たら、後はもう出たところ勝負と言う奴である。

「では入ります。……!」

宮廷魔術師『船の魔術師』としての立場を示しつつも、トレガレー公爵家三男としての立場も見せるように、派手ではないが美しく着飾ったヘルムス様が部屋の中に入ってくる。

うん、いつものヘルムス様も格好いいが、今日のヘルムス様も格好いい。

そして、その格好いいヘルムス様は……ワタシの姿を見ると、目を大きく見開いて、黙ってしまう。

「どこか変なところでもありましたか?」

「いえ、そんな事は決してありません。単純にミーメ嬢の美しさに私が見惚れてしまっただけです」

「そうですか。でも、美しいのは化粧を頑張ってくれた侍女の方々のお陰であり、ドレスはストリンさんの頑張りであり、装飾品は作ってくれた職人の方々の賜物ですので、その人たちが評価されたと思えば、嬉しい事ですね」

「ミーメ嬢。ミーメ嬢当人の美しさも必ずありますので、それも忘れないようにお願いします」

「はい」

ヘルムス様はワタシの手を握って、力強くそう言ってのける。

侍女の方々に目をやれば、そちらも力強く頷いている。

それらを見て、ワタシは改めて背筋を伸ばし、顔を上げ、自信を漲らせる。

「それにしても、本当に美しいドレスになりましたね。輝きもこれまでにない物で……これだけでも、多くの者の目を惹く事は間違いないでしょう。よくお似合いです」

「ありがとうございます。これならば、素材の糸化技術のお披露目としては十分だと思います」

さて、今日のワタシが着ているドレスは、ストリンさんが『シロートガイ』の貝殻を糸化する事で作った糸を用いて、黒い布地のドレスに刺繍を施した物である。

『シロートガイ』の糸は光を反射して煌めき、その輝きはまるで夜空に浮かぶ星々のよう。

派手ではないが、美しく、人目を惹き、けれど落ち着いた……そんな品の良いドレスとなっている。

また、今回の舞踏会は身に着ける装飾品も基本的にはドレスに合わせたもので、主張はそこまで強くない。

ただ、胸元には灰色の巨大な宝石がついたネックレス……に見えるように、ワタシの第三の目を隠す隠蔽を解除し、金属製の飾りを付けている。

ちなみに杖はワタシもヘルムス様も持っていない。

ワタシたちの杖は長杖と呼ばれる大きな物なので、舞踏会の参加者が持ち込む物としては大きすぎるのだ。

「ミーメ嬢。ヒールの高さなどは大丈夫ですか? だいぶ高い物にしたと聞いていますが」

「そちらは問題ありません。服と体の間にある闇を操って、自分の体を支えるようにして居ますから。なので、実を言えば、ひじ掛けなどが付いている柱に体を預けているような感覚に近いくらいなんです」

「なるほど」

ヘルムス様がエスコートの為に手を出してくれて、ワタシはその手を取る。

ただ、ワタシの答えにどうしてか、ヘルムス様は少し悲しそうな顔をしている。

「……」

「ヘルムス様? どうかされましたか?」

「いえ、ミーメ嬢がよろけたりするような事が無いのは心強いのですが、よろけたミーメ嬢を支えるような機会がない事を、失礼ではありますが、少し残念に思ってしまっただけです」

「……」

ちょっと可愛いと思ってしまったワタシが居る。

こう、耳と尻尾が項垂れた犬のように見えなくもない。

とは言え、それを放置するわけにはいかないので。

「コホン。安心してください……と言うとおかしいかもしれませんが、大丈夫ですよ、ヘルムス様。ワタシは今回のような舞踏会は初めてです。となれば、事前に習ったとは言え、何処かで失敗する事もあると思います。そう言う時にはお願いします」

「はい。どうか私に任せてください。ミーメ嬢」

ワタシの言葉にヘルムス様は立ち直り、顔を上げる。

うん、これで大丈夫だろう。

正直なところ、ワタシは習った通りにこなすのできっと精いっぱいになるので、細かいやり取りや交渉の類はヘルムス様に頑張ってもらう他ない。

「ではミーメ嬢。最終確認を」

「はい」

ヘルムス様とワタシは最後の確認をしていく。

今回の舞踏会の大まかな流れ、細かいマナー、気を付けるべき相手等々だ。

「ほう。出来上がりはまた格別だね。良い物が見れたよ」

「ほへー。ウチとは大違い……」

「ペスティア様、ストリンさん」

そうしていると、ペスティア様が普段通りの格好で感心しつつ、ストリンさんが着飾った状態で少し呆けつつ、部屋の中へとやってくる。

「ストリンさんもよくお似合いですよ」

「ありがとうございます。『闇軍の魔女』様」

なお、ストリンさんのドレスは、ワタシが身に着けているドレスと同じ生地、同じ刺繍を施しつつも、ストリンさんの容姿に合わせて調整を施した物になる。

ウチとは大違いと言っていたが、ストリンさんにもよく似合っている。

装飾品については男爵家の格に合わせた物であるが、見る人が見れば、ワタシとの繋がりが明らかである事は誰の目にも明らかな物になる。

ちなみに、ストリンさんの作った『シロートガイ』の糸は、ヘルムス様も服に施された刺繍の一部に、トレガレー公爵夫人であるコルエさんもドレスの一部にだが使っているので、更に目端が利く人なら、トレガレー公爵家との間にも繋がりがある事が分かるようになっている。

「ストリン嬢。貴方も今回のような場は初めてだと思います。なので、次期スケルライト子爵夫妻を貴方の近くにお付けしますので、困った時は二人を頼ってください」

「は、はい。分かりました」

ヘルムス様の言葉に応じてキャシーさんとキャシーさんの旦那さん……次期スケルライト子爵が部屋の中に入ってくる。

とても仲が良さそうで、落ち着いた様子の二人で、夫婦揃って静かに一礼をしてくれる。

「さて、平民であるアタシは舞踏会の場に行く気は無いし、此処までだ。じゃあ、気を付けるんだよ、ストリン。ま、公爵家のお膝元で馬鹿をやらかす人間なんて居やしないだろうけどねぇ」

「はい! 気を付けます」

代わりと言っては何だが、ペスティア様は舞踏会には来ない。

それはペスティア様が平民であると言うのもあるが、それ以上に舞踏会と言う場が性に合わないらしい。

勿論、『黒帳の魔女』の身分を明らかにすれば、宮廷魔術師は子爵当人相当なので入れるし、ワタシとヘルムス様が来なければそうしただろうが……ワタシたちが居るならば、自分は影から見守る方針を続けるそうだ。

なので、舞踏会には来ないものの、警備の騎士が詰める小部屋には待機しておくとの事だった。

「それでは、そろそろ参りましょうか。ミーメ嬢」

「そうですね。ヘルムス様」

ヘルムス様に手を引かれて、ワタシは舞踏会の会場へと向かい始める。

「それではヘルムス様、ミーメさん。会場でお待ちしています」

「ま、待っています」

「はい、また後で」

その途中でキャシーさん、次期スケルライト子爵、ストリンさんは別れて、別の入り口から会場に入る。

「いよいよですね」

「ええ、いよいよです」

そしてワタシとヘルムス様は合図と共に舞踏会の会場へと入った。