軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

163:解放の宴

「「「ーーーーー~~~~~!!」」」

「ヘルムス様。宴が始まっているみたいですね」

「そのようですね。随分と楽しくやっているようです」

宮廷魔術師長様の部屋を後にしたワタシたちは、領都の広場で開かれていた宴へと近づいていく。

参加者には王城側の人間も居れば、侯爵領側の人間も居るようで、出身を気にすることなく仲良くやっているようだ。

勿論、領都内ではまだまだ相手の人魔問わず細かい制圧作業は続いているし、ユフィール様を筆頭に救助活動を行っている人間も居る。

だが、自分の仕事が終わった人間はこの場に集まって、完全に気が抜けない程度に宴に興じているようだ。

それだけイストフィフス侯爵の悪政が酷く、それから解放された喜びが大きいと言う事なのだろう。

「迫りくるは千の魔物! それを前に俺っちは炎の槍を投げて投げて投げまくって……」

「「「おおっ!」」」

「それらを退けた後に現れたのは納屋みたいな大きさの牛の魔物! 城壁にぶつかったらただでは済まないと……」

「「「おおっ!!」」」

そんな宴の場を見回してみれば、知り合いも時折見かけた。

例えばジャン様は騎士や兵士を前に、スタンピード中にあった事を話しているようだ。

語り口も上手く、だいぶ盛り上がっている。

「本当に。本当に不安でございました。倒しても倒しても魔物が尽きず、領都の方には陣地からでも分かるほどに大きな不安が生まれ……」

「分かります」

「本当に大変でした」

「お疲れ様です。グレイシア様」

グレイシア様は女性騎士や魔術師たちと静かに酒を飲み、愚痴を吐き、互いに慰め合っているようだ。

空気は暗いが、悲惨ではないので、同じ方向性の人たちが集まってきている。

なお、話を聞く限りでは、スタンピード時、グレイシア様は自分の担当陣地で防衛に徹していたようだ。

「この肉美味いな。何の肉だ?」

「ボア系統の何かじゃね? 数だけは沢山あるんだわ」

「ウォークウィークウィードの炒め物、上がったよ!」

「げぇっ!? あの魔物が居たのかよ!? こりゃあ、暫くは大変だぞ……」

食事に目を向ければ、パンや酒の類よりも、肉と野菜を調理したものが多いようだった。

どうやら、スタンピードで現れ、狩られた魔物たちが早速供されているらしい。

動物系の魔物にしろ、植物系の魔物にしろ、陸生の魔物ばかりなのは……海の方は海坊主が現れて、その攻撃で水生の魔物たちが飲まれてしまったからだろう。

とりあえず、ワタシとヘルムス様は適当に食事を受け取って、空いている席に腰掛ける。

『石抱きの魔術師』様とサキさんはいつの間にか何処かへ行ってしまったようだった。

「うーん。余裕があるうちに、自分が食べる分くらいの魚系の魔物は確保しておくべきだったかもしれませんね」

「おや、ミーメ嬢は海の魔物が食べたかったのですか?」

魔力たっぷりの肉を飲み込みつつ、なんとなく呟いた言葉にヘルムス様が応じてくれる。

「そうですね。海の近くに折角来たのですから、海の近くでないと食べられないものを、魔物か、魔物でないかに関わらず、食べてみたかったです」

前世知識には海や海で採れる物についての知識は当然含まれている。

けれど、今世でそれらは体験したことがないものであるし、そもそも前世と今世は別の世界なので、一致しない事の方が多い知識になるはず。

そう言う意味でも、味わってみたい物ではあった。

今の領都でそんな無茶が出来るはずないのだけど。

「そうでしたか。では、トレガレー公爵領に赴いた時には、そちらの方向でおもてなしさせていただきましょう。きっとミーメ嬢が気に入る料理もあるはずです」

「それは……楽しみですね」

「ええ、期待していてください」

ヘルムス様の言葉にワタシは思い出す。

今回の作戦が終わったならば、ワタシはヘルムス様に連れられてトレガレー公爵領に赴く事になっているのを。

不安がないわけではないが、それと同じくらいに期待……でいいのだろうか?

いや、もうちょっと軽くて明るい感じ……ワクワクしていると言った方が正しいかもしれない。

何が待っているのか分からないと言うのは、それだけで楽しみだ。

「ヘルムス様」

「なんでしょうかミーメ嬢」

「その、料理もですが、他の事についても教えてくださいね」

「勿論です。ミーメ嬢がトレガレー公爵領の事も好きになってくれるように、誠心誠意教えさせていただきます」

「はい。お願いします」

きっとその中には……いや、今は止めておこう。

「しかし、今回の作戦は大変でしたね。ミーメ嬢」

「それは……本当にそうでしたね。まさか、スケクロと言う自律稼働するレリックまであるとは思いませんでした」

ヘルムス様が天を仰ぐ。

気が付けば空には夜空が広がっていて、星々が輝いている。

昨日は……うん、天幕の内側しか見ていない。スケクロと戦い、逃げ帰った直後だったので。

「ええ、あの時は本当に肝を冷やしました。あの時はミーメ嬢を心配させないためにも言いませんでしたが、ミーメ嬢を失うことになるのではないかと、不安で胸が張り裂けそうなくらいでした」

「……。全く気が付きませんでした」

「気が付かれないようにしましたから。本当に、ミーメ嬢が無事でよかったです」

「ご心配をおかけしてすみませんでした」

ワタシは改めて頭を下げる。

そうするべきだと思ったから。

「ヘルムス様。今回のような事はまた起きると思いますか?」

「そうですね……。私が把握している限りでは、これほど大規模……領地一つ制圧しなければいけないような事件は、少なくとも向こう数年は起きないと思います。起こせるような人間も組織も覚えがありませんから」

「なるほど」

「あり得るとしたら、それこそ何処かの魔境で大規模なスタンピードが起きるか、今回のようにレリックを見つけた人間が現れるか、第二属性を得た人間が暴れ回る……それくらいでしょうか? いずれも現状では兆候すらありませんし、私たちが気にする必要はないでしょう」

「ふむふむ」

とりあえず、今回のような大規模な人同士の戦いが起きる心配はもうしなくていいようだ。

それは良い事だと思う。

だってこの世界、本当なら、人相手に戦っている余裕なんて無いはずなのだから。

人同士の戦いは面倒事も多いし、それが少なくなるに越したことはない。

「なので、そう言う面から見ても私とミーメ嬢がトレガレー公爵領に向かうにはちょうど良い時機と言えます。そうですね。ちょっとした長期休暇のような物になるかもしれません」

「それは素敵ですね」

長期休暇か……。

思えば、宮廷魔術師になってから、それほど大きな休みは初めての事かもしれない。

それから、ワタシとヘルムス様は色々な話をした。

トレガレー公爵領で何をするのか、どういう道程で向かうのか、お土産として何を持っていくのか、向こうからどのような連絡が来ているのか。

ワタシの希望も、ヘルムス様が考えている事も、どちらも話をした。

そうして話を続けている内に、夜は更けていき、宴の空気も終わりに近づいていく。

「ミーメ嬢。今回の件でミーメ嬢は大変頑張られました。ですので、トレガレー公爵領で大いに楽しんでください。それが私の望みです」

「はい。ヘルムス様もゆっくりと羽を伸ばしてくださいね。折角の故郷なのですから」

「ええ、勿論です」

ヘルムス様とワタシが次に向かう地はトレガレー公爵領。

ワタシたちは手を重ね合って、公爵領に着いた後の事について思いを馳せたのだった。

そんなワタシたちを祝福するように、沢山の人の笑い声が領都に響いた。