軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

162:侯爵捕縛作戦の後始末 後編

「先に断っておくけれど。この先の話には吾輩の推測も大いに入り混じり、確定した物ではない。最終決定を為されるのは陛下だからね。言いふらすのも無しだ。下手な事をすれば、言いふらした者が処分されることだってある。気を付けるように」

「分かりました」

「当然の事ですね」

宮廷魔術師長様の言葉にワタシたちは揃って頷く。

とりあえず、この先の話は取り扱い要注意と言う認識はしておこう。

「まず、当然の事として、イストフィフス侯爵家は断絶となり、侯爵領は廃されることになる」

宮廷魔術師長様の話は、本当に当然の事から始まった。

まあ、侯爵領内で収まる事を除いてもなお、王家への反乱に王国の乗っ取りを試みたのだから、ここについては他の処分などあり得ないのだろう。

「しかし、領地を廃すると言っても、この地に生きる人々がいる以上、統治者は必須。と言うわけで、ある程度落ち着いたところで陛下と宰相閣下を中心にして新たな統治者を選び出し、その者を領主として、新たな辺境伯領か伯爵領か……まあ、そんな形での再起になるかな」

「文官や騎士も王城や周囲の領地から加えられる事になりますか?」

「なるだろうね。今回の件で居なくなる人間の穴は誰かが埋めなければいけないわけだし。まあ、統治周りは吾輩たちの仕事ではないから、陛下たちにお任せだね」

イストフィフス侯爵領改め……と言う形になるらしい。

ここで前世知識にあるように周囲の領地に統治を任せたり、領地の境界線を引き直したりしないのは、魔物や魔境の事を考えた際に、面倒な事になるのが見えているからなのだろう。

誰が選ばれるのかは分からないが、頑張って欲しい。

「次に。侯爵家断絶ではあるけれども、個人個人の処分については、個人個人の功罪や事情を見ての事になる」

宮廷魔術師長様の言葉に当人である『石抱きの魔術師』様とサキさんが僅かにだが反応を見せる。

「例えばオルッカ君。彼は侯爵の次男であり、次期侯爵とされ、侯爵の犯罪にも深く関わっていた。だが、彼が大きな反抗が出来ない状況にあった事は明らかであったし、彼の働きによって密かに逃がされた人間も多い。今回の作戦でも、彼の働きは大きかった」

「そうですね。オルッカ殿の情報が無ければ、これほど円滑に作戦が進む事は無かったでしょう」

「だな。と言うか、弟はクソ親父に散々苦しめられた人間の一人なんだ。多少は報われないとやってられねえよ」

「吾輩もその辺は同感だね。と言うわけで、オルッカ君については、爵位を男爵位辺りに落とし、監視役も付けた上で、新領主付きの助言役辺りになるんじゃないかな」

「「ほっ……」」

『石抱きの魔術師』様とサキさんが安心した様子を見せる。

どうやらオルッカ様は事実上の無罪放免になるらしい。

陛下の前で見せた姿を思えば、そうおかしな事では無いと思う。

「逆に侯爵の妹については……。まあ、時機を見て毒杯かなぁ」

「まあ、あのオバハンはそう言う処分になるよなぁ」

「そうですね。そうなって当然でしょう」

『石抱きの魔術師』様とサキさんの顔が、何とも言えない表情に変わる。

毒杯=死なのだけど、それが甥、姪に妥当と判断されるくらいの事はしていたらしい。

「さてライオット君」

「っ!? はい」

「君の場合、侯爵の捕縛には積極的に協力した。けれど、王都での『ブラックハート』の件では、こちらの邪魔をした。そんなわけで、減給一年、反省文、その他細かい懲戒も覚悟しておくように」

「うっ……はい……」

「当然の措置ですね。自分の立場と言うものを考えずにサキ嬢の味方をするからです」

「あの時サキの味方をしたことに対する後悔なら全くないが?」

反省した様子の『石抱きの魔術師』様にヘルムス様が一言述べるが、それに対する『石抱きの魔術師』様の反応はキリッとしか言いようが無いようなものだった。

うん、反省をしていないと言うか、反省をしても、同じような状況ならまたやりますと言っているようなものだと思う。

その反応には、むしろサキさんの方が困った様子を見せているくらだった。

「コホン。問題はサキ君だね」

「そうですね。我が事ながら、許されない事も含めて、色々とやってきた自覚はありますので」

「本当にね」

宮廷魔術師長様がサキさんの罪状を述べていく。

『ブラックハート』所属の魔術師に魔術を教えた件、『聖アンザンシ教会』に収められていた呪物を横領した件、そもそも『ブラックハート』がサキさん主導で作られている件、侯爵の王族暗殺指示を『ブラックハート』に伝えた件、『聖アンザンシ教会』に所属する人間を洗脳した件、トレイタルを侯爵領まで逃がした件。

単純な殺人、傷害、暴行、不法侵入、窃盗、詐欺なども確認。

侯爵捕縛に当たっては領都の人間を魔術で誘導する事で王城側の味方にしているが、これだって洗脳の一種であり、許していいか怪しいラインの行為となる。

つまり、個人でも組織でもヤバいし、魔術周りでも魔術関係なしでもヤバい。

あまりにも色々と並ぶものだから、ワタシとヘルムス様は若干引いているくらいである。

何故か『石抱きの魔術師』様は流石は俺の義妹と言わんばかりの態度で頷いているが。

「流石にちょっとやり過ぎなんだよねぇ……。第二属性持ちの魔術師である事くらいじゃ、ちょっと相殺しきれない」

「そうですね。そうなると死罪でしょうか?」

「それが出来ないくらいには、君は功も上げている。だからこそ厄介なんだけどねぇ」

実際、サキさんは功績も多く上げている。

マッチポンプに近いが、『ブラックハート』の件ではこちらに情報を渡してくれている。

オルッカ様が王城まで来られたのもサキさんの誘導あってこそ。

領都のスムーズな制圧については言わずもがな。

海坊主との戦いでの助力もある。

うん、確かにこれだけの功績があり、本人の性格も所構わず暴れ回るようなものではないとなると、死罪には出来ないと思う。

功績さえ上げれば許されると言う悪例になりかねないけれど、それでも為政者としては、何とかして有効活用できないかと道を探す方が妥当だろう。

「吾輩としては、王都での軟禁。必要な時だけ監視付きで働いてもらう。と言う所に落ち着くんじゃないかなぁ。どう思う? ヘルムス君、ミーメ君」

「私としては妥当なところだと思います。ただ、接触させる人物については注意をするべきでしょう。これまでやってきた事を考えると、サキ嬢の信者にされかねない」

「ワタシも宮廷魔術師長様の意見に賛同です。陛下たちにもっと良い案があると言うのなら従いますが」

ヘルムス様とワタシが宮廷魔術師長様の言葉に賛同すると、サキさんよりも『石抱きの魔術師』様が嬉しそうにしている。

この場の空気が許すのなら、今すぐにでも一人で胴上げをしそうなぐらいの勢いだ。

本当に溺愛としか言いようがない。

なんなら、サキさんの方が恥ずかしそうにしているくらいである。

なお、『石抱きの魔術師』様のそんな行動に触発されたのか、ヘルムス様はいつの間にか私のすぐ隣……いつでも抱き寄せられるくらいの距離にまで来ている。

近いが……不快ではないので、スルーしておこう。

「寛大な処分、感謝いたします。宮廷魔術師長様」

「いやいや、感謝される謂れはないから。最初に言ったけれど、これはあくまでも吾輩の意見であり、現場の判断に過ぎない。どうなるかを決めるのは陛下だから」

「それでも、貴方様が寛大な気持ちを示されたことは事実ですから」

「そう? それならまあ、気持ちだけは貰っておくけどね」

なんとなくだが、サキさんの処世術を感じる。

実際の処分がどうなるかはまだ分からない。

ただ、宮廷魔術師長様ならば、陛下たちの判断にまったく影響を及ぼせない訳でもない。

そこまで理解した上で、サキさんは頭を下げているように思える。

「まあ、話はこんな所かな。と言うわけで、ヘルムス君たちは退出して構わないよ」

「分かりました。それでは失礼させていただきます」

これにて後始末について知る事は完了。

ワタシたちは揃って部屋を後にしたのだった。