作品タイトル不明
161:侯爵捕縛作戦の後始末 前編
「と言うわけです」
スケクロを眠らせた後。
ヘルムス様、ワタシ、『石抱きの魔術師』様、サキさんの四人で、侯爵家本邸近くにある貴族の屋敷に構えられた作戦本部を訪れた。
そして、ヘルムス様によって、スケクロの誘いを受けてから今に至るまでの経緯が語られた。
「なるほど。ご苦労だったね。ヘルムス君、ミーメ君、ライオット君、そしてサキ君。君たちのお陰で領都は壊滅せずに済んだようだ」
「いえ、ワタシたちはやるべき事をしただけですので」
「ミーメ君。こう言う賛辞は素直に受け取っておくべきだよ。他の人の為にもね」
「……。では、ありがたく受け取らせていただきます」
ワタシは宮廷魔術師長様に向かって少しだけ頭を下げる。
その後、宮廷魔術師長様と、この部屋に居る参謀や記録係と思しき方々から、細かい部分についても質問をされて、ワタシたちは淀みなく答えていく。
ただ、サキさんだけは……時々誤魔化しているようにも見えた。
そうして一通りの話が終わったところで、宮廷魔術師長が感想を溢し始めた。
「うん、あれだね。正式名称スケアクロウゴーレム・ナンバーエイト。愛称スケクロ君に対して、吾輩たちは何重にも感謝の言葉を述べなければいけなさそうだ」
「そうですね。スケクロの言葉は私たちグロリアブレイド王国にとって、非常に助かるものでした」
「それほどなのですか? 宮廷魔術師長様、ヘルムス様」
ワタシの言葉にワタシ以外の全員が頷いている。
どうやらスケクロの言葉にはワタシが想像している以上の、貴族的にはそう考えて当然なくらいの力があったらしい。
「ミーメ様。スケクロ様は聖アンザンシ様によって五百年以上前に作られたレリックです。それも自分で考え、行動出来る、人のようなレリックです。そして、とても分かり易い形で街をお救いくださいました。となれば、年数、人格、行動のいずれをとっても、敬虔なトリニア教徒にとっては、スケクロ様の言葉とトリニティアイの言葉の間にはそこまで差は無いと考えられます」
「ふむふむ」
「んで、スケクロはグロリアブレイド王国を認識していて、王国全体を祝福してくれただろ。アレを聞いていたら、一部の過激なトリニア教徒が言うような、『王国はトリニア教の裏切り者』『トリニア教徒は王国から独立するのがあるべき姿』なんて言葉は戯言以外の何物でもなくなるわけだ」
「あー……」
「そして、イストフィフス侯爵領。特に領都は敬虔なトリニア教徒が多い土地のはずですからね。スケクロの言葉の効きは他の土地の比ではありません。元より圧政からの解放と言う大義名分はありましたが、より王国にとって都合がいいように今後を進められるようになるはずです」
「なるほど」
サキさん、『石抱きの魔術師』様、ヘルムス様の言葉に、そう言う事ならばワタシとしては頷く他ない。
確かに今後行われるであろう王城側による調査、復興、改革のいずれもやり易くなりそうだ。
これほどまでにスケクロの言葉に力があるとワタシが認識できていないのは……まあ、ワタシ自身がトリニティアイで、自分の言葉にそこまでの力があると思えていないからか。
とりあえず、イストフィフス侯爵領を出るまでは、ワタシがトリニティアイであるとバレないように細心の注意を図ると共に、変なことを口走らないように気を付けておこう。
レリックであるスケクロの言葉にそれだけの力があるなら、ワタシの言葉がどれほどの力を持つか分かったものではない。
まあ、この辺についてはワタシの心の内に留めておくとして。
「宮廷魔術師長様。捕らえるべき相手の現状や、他の場所の状況はどうなのですか?」
「うん、確かに話しておくべきだろうね」
ワタシの言葉に宮廷魔術師長様は部下に指示を出して、様々なメモ書きが張られたコルクボードのような物をワタシたちの近くに寄せさせる。
その上で、宮廷魔術師長様は新たなメモ書きを自身の手で加えていく。
「まず、ミーメ君たちの目撃通りなら、イストフィフス侯爵ことタイラート・フォン・イストフィフスは死んだ」
イストフィフス侯爵は防御用のレリックを身に着けていたが、そのレリックは込められた魔力が切れるまで攻撃された事で無効化され、侯爵自身は海坊主に噛み砕かれた。
その後の海坊主や呪いの動きから考えても、アレで生きている可能性は無いだろう。
「侯爵の親友にして、トリニア教、グロリアブレイド王国方面長を務めていた男も死んだと考えていいだろう」
これはサキさんからの情報だが、海坊主が取り込んでいた船は侯爵領最後の大型船だったらしい。
あの船には領都内に居たトリニア教の上層部……侯爵と癒着し、不正な手段でその地位につき、私腹を肥やしていた連中が、持ち出せる限りの財宝と共に乗っていたはずとの事。
その船が海坊主に取り込まれ、海坊主の体内に新しめの人間の死体があった事も合わせて考えれば、彼らが死んだこともほぼ間違いないそうだ。
「侯爵の妹については捕縛された。優雅にお茶を飲んでいたが、吾輩たちを見た瞬間に喚き出して、非常にうるさかったよ」
侯爵の妹……言われてみれば、居て当然ではあったか。
凄いどうでもいい感じだけど。
「侯爵の妹の夫……ライアー・イストフィフスは死亡が確認されている。息子のトレイタル・イストフィフスも同様だね」
ライアーは凄い身勝手な流れで侯爵に処刑されたらしい。
トレイタルはヘルムス様が仕留めたんだったか。
ヘルムス様がニコニコ暗黒笑顔なので、深く問わないでおこう。
「その他、領都内に居るイストフィフス侯爵に自ら与し、様々な犯罪行為を行っていた連中についても概ね捕縛済みか殺害済みだ。ああ、此処にはミーメ君が仕留めた徴税部隊や、先ほどトレガレー公爵領からの早馬が伝えてくれた侯爵家の略奪船の討伐情報も含まれているよ」
「そうですか。父たちは無事に仕留めてくれたのですね」
宮廷魔術師長様は大雑把にメモ書きを指さす。
細かい罪状や、何処に居たか、あるいは仕留めたかと言う情報が記されているようだが……。
うん、あまりにも多い。
それはつまり、それだけ侯爵が手広く犯罪行為に関わっていた。と言う事になり、今回仕留められてよかったと言う話になるのだけど。
「最後にイストフィフス侯爵の妻、妾。オルッカ君の妻や娘。それから、様々な事情で以って侯爵に囚われていた人物。こちらは保護できた」
「ほっ……」
宮廷魔術師長様の言葉に『石抱きの魔術師』様は安心した様子を見せる。
ただ、宮廷魔術師長様が保護できたとは言っても、無事にとは言わなかった辺りに、ワタシとしては良くない物を感じる。
しかし、その辺りのケアは今頃ユフィール様が頑張っていると思うので、ワタシとしては祈るばかりである。
だからだろう。サキさんも反応らしい反応は見せていない。
「後は……そうだね。証拠の類については今現在、頑張って抑えているところではある。ただ、侯爵側の人間が個人的に持っていた証拠については流石に消されてしまっているだろうから、今後の調査は苦戦を強いられそうな気配が既にし始めているね。まあ、こちらについては、もう吾輩たちの仕事ではない。専門家たちが頑張るところだ」
宮廷魔術師長の言葉に何人かの文官や騎士と思しき人たちが苦笑いを浮かべている。
どうやら彼らが苦戦を強いられる専門家、その一部であるらしい。
けれど、やる気はあるようなので、無理をせず頑張っていただきたい。
「とまあ、こんなわけで。今回の作戦において吾輩たちが捕えなければならない相手は概ね捕らえる事に成功した。なので、吾輩含め、宮廷魔術師についてはもう数日滞在して治安維持活動に専念したならば、この地を去る事になるだろう」
「分かりました」
結論を言ってしまうのなら、作戦は成功した。と言う事になるようだ。
「それでワタシたちが帰った後はどうなるのですか?」
「そうだね。ミーメ君が気になるのなら、折角だし話しておこうか」
ただ、こう言う作戦は成功してそれでお終いではない。
だから、今後についても教えてもらうことにした。