軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

158:膿集いて海坊主

「「「……」」」

「「「ーーーーー!」」」

ヨモツシコメたちと魔物たちがぶつかり合う。

ヨモツシコメの斧が魔物を刻み、吹き飛ばし、叩き伏せる。

魔物の牙が、舌が、鋏がヨモツシコメたちを捉えては砕いていく。

だがどちらの数も減らず、戦線に穴が開く事もない。

ヨモツシコメは倒される度に新たに生み出されて、千体と言う数を保つために。

魔物たちは次から次へと海へと這い出てきて、補充されるために。

ある意味では不毛な戦いが繰り広げられていた。

「ーーーーー~~~~~!?」

「スケクロは……やっぱり問題なさそうですね」

一方で、岸から離れた海上では、スケクロが海上を自由に駆け抜けて、海の上にまで体を見せている魔物を次から次へと屠っている。

勿論、魔物たちもただやられるだけではなく、スケクロへの反撃を試みている。

だが、スケクロは巧みな動きで以って直撃は回避し、細かい攻撃は小さな障壁によって受け流し、海中に引きずり込まれる事だけ確実に回避しつつ、効率よく対処している。

「行け、『アクアボートバレット』。しかし、ミーメ嬢。スケクロには魔力の残量と言う懸念点があるはずですが、その点は大丈夫なのですか?」

「そこは……大丈夫だと信じるしかありませんね。スケクロの能力なら、撤退する場合にはワタシたちに声の一つくらいは掛けてくれるはずです」

ヘルムス様の杖の先から水の船が複数生じると、それぞれが空中を弾丸のように飛び始め、進路上に居る魔物たちを轢いていく。

どうやらヨモツシコメたちが相手をしている魔物たちよりも後方の魔物を中心に狙っているようで、その数を少しずつ減らしてくれている。

「帰れ。『ゴーホーム』!」

「「「……」」」

サキさんの魔術によって一部の魔物が前後不覚に陥った後、何故か海の方へと猛進していき、進路上にいた他の魔物を巻き込みながら海へと帰っていく。

恐らくだが、『精神』属性と『未明』属性の組み合わせた魔術で、相手の視界を一度暗闇に閉ざした後、海の方へ向かうように誘導しているのだと思う。

しかし、全ての魔物がサキさんの魔物の影響を受けるわけではないのだろう。

海藻型の魔物がサキさんに迫る。

「魔物風情が誰の義妹に手を出そうとしていやがるんだ! 潰れろ! 『プレスロック』!」

「「「ーーーーー~~~~~!?」」」

「助かります。義兄様」

「おうっ! その言葉だけで百人力だ!」

だが、いつの間にかやって来ていた『石抱きの魔術師』様が魔術を行使。

サキさんに迫っていた海藻型の魔物は上からの圧力によってまとめて叩き潰されて、そのまま絶命する。

『石抱きの魔術師』様は『土』属性と『加重』属性だったはずなので、土にまつわる重い物の重量だけを再現したとかだろうか。

「簡易の物でいい! 壁だ! とにかく壁を作れ!」

「魔術師部隊用意! 撃てぇ!!」

「俺たちの街なんだ! 俺たちが守らないで誰が守る!」

「折角、馬鹿共から街を取り戻せそうだってのに、魔物にやられてたまるかよ!!」

領都の住民、魔術師、騎士、兵士と言った人たちもいつの間にか駆けつけてきている。

彼らは岸から少し離れた場所に家財道具や『土』属性の魔術でバリケードを築くと、そこで盾や槍を構えて魔物に応じたり、少し後ろから投射系の魔術による攻撃を雨のように降らしてくれている。

ワタシやヘルムス様のような圧倒的な戦力とは言わないが、海に面している場所全てが戦線となっている今の状況では、彼らの助力は非常に助かるものだった。

「このまま行けば、抑え込めますかね? ヘルムス様」

「……」

今はまだ居ないが、やがては侯爵家の本邸などで犯罪者たちを捕まえている宮廷魔術師長たちもやってくるはず。

ユフィール様本人ではなく部下の方のようだが、治療魔術持ちの魔術師たちも少しずつやってきている。

時々、人の返り血を浴びた人も参戦しているのはちょっと怖いところだが、動きからして味方っぽいので、そちらはスルー。

なんにしても戦線は安定しつつある。

そう思って私はヘルムス様に問いかけたのだが……ヘルムス様は何かを訝しむような顔をしている。

「ヘルムス様?」

「ミーメ嬢。おかしな事になっています」

「おかしな事、と言うと?」

「イストフィフス侯爵の捕縛に当たってスタンピードが起きる可能性を王城の者たちは把握していました。なので、スタンピードに際してどのような魔物が襲い掛かって来るのか、どうやって対処するのかについても、事前に検討をしていました」

「……」

「その検討に挙がっていた魔物が欠けています。それも確実に居るとされていた魔物が居ません。何かが起きています」

ヘルムス様の言葉を聞いて、ワタシは改めてスタンピードによって押し寄せてきている魔物たちを見る。

魚、蟹、海老、海藻、海蛇……ワタシが見た限りでは、一通りの魔物が揃っているように思えるのだが、いったい何が居ないと言うのだろうか?

「ヘルムス様。それは一体どんな魔物ですか?」

「悪霊系統の魔物です。体を有していないものもですが、体を有しているものも見当たりません。一体たりともです。侯爵領で行われていた事を考えれば、これは異常な事に他なりません」

ヘルムス様によれば。

イストフィフス侯爵は殺した人間の死体を海に捨てる傾向にあったらしい。

そうした死体は、侯爵に対する強い恨みを抱いていて、しかも正しい処置がされていない死体。

おまけに海中と言えども、街中と言う事で、魔物による死骸の損壊も起きていないはず。

なので、後は魔力さえ流れ込めば、ゴーストまたはゾンビと言った魔物になる可能性が非常に高いとの事だった。

「……。なるほど、確かにおかしいですね」

「ええ、おかしい事になっています。ミーメ嬢、何か気付く事はありませんか?」

であるのに、現実には人型の魔物は一体も居なかった。

何処まで行っても、前世知識にもあるような普通の海生生物の範疇に収まるシルエットしかない。

ヨモツシコメの視界をザッピングし、確認してみても、やはり見当たらない。

説明をされれば、本当に異常としか言いようのない状況だった。

「少し待ってください。意識してみます」

ワタシは意識を少しだけ切り替えて、呪いを認識できるようにしてみる。

人型の魔物の発生条件には呪いが関わっているはずなので、呪いを見れば何か分かると思っての事だ。

そして、ワタシは直ぐに異常に気付いた。

「……。海に向かって呪いが流れ込んでいる?」

いつの間にか、街中から呪いが湧き出し、その大半が海へと流れ込んでいた。

何故そんな事になっているのかとワタシは少し考えて……気づく。

スケクロは侯爵を海の方へと吹き飛ばしてしまった。

領都の住民たちは大なり小なり侯爵への恨みを募らせていた。

侯爵家の本邸には立派な守りがあったが、他には大した守りは無かった。

つまり、呪いが流れ込む先に居るのは……。

「っ!?」

「あれは……」

そこまでワタシが考えた時だった。

呪いの流れ込む先が移動を始める。

海底から海上へ、海上から上空へ、海面を盛り上げながら移動していく。

「海坊主?」

「『うみぼうず』と言うのはよく分かりませんが……普通の悪霊系の魔物で無い事は確かですね」

それは下顎を船にし、額から角のようにマストを生やした、他の部分が水で出来た上半身だけの巨人。

その口にはスケクロが使う障壁によく似た輝きを放つ球体が咥えられているのだが、球体を取り囲むように恐ろしいほどに濃い呪いが歯や舌となって球体を攻撃しているようだった。

「見えました。どうやら、あの球体の中にイストフィフス侯爵が居るようですね。表情などは窺えませんが、暴れているようには見えます」

「そうですか。いずれにせよ、もうどうにもなりませんね」

水で出来たレンズによって球体の中を確認したらしいヘルムス様の言葉によって、ワタシは侯爵の生存を諦めた。

単純に巨人……海坊主の居る場所が岸から遠く離れた場所だった。内包する魔力がドラゴンと同等かそれ以上で瞬時に対応できるような存在ではなかった。と言う事柄もあったが、それ以上に呪いがあまりにも濃くて、執念深くて、多少散らしたところで無駄なくらいには、手に負えない代物になっていたからだ。

「ヘルムス様」

「分かっています。一先ず足は準備しておきましょう」

海坊主が咥えている球体が強い輝きと共に割れる。

海坊主は何かを噛み砕き、咀嚼するような動きをし、それを飲み込む。

侯爵がどうなったかなど、考えるまでもない事だろう。

合わせて、呪いが海坊主に全て吸引されていく。

ワタシもヘルムス様も、悪霊の性質から、これから何が起きるかの予測は簡単に着いた。

「ーーーーー~~~~~!!」

「「「っ!?」」」

海坊主が叫ぶ。

その叫びは生きとし生けるもの全てを恨んでいるかのようで、聞いているだけでも身の毛がよだつものだった。

海坊主が睨む。

藍色の二つの瞳を輝かせ、周囲の水を自身の支配下へと置き、ワタシたちを睨みつける。

海坊主が進み始める。

体に触れた海蛇たちを体内に取り込んで細切れにしつつ、一人でも多くの人間を自分たちと同一の存在にするべく。

そう、これが悪霊の性質。

最初は恨みを抱いた相手を襲うが……恨みを抱いた相手が居なくなったのなら、次は生きている人間なら誰でもよくなる。

故に、悪霊は魔物なのだ。

「ーーーーー!!」

「なんて事を……」

「これは……参りましたね」

そして、海坊主が動き出すと共に、海坊主の魔力が染み込んだ海水が高潮となって街に押し寄せようとしていた。