軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

157:スタンピード

「……。幾ら何でも急すぎませんか?」

スタンピードとは、簡単に言ってしまえば、魔境から大量の魔物が溢れ出てくる現象の事を指す。

この世界で生きる人間にとっては最も恐るべき事態であり、街一つどころか、領地一つ消えてなくなることも十分にあり得る災害。

それが今、ワタシたちが居るこの領都を囲むような形で起き始めているらしい。

『確かに急ではあるんだが、起きちまった以上は仕方がない。とりあえず陣地から出るのはもう無理だ。備えていたから耐える事は出来るはずだが、そっちの救援にも迎えない。もう数分ほどで森から出てきた魔物は領都に到達するから、何とか頑張ってくれ』

起きる事自体は想定の範疇内ではある。

スケクロがこうして起動していると言う事は、城壁内に埋め込まれた魔物除けのカカシが壊されたと言う事で、しかも先ほどの感覚からして全ての魔物除けが壊された。

どういう仕組みの魔物除けだったのかは分からないが、魔物視点からしてみれば、今の領都は唐突に現れたヌシの居ない魔境のようなものなので、襲い掛かってくる事は分かる。

だが、あまりにも動きが早いと言うか、備えていたようにしか思えないと言うか……。

「昨日の城壁破壊の時点で既に集まり始めていた。と言う事ですか」

「加えて、戦闘で出た血の匂いもありますので、そちらでも惹かれたのでしょう」

「考えてみれば、ヘルムス様とサキさんの言う通りでしたね……」

いや、全然おかしくなかったわ。

備えるだけの理由がちゃんとあったわ。

じゃあ、魔物視点では昨日のそれがヌシの受けた致命傷で、今日になって死んだから、一斉に襲い掛かりましょうになるから、スタンピードが起きるのは当然だったわ。

「当機が推察するに、陸地側は城門を閉め、破損した城壁を修繕すレバ、後はとりにてぃあいが居なくても対処可能デス。ですが、海側はそうではありまセン」

スケクロが話に割り込み始めてくると共に、海の方を指さす。

その言葉と動作でワタシも、ヘルムス様も、サキさんもスケクロが言いたい事は理解できた。

「まずいですね。トレガレー公爵領と同じなら、港の防備はそこまでではないかと」

「父の事ですから、そちらへの予算も確実に減らしていますね」

当然と言えば当然の事であるが、海側には立派な城壁など存在しない。

一応、海底を規則的に隆起させて、人工の岩礁のような物を作る事で、船よりも大きい超大型の魔物が港湾内へと入り込まないようにする。

魔物除けを設置して近づかせないようにする。

定期的に港湾内の魔物を掃討する事で安全を確保する。

と言った方法で普段は魔物対策を講じているようだが、現状では最初の対策以外は効果を発揮していない事だろう。

つまり、数は分からないが、海からは何ものにも阻まれずに、大量の魔物が領都に向かって押し寄せつつあると考えていい。

「ご理解いただけたでしょウカ? みーめ・あんかーず。街を守るため、当機と共に海側の防衛を手伝っていただけますでしょウカ?」

『宮廷魔術師長からの許可は取った。『闇軍』の好きにしてくれ』

「……。協力させていただきます。ヘルムス様。ヘルムス様も移動用闇人間に乗ってください」

「分かりました」

スケクロの役目は領都を守るため。

そして、スケクロの知性は自分一人では守り切れないと判断した。

だから、ワタシを援護として求めた。

こういう流れだろう。

うん、許可も貰えているのなら、断る理由なんて何もない。

ワタシはヘルムス様も移動用闇人間に乗せると、スケクロの後を追う形で移動用闇人間を走らせ始める。

『ところでスケクロだったか。俺は『風鳩の魔術師』ドバート・レーデンと言うんだが、状況確認のために貴方に幾つか確認したい事がある。構わないか?』

「構いまセン。当機からも尋ねたい事がございます。よろしいデスカ?」

『話せる範囲でなら』

そうして移動する中、ドバート様とスケクロが情報の交換を始めたのを、ワタシの闇人間の耳が捉える。

『貴方の起動条件は魔物除けのカカシの破壊と聞いている。そしてこの状況。魔物除けのカカシが壊されたのは分かるが、どうして壊された?』

「この街の領主を名乗る男。侯爵が魔術師に命じまシタ。当機を稼働させる方法を見つけ出せ、ト。しかし、彼らの知識と技量では、魔物除けのカカシを壊す事しか出来ませんでシタ」

『それで魔術師たちを殺し、侯爵を殺した?』

「魔術師たちは殺しました。ですが、侯爵は殺せていまセン。主の魔道具を身に付けていたようで、海の方へと吹き飛ばしてしまいまシタ」

えーと、主の魔道具と言うのは、あの防御用のレリックの事だろうか。

スケクロの作り手の属性は攻撃よりも防御に向いた物だと思うので、同程度の魔力を込めたものがぶつかり合うと防御側が勝ってしまうのだろう。

しかし、海か……。

もしも侯爵が海に落下したのなら、今頃は魔物に取り囲まれて、防御用レリックの魔力が尽きるまで弄ばれていそうだ。

まあ、そうなっていても侯爵の所業を考えると、自業自得と言う感想しか出てこないのだけど。

『サキ・イストフィフス……そちらに同行している女性は良いのか? 状況の捉え方によっては、彼女もまた現状の原因と言える』

「構いません。彼女の言葉と魔術によって侯爵の異常性が増したのは当機も認識していまスガ、彼女の言動を鑑みるに、元より異常だったのは侯爵です。侯爵の排除は街を守るために必須でスガ、彼女の排除は必須ではありませン」

『なるほど』

んー? サキさんと侯爵の間に何かがあって、それをスケクロの前でしていたと言う事だろうか?

でもそれを何故ドバートさんが知っているのだろう?

いや、ドバートさんがもっと別の意図で質問をしたけれど、スケクロがわざと取り違えた可能性もありそうか。

なんにせよ、今は戦力が少しでも欲しいので、スケクロがサキさんを攻撃しないと確約してくれるのは助かる。

「当機からも質問です。海の状況と海から出て来る魔物の種類をお願いしマス」

『あー、魔物についてはそちらの記憶と名称が一致するとは限らないから、数が多い順に外見的特徴を述べさせてもらう。状況については、上から見た限りでは……』

ドバートさん曰く。

先ほどから少しずつだが、海から陸上へと魔物が這い上がり始め、運悪く遭遇してしまった兵士や漁師を襲い始めている模様。

種類としては、海から飛び出してきても、魔術を使う事によって短時間なら陸上での活動が出来る魚が一番多い。

次に多いのがオコゼのような外見で舌を伸ばして攻撃してくる魚で、こちらは海へと引きずり込もうとしてくるようだ。

それから歩く海藻、大きな蟹やら海老やらが居て、大物としては海上に3メートルほど首を出している海蛇が十体前後居るようだ。

後、沖合の方で海が妙な飛沫を上げているとの事で、人工岩礁に阻まれて近づけない何かが、もしかしたら居るのかもしれないそうだ。

「みーめ・あんかーず。話は聞いていますね? 当機はシーサーペントを優先して撃破します。他の魔物はお願いします」

「っ!? 分かりました」

スケクロの言葉にワタシは驚いて、移動用闇人間の制御を一瞬誤りそうになってしまった。

スケクロは本当に賢いゴーレムである。

まさか、ワタシの盗み聞きに気づいていたとは。

だが、頼みごとについては、確かにワタシがやった方がよさそうな事柄だ。

だからワタシは詠唱を開始し、海が見えてくると同時にそれを放つ。

「来い。『 わたしのぐんぜい(ヨモツシコメ) 』」

「素晴らしい魔術デス。これなら当機も後顧の憂いなく戦えるでしョウ」

スケクロと共に千体の闇人間が飛び出していく。

闇人間たちは近くに居る魔物に向かって襲い掛かり、手にした斧で片っ端から屠っていく。

魔物に襲われている人を助けて、態勢を整えるだけの時間を稼ぐ。

海岸線がそのまま戦線へと変わっていく。

スケクロに至っては壁を作り出す魔術の応用なのか、海蛇型の魔物目掛けて、海の上を駆けていき、そのまま一体の身体を切り刻んでいる。

あちらの心配は要らないだろう。

「サキさん。緊急事態なので、移動用闇人間は外して、代わりにワタシの耳目代わりの闇人間を付けます。そして、魔物への対処を」

「分かりました」

サキさんは頭の上に小型の闇人間を乗せた状態で近くの魔物から順番に何かしらの魔術をかけていく。

「ヘルムス様」

「ご安心を。私の役目は分かっています。『フォールオブアクアガレオン』」

ヘルムス様は事前に準備していたらしい巨大な水の船を、魔物しか居ない場所に落として、複数体の魔物を一気に押し潰す。

「では、街を守るためにも頑張って戦いましょうか」

「ええそうですね」

こうしてワタシたちのスタンピードへの対処が始まった。