軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

桜の国チェリンと七聖剣【百六十五】

無限に溢れ出す闇を刀身に凝縮させ、それを一気に拡散させた。

その瞬間、

「こ、の……化物が……ッ!」

とてつもない『破壊』が吹き荒れた。

黒い閃光は縦横無尽にほとばしり、ありとあらゆるものを塗り潰していく。

空間は捻じ曲がり、大気は 唸(うね) りをあげ、大地には巨大な亀裂が走る。

それはまさに『天災』の如き一撃だ。

「―― 円環(えんかん) の 白鯨(しろくじら) ッ!」

フォンは同時に三枚の巨大な盾を展開し、最後の足掻きを見せた。

「ほぉ゛、おもしれじゃねぇか。まさかまだそれだけの余力を残していたとはなぁ゛!」

「頼む、持ってくれ……。私はまだ、こんなところで死ぬわけにはいかないんだ……っ」

奴は膨大な霊力を注ぎ込み、円環の白鯨を必死に強化し続ける。

だが――『無限の闇』と『有限の霊力』、その差はあまりにも歴然だった。

「おぃおぃ、ご自慢の防御力はどうした? まさか、もうへばったわけじゃねぇよなぁ゛?」

「く、そ……ッ」

純白の盾はどす黒く染められ、一枚また一枚と崩壊し――残すところ最後の一枚となった。

(……あぁ、これでようやく終わりだ)

この一撃が刺されば、フォンとディールはこの世から消える。

それは文字通り、完全で完璧な『消滅』。

奴等の肉体は、ほんのわずかな肉片さえ残らないだろう。

そうして復讐を果たした俺は、無茶な力を行使した代償に命を落とす。

これで本当に……本当に全てが終わるんだ。

「ぎゃはははは……ッ! ディールもろとも消し飛びやがれぇええええ!」

俺はありったけの闇を黒剣に載せ、最高火力の一撃を解き放つ。

「こ、ここまで……か……っ」

最後の盾に大きな亀裂が入ったそのとき、

「……あぁ゛?」

突如、魂の奥底から神聖な闇が溢れ出し――それは何故か、俺の体を強引に締めあげていった。

「なん、だよ……これは……ッ!?」

巨大な岩石が『道』を塞ぐようにして、ゼオンとの接続が閉ざされていく。

黒剣と鎧は光の粒子となって霧散し、そして――無限にも思えた闇の力が消えてしまった。

「いったい、何が……?」

呆然とする俺に対して、

「はぁはぁ、助かった……。『ロードル家の封印』が、ようやく起動したか……」

何やら訳知り顔のフォンは、ゆっくりと息を整えていく。

「見事だったぞ、アレン=ロードル。悔しいが……単純な実力勝負ならば貴様の勝ちだ。まさか元皇帝直属の四騎士と現職の七聖剣をたった一人で圧倒するとはな……。胸を張って、あの世へ行くがいい」

既に勝利を確信した奴は、残った右腕に砂剣を生み出し――それを天高く掲げた。

「く、そ……っ」

俺は体の各所へ命令を送り、なんとかその一撃を回避しようとする。

しかし、両の脚は泥のように重く、まともに言うことを聞いてくれなかった。

「――さらばだ」

冷ややかな声と鋭い風切り音が響いたその瞬間、

「桜華一刀流―― 桜閃(おうせん) ッ!」

まるで閃光のような突きが、俺の背後から飛び出した。

「ッ!? ―― 盾鯨(たてくじら) !」

フォンは咄嗟の判断で小さな盾を展開し、突然の斬撃を紙一重で防ぐ。

「バッカス……ッ。この死にぞこないめ、まだ動けたのか!?」

「若造が、昔の剣士を舐めるでないわ……!」

彼は素早い足捌きで反転し、強烈な横蹴りを放つ。

「がふっ!?」

それは正確にフォンの脇腹を捉え、奴は遥か後方へ吹き飛ばされた。

「はぁはぁ……ぅ゛!? がふ、げほがは……っ」

バッカスさんは大きな血の塊を吐き出し、その場に片膝を突いた。

瞳孔の開きかかったその目に光はなく、土色の顔には死相が浮かんでいる。

とてもじゃないが、まともに剣を振れる状態ではなさそうだ。

「ば、バッカスさん……」

「はぁはぁ……。小僧、よくぞ時間を稼いでくれた。おかげなんとか間に合ったわい……っ」

「……間に合っ……た?」

一瞬、彼が何を言っているのか理解できなかった。

「ばら、ららら……! 何を呆けた顔をしておるんじゃ……。まさか、儂の二つ名を忘れたとは言わせんぞ?」

バッカス=バレンシア、かつて世界最強の剣士とまで呼ばれた男。

その二つ名は――『不死身のバッカス』。

「ま、まさか……!?」

もし彼の誇る『無敵の魂装』が、その二つ名を象徴するような能力だったならば――。

もしもそれが、他人に付与できる性質のものだったとするならば――。

(もしかして……っ)

とある(・・・) 可能性(・・・) に行き着いた俺の心に、絶望に侵された心に、じんわりと温かいものが流れ出す。

「儂の魂装< 億年桜(おくねんざくら) >――有する能力は『完全再生』。まぁ百聞は一見に如かず、というやつじゃな」

バッカスさんは生気のない笑みを浮かべ、後ろにクイと顎を向けた。