軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

627話:テリーの派兵2

早朝にハリオラータからの呼び出しがあってから、屋敷に戻った僕は、錬金術部屋で伝声装置を調整していた。

繋げる先は、東の派兵に行ってるテリーだ。

できれば弟との連絡は、楽しいものであってほしかった。

けど危険が迫っているというなら、知らせず危険にさらすなんて選択肢はない。

「繋がらなかったら夕方にまた…………あ!」

約束もしてないし、テリーは戦地に向けての移動中。

だから希望薄だと思っていた。

けどまさかの応答に、僕は声を撥ねさせる。

すぐさま音に耳を傾けた僕は、さらに予想外の内容に目を瞠った。

「あ、テオだ」

返答してきたのは元宮中警護の騎士でテリーがテオと親しく呼ぶ相手。

テリーに信任されての騎士抜擢だし、この伝声装置のことも話してるのを聞いてた人物。

だから伝声装置の応答を、テリーに任されておかしくはない。

「あんまり役持ちにはならんタイプだが。そんなに身分あるようには見えなかったな」

「確か貴族だから、音はわかるのだろうな。その上でアーシャ殿下のこともわかっている」

遠回しに暇なのかなって言うヘルコフに、イクトは話を通せる状況だって答え。

ただそういうイクトも貴族なんだけど、ここで言うのは生まれながらの貴族で、音を耳で聞いてわかる程度には教養があるってことだろう。

僕はテオに打ち返しつつ、イクトに聞いてみた。

「そう言われると、弟たちの周りには、誰か貴族以外がいるように聞こえるけど?」

「左翼棟に同行する第三皇子殿下の宮中警護が、騎士家の出身者ですので、貴族籍は持ちません」

ワーネルの一番若い宮中警護か。

けど上品というか、知的な感じだったし、無教養ではないんだろう。

騎士と言ってもそれなりに裕福な家で、教育もしっかりしていたのかもしれない。

なんにしてもあまり貴族的な繋がりのない生まれなのは想像できた。

だから他の宮中警護が嫌がる左翼棟への同行をさせられていたんだろうし。

「ん、ユグザールは連絡係を命じられた? イクトから扱いを教えられたりしたのかな?」

念のためにどうしてユグザールか連絡を受けたのか聞いたら、いつでも受けられるよう連絡係をテリーに命じられて待機してたそうだ。

ただ今応答したのは偶然で、点検のためにいたそうだ。

今日は昼からの出発の予定だったからと。

元同僚のイクトは、ユグザールに教えたことを肯定した。

「機会があり、幾度か。皇子方にお教えする際にも同席しましたので、使用可能であることに不思議はないかと」

「じゃあ、音がずいぶん硬くて性急な感じなのは?」

こうして音でやり取るすること続けてると、なんとなく相手の気持ちが伝わる。

ユグザールからはすごく焦ったような雰囲気がある音が返ってた。

急な連絡だったけど、イクトのことだから何か圧でもかけたんじゃないかとちょっと疑ってる。

「皆目見当も。気にされるのであれば嘘偽りなく答えるようお命じになられては?」

「あちらさんとしては、殿下がご連絡なさる時には何かあるって経験からかもしれませんよ?」

ヘルコフにそう言われると、否定もできない。

そもそも用がないと僕のほうから軽々しく近寄れもしない。

それなのに露見の危機も顧みず連絡するのは、それだけ火球の用件なのもわかってると。

二人の勧めもあって、僕はそのまま、焦ってる様子が窺えることを伝えた。

途端に返って来た理由は、ヘルコフが当たりだったよ。

「僕からの連絡って、だいたい危険が迫ってるからだって」

二人とも苦笑いで、否定できないって雰囲気。

というか、そういう時確かに巻き込まれぎみなテオだ。

そうか、焦ってたのは経験則かぁ。

「間違ってはいないね」

言って、僕はテリーの誘拐が計画されてることを伝える。

もちろん情報源は聞かれたから、探っていた犯罪者組織ってことにしてぼかす。

いや、ぼかせてるかなこれ?

まぁ、いいか。

必要なのはテリーに危険が迫っていて、守ってほしいってことなんだから。

戻るテオからの音は随分ぎこちない。

それはヘルコフやイクトにも聞こえたようで、反応した。

「どうしたんです? また距離での不調ですか?」

「まるで音が飛んだような様子ですが」

「いや、内容はちゃんと文章になってるから音の抜けはないよ。…………その、すごく動揺した様子で、なんで犯罪者なんて探ってそんな情報得られたんだっていう質問が来たね」

「「あぁ」」

その納得は、動揺するテオに対して?

それとも動揺を誘うような僕の行動に対して?

うん、今はいいか。

大した問題じゃない。

テリー誘拐なんて悪事を挫くほうがずっと重要だよね。

「あの、今なんて返したんです?」

「誤魔化すにしても短いような?」

僕が一人納得して返事をすると、ヘルコフとイクトがすぐに突っ込む。

「そのまま今は、テリー誘拐のほうが大事だから、余計なことに興味向けないでって」

だから詳しくはしないよってことを伝えた。

経験則があるなら、僕がテリーの安全第一なのもわかってるはずだ。

どんな情報源でも、その危機を無視しないことも。

実際に助けられた場面にもいたし、その辺りも加味して信用してほしいところ。

「それで、今は何を打ってるんですか?」

ヘルコフがテオの返事を待たずに続けて打つ僕に、疑うような目を向けた。

「え、ハリオラータから聞いた、投降兵で潜り込むとか、首謀者差し出して潜り込むとか」

そういう計画のことを伝えるのが、この連絡の目的だし。

テオも騎士としてテリーを主君にした人だ。

テリーの安全にかかわるなら、ちょっとした疑問なんて脇に置いてくれるはず。

レクサンデル大公国での襲撃の時も、テオは指示に従ってテリーを庇ってくれたし。

テリーを守ってくれる人としては、僕としても信頼できる相手だ。

実際、計画を聞いたテオは現実的な内容を打ち返してきた。

「どう動くべきかって質問が来たよ」

テオに合わせて、ヘルコフとイクトも切り替えてくれた。

「敵を入れない、近寄らせないが基本でしょうね」

「いつでも応戦と、退避の準備をすることではないかと」

経験豊富な二人の意見を送り、まだ固いテオの返答を待つ。

その間に、僕も思いついたことを二人に聞いてみた。

「シャーイーの本国と、東の兵乱が起きてる土地には開きがある。その上で、後方で問題が起きた。軍事的な計画には国レベルでずれが生じる事態だ。兵乱を煽ることも難しいはずだけど、誘拐を計画してる。だったら鉱山の件で即座に撤退はないと思ったほうがいい?」

推測を肯定されたから、僕は続けて現状で狙うべき落としどころを確認する。

「少しでも早く退いてもらうこと、相手の動揺を誘うこと、敵はシャーイーと見て、兵乱自体に不必要な攻撃は無用にして、損耗を避けること」

兵乱を正面から叩き潰すとなれば、余計な策も準備もいらない。

だってテリーが率いるのは、周辺最大規模の帝国軍だ。

けどそれだと犠牲は敵味方に必ず出るから、無駄な攻撃はしない方向で守りを固めてほしい。

そんな消極的な手で済むなら無駄な手回しはいらないと思ったけど、これも肯定してもらえた。

僕はヘルコフとイクトからの回答も含めて、ある程度テオにこちらの考えを打って伝える。

伝えつつ、僕はさらに推測交じりの疑問を側近に確認した。

「だったら、シャーイーとの供給線を探して断ち切れば、そこはすなわちテリーを攫っての逃げ道を塞ぐことにならない?」

「弟君狙うんじゃ、もっと別の確かな手段もあるかもしれませんが、なくはないでしょうな」

「しかし、シャーイーも供給線を押さえられていないと思うなら、使うこともあるでしょう」

否定しきれないし、やっぱり敵の足を潰すのは一つ有用な手段のようだ。

僕は頷きつつ、テオにもシャーイーが兵乱を支援する道を潰すべきだと言う考えを知らせる。

「うん、了解の返事が来た。これは、テリーの周りには優秀な人たち集められてるお蔭かな」

僕がテオからの返事を伝えると、ヘルコフは別の有用性を上げる。

「東の兵乱の裏にシャーイーの支援があるのは確かなんです。そこを断てれば、戦意の低下にも繋がり、兵乱も長くは続けられないでしょう」

イクトも賛同して、僕を見る。

「動かせる手が多くて悪いことはない。何よりアーシャ殿下の関与を表に出さないためにも、よい隠れ蓑かと」

「そういうつもりはないんだけど、まぁ、テオはそういう立場になるのか」

テオに情報源は言ってないし、僕と連絡できることは秘密。

だったら、テオは自分で発案して、シャーイーが噛んでるだろう供給線を見つけ出し、テリーのために戦うわけだ。

「うん、別に問題ないよね」

敵の供給を断つという名目で、シャーイーの経路を探って誘拐阻止とか、テリーの騎士として相応しい働きじゃないか。

王道の戦い方じゃないけど、テリーの安全のためならテオもやってくれるはずだ。