作品タイトル不明
628話:テリーの派兵3
ハリオラータから呼ばれた日の夜、僕は錬金術部屋で待機してた。
午後の授業に行ってる間に、テリーから折り返し連絡があったんだ。
夜にまた連絡すると。
「魔石…………さらなる、発展の可能性…………」
そんな待ち時間に、ウェアレルが机に両手をついて項垂れ呟いてる。
帰ってから、ハリオラータに呼び出されたことと、その後の結果を説明したんだ。
そしたらハリオラータよりも、なんかショックを受けてる。
「何がそんなに駄目? 塩で魔石の粒ができたのは見てたのに」
テリーから連絡あったら、向こうの状況を聞きつつ、こっちでもできる対策考えたい。
だから正気に戻ってもらうために、ウェアレルが何に拘ってるのかを聞いてみた。
するとヘルコフが、ウェアレルから聞いたらしい話をしてくれる。
「魔石作るってのは、魔法使いの最終目標的なものらしいですよ。極めるようなもんだとか」
「昔話の類では、狂った魔法使いが魔石を作ろうと数多の人々を生贄にしたというほどに血道をあげるものだとか」
イクトが怖い話持ち出すのは、それだけ真剣に取り組んでるって例かな?
一応そういう話は僕も読んだことがある。
帝室図書館にあった、色々な時代の大事件を集めた説話集だ。
その中に事実として、魔法使いが魔石を作ろうとする実験の中で、十数人の魔力を持つ人間を殺したというものがあった。
たぶん伝説だと脚色がされて、数多とか生贄っていう表現になったんだろう。
(…………魔石って宝石で、石で、無機物で、ミネラルって考えると、人間の組成でできないこともない? いや、さすがにそんな量取れないし、非効率な凶行か)
(可不可でのみ論じるならば、可能であると推測)
(ちょっと、セフィラ?)
(主人は塩から魔石が精製できた際の要因に、魔素を取り込む人間の体が魔力へと変換するためであるとの推察あり。正しいのであれば、人間の体を通すことで、魔素が扱える形になることが仮定されます。凶行と一概には言えません)
(凶行です。他人の命を危険にさらして反省もしないなんて絶対にダメ)
一回やって失敗を確認するなんて、実験の試行錯誤ではよくあること。
けど失敗したから次、なんて人の命を消費するのは間違ってるし、それは凶行として忌避すべき事柄だ。
そこは人道の問題で、やっちゃいけないラインなんだよ。
「あの、アーシャさま? お顔が厳しいですが、セフィラが何か?」
ウェアレルが気づいて聞いてくる。
僕は警告のためにも声にした。
「今聞いた、人を生贄に魔石を作るって話、具体的に考えようとするから止めた」
渋面で伝える僕に、ヘルコフも嫌そうな顔をして確認する。
「具体的にってそれ、可能だとセフィラが言ってるんですか?」
「主人の類推により、肉体の魔力を取り出す試行に意義があるものと判断しました」
セフィラが、僕が考えたからだって言っちゃったよ。
これは不安の目が僕に向けられる前に、危険思想はないってこと言っておかないと。
「セフィラ、それなら人間じゃなくていい。魔物だって、体内で魔力を作れる。ドラグーンなんてそのものだ」
僕が人間を実験に使う必要はないって言うと、イクトが思い出した様子で口を開く。
「昔、狩人の知り合いに、倒した魔物の血肉を好んで食らう者がいました」
「おいおい、まさかそれで魔力取り込むなんてこと宣わってたのか?」
何やら儀式めいた様子にヘルコフが顔を顰めると、イクトは首を横に振った。
「いや、ただの願掛けのようなものだな。特に益はないが、あえて生で血につけて食べていた。他がやると腹を壊すだけだったが」
詳しく聞いて、ウェアレルは溜め息を吐く。
「真似する者が出るほど、強くはあったんですね、その狩人は。…………伝説には、神の如き魔物の血を浴びて力を手にした英雄はいますが、実際にそうなったという記録は見たことがありません」
伝説ではあるとなると、血中に酸素のように魔素を取り込むって考えはあり?
それとも、鉄分とかビタミンの欠乏を補うだけで、魔力は関係ない?
…………うん、いや、これは考えないんだった。
人間はもちろんだけど、魔物相手にそんな血みどろの実験したいなんてセフィラが言い出したら僕が困る。
「アーシャさま、ご連絡が届いたようです」
ウェアレルに言われてみれば、伝声装置が点灯してた。
すぐに手を伸ばして応答を返すと、テリーが交信してることを告げる音がする。
「うん、テリーだ。まずはどれくらい話せるかを聞こうか」
僕は、音で判断するのに慣れない側近たちのために口にして、質問を送る。
すると返って来たのは一時間ほどとのこと。
どうやら東の兵乱が起きてる付近で、拠点にする町に着いたところらしい。
明日から、本格的に兵を動かすための会議や報告会の予定が組まれてると。
「うん、周りに常に人がいる状況で、あまり騎士と二人きりって状況も難しいらしいね。こうなると、たぶんルカイオス公爵のほうから僕が連絡手段持ってることを知らされてる人員がいるはずだから、それを探すべきかも」
ソティリオス誘拐の時にばれたし、その時にもルカイオス公爵周辺にも見られたし。
広めて利用されたり、僕が注目浴びたりすること嫌がって黙ってる状況だ。
けど使えるものを使えないままにしておくほど甘くもない。
テリーが僕と会ってるのも知ってるから、持ち込んでる可能性くらい考えるはず。
だったら知ってる人員をテリーの守りに配置する。
不測の事態に対処するためには、ルカイオス公爵がやらないわけがない。
それなら、テリーが使わない手もないないんだよね。
だって僕でなければルカイオス公爵は味方なんだから。
「うん、テリーも伝声装置について知ってる人を捜してみるって。着いてまだなんの情報もない。その状態で話し合うべきことは何かな?」
側近に聞きながら、僕は手でテリーの質問に答える。
もちろん誘拐計画についての質問だ。
情報源は隠しつつ、ハリオラータからもたらされた計画は漏らさず伝えた。
ちょっと調べてたって言うだけでも、テリーは気になる様子だな。
そこは兄だからこそ心配するし、何もできないからこそ知りえることは自分から集めないと、なんて煙に巻く。
その間に側近たちから意見が出た。
「アーシャさまのお知恵と情報は確かですが、現場にいることのほうが大切になります」
「そうですね。自分で考えること、警戒することを忘れちゃいけませんよ」
「まずは自らで安全確保を行うことが前提。その上で頼る時には全力で使い倒さなければ」
それぞれからの意見は、僕としても賛成だ。
テリーには当事者意識を持ってもらいたい。
そのために考えて行動に移し、安全をその手で掴む経験も必要だ。
そして警戒しつつ、使える人は使っていい。
そこにはもちろん僕も含まれるから、どんどん頼ってほしい。
「テリーには、頼れる者は頼りつつ、自分で解決する姿勢は決して崩さないよう忠告しよう」
言ったら、なんだか物言いたげな視線が刺さる。
見ると揃って苦言を呈された。
「アーシャさま、それはご自身にも当てはまることであるという自覚はおありですか?」
「セフィラいるのはわかってるんですがね、それでも俺らを頼ることもしてくださいよ」
「有用な者を使うことに反対はしませんが、犯罪者に親しみ過ぎるのは自重ください」
おっと、どうやらハリオラータへ勝手に取引持ちかけたことを実は心配されてたようだ。
これは、あの時いたヘルコフとイクトは内心慌ててたりする?
僕も咄嗟のことだったし、安全確保を怠ったのは申し訳ない。
「やっぱり魔石の作り方はやりすぎだと思う?」
「俺はありだと思いますが、ウェアレルの反応見ると隠し通す必要があるでしょう」
「釣れたからには有用と言えます。しかし、相手に主導権を渡しすぎるきらいがある」
ヘルコフとイクトから、具体的に駄目出しをされてしまった。
そこからさらに、魔法使いとしてのウェアレルがことを知った人間の反応を口にする。
「明らかに、過ぎた知識です。というか、魔法使いなら全財産でも足りずに、知り得る全ての関係者の秘密を売り渡しても欲するほどでしょう」
「え、そんな人生終了レベル?」
それだけやっても手に入れたい、その上で手に入れば人生捨てて、やり直しても大丈夫と思うレベルの知識って評価らしい。
魔法使いからするとそれほどか。
だからこそハリオラータのマギナもアルタも文句を言わずに従った。
何より、この知識ならクトルたちを説得できると判断したってことだ。
「あー、うーん、まぁ、教えたからってすぐに人工魔石が完成するわけじゃないし、たぶんそんなすぐには害はない、はずだよ」
ウェアレルの視線が痛くて、僕の語尾は弱くなる。
それはいずれ完成するってことだろうって、声に出さなくても訴えてるのがわかった。
うん、ハリオラータならやりかねないし、もう犯罪しないとなればきっと魔法の研究しかしないと思う。
そうなると、魔石づくりなんて国もバックアップしておかしくない話なんだ。
「できたとして、次は性能だ。天然の宝石に勝るわけじゃないんだし、まだ先の話だよ」
ルキウサリアの、ハリオラータへの待遇が変わりそうなことに今さら気づいちゃったな。
けど僕は言い訳して、テリーとの連絡に戻ったのだった。