作品タイトル不明
510話:皇子のお仕事5
翌日はまだマーケットには出られず、僕は朝から学園に行ったけど、先生への説明だけ。
昼を待たずにまた聞き取りという言い訳で王城に上がった。
そこでは昨日の内に渡した犯人からの聞き取り結果、さらに調べて関係者の洗い出し、ゴーレム関係の情報の調べ直し、あと、ジョーの作業場所の移転なんかの話し合いが目白押し。
全部事務的にやっても時間かかるのに、レーヴァンに言われて責任者の総入れ替えとかやめてもらったら、関係各所から謝罪と感謝の挨拶で時間を取られた。
皇子として動くのって、本当に面倒だ。
「結局その作業場所というのは、結局なぜそんな場所だったんだ?」
僕にそう聞くのは、控えてる部屋にやって来たソティリオスだ。
うん、ソティリオスはこの他国の王城で自由にできるっぽい。
権力ってすごいね。
まぁ、母親がルキウサリア王族なんだけど。
「半屋外に置いたのは、扱い慣れてない人ばかりでそこに据えちゃって、そのままだったそうだよ。ジョーも上の顔色は見るタイプだから言えなかったんじゃないかな。使えはしても、取り扱いはわからないだろうし」
一番の理由は、僕が大量のゴーレムを作るにあたって、核をひたすら作るよう言ったから時間がないってことだったんだろう。
ちょっと罪悪感あるから、ルキウサリア国王にはちゃんと屋内に、休憩場所も用意して作業させてほしいことは伝えた。
一度定着すると見直しが忙しさで後手に回るのは、前世の会社と同じだ。
今上手くいってるなら、今手を取られるほうを優先しようってね。
僕の勤め先もブラックではなかったけど、何処も最低限の人員で回すことが正義だったからなぁ。
「で、ソティリオスはマーケットどうしたの?」
「第二皇子が来ていて暢気にしていられるか。…………我がユーラシオン公爵家の職責くらいわかっているな?」
「そんな不安そうに聞かないでよ。わかってるって…………一応」
語尾が弱くなったら、ソティリオスの眉間が険しくなる。
だって実際にユーラシオン公爵に関わるのって基本間接的だったし。
そもそも外交関係の顔なのは知ってるけど、話に聞くだけで実感なんてない。
「逆に僕、ユーラシオン公爵が出るような華々しい場とは縁遠いから、知らなくて当たり前じゃない?」
「ほう? つまり機会があれば出るのか。それなら話が早い。三日後に第二皇子を迎える茶会が…………」
「あ、けっこうです」
また睨まれた。
別に出たいって話じゃないのに。
「少しは皇子として役目を自覚しろ」
「やだよ、利用する気じゃないか」
「当たり前だ。こちらとしてはお前に皇子として振る舞ってもらうほうが都合がいい」
「ソティリオスはそうだって、知ってる」
お互いに見合って、言いたいことを視線に乗せた。
僕としては今まで通り隠れて、面倒でしょうに合わない皇子の仕事なんて避けたい。
けどソティリオスは、第二皇子の対抗馬に第一皇子を出したいのが家の方針。
僕は外交しないから好き勝手できるし、情報も少数で囲い込める。
ソティリオスはそれで把握も抑止もできない現状だと、利用するにも限界があるから僕の動きを鈍らせるために人目にさらしたい。
「第二皇子は今、昨日後に回した関係各所からの挨拶と詫び、その他もろもろの伝達事項と経過の報告を受けている」
「うん、聞いた」
「大使館とも第一皇子は窓口を開いていないそうだな?」
「必要最低限は、屋敷か王城と取り持つ人員がやってるからね」
「どんな集まりにも参加予定がないどころか、皇帝派閥相手に主宰することもしてないな?」
「…………え、それ僕がやること?」
すごい溜息吐かれたー。
同時に思い浮かぶのはテリーの学友になったウォーの顔。
これはもしかしてってことで、目の前のソティリオスを窺う。
「…………もしかして、リオルコノメから何か言われてる?」
「お前、まさか…………」
ソティリオスも想定外に想定の下だったみたいで、唖然とする。
僕も今気づいた可能性に申し訳なさが湧いた。
リオルコノメ家は親が殺され、その現場を目撃したのはロムルーシ留学に向かう途中の僕たちだ。
そしてその息子は皇帝派閥で現在在学中。
その弟のウォーは、別の家に養子に行ってテリーの学友になってる。
そう紹介された時に、ウォーから今さらだけどってことで感謝の言葉をもらった。
けどそれって、本来なら在学中でルキウサリアにいるリオルコノメを名乗る長男ができたはずの挨拶だ。
「いや待て、それは第一皇子としてか? アズロスとしてか?」
「あ、そうか。…………うん、どっちでも、在学中のリオルコノメから接触は、ないね」
「哀れな」
ソティリオスがリオルコノメに同情を呟く。
うん、僕も初めて煩わされないために閉じてたことを悪いと思ったよ。
つまり学生のリオルコノメは、第一皇子と連絡を取る伝手がなかった。
その上で勉学を続けられる礼を、第一皇子からではなく皇帝に直接届けたらしい。
この時点で一学生にはとんでもないハードルだ。
さらに言えば、アズロスがそもそも部屋にいないし、学園内でも錬金術科は隔離状態。
まともに寮内で探しても見つからないし、僕もじっとしてないから学内でも難しい。
つまり、父親の死に関わる人物と一年以上音沙汰なし。
貴族としてはもちろん、人間的に駄目な感じにさせてしまっていた。
「ちなみに、ソティリオスには?」
「教師を通じての事前の連絡と、丁寧な感謝の手紙が届けられた」
「う、教師も無理だね。ヴラディル先生、他の教師の集まりに行くのは会議くらいだし。ウェアレルが頻繁に出入りしてるなんて、ラクス城校でもどれだけ知ってるか。あ、でも、テリーの学友のウォー。あの子がリオルコノメの子だから、以前にお礼は言われてる」
「いつのことだ?」
「…………この春のことです」
遅すぎるって、ソティリオスは責めるように僕を見る。
その上で、押しつけたい事柄を推してきた。
「増員の予定は?」
「ないよ」
またじっと見合って、お互い引かない。
今の状態は確かに悪い。
けど人を増やしたり窓口の人員を置くのは隙になる。
人海戦術とかされて負けるのは目に見えてるんだ。
現状、だからこそユーラシオン公爵もルカイオス公爵も直接動く以外に僕を妨害する手がない。
「ふん、いつまでもつかな」
「何する気?」
「今回のことで、ルキウサリアも手を焼いていることがわかった。もちろんこちらは第一皇子との良好なコミュニケーションのために尽力させてもらおう」
「うわ、ディオラ巻き込む気?」
「人聞きの悪い。そもそも手紙のやり取りすら現在滞っていると聞いたぞ」
返す言葉もない。
ハリオラータ関係のせいだ。
人員がいればそれも任せて代筆とかできた。
けど僕の場合は僕しかわからないし、僕自身が扱わなきゃいけない内容ばかり。
それ以外を受け取ってない上で、手が回らないと返信さえ滞る状況はよろしくない。
「…………ちなみにソティリオスは貴族とのコミュニケーションのために何をしてる?」
「門閥貴族との折衝や会食、派閥貴族の顔繫ぎの茶会もすれば、下からの紹介で人員と面接も。ルキウサリア側との交渉ごとや、大使館から求められて晩餐に招待されることもある」
思いの外ちゃんと外交の顔の家の嫡男してるぅ。
もっと学園優先かと思ってたよ。
僕が目を逸らすとソティリオスはまた溜め息を吐いて見せた。
「忘れているのか、敬う気のない意思表示かは知らないが、我が父ユーラシオン公爵は、殿下と呼ばれる地位だ。その家の名を背負う者とは言え、学生であるためこれでも容赦されている」
「あ、あー」
「おい、本当に忘れてたのか?」
いや、習った覚えはある。
先代皇帝は弟妹と仲が良かったそうで、家を建てて独立した四人の弟の家に、それぞれ継承権を与えた。
だからその一つであるユーラシオン公爵家の当主は、継承権のある者として殿下と敬称で呼ばれる。
だからソティリオスもユーラシオン公爵家を継げば、殿下になるわけだ。
けど特に敬称で呼ぶこともなかったし。
忘れてたというか、意識したことがなかったというか。
「お前は、本当に、一度くらいまともに皇子の仕事を請け負ってみろ」
「ハドリアーヌ王国ご一行の相手はしたよ」
「相当な手抜きでな! 今とは状況が違うことをそのまま適応するな」
うん、面倒な面会とか顔繋ぎとかの社交は全部、ソティリオスに丸投げしたからね。
そして僕が社交できるくらいの人脈さえないのばれたな。
孤立することで避けてたんだけど、これ下手なこと言ったら今からでも作れとか言われて利用されそう。
あとソティリオスが僕を表に出す一環で人員斡旋されそう。
それはそれでソティリオスがユーラシオン公爵家を出る時に、ひとまとめにされてユーラシオン公爵に丸投げされる未来しか見えないから拒否だ。
けど、僕と違って苦労してるだろうテリーには、やっぱり皇子の仕事を蔑ろにできないにしても、マーケットの間に少しは息抜きをしてほしいな。