軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話102:クトル

何処の国にも裏はある。

表治める奴らじゃ窺い知れないからこそ裏だ。

まぁ、ルキウサリアじゃ今、その裏に表が介入してるし、その端緒を作ったのは俺たちハリオラータだった。

言ってしまえば、俺たちのために売ったんだ。

それ自体はどうでもいいし、正直興味ない。

だが、今回その裏から漏れ聞こえた話をもっと早く掴んでいれば、こうはならなかった。

暴かれる前なら、裏の情報網生きてたが、今となっては細い糸のように心許ない。

そうなるようにしたとはいえ、よりによってハリオラータの名前騙る馬鹿を見逃すなんて。

「頭、あのガキ…………」

「黙れ」

「うっす」

手下の一人が、今しがた去った皇子さまに興味を持った。

まぁ、赤い熊に海人の警護なんて目立つ特徴だから、知ってる奴ならそれを引き連れてるだけで第一皇子だとわかる。

だがそれを口にする必要はない。

噂と違ってのろまでもなければ、何もできないわけでもないなんて、本人が放置してることを変に手を出しても不興を買うだけだ。

「で、こいつらは?」

別の手下が指すのは、ハリオラータ騙った馬鹿に乗せられた、輪をかけた馬鹿。

仕事なくなるからってハリオラータを騙って、実力以上の成果をふかした馬鹿な下請け。

何も言わずに切ったせいで、自分たちは見つからないと高をくくった上で、突発的に詐欺をしようと思いついた馬鹿を釣り上げた。

「馬鹿と馬鹿を掛け合わせて、なんでこんな特大の失敗やらかすんだ。あの人の目の前で何やってんだよ」

思わず愚痴と殺気が漏れる。

もっと派手に騒ぐくらいに実力があれば、もっと考えて調べるくらいに頭があれば。

そのどちらもない馬鹿どもが集まって、やらかしてこっちは巻き込まれた。

俺は思わず手近な奴の後ろ頭を殴りつける。

目隠し、耳栓、猿ぐつわで、前のめりに倒れた馬鹿は何が起きたかわからず、逆に倒れた馬鹿の隣の奴のほうが、暴力の気配に体をすくませた。

「頭、引き渡すのに傷つけていいんすか?」

「じゃあ、さっさと連れていけ。二人は残って見張りしろ」

四人の馬鹿は手下に引き摺られて消える。

皇子さまとの約束で、所定の位置に放置する予定だ。

後から皇子さまの命令でルキウサリアの兵が確保に動くとか。

その辺りはもうどうでもいい。

俺は指示を出して断崖の上の監獄へ向かう。

もちろん見えないように木々の下を移動し、絶対に侵入はできない場所へ。

だからこそ警備の目もない。

こんな所に見張り配置するだけ無駄だとわかるほど。

だが、見上げる断崖の上には、人の腕一本が通るくらいの細い窓がある。

「あの力って、頭たちと同じっすか?」

見張りを命じた手下が聞けば、もう一人は無言だが興味を示した。

こいつらはハリオラータだが、解体しても何も言わずついて来てる。

元もとが俺たちの力に惚れ込んだ魔法狂いだ。

だから金だとか組織力とかどうでもいい。

ただ俺たちがこの力を何に使うのかを見て楽しみたいだけ。

ついでに自分の腕磨いて、使いどころがあれば犯罪でもなんでもいいって奴らだ。

それで言えば、皇子さまも興味の対象か。

俺らが作り出した隠密の集大成を看破した上に、俺たちを捕まえることをやり果せたしな。

「力はないな。いや、頭の出来を力と言うならあるかもな」

「それはなんか違うっすね。もっとこう、肌や腹の底をビリビリ言わせて来るような」

そんな好み知るか。

ただ言われて思い出すのは、あの皇子を守るように現れた光の巨樹。

暴走寸前の俺を抑え込んで見せたあれなら、こいつらもほれ込むだろうと確信する。

ただ俺もあれがなんなのか、未だにわからない。

それなのに、あの皇子は理解して、対話し、使役していた。

魔力なんて俺らに比べれば雀の涙で、調べても魔法に関しては何もしてない。

なのにすぐに俺たちの力に対応してみせた。

力任せなんかじゃなく、理解して、対処して、潰してくるんだ。

それが、淀みの魔法使いの執着であっても。

「力はないが、その力をひたすら潰す不気味さはあるな」

「不気味…………あんたが?」

黙ってたほうが思わずといった様子で漏らした。

他からすれば俺のほうが不気味な淀みの魔法使いなんだろう。

俺だって同じ淀みの魔法使いの奴らの執着はわからないことがあるし、力の発現も謎が多く、いっそ理屈がないようにも思える。

だから淀みの魔法使いを調べるアルタの執着が薄れないのも不思議だ。

その上で皇子はこっちを見透かすようでいて、全て計算づくのような不気味さがある。

何か理解できないことがあるんだ。

力の源はあの光の巨樹だろうが、どうやってそれを御してるかはわからない。

俺と顔合わせた意味もわからない。

今こうして人質を厚遇してるとしか言えない状況もわからないもんだ。

「逃げる余裕もあると踏んでたんだがな」

殺すなり売るなりするもんだとばかり思ってたのに、実際そんなことにはなってない。

どころか、逃げる気すらいつの間に潰されてた。

理解できない不気味さと同時に、俺でも計り知れないところを見透かして合わせてくることに、興味も覚える。

それと、賭けても良さそうだという胆力を見せられたからには、男としてちょっと引けない。

「…………うん、来たな」

目に見える変化はないが、確かに俺の鼻には匂いが届く。

マギナの魔力だ。

魔力自体を絞られていても、一定量押さえ込むだけで完全じゃない。

溢れる少量の魔力を使って、事前に決めてた匂いの種類で意思疎通をする。

こっちの言葉はそのままアルタに聞こえるし、バッソがいれば声を届けられたが、簡単なやり取りなら問題ない。

「皇子さまからとんでもオーダーだ」

俺の言葉にマギナが驚きを香りで知らせてくる。

世間からすれば俺たちハリオラータのやることのほうがとんでもないんだろうが。

俺ははっきり言える。

あの皇子さまのほうがとんでもないんだ。

「シャーイー潰すために、地伏罠使うそうだ。お前らのほうに改良案を知らせるって言ってた。で、東のほうでやるシャーイーのしのぎ邪魔するんだと」

捕まえた馬鹿の引き渡し以外で手短に伝えられた内容。

たぶん見かけない宮中警護に聞かれないようにだろう。

あの宮中警護の身元も後で洗うか。

聞いたマギナからは、さらに強い驚きの匂いと疑問の匂いが届く。

地伏罠は学園から盗んだ技術使って作った、踏むと爆発する罠。

あの皇子さまに阻まれてほぼ使えず、卸す先だったシャーイーには渡っていない品だ。

それを今回あえて、改良ができたと言って回すように指示された。

「実戦で使わせて、地伏罠を中核にした作戦を立てさせるのがご希望だそうだ」

マギナが伝える返答は、難しいという否定的な匂い。

ただ面白がる匂いも後から追ってくる。

「やる気があるなら、誰がバッソと交代で出るか話しとけよ。たぶんシャーイー関係やらされるから」

鉱山のほうへの襲撃と、さらに東の紛争と、随分な使いようだ。

というか、捕まえて殺さず使うにしてもこんな大きなことをやらせるとはな。

本当に噂は当てにならない。

いっそ犯罪者同士潰し合えと言わんばかりだ。

なのにこうして妙に待遇はいいし、俺が何を嫌がるかもわかってる様子でこっちが拒否できないラインで命令してくる。

その上で、マギナから送られてくる匂いは楽しげだった。

「カティとか戦場見通すのにいいと思うけど?」

瞬間、マギナからは刺すような拒否の匂い。

これはカティが速攻断ったな。

お高いお菓子、そんなに美味いのか?

正直会えないことや近くにいられないことに、もっと焦燥があるかと思っていた。

けどこうして連絡することを止めないことや、落ち着いてる様子がわかるだけであんまり、淀みの魔法使いとしての執着がうずかない。

まさか自分の執着と共に魔法を使う気まで落ち着けられるとは思わなかった。

「本当、とんでもない。いっそ魔法使いの天敵か?」

ぼやく俺に手下たちはそこまでかと息を飲む。

マギナからの匂いは賛同、楽しい、面白い、嘆き。

それぞれ思うところがあったようだ。

だがそこには攻撃性もなければ、否定もない。

嘆きの匂いはイムらしい。

たぶんあいつは魔導書が検閲でなかなか回ってこないせいだな。

それでも張り詰めた様子はないし、あの皇子さまはイムの執着もかわす方法を何か見つけてるようだ。

「おい、それで誰が出るんだ?」

聞いた途端、拒否ばっかりが香る。

おい、本当にどうした。

そんなにそこ居心地いいなら俺も行きたいんだけど?

大人しいイムはわかるが、カティなんて適当に魔法放って回るの嫌いじゃないくせに。

マギナだって新しい出会い欲しがってたし、アルタも淀みには定期的に観察に行ってたのはどうしたんだ。

どうやらハリオラータは、俺だけじゃなく、揃って牙を抜かれて懐柔されかかっているらしかった。