作品タイトル不明
509話:皇子のお仕事4
元修道院の監獄から、学園都市の屋敷に帰って来た。
聞かれて困る人を寄せ付けない錬金術部屋に行くと、レーヴァンが口を開く。
「あの、すごく、聞きたくないんですけど…………」
「うん、ハリオラータの頭目と引き合わせた理由はあるから、ルキウサリア側には秘密で手を貸して」
「拒否したいでーす!」
レーヴァンが全力で訴えるけど、気づいた様子で目を瞠った。
「え、待ってくださいよ? 秘密ってどのあたりから? まさかあんな犯罪者とのつき合い自体知らせてないなんて…………まさかまさか…………?」
「一度おびき寄せて話をつけたのは知ってるけど、その後も連絡とってるの知らないかな?」
僕は確認で、知ってるヘルコフとイクトに目を向ける。
「正直ハリオラータは大抵の魔法使いからは格上。殿下の警護してる奴らが気づいてるかどうか」
「ヌニェスに関しては察することはあるかもしれませんが、口は出さないでしょう」
実際にハリオラータとのやり取り見てるヌニェスなら察せる程度かな。
監獄に送り迎えしてるだけだと微妙らしい。
「そりゃわかりませんっていうか、考えもしませんからね! 皇子がほぼさしで極悪魔法使いに命令してるなんて! …………どうやってあんな怯えさせるようなことに?」
「ハリオラータの幹部を人質に取ってるだけだよ」
「その割に仲良さそうでしたけど?」
「不機嫌になるだけ暴れるからね。機嫌は取ってるんだ」
「…………機嫌の取り方が、あの小島にいるお歴々に似てる気がする。なんか書き物してたし、研究? 何かネタ提供して自発的に裏切らないように?」
ぶつぶつ呟くレーヴァンは、変に察しがいい。
他にも僕の行動わかってるつき合いの長さのせいもあるかもしれない。
なんにしても僕に足りない部分を補ってもらうために、レーヴァンを引き込むよ。
「ソティリオスが言っていた、シャーイーについてなんだけど…………」
「やめましょう?」
「まだ何も言ってないのに」
「いやもう、その話しぶりからやる気なのわかりますから」
テリーにもそう思われたよね。
で、ソティリオスが僕を止めろっていうために、テリーの前で言っちゃってさ。
これはもしかして、弟に弱いこと見抜かれてる?
そうなるとやっぱり、今の内に引き込みは済ませておきたいな。
「もう陛下に報告されるの決まっちゃったから、外堀埋める準備したくて」
「思い切りが良すぎません!? ちょっと、止めないんですか!?」
テリーが来たから誤魔化すこともできないし。
なんて僕の思惑わかったレーヴァンは、ヘルコフとイクトに詰め寄る。
「いや、もう動くこと決められた後だからな」
「一応年数を見ようとしていたはずだったが」
僕がことを早めたのは今言ったから、ヘルコフとイクトも困惑してる。
ただ、ハリオラータの頭目クトルを相手にシャーイーに関して交渉したのは知ってるから、どうなるやらって感じだ。
ここは順を追って説明しよう。
「ウェルンタース子爵令嬢から、宮殿での占拠事件の後、テリーに派兵の話が出てると聞いたけど、そこは間違いない?」
僕とソティリオスが揃った場で、嘘は言わない。
ただ確証を得るために動く前に、テリーがやって来た。
レーヴァンに確認すると少し考えてから応じる。
「東への派兵のことですよね? それは決まった話じゃないというか、ルカイオス公爵も乗り気じゃないはずです。どちらかと言えば、勢いを取り戻しそうなルカイオス公爵を牽制する名目かと」
ルカイオス公爵の派閥の柱の一つが、皇帝の外戚であること。
つまり、テリーたち弟の存在が重要だ。
順調に成長し、立太子できれば帝位も安泰なところで、危険な場に出すなんて、もちろんルカイオス公爵は止める。
けどそのために言い訳の用意や、そこで問題にあげられたことに対処するための準備など、諸々に手が取られることになるだろう。
邪魔したいだけの側からすれば、ルカイオス公爵が対処に当たるだけで十分。
けど引き合いに出されたテリーが迷惑をこうむるだけの話になる。
「で、ハリオラータの頭目から聞いたことなんだけど、その東のいざこざに、シャーイーが関わってるらしい」
「うわ、絶対皇子行ったら面倒ですね」
僕の派兵の時のように暗殺はないだろうけどね。
他の犯罪者たちが失敗続きの上に潰されてる状況じゃ、同じ轍踏むだけで旨味がない。
けど、シャーイーとしては金が落ちる戦場を平定されるのは困る。
つまり、テリーが行けばその功績を邪魔するために出てくるわけだ。
「で、ハリオラータ曰く、魔法の兵器を東に流す予定だったんだって。ソティリオスとルキウサリアに戻る時に試用されて、僕が防いだから送れないって言ってたんだけどね」
「あ、待ってください。殿下」
「アーシャ殿下、ご再考を」
話の途中なのに、ヘルコフとイクトが止めて来た。
レーヴァンも盛大に顔を顰めてる。
うん、僕が何がしたいかわかったようだ。
「あえて対策のできてる兵器を流させて、対策は用意する。そしてシャーイーを捕まえて兵乱も平定。これ、テリーの手柄にできるよね?」
「やめましょー?」
レーヴァンが頭を抱えて訴えた。
「ハリオラータにシャーイー関係の動きが鈍るようにもさせるから、ルカイオス公爵肝入りの兵を連れて行く限り大丈夫だと思うんだよ」
「殿下、殿下。それ、弟君に言いました?」
頭の中で進める僕に、ヘルコフが止めるように聞いてくる。
「まだ言ってないよ。来ること知らなかったし。知ってたらもっとちゃんと計画してたし。まだ動き出してないし」
「つまり、こうして話すのは準備でしょうか、アーシャ殿下」
イクトがさすがに判断しかねる様子をみせる。
その上で、レーヴァンに目を向けた。
うん、レーヴァンにわざわざいう理由考えてるよね。
けど貴族のあれこれに聡いレーヴァンのほうが先に気づく。
「うちの侯爵さま、巻き込まないでくれます!?」
「ここ数年、陛下と近くなりすぎてない? 独自色薄れてない?」
「誰のせいでそうなってると?」
「この辺りで、ユーラシオン公爵とか、そっちに乗る人たちとも距離計り直す機会になるよ?」
「表向きはでしょう!? 結局殿下裏にいるから、余計ずぶずぶになるだけじゃないですか!」
レーヴァンの上司のストラテーグ侯爵は、独自派閥だ。
姻戚関係からユーラシオン公爵寄りだけど、味方ではない。
それが僕という共通の秘密から、皇帝である父とここ数年接近しすぎてる。
今のところ職責ってことで誤魔化してるけど、ルカイオス公爵派閥に近い皇帝派閥と接近の動きは止まってないし、ストラテーグ侯爵にとっては不本意なはずだ。
「そこのバランスとり直すには、テリーの派兵推して、ご機嫌取りしてもいいんじゃない? なんだったら、向こうから誘ってくるように仕かけて恩を売ってもいいし」
「そのための根回しとか票集めとか、面倒ごと諸々放り投げる気じゃないですか!」
「ちゃんとその結果でテリーにも功績って形で還元されるから、派兵の件で睨まれるようなことにはしないよ」
「それつまり、第二皇子殿下にもこっちの内情暴露して通じろってことでしょ!」
うん、そう言われるとそれこそずぶずぶだね。
これでテリーが立太子できてたら、派閥安定のために引き受けたんだろうけど。
未だに両公爵は安定した足場と実績があるからね。
それを揺すぶられることもあったけど、崩れるまでにはいかないし、皇帝である父が覆せる状況でもない。
そもそも隠し子で、権力も実績もない状態で皇帝になったんだ。
後見役のルカイオス公爵が強すぎて、ちょっとやそっとじゃ実権もない。
適当に飴配って派閥拡張なんてこともしてないから、父の派閥は小さくても堅実だけど。
前世と同じく政治は数の勝負だ。
どうやっても人生かけた派閥や、先祖から引き継いだ派閥持ちの公爵たちには及ばない。
「…………そう言えば、将来的な話ってストラテーグ侯爵から聞いたことないね」
テリーが皇帝になったら、ストラテーグ侯爵はどんな立ち位置を求めてるのか。
そこはルカイオス公爵が揺らがない限り既定路線のはず。
ただ問題はユーラシオン公爵のほうが若く、まだ逆転の可能性がある。
だから確定しない将来をあれこれ考えて、第一皇子という僕をどちらの派閥も目の敵にしてる状況だ。
けど、ストラテーグ侯爵は最初から距離を取ってた。
それは独自派閥で誰が上に立とうと変わらないスタンスのようにも見える。
けどそもそも次の皇帝自体に興味がないような気もした。
自分には関係ないと思ってるような気さえするんだけど、どうなんだろ?
「将来、不確定にしてる、殿下が言いますか? ユーラシオン公爵のご令息とも仲良くして。そっちこそ将来どう考えてるんです?」
レーヴァンが固い声で探って来た。
踏み込むのは珍しいな?
けどソティリオスが家出たいとかは言えないし、僕が皇子を降りるつもりもないし。
僕としてはストラテーグ侯爵の描く将来像がわかれば、こっちから交渉材料提示できるんだけど。
言わないなら、揺さぶりはこの故郷であるルキウサリアを使うしかない。
「交渉材料はいくらでもある、か」
ここ最近の騒ぎを考えて呟くと、レーヴァンだけじゃなく側近たちまで顔を顰めていた。