作品タイトル不明
433話:ネヴロフの錬金術3
技師として知ってる工房の主は、天の道に使うワイヤーを作ったとも聞いてる。
封印図書館で見つけた合金に関する記述も伝えて、ロムルーシへの留学中に適した合金を作るところからやってもらった人なんだよね。
「初めまして、錬金術科のアズです」
「おぅ、お前さんか。噂は聞いてる。で、その軽い金属がどうした?」
他にもいかつい鍛冶師たちが様子見に集まって来て、威圧感がすごい。
そしてそれらを背にしても、おじいさんなのに技師は堂々と従えるみたいで、うん、圧迫面接みたいだなぁ。
しかもウー・ヤーとネヴロフは、僕を前に出して説明を任せるし。
初対面の僕にって、ひどくない?
まぁ、説明できるのは僕なんだけど。
「この金属ですが、錆びつかないことで活用の可能性があるのではないかと」
「そりゃ気づいちゃいたが、軽すぎるし柔すぎる。そんなんじゃ大した道具はできねぇ」
どうやら気づいてたようだけど、僕とは着眼点が違う。
「軽くて柔らかいからこそですよ。あくまで金属です。木よりも柔らかいことはない。だったら叩いて伸ばして容れ物にしてはどうでしょう」
言った途端、技師を始めとした鍛冶師たちの目の色が変わった。
たぶんここでは、普段容れ物なんて作らないから発想がなかったんじゃないかな。
それでも使えない金属に可能性を見た途端、興味を持った。
これなら試しにでも作ってもらえるかもしれない。
「それにどれだけ柔らかいか、叩いて伸ばしてみませんか? もしこれで紙ほどに薄くできたらそれはとても有用なはずです」
「紙だと? …………錆びない軽い金属で、包むのか?」
「はい」
技師はけっこう柔軟らしく、すぐに紙のようにする理由を察する。
「例えば嫌気性を持ってたり、光で劣化したりする薬剤をこれで包めればどうでしょう?」
「なるほど、金属だからこそ空気も通らねぇ。光も届かねぇ。何より、軽い。どう加工するか考えるのはありだろう」
技師は僕を見て、顎をしゃくった。
「噂どおりの頭の回転だ。…………よし、こっちにこい」
「えっと?」
「うわぁ、大親方に呼ばれるの早」
「自分たちはだいぶ口もきいてもらえなかった」
「えー? って、ちょっと。押さないでよ」
ネヴロフとウー・ヤーに押されて、僕は大親方と呼ばれる技師の後に続くことになった。
ついて行くと蒸気を吐く装置がある。
ストーブのような大きさで、外観は単純な形をしてた。
「こいつはネヴィの作ったもんだ。何かは聞いたか?」
「はい、蒸気を供給されることで動力として稼働する装置です」
「…………同じ学生でも随分違うな」
「大親方、アズは貴族だってば」
「ウヤの奴も似たようなもんだろ」
ネヴロフに技師が親指を向ける。
ウヤとはウー・ヤーのことらしい。
「自分は騎士に近い上に、軍人にも似ているから、アズとも違う」
「まぁ、頭のできの違いは今のでわかった。ネヴィは発想があっても知識が足りん。ウヤは技術があっても発想が足りん。このアズってのは発想、知識は申し分ない」
「技術はありませんよ。道具は知り合いの職人に頼んでました」
ちょっと詰まらなさそうな顔をした技師は、蒸気の動力装置に向き直る。
「こいつは炉から出る熱を全部は扱いきれねぇ。熱を溜めるためにでかくしたところで動きが鈍るだけだ。ネヴィの奴も改良に行き詰ってる。案はあるか?」
「動かす手を増やしてはどうでしょう? 蒸気を溜める機構を分割し、そこから伸びる腕を増やす。一つが稼働する間に二つ目が蒸気を溜める。二つ目が動く間に三つ目が蒸気をためる。そして三つ目が動く間に一つ目が蒸気を溜める。この繰り返しで無駄な熱を動力にします」
「その腕ってのの仕組みは?」
「ふいごを動かすための支点は動かせません。なので、車輪に似た回る機構をつけます。一つ目の腕が動けば、回転して二つ目の腕を送り出す。二つ目の腕が動けば、また回転してという風に」
口で言うだけじゃ想像がしにくいと思ったんだけど、技師は頷いた。
「お前さん、技師にならねぇか?」
突然の誘いに驚くと、なんか周囲でどよめきが起こる。
「お誘いいただき光栄です。しかし残念ながら、帰る家がありますので」
もちろん僕の答えはノーなんだけど、さらに野太いどよめきが起きた。
「そう言えば技師って、弟子一人って聞いたような?」
この人と会ってはいないけど、そんな報告を受けた覚えがある。
実際に連絡とってたテスタかノイアンあたりから聞いたかな?
「ふん、この歳まで技師の弟子にできそうな奴もいなかった。ところが最近はお国が錬金術に乗り気で弟子を作れとうるさい。だが、これで一番の有望株に断られたと言える」
あれ、変なことに巻き込まれた?
いや、逆にそれで有望株の名前聞いたルキウサリア国王辺りが仰天しそうなんだけど。
「まぁいい、次だ」
「え? 次?」
「もう一つネヴロフが作りかけのものがあるんだ」
「そっちは動かすまでいかなくてさ。アズ、見てくれよぉ」
技師の弟子とかには興味もないらしく、ウー・ヤーとネヴロフがいう。
というか、ネヴロフ。
行き詰って次に手つけるとか、そんなだから学校来てないんじゃない?
「ネヴロフ、見るのはいいけど今度からは意見聞きたいときはちゃんと学校に来てよ。いつまでも欠席は問題があるし」
「それを言うなら、さっきの改良案はまずかったんじゃないのか? この後手をつけるぞ」
「う、わかった。でも今日は見るだけでも、な?」
ウー・ヤーに図星を指されて、ネヴロフは一応登校の了承はした。
その間もさっさと進む技師に、僕たちは慌てて追うことになる。
「錬金術科なら錬金炉は知ってるか?」
「大親方、錬金炉の使い方知ってたのアズだけだぜ」
「そう言えば、何故使えたんだ?」
今になってそこ聞かれるとは。
「昔の本に書いてあって、使い方だけは知っていました。結果は予想外だったですが。確か、南のほうの竜人のところの炉が元だと本にはありました」
「あぁ、今では技師一人だが、昔は他にもいたからな。だが、竜人のところが元だってのはわしも初耳だ」
使い方よりも、源流に興味を持ったらしく、誤魔化せたようだ。
そしてやってきた場所にある錬金炉は、なんだか作りかけのような形をしてた。
いや、見たことないパーツが付けてあるけど、どういう仕組み?
「…………あ、もしかして錬金炉を改造して蒸気を発生させる装置作ろうとした?」
「そうそう、こっちのほうが小さいのに熱出るし、動かすの早くなるんじゃないかと思ったんだけど。上手く動かねぇんだ」
発想はわかる。
けどそれは一つの腕を早く動かすだけに使うには、馬力が過剰になりそうだ。
錬金炉はそれくらい高温にできる。
「上手く行ってない理由は見てわかる。機構が繋がってない。途中で繋いだ蒸気用のパイプが邪魔なんだ」
「おう、よし。これもわかってんだな。だったらそっちは任す」
なんか技師に投げられた?
「あの、僕は錬金炉の構造は知らないんで、見たまましか」
「ならそれ解体してみろ。すでに一回ネヴィの奴がやった後だ」
どうやら元からあった錬金炉を組み直して、改造を施してる途中のものだったらしい。
そしてそんなことを言われたら、一も二もなく突っ走る好奇心の塊。
(走査開始)
今まで他を回ってただろうに。
そばにいなくて静かだったセフィラが、すぐさま戻って来たようだ。
長年壊せないって理由で調べきれなかったから、チャンスを掴んだ今行動が早い。
僕も表面上、組み直したというネヴロフに聞きながら錬金炉を確認する。
「内部の構造は三段。下に火を入れて、上で反射、中断の物体を高温で温めるのは変わらない構造だね」
「錬金炉も色々形あるけど、この箱みたいなのはその中段になんか仕掛けがあるらしくてさ。組みなおすことはできたけど、構造はさっぱり」
「坩堝を入れる形の錬金炉なら、金属加工で使う炉と変わらないが、これは解体しても原理がわからない」
ネヴロフもウー・ヤーも、解体しただけでは錬金炉の構造は理解しきれないという。
「中段の作りとしては、上部は半球で、下部は四角い。熱をどうにかする機構ではないようだけど。うん? 模様があるね。それと、半球の裏には回路?」
僕も初めて見る錬金炉の内部に興味が止まない。
そうして錬金炉を調べてる間に、ネヴロフがやろうとしてたふいごの改良は大親方が弟子を使って終わらせ、ネヴロフは翌日登校を余儀なくされたのだった。