軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

434話:ネヴロフの錬金術4

翌日は午前から忙しかった。

人工ゴーレムとか、必要な設備の説明で王城に呼び出されたし。

ソティリオスとユーラシオン公爵家からの確認もあった。

いつやるかとか、何処まで話を広げるかとかそんな話し合いだ。

必要機材の準備や、実験を行う場所の選定なんかで、話す内容は尽きない。

テスタも興味津々で、予定以外の質問も多かったし。

歩行機能による傷病者の運搬まで話を広げようとしたのはさすがに止めたけど。

「ごめん、遅くなって」

僕は教室へ駈け込む。

時間は昼休みの半分を過ぎたところ。

午後の授業が始まる前にって約束したけど、遅くなってしまった。

「お、アズ来たな。言われたとおり、ウー・ヤーが作った金属の使用許可貰ったぜ」

「それと、紙のように薄く叩きのばしてもらった。アズが言うとおりとても軽い」

ネヴロフとウー・ヤーは、そう言って薄い金属を掲げて見せる。

前世のアルミ箔というにはまだ厚いけど、羊皮紙並みには薄い金属ができたようだ。

その上で僕が触った感想は、前世のなめらかなアルミに比べて脆そうというもの。

ウー・ヤーの説明からして、たぶん自然にあるアルミの元になる金属に、化合させることでアルミの元になる金属だけを残したんだろう。

最初塊じゃなかったみたいだし、何かしらの確認や実験はしたのかな?

「それにしても、新発見なのに使用許可よくもらえたね」

「元は作ったのウー・ヤーだしな」

「だが間借りしてる状態で厚かましくもある」

普通徒弟の工房での働きの成果は、工房主に帰属する。

その分技術をもらい設備を借りて、衣食住も世話してもらうからだ。

ただ今回完全にウー・ヤーの偶発的な発見。

その上活用方法を編み出したのは、工房に関係ない僕。

そしてネヴロフが作ったものやウー・ヤーが考えた冷却方法が、工房には助かる成果になってる。

それらを加味して、アルミについては完全に錬金術科ということになったらしい。

「アズが先生に相談して、もっと使えるようにすると言ったのが効いたようだ」

「技師の仕事先、錬金術科しかないから、どうせ仕事として成果は回って来るって」

ウー・ヤーとネヴロフと話ながら、僕は入ってすぐの教室を出る。

向かう先はその先生がいる研究室だ。

「失礼します、ネクロン先生」

「あ、来たね。何か話があるんだって?」

出迎えてくれたのは助手の海人ウィレンさん。

エルフのネクロン先生は自分の机でだらっと座ってた。

午前の間にネクロン先生のアポ取りも、ネヴロフとウー・ヤーにお願いしておいたんだ。

「実はウー・ヤーが新素材を作り出しました。これの作り方と使い方をお教えするので、ゴムの素材入手ルートと製造方法教えてください」

「ふざけてるのか」

すぐさま却下されたけど、そこは予測済み。

「聞いておいて損はないですよ」

「素材一つでずいぶんな自信だ。だが成果物がなければ机上の空論でしかない」

それはモリーにも言われたことがある。

そう考えると、この新素材も情熱を持って活用してくれる人は必要だ。

「そうですね、じゃあ、空論にしない人の援護ももらいましょう。ウー・ヤー、ネヴロフ。イア先輩は無理だろうから、ステファノ先輩呼んできて」

待つ間に、僕は物を見せる。

「この金属になります」

「薄いし、柔い? わぁ、なにこれ全然使えなさそう。何してもすぐ穴開くんじゃない?」

ウィレンさんは笑って、駄目だしだ。

ネクロン先生は折り曲げてみたり持ち上げて見て、考える様子がある。

「あえてこの形にしているな。つまりは薄さと軽さが売りか? だがそうなると武器防具、器にもできないくらい柔すぎる」

「一番の特性は、錆びないことです。そして、柔く人の手だけで形を変えられること」

言っても使い方は想像できないようだ。

封印図書館関係なら、メッキ技術のために電気使うしわかりやすい活用法言えるけど。

まずは流通に乗せられる使用法を示さないといけない。

「はぁい、呼んだー? また何か面白いこと?」

「なんだか急に捕まったんだけど何があったの?」

どうやらイア先輩も学内にいたらしくやって来た。

ステファノ先輩の卒業後には商売で関わるから、会いに来てたそうだ。

時間もないし、僕は早速薄く伸ばしたアルミを見せて説明を始める。

「お二方にお聞きしたいんですが、この金属ですね、錆びない素材なんです。そして薄くて紙のように折れる。そんなこの素材の真ん中に、絵の具をひと固まり入れます。で、こう折りたたみます」

僕は長方形型のクレープのようにくるくるとまいて見せる。

「で、折りたたむ前のこの端から、油を注入して空気を抜き、残る端もこう折りたたむ。これ、どれくらいもつと思います?」

口で言いながら、何も入ってないアルミを折っただけ。

けどステファノ先輩とイア先輩は、口を開けて目を瞠ってた。

その反応にネクロン先生も反応する。

「使えると思うのか? 芸術家か? それとも画材を扱う商人か?」

「「両方!」」

声を揃えて、ステファノ先輩とイア先輩が折りたたまれたアルミに手を伸ばした。

「すごいすごい! これがあれば絵の具の持ち運びができるようになるよ! って、うわー、軽ぅい! これ本当に金属? すごいね!」

「待ってまって、ちゃんと取り出せるのよね? あ、本当に紙みたいに開ける。けど金属だから隙間が開かないようにもできる! これすごいよ!」

興奮してアルミを開いたり閉じたりし始める先輩たち。

その反応には、作ったウー・ヤーも唖然としてた。

「何に使えるかわからず放置したが、必要な人の下に行けばこれほどの騒ぎになるのか」

「絵の具がとかわかんねぇ。俺、それより昨日やった錬金炉の続き考えたいんだけどなぁ」

早くも飽きたネヴロフに、ネクロン先生がエルフの尖った耳を向けた。

「おい、俺にはそっちのほうに噛ませろ。錬金炉の何をするんだ?」

ネクロン先生としては、特殊金属を加工できる錬金炉のほうに可能性を感じたようだ。

けどウー・ヤーとネヴロフ二人揃ってノーを突きつける。

「大親方が、あの手の奴を入れると金の話しかしないって怒るので」

「研鑽? よりも金の話が好きな奴は駄目だって」

「はぁ!? 金があるから技術も磨けるんだろうが。頭の固い職人の無駄な拘りか!」

どうやらネクロン先生と大親方は相性が悪いらしい。

僕としては、それはそれでありがたい。

ネクロン先生には、このアルミを受け入れてもらえないとゴムが手に入らないし。

「この素材はウー・ヤーが作って、ネヴロフの貢献もあって、錬金術科で活用することに関しては無償で扱えることになっています」

無償の言葉に、ネクロン先生がピクリと反応する。

「ゴムも錬金術の器具に使えると思っているので、錬金術科として発展に寄与できると思っています」

「ゴムを売り払うようなことは?」

「しませんよ。たぶん素材ってここから遠い場所で生産されるんでしょう? だったらお金かかりすぎますし、売っても一度で終わり。そんなもったいないことしません」

前世でゴムって、南アメリカ原産とかじゃなかったかな?

ジャングルに生えてるイメージだし、こっちの世界では北のツィーミール島にあったとしても、距離がある。

ツィーミール島とは別の所で生産してるなら南国で、やっぱり距離があるぶん販売には運搬のお金がかさむことになるだろう。

あと僕が個人的に売るには販路が必要になるから、一学生が手を出すことじゃない。

「つまり、それで絵の具の入れ物作って売り出す。そのための技術はウー・ヤーとネヴロフ。売るための販路はスティフとイア。で、売り出す際の名前は錬金術科か」

「はい」

「え、それだとアズくんの名前入る隙ないよ」

「いりませんよ、ウィレンさん。全部に関わって開示されるなら、またその知識で自分なりのことをすればいいんです」

そもそも鍛冶できないし、販路なんてないし。

素材を輸入する伝手も今のところない。

だったら知識だけ得て、使える時に使うほうがいい。

学ぶことが学生の本分だ。

それに錬金術科の実績になってくれるなら、将来的に僕が錬金術しやすくなるはず。

「…………錬金炉は何するつもりだ?」

「そこはこれからってところですし、商売につながるかも未知数なので期待はしないでください」

「ふん、そういう先読みができるなら馬鹿な失敗はしないか。いいだろう。その交渉乗ってやる」

「ありがとうございます」

僕がお礼した途端、ネクロン先生はウー・ヤー、ネヴロフ、ステファノ先輩に言った。

「お前ら製法と加工法、そして活用法を実験して確実にアズが言った方法で使えるかどうかを試験しろ。そして結果を報告書にまとめて、その後は論文に昇華。錬金術科の実績として確実に残すためにシャカリキ働け」

突然の無茶振りに不満の声が上がるけど、ネクロン先生は聞かないふりをしていた。