軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

432話:ネヴロフの錬金術2

放課後、僕はウー・ヤーと一緒に、ネヴロフのいる鍛冶工房にやって来た。

「確かここの鍛冶師は技師って呼ばれるんだよね?」

「良く知ってるな。錬金術科の道具が作れる一人だけがそう呼ばれるらしい」

ウー・ヤーと話しながら、大きな開口部の作業場へと入る。

重そうな金具の台がいくつも置かれ、それぞれに二人以上ついて金属を加工中だ。

思ったより金づちで叩かない。

叩いてると思ってみると、いらない金属部分を打ち欠いてるだけだったり。

かと思えば、小さな金づちで細かく叩いて薄く伸ばした金属に丸みをつけてる人もいる。

(そう言えば、鍛造って日本刀の作り方か)

(仔細を求める)

(後でね。あと、あやふやな知識だから期待はしないで)

比較動画で西洋剣と日本刀の比較を見た覚えがあるだけだ。

それでは破壊力と頑丈さは西洋剣が、切れ味と軽量なら日本刀が優れる結果だった。

「アズと話したいっていう人は他にもいたんだが、まずはネヴロフだな」

「え、うん」

ウー・ヤーに名前を呼ばれたのはわかったけど、金属音激しくてほとんど聞きとれない。

ウー・ヤーは知り合いに大きな声をかけながら、指差されたほうへ向かう。

するとだいたいの人が、後ろにいる僕に目を止めた。

「なんだ、錬金術科の! 銀髪の学生、お前か!」

「よぉ! やるじゃねぇか! いいもん作ったな! おい!」

筋骨隆々な人たちに怒鳴るように声を上げるのは正直怖い。

ただ笑顔で何か褒められるらしいことは伝わった。

戸惑う僕に気づいて、ウー・ヤーが答えを教えてくれる。

「冷却室の代わりに冷却効果のある粉末を使ったと言っただろう。その発案がアズってことを説明してあるんだ。あの粉も作り始めたのはアズとエフィだしな。エフィに言ったら、気づいたのはアズだと教えられた」

「けど、ここで使えるように改良したのはウー・ヤーとネヴロフなのに」

僕はここの人たち相手に何もしてないのに、褒められても居心地が悪い。

そう言ったらウー・ヤーは驚いた顔をする。

その後には笑った。

「なんだ、アズは褒められることに慣れてないのか。こういうのは変に理屈を考えなくていい。素直に受け入れればいいんだ」

「う、うん?」

思わぬことを言われたのと同時に、なんか気恥ずかしくなった。

前世を思えば心当たりはある。

それに謙遜が基本の日本人だ。

ただ謙遜も行き過ぎると嫌味とも言われるし、ここは素直に受け入れるのが正解かな。

前世でも今世でも、当たり前に褒められるってあまりした覚えがないんだけど。

なんだかウー・ヤーにそれを見抜かれたようで恥ずかしくなった。

「あれ? あ、アズ!」

僕が一人落ち着きを失くしてると、向かう先からネヴロフの声が聞こえる。

「戻って来たから連れて来たぞ」

ウー・ヤーに言われてネヴロフは僕のほうへやって来た。

そして手を引くと太い尻尾をバサバサしつつテンションを上げる。

「こっち、見てくれよ!」

「挨拶は、まぁ、いいか。ネヴロフもけっこうなもの造ってるんだ」

忙しないネヴロフに、ウー・ヤーも成果を見せたい気持ちを汲む様子。

僕は二人に手を引かれる形で、工房のさらに奥へすすんだ。

すると、天井が大きく開いた巨大な炉へとたどり着く。

そちらからは断続的に金属音がすると同時に、ブシューと湿った空気の音も。

初めて聞くけど、どこか懐かしい機械音にも似た騒音だった。

「うわ、もしかして動力? 繋がってるのは、ふいごか。炉の高音を保ってるんだね」

「へっへへー。すごいだろ。第一皇子が村に作ってくれた、すごい錬金術の真似して作ったんだ」

つまりは石を砕くことに使ってた蒸気動力の仕かけか。

「熱があって、水があって。それでネヴロフが言い出したんだが、誰も何がしたいかわからなくてな」

ウー・ヤーが言うとおり、ネヴロフは癖字で絵心も難あり。

あと語彙力もないせいで、最初何が作りたいか全く伝わらなかったそうだ。

そこから技術を学んでネヴロフ自身が試行錯誤をした。

見たことはあっても作ったことはなかったから、時間はかかったらしい。

だからこうして動き出したのも実は数日前だとか。

「アズがいたらもっと早くとは思ったんだが、それでもネヴロフはすごいな」

「いやぁ、第一皇子に言われてやるならこれだと思っててさ」

ウー・ヤーとネヴロフ話ながら、蒸気動力の所へ向かう。

造りはそこまでこってない。

炉の熱の範囲に大きな水桶があって、そこに注水することで蒸気となって動力装置に溜まるように配管されてる。

溜まった一定量を、動力部へ送り、蒸気の力で圧をかける。

蒸気が水に変わると一気に圧が消えて空気が戻る力で大きくふいごを押す仕組みだ。

「このふいごを動かす部分も、最初逆につけてふいご破いて大変だった」

「動かす腕のとこ、重すぎて押した後のふいごが戻らなかったりしたな」

失敗も笑い話で、ウー・ヤーとネヴロフは楽しそうだ。

僕も聞いてて面白い。

「二人で作ったの? それともウー・ヤーは別のもの造ったりはした?」

聞いたらウー・ヤーは別の場所へ向かい、壁際の棚から何かを取り出す。

「自分はネヴロフ程の発想はなくてな。合金の作り方なら少しはできるかと。それで色との関係を考察する一助にできないかとやってみた」

「赤くしようとして、銅と鉄混ぜても混ざらなくてさ。ヒヒイロカネってなんで赤いんだろうな?」

「冷えて固まる時間が違うから、一緒にならなかったんだ。それで、大親方からはすでにあるものから試せと怒られて、銅と錫で青銅作ったりしていた」

ウー・ヤーはアダマンタイトを作ることを目指して入学した。

だから金属で道具じゃなく、金属そのものを作る方向に行ったらしい。

「それで何かできたの?」

「これなんだが、綺麗なだけ、柔らかくてあまり使い道もないが、今までにない金属らしい」

差し出されたのは、白っぽい鋼色の錫に似た金属塊。

塊を持ってみると、見た目の割に軽い。

そしてその色と手触りで僕が思いだすのは一円玉だ。

「え、これって…………」

「これ、火に入れちゃいけない土からできたんだぜ。毒が出るっていうんだけど、木材の防火剤でここにあってさ」

ネヴロフが笑っていうには、どうやら失敗からたまたま生まれたものらしい。

「防火剤を付け直した残りが近くにあるのを知らないまま、灰からできる金属というもの扱っていた。間違えて、防火剤を混ぜたら、この金属の元になる粉ができてな」

ウー・ヤーとしても偶然で、最初は灰からできる金属と言うものを作ろうとしていた。

けれど本来できるのは白い別のもののはずが、やってみたら鋼色で間違いに気づいたとか。

「新しい金属かもしれないが、正直柔らかすぎて何かに使えるかどうか」

「いや、使えるよ」

「お、本当か、アズ?」

消沈ぎみのウー・ヤーに言うと、ネヴロフがすぐさま喜ぶ。

どうやら新しいかもしれないけど用途がなく、ネヴロフのほうが使える発明をして落ち込んでたようだ。

けどこれが一円玉と同じ金属なら、それはアルミニウム。

つまり、アルミ箔ができる。

科学実験において、これほど使いやすいものはない。

「これ、錆びないでしょ?」

「そう言えばここはずっと蒸気があったはずなのに?」

「ほんとだ。こいつ、ずっと銀色のままだぜ」

一番わかりやすい有用性を言った途端、気づいて二人も推定アルミを見直す。

「錆びないどころか色も変わってないじゃないか!」

「そういやそうだな、え、すごいんじゃないか!?」

「うん、すごい金属を作ったんだと思うよ」

「「やった!」」

そうして無闇にはしゃいでいたら、怒声が飛んだ。

見ると、皺の深い頑固な職人ですって感じの細いおじいさんが現れる。

髪はごま塩くらいのものだけど、眉はふさふさだ。

「まったく、どうした! って、一人増えてるな?」

ウー・ヤーとネヴロフに聞いたところ、この人が技師を名乗る錬金術の道具を作れる職人だとか。

怒った勢いのまま、僕たちが何を騒いでいたかを聞く。

で、僕とウー・ヤーはマント着てるから所属もわかったようだ。

怒られて追い出されないならいいんだけど、後ろにムキムキ職人侍らせてる、けっこう威圧感のある老人だった。