軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

334話:誘い込み4

帝都へ行くことになった僕は、家の事情ってことでテリーに同行することになった。

イクトとはルカイオス公爵領を出るし、道中合流の予定。

錬金術科の学生は、ルキウサリアの冒険者といっしょに帰る。

そっちにはヨトシペも同行して守ってもらうことになった。

そしてハドリアーヌ一行は姉妹揃って帰国。

僕たち三者は、同じ日に発つことにした。

「兄上、同じ日に時間をずらして発つことになんの意味があるんだろう?」

馬車の中で、テリーが聞く機会を窺ってたらしいことを聞いて来る。

僕が皇子と同じ馬車に乗る言い訳は、道中学園のことを聞くってことになってる。

同席は学友のウォーと騎士のテオだ。

どちらも僕の正体知ってるからテリーも気にせず疑問を口にできた。

「人員の確認だね。ナーシャもヒルデ王女側の人員を把握できていなかったから。あとはテリーが挨拶する手間を省けるかと思って」

「そうなんだ。別々に発つのに全員を同じ場所に揃えたのも確認?」

「獣人は鼻が利くから、ルキウサリアへ戻る組に、もし近づく者がいたらわかるようにだね」

調べた限り、ルカイオス公爵領に入った人数と、屋敷に滞在した人数は変動してた。

皇子一人に王女二人だからお付きだけでも百人以上いるから、下位の身分の者は別に動いているのも多かったんだ。

だから送り出しを理由に全員を一つ所に集めて、セフィラに数えてもらったんだよ。

結果、領内に入った後ファーキン組だろう人員が抜けてることがわかった。

合流するならまた人数が変動するし、その対処はナーシャに任せることになってる。

ナーシャとしてはヒルデ王女を追い落とすにしても、自国の安全は確保したい。

だからこそ、道中でヒルデ王女を口封じされるわけにはいかないという状況だ。

うるさいトライアンの人員も連れ帰ってもらうから、あっちはあっちで大変だろう。

「先に出したら私たちを待ち伏せすることもあり得るんじゃない?」

「少なくとも、領内から出るまではルカイオス公爵領の人員が見張りにつく。そしてハドリアーヌはここから西。帝都は東。ルカイオス公爵領を直進できない分、ハドリアーヌ一行に紛れていたとしても、僕たちの先に行くことはないよ」

警戒感があるのはいいけど、僕も含めてきちんと状況を見ないとね。

「何ごとも優先順位があるはずだ。弓一つでウサギ二羽を射抜くことが至難の業であるように、ファーキン組もこちらを狙うなら目的は一つにしないといけない」

「あ、捕まえた者の口封じ? 守りの硬い私を狙うよりも?」

「そう。それにテリーに対しては誘拐をしようとしていた。そうでなければ殺害。そのために大掛かりな事件を起こしもしてる。そして次にヒルデ王女を使ってルカイオス公爵領への侵入。これがカバーのためだけというのは考えられない。大きな目的はルカイオス公爵領での騒擾と見ていい」

僕の言葉に大人しくしていたテオが確認してくる。

「最初からヒルデ王女を利用してルカイオス公爵領を騒がせる算段があったと?」

「そう、上手くいってればテリーはルカイオス公爵領にはいない。それでも事件は起こすから避難の言い訳は立つ。欲しかった名目は、ルカイオス公爵領で他国の王族が害されることだろう」

祭の時期の人の多さと、それらを狙った混乱と行動の制限。

最終的にテリーを狙った部分だけは阻止できたけど、次の動きは誘導されてたわけだ。

「テロ事件は成功、テリーの誘拐は失敗。ルカイオス公爵領への侵入は成功、水難事件の騒擾も成功、証拠の隠滅も成功。ただし、こちらには生きて捕まえた人員が二人いる」

「私の生死とどちらが重いか?」

優先順位という言葉でテリーも考えを口にする。

「殺してもいいと言っていたのだから、私を利用するのは二の次でもいいと思ってるはず。それに、錬金術科の学生たちが見つけた位置。私の部屋より遠い、使用人たちが使う階段のほうだった」

「うん、僕も捕まった仲間の口封じを優先したんだと思う。それだけ重要な情報なら、雇い主という相手の名前を知ってるかもしれない。ただ、首魁の候補は三人。ニヴェール・ウィーギントが直接声をかけた人物だ。そいつには逃げられてる」

トライアンで声を聞いた者たちだけど、何故かニヴェール・ウィーギントを捨て駒にしてる。

(ニヴェール・ウィーギントの血筋とそれに付随する資金は確か。その上で捨ててもいいと思える相手。それがトライアンのファーキン組から逃げ出すような奴に、正体を明かしてるかは疑問だけど)

(可能性があるとすれば、つなぎ役でしょう。怪我を負い、顔も割れている者たちを回されていたことから罰の可能性もあります。また、それほど焦って口を封じなければならないと命じる、高名な雇い主である場合)

セフィラが僕の考えを読んで、推測できることがらを挙げる。

(疑ってすぐに出るのはウィーギント伯爵家。ただ逆に切り捨てるなんてしても血で繋がってるから逃げられない。それにニヴェール・ウィーギントの性格もわかってるはず)

(皇子暗殺にも通じる大役を任せるに不適格。ニヴェール・ウィーギントでなければならなかった理由があると推察)

(そこも推測くらいだ。一番に思い浮かぶのはハリオラータの杖。高かったと言っていたし、性能から相当作るのにも手間がかかる。だったら、それを持っていたからとか)

(同じ犯罪者ギルドの者がすでにいます。引き込みを行うほうが無難です)

姿も見えない黒幕については、情報がまだ足りない。

「兄上?」

「あ、ごめん。なんの話してたっけ」

しまった、セフィラと話し過ぎて、テリーとの会話がおろそかになってしまった。

「たぶん、私に言えない…………いえ、今言っても手がないこと考えてたんだよね?」

「そうなのですか?」

ついて行くのがやっとな様子のウォーが、テリーに聞く。

「兄上は、答えがあれば教えてくれる。でも、そうじゃないなら確定してから教えてくれる。今はまだ答えが出ていないんだろう。その上でこうして動いているなら、たぶん、確定させるための手順は考えてると思う」

「あー、うーん。はい、そんな感じです」

弟に読まれてるなぁ。

これは、錬金術一緒にやったからか。

だいたい聞かれたら答えてたし、上手く説明できなかったりしたら次回に回したし。

後は入学の件か。

入学が難しい状態から留学して、偽名で通ってるのはテリー知ってるし。

あとは、理解するくらい僕のこと見てたってことか。

「兄上、僕に手伝えることはある?」

それは前にも言われた。

見ていてくれてる、わかってくれてるのは家族だから。

前世では望んでも得られなかった当たり前が、嬉しい。

「僕の作戦を聞いて、無理だと言わないだけで十分だよ」

「だって、兄上ができると言うならできるはずだから」

テリーは心底、僕への期待が大きいようだ。

テオは否定する気もないけど、ちょっと遠い目してる。

ただ出会ったばかりのウォーだけは不安そうだった。

うん、それなりにとんでもない作戦だって自覚あるね。

それでもテリーとテオが否定しないのは、この世界の常識的にとんでもないことをすでに左翼棟でしてるせいだ。

「ただ、わかっていることを教えていただければ。私どもと見えている視点が、第一皇子殿下は違っていらっしゃるので」

テオが恐る恐る窺うんだけど、やっぱり実現不可能に聞こえる作戦だからかな。

「そんなに定石から外れたことをする気はないよ。やられたことをやり返す感じ」

「定石、やり返す…………敵に狙いがあって、けどそれは守られていて、私も一応は狙われていて。だから、大きく騒ぎを起こして、本命を別で?」

「着眼点はいいよ、テリー」

こっちが事件を起こすわけにはいかないから、そこは真似できない。

「敵の目を誘導するのは定石だ。軍の動きでもあるよね。正面でやり合ってる間に横合いに別動隊動かすの」

僕も、元軍人のヘルコフに教わったことがある話だ。

言ってしまえば目の前で気を引いて、横に回り込むことに気づかせないようにする。

ウォーが控えめに挙手するから目を向けた。

「レクサンデル大公国では、賊に誘い込みをされたとお聞きしました」

「うん、そう。相手の狙いがわかってるんだから、今度はこっちが誘い込もうと思ってる。そのために出発までの間、クラスメイトたちにも協力してもらって用意したし」

来るとわかってるんだから罠をはる。

そして誘い込んで、こちらに有利な状況を作り上げる。

定石だ。

レクサンデル大公国の競技大会でもやられたけど、テロ事件なんて予想外なことをされて、落ち着けばわかることに対処が遅れたんだよね。

はまると強いからこそ、定石なわけだし。

「素材なんかはちょっともったいない使い方するけど」

「それは用意しておくよう言った塩のこと?」

「そう、想定外の状況、判断の難しい環境、反射的に動いてしまう異変。そういうのが欲しいんだ」

テリーに答えるとウォーが首を傾げる。

「塩で、ですか?」

「兄上の錬金術は、なんでもないものが想像もしなかった結果を生み出すからな」

そういうテリーも、ついでにテオも、結局僕が何をするかわからない様子で揃って首を捻っていた。