軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

333話:誘い込み3

ナーシャのほうからも聞き取り要請があった。

会うとナーシャは硬い表情で出迎える。

「そちらでは今回のことをどうお考えでしょう?」

余裕がない、これは…………。

「今回の賊は、顔に目立つ傷があった。レクサンデル大公国も追っている。それが逃げ出して、外からやって来る者が目立つこの領地に入ってた」

「そうなりますね。えぇ、ヒルデ王女は利用されたのでしょう」

事実を挙げると諦めたように答えた。

つまりはナーシャも同じ考えなんだろう。

ヒルデ王女のお付きの中に、ファーキン組が潜んでたって。

ナーシャの表情が硬いのは、ライバルの失態以上の状況の悪さもわかってるから。

「…………私どもは早急にハドリアーヌへ帰国いたします」

「何故かな?」

「どうかここだけのこととしてお聞きください。…………ヒルデ王女が心を病んでいる兆候があるのです」

引き篭もっているのは保身とかではなく、本当に不調だったのか。

「自分が何処にいるかわからない類の言動をし、時には少女時代であるような言動も見られます」

「それは芝居ではなく?」

「私も、幼い頃にヒルデ王女の母君に数える程度ですが、お会いしたことがあるのです。その時の様子と、よく似ているように思えました」

病んで王妃から引き摺り下ろされた第一王女の母親。

その人も初期は記憶の錯誤や言動の退行があったとか。

「悪化すると、自傷へ。そして近しい者も病ませる。…………母から、そのような王妃に抵抗されて、怪我を負ったという話も聞いています」

ナーシャの母親はヒルデ王女の母親の侍女だった。

本人の主観もあるだろうから、そこの真偽は掘らない。

「問題は、不安定になっているヒルデ王女を、こちらで聞き取りができるかどうかだね」

「申し訳ございませんが」

ライバルとは言え、自国の王女。

それを帝国に犯人側として渡すわけにはいかないと。

ファーキン組のことはトライアンとハドリアーヌ、帝国、個別のユーラシオン公爵と争ってるんだ。

王女がファーキン組と協力ないし利用されたなんて、ハドリアーヌという国の評判を落として攻撃の的にされる可能性すらある。

トライアンがヒルデ王女を切るようなことをして、ファーキン組の件を全て被せてしまえば、最悪ファーキン組による被害をハドリアーヌが全て被ることもあり得る状況。

それが嫌なら戦争だ。

どちらにしても国内は荒れる。

「つまり、だからこその早急な帰国か」

これ以上利用されないように、迷惑をかけないように。

どうやっても立場上、今回の事件の責任を取るなんてできないから。

「そう、できれば敵を捕まえる手伝いをしてほしかったけど」

「正直、私ではヒルデ王女の下にいるトライアン貴族を制御できません。ヒルデ王女の不調を理由にこれ以上煩わせないよう引き摺って帰るしか」

水難事件、及び競技大会での事件はルカイオス公爵の不手際だと騒いでる。

そちらに対応しなければいけない分、領内を捜索する行動の妨げにしかならない。

「それじゃあ、一つお願いを聞いてほしいな」

「…………どうか、我が国には」

「領外へ出る人員に対してだよ」

警戒ぎみなナーシャを宥めてやることを伝えた。

ニヴェール・ウィーギントが言ってた、ヒルデ王女だろう利用価値。

あくまで利用で、協力でも命令でもない。

だったらいっそ、ヒルデ王女側とは足並み揃えてない可能性もあるとは思ってる。

「承知いたしました。言わせていただければ、ヒルデ王女は少なくとも皇子暗殺など大それたことは考えてはいないでしょう」

「事件から不安定になってたなら、いっそ実態を知って怖気づいたってこともあるかな」

「…………あくまで私の推測ですが、もしかしたら今回騒ぐトライアン貴族たちを先導する役を担う予定だったのではないかと思います」

「なるほど。けど、大闘技場での事件の日、ヒルデ王女は動かなかった」

あのテロを目撃させて、他国からの批判としてヒルデ王女にルカイオス公爵を攻撃させる予定だった。

けど、大勢を巻き込むことか、皇子暗殺の汚名か、ともかくヒルデ王女は怖気づいた。

それならニヴェール・ウィーギントの愚痴も意味が通じる。

僕はナーシャと話し終えて、テオ伝いにテリーへ予定を伝えた。

そして僕はあてがわれた部屋に戻る。

「お帰り、アズ。なんかアズばっかり呼び出されて大変そうだね」

そういうラトラスの隣には、男子部屋なのにイルメもいた。

「アズは全体を見回す癖があるから、その分情報も確かだと覚えられたんでしょう」

「確かに。後ろで敵の動きを見て指示出すよな」

ネヴロフから見ても僕って後方待機なのか。

守られて後ろが癖になってたけど、言われて見るとみんなと何かする時も基本後ろだ。

「それで、何か進展はあったか?」

「エフィが気になることと言えば、レクサンデル大公国で捕まえた人は麻痺がひどくて聴取できないけど、みんなが捕まえたほうは喋れるから、帝都に連れ帰ってから絞るって」

「ここも襲われたからな。皇子の安全と、情報源の安全は必要か」

ウー・ヤーが頷くと、ウェアレルが今後について切り出す。

「我々もルキウサリアへ帰還します。屋敷への侵入の目的が、実行犯を目撃した者の口封じの可能性もありますので」

「そうだすなぁ。ルキウサリアのほうがここよりもまず行きにくいでごわす。学園だとさらに人の出入りも限られるでげす」

当たり前にいるヨトシペは、ウェアレルに同意した。

元からルキウサリアは山間の上、戦争ごとにも防戦一方な地理。

その分道は限られるし、必ず関となる城砦も据えられてるから守りは堅固。

帰還のためと言って、道中で会ったルキウサリア側からの護衛の冒険者を探してもらう予定もある。

ファーキン組は人間の中に入り込むから人間が主だし、そうなると獣人の耳目を逃れられもしない。

ルキウサリアへ帰るなら、危険は少ないと言えた。

「で、僕は帝都へ同行することになったよ」

「え、なんで?」

ネヴロフがノータイムで聞き返すと、ウー・ヤーが肩を竦めて見せた。

「一番状況見える位置取りをして、二つの事件の目撃者なら、妥当だな」

「けれど学生を新学期に帝都までというのは気遣いがないわね」

真面目に不満そうなイルメの言葉に、エフィのほうが呆れた顔をする。

「皇子の命が狙われた事件なんだ。帝国の者にとっては学業どころじゃないぞ」

「でも目撃者が狙われるならアズ一人って危なくない?」

猫耳を下げて心配してくれるラトラスに、ウェアレルが自分の胸に手を添えた。

「そこは私が同行します。私のほうからも陛下に報告することがありますし」

「わはー、ウィーは皇帝と話せるどす?」

「私の以前の雇い主、陛下ですよ」

というか即位前からの付き合いだよね。

いっそ顔合わせて話したほうが楽という間柄だ。

そんなウェアレルよりも父との付き合いが長いのが、ヘルコフとイクトになる。

「色違い先生って、前も先生じゃなかったかしら?」

「先生やって、その後に家庭教師になったんだよ」

「それでまた教職になったのは何故なんだ?」

イルメの疑問にラトラスが答えたら、今度はウー・ヤーが疑問を投げかける。

それにちょっと言いにくそうなエフィが答えると、ネヴロフが雑にまとめた。

「第一皇子が、入学できなかったからだろうな」

「先生やって、先生やって、また先生やってるんだな」

そんな話をしてるとノックがあり、対応すれば屋敷の使用人がいた。

「領外からの手紙で、カウリオさまに」

「私…………あぁ、もしや本人がこちらに来られないようになっているのでしょうか?」

ウェアレルに心当たりがある手紙は、走り書きのメモのようなもの。

「ではテリー殿下にアポをお願いできますか」

使用人に言づけて部屋に戻るウェアレルは、僕たちが見てるのに気づいて応じる。

「祭の終わりに落ちあう予定だった方がいたんです。事件を知り、こちらに避難していることも知ってやってきたのですが、領の通行を止められているとのことで」

それだけ言われれば、僕はわかる。

僕が不在の間に帝都へ報告に戻って、帰りに合流して警護すると言う話だった相手。

どうやらイクトが合流してくれたようだった。