軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

332話:誘い込み2

予定外にウォーというテリーの学友を巻き込む場面もあったけど。

その上で、今回の件と競技大会の件で情報の摺り合わせをした。

テリーは当事者でもあるから全体を見るには感情が先立つため、僕が進行する。

「まず、競技大会を狙ったのはあえて人に紛れて悪事を働くためだろう。ニヴェール・ウィーギントは帝都では派手好きそうな恰好をしていた。ところが今回人目につかない服装で動いている」

トライアンのことも、当事者の遺族がいるし簡単に伝えておこうかな。

「リオルコノメ卿が遺した情報を、表向きはソティリオスとハドリアーヌの王女二人の三人でファーキン組と取りあい。実際は僕も情報を抜けないかと探ってた」

「ユーラシオン公爵のご子息が難に遭われたというのは聞いていたけど。その情報に必要な物を奪うついでに誘拐があったの、兄上?」

「そう、そして自力で脱出するソティリオスと僕が落ちあって逃げる途中に、ファーキン組の一部を引き抜くニヴェール・ウィーギントの声を聞いた」

「…………兄上、本当にユーラシオン公爵のご子息は自力で?」

「自力だよ。僕が行った時には捕まっていた場所から縄をほどいて逃げ出していたから」

何やら疑う視線を弟から感じるけどここは本当なんだよ。

抜け出す方法誰から聞いたとか、その後どうやって逃げ出したかは別でね。

「ともかく、ニヴェール・ウィーギントは遅くとも去年の夏から動いてた。襲った理由の一つは、もしかしたら宮殿の出入り禁止を命じられたことへの逆恨み」

「それにしては、最後に怒ってなりふり構わなくなった時以外に、怒りはあまり感じなかった気がする。とても侮ってはいたけど」

「血筋と容姿以外に誇れるものがなかったんだろうね。そして、テリーを生きて捕まえることを目的としていた。つまり、自分の有利になるよう使う予定があったんだ」

「そ、れをわかってて、顔を?」

「あれ? 治癒師が治したりは? 顎割れてたと思ったけどもう治療されてるでしょ?」

当分起きないダメージを狙いはしたけど、外傷なら治るはず。

痛みに弱いし、喋らせるにも顔は重点的に治すと思ったんだけど。

「歯が折れてなくなっていて、それは治せないと聞いてる。あと、鼻の骨が折れたことが要因で、鼻水が全く止まらなくなっているとか」

「あぁ、何か感染症でも起こしたかな? それは治癒師では無理だろうし、下手したら悪化しかねないね」

前世のCMでも蓄膿症とかあったよね。

あれになってたら常に臭いんだったかな?

思わぬ仕返しができてたようだ。

そうでなくても生きて捕らえられ、しかも皇帝の権威に反骨精神がある国にいる。

体裁もあってレクサンデル大公国は必死にニヴェール・ウィーギントから情報を絞ろうとするだろう。

顔の造形とか臭いとか言っていられない状態になってるのは想像にかたくない。

「ただニヴェール・ウィーギントは殺す価値もないほどしか情報を持ってない。帝都を出てからの動きは、トライアンの一件ですでに陛下が調べてるはず。他はこの一年ファーキン組の動きを知ってるくらいか。それはこちらで捕まえたファーキン組にも聞けるだろう」

「そのファーキン組だけど、即座に死の危険はなくなったそうだよ。ただ麻痺が残って喋るのもおぼつかなければ、手も上手く動かないらしくて」

「うーん、情報収集は急いだほうがいいと思う。時を置かずに忍び込むことをした一端は、口封じだろうし。小火も証拠隠滅以外に守りの硬い場所からの移動を想定しているかも」

「うん、入試の途上でファーキン組の時には、すぐに実行犯を始末してた」

そこはテリーも巻き込まれてるから警戒してるようだ。

「ヒルデ王女だろう相手に利用価値があると言っていたのはニヴェール・ウィーギントだ。つまり、今回ヒルデ王女の水難事件はファーキン組の生け捕り如何には関係ない」

テリーが考え込むので、僕も一度口を閉じる。

視線を感じると、ウォーが見てたから笑いかけて促した。

「聞きたいことがあれば答えるよ」

「トライアンへ赴かれたのは、危険があると知ってのことでしょうか?」

僕が思いの外鈍くないとわかれば、殺された父親について気にかかるか。

「残念ながら。ファーキン組のことで僕は動いていなかった。トライアンへ行ったのは、急遽留学の枠が空いて、留学生として出せる者が他にいなかった錬金術科の都合だ。リオルコノメ卿が派遣されていることも知らなかった」

「…………関係ないことをお聞きしてしまい、申し訳ありません」

「いいよ。僕も身分を偽ってる上で、君の兄と接触していないから事情も伝えられていない。理不尽な死に憤りを覚えて当たり前だし、その真相を求めるのも当たり前だ。ただ、あまり慰めになることも言えない」

「いいえ、お心遣い感謝します」

十歳で父親を亡くして、将来のためとはいえ養子入りで家族とも離れた。

恩義を感じる心を利用して肉盾候補にしてる今、自分が汚い大人みたいだ。

もう行動を起こしている以上、歯止めなんてきかないだろうファーキン組は、テリーの入学前には暴いておきたいけど。

「兄上、もしかしたらヒルデ王女はこのルカイオス公爵領を騒がせるために利用されたのかも知れないと思うけど、どうだろう?」

テリーが考えを纏めて聞いて来た。

僕もそれは考えた。

血筋が低いと下に見る皇子を狙って、ニヴェール・ウィーギントになんの得があるのか。

その上でヒルデ王女を利用というなら、ニヴェール・ウィーギントを納得させるだけの理由や行動をファーキン組が提示したことになる。

それで言えば、共通項はルカイオス公爵だ。

闘技場でも犯人に遠回しながら批判を叫ばせてる。

水難事故の船頭もパニクって言えてなかったけどそういう風に取れる言動があった。

「憶測でしかないけど、このルカイオス公爵領に入り込むのは難しい。その上で、入り込むための経路としてヒルデ王女が利用された可能性がある」

推測する僕にウェアレルも賛同する。

「えぇ、見晴らしがよいので領内は近づけばわかります。であれば、近づいても不審がられない一団の中に隠れることが必要となるでしょう」

「ハドリアーヌ王女たちの一行に紛れて? 第一王女は被害者ではなく、仲間ということでしょうか?」

テオが警戒の滲む声で確認して来た。

「よりも、口封じかな。余分な人員の内訳はわかってるはず。その上で上手く殺せればいい。殺せなくても脅しとして口を閉じさせることができるってところだと思う」

「第一王女に協力を要請して、敵の手の内を聞きだせないかな?」

「無理だろうね、テリー。ナーシャは競争相手としてヒルデ王女を監視するようなことをしていた。けれど見慣れない人員については今回ヒルデ王女に付き従う者ほとんどそうだと言っている。それだけわからないよう偽装した、偽装しなければいけないと自覚してる。そこまで手を貸したヒルデ王女が、口を割るとは思えない」

何より、この憶測だけで無理矢理調べるだけの権限者がいない。

第二皇子の名前だけで、既婚者で他国の王女、第二の継承権持ち、血筋は上の相手なんて手が出せないんだ。

ルカイオス公爵領で事件は起きたし、見た目の上での犯人もルカイオス公爵領の者。

そうなると代官だって被害者を相手に、共犯だろうなんて証拠もなく言えない。

「現状できるのは、人員が何人減ってるかを調べるくらいだろうね。減っていないなら、僕のほうで誘き出しや選別をするけど」

減っていた場合はもう逃げてるかもしれない。

守りを緩めるわけにもいかないから、追うことはできない。

後の捜索はルカイオス公爵領の側に要請するしかない。

「私がレクサンデル大公国で狙われて、ここでは他国の姫君が巻き込まれた。それはルカイオス公爵を攻撃するため?」

「陛下の統治能力を疑う見方もできるけど、一方的に悪いと言われる立場になっているのはレクサンデル大公国とルカイオス公爵だ」

テリーに答えながら、僕も状況を見直す。

競技場での犯人の犯行声明、あれは回りくどいと感じた。

けれど考えてみれば、その言い訳をレクサンデル大公国が利用しない手はない。

ルカイオス公爵の事情に巻き込まれた、自分たちも被害者だと。

「ニヴェール・ウィーギントをわざわざ引き渡したし、地下で逃げた犯人はレクサンデル大公国から逃げ果せてる。陛下の側から言ってもらえれば、あまり強くルカイオス公爵だけを責めることはしないと思うけど」

「兄上は、ルカイオス公爵の失脚を望まないの?」

「そんなことされて困るのは陛下だよ?」

「兄上はそれでいいの?」

「前にも言ったけど、僕は左翼棟で気ままに錬金術ができる環境嫌いじゃなかったからね。悪意ある噂を流されるのは不愉快だけど、それで何か困ったかって言われると、現状何も」

そもそも帝位継ぐ気ないし、軽んじられてもルカイオス公爵派閥に会う機会自体がないし。

逆に影響力なんてない僕に、噂を信じて無防備に近寄る人はわかりやすいカモだ。

おっと、エフィの顔が浮かんでしまった。

元家庭教師のハドスに変えておこう。

「それでだ。ファーキン組はもう一度くらい襲ってくると思う。今度は計画にない、突発的な口封じのために」

これを逃す手はないんだよね。

「レクサンデル大公国では誘い込まれて襲われた。だったら今度は、こちらが誘い込んで捕まえてしまおう」

テリーもテオも、もちろんウォーも唖然とする中、ウェアレルだけが警戒するように三角の耳を突きたてて僕を見る。

「また敵の前に身を晒すようなことであれば、承諾しかねますよ」

「それは、しないよ。さすがにあんな不測の事態は一度で十分だ」

長い付き合いのウェアレルの釘差しに答えると、テリーがそわそわし始めた。

目が合えば、叱られる僕が珍しいらしくなんだか嬉しそうでさえある。

ちょっと照れくさくなりながら、僕は相手の動きに対する予測に話を変えることにした。