軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

335話:誘い込み5

帝都への道半ば。

宿泊予定がずれて、予定外に足を止めた町ではもう日が傾いてる。

そんな中、僕たちは屋外にいた。

しかも見晴らしのいい牧場の端で木々の間に身を隠してる。

「あの、サイロの中から風の音がするのですが?」

「はい、先生と警護の方が予定どおり仕かけたんでしょうね」

僕の隣には弟のテリーとその学友のウォーがいた。

後ろにはテオ他テリーを守る人たちもいるから、僕は一学生として応じる。

聞いてきたのはウォーで、お互い話すとぼろが出そうだと、テリーと意見が一致してた。

だからウォーを挟んで会話することになってる。

「えぇと、今日ここへ至るのも作戦だったのですよね?」

ウォーが不安げに確認して来たのは、ハプニングを自作自演して、宿泊予定をあえてずらしたことにな対して。

その上でこの町を選んで、滞在のために先触れを出したりとわかりやすく動いてる。

そこで食いついたのはもちろんファーキン組だ。

「対戦ゲームをしたことはありますか? 僕は必勝法は勝つためでなく、負けないよう立ち回ることだと教わりました」

実際はそんなのしたことはないし、前世にある言葉を借りた。

確か出典は徒然草だったかな?

有効な時もあるけど、実力差があると悪あがきにしかならない手だ。

起死回生のために頭を回すことも必要になる。

「負けないためにすることは、相手が何を狙い、どんな手を打つかを見極めること。それがわかっていれば、少なくとも即座に勝ちを攫われることはない」

「つまり現状は…………敵の手を読んで、誘き出した?」

「そうなりますね」

テリーの呟きに、僕はつとめて他人行儀に応じる。

実際ファーキン組が狙ってくることは、新たに情報源を取られた状況からわかってた。

だからあえて狙いやすいこの町に滞在しようと準備し、イクトを先行させてる。

単独行動の上、連絡を取った相手も学園関係者としているウェアレルだったから、ファーキン組のマークはつかない。

「視界が悪くなる時間帯に、視界も利かない窓のない場所。それと同時に待ち伏せに使えない見晴らしのいい場所で、逃げ場もない。誘い込みたい思惑があるところを、逆に誘い込んだ結果です」

「そこまで考えて。相手からすれば、見つからない、待ち伏せもないと思い込んでいると」

急な変更を装って、捕まえたファーキン組を拘留おく場所を探すように見せかけた。

そして選ばれたのがこの牧場のサイロ。

それらしい見張りを立てると、襲われたら危ないって理由で人はなし。

ただサイロから距離を取った見張りはこれ見よがしに歩かせてある。

もちろんファーキン組は、見張りを避けてサイロに侵入した。

それをここに隠れた僕たちはとお目ながら見ている。

「それで、サイロの中に誘い込んで、今は何を?」

捕まえたファーキン組二人を放り込むふりで、実は中にはウェアレルとイクトがいる。

つまりは口封じにやって来た賊を逆に待ち伏せしたんだ。

ファーキン組はサイロの鍵を壊して侵入したけど、その鍵は急ごしらえのもの。

サイロに最初からついてる本当の鍵は閂。

それをテリーの護衛の中から身の軽い者がここから走り出して、ファーキン組が入り込んだ瞬間閂を挿した。

「行われているのは二人による魔法攻撃です」

「えぇと、何かしかけが?」

ウォーはテリーに急かされて端的に問う。

まぁ、弟の命狙ってきた相手に、ただの魔法で済まさないからね。

「実は学園で友人たちと実験している途中のものですが。錬金術で作った粉末や薬液で魔法の威力を高められることを発見しました」

「あ、もしやあの魔法個人戦の競技で準優勝した方の? 岩が割れたとか…………。あ、失礼を」

ウォーが関係ないことを聞いてしまって謝る。

「そうです。魔力を込める以外で火の勢いを強めたり、風の勢いを調整したり」

エフィという実例から、錬金術科の学生と知ってても僕の説明に周囲も耳を傾ける。

「まず、先生が起こす風。これに熱を発する粉末を混ぜることと、熱を冷ます粉末を混ぜることをします」

やるのは競技大会への道中、イルメがやっていた竜巻を作る方法だ。

「水もそうですが、空気も温めると上昇し、冷やすと下降します。この特性を活かして、上を温めた状態、下を冷やした状態にすると、空気が大きく動き、魔法で風を操る際の補助となるんです」

テリーが気づいた顔をするのは、水槽使って温度の違いを見る実験はやったからだ。

温度と色を変えた水が混ざらない様子を、双子は面白がっていたな。

「そこにさらに、氷を作る薬液と、塩を魔法で作った水と一緒に投入します」

「氷を作る? それに塩?」

「エッセンスを使って作れる薬にあるんだ。だが、それは水の表面を凍らせるだけのはず」

疑問を呟くウォーに、実際作ったこともあるテリーが教える。

しっかり僕とやった理科実験を覚えてくれているのは嬉しいな。

こうなると、何処かでアイスクリームでも作る実験やりたい。

前世にあったアイスクリームを作るシェイカーの便利グッズを模せば、たぶんできるし。

あれ、でもこれってモリーに回したほうが良さそう?

あ、モリーのほうから献上してもらってもいいかも。

帝都に帰るけど、僕今皇子じゃないからアイス作っても伝えられないし。

「塩はどう使うのだろう?」

テリーに聞かれて僕は逸れた思考を戻す。

「塩は氷と反応して冷えるんです。氷は溶ける時に冷気を発します。そしてその溶けた水に食塩も溶けます。この状態の変化が起きる際に、周囲から熱を奪っているため冷えるんです」

これで納得するのは、熱の移動を説明したことのあるテリー、そしてその説明を聞いたことのあるテオだけ。

実証しないとわからないからここは結果だけを言おう。

「つまり、魔力の枯渇では止まらない風の中、水がばら撒かれ細かい粒となって凍り、さらに塩が入ることでより冷える。今サイロの中は冷風が吹きすさぶ、過酷な状況となっているでしょう」

本来なら大魔法と呼ばれるような準備と人数が必要になるだろう状況だ。

魔力消費も少なく済むんだけど。ここで問題なのはウェアレル。

イクトは極寒の海底に適応してる種族だけど、エルフとのハーフのウェアレルは、被毛がないから寒さに強くない。

一応実験でできた熱を発する粉末をいくつかの袋に詰めて渡してあるけど、どうかな。

今回使うエッセンスの薬なんかも、一緒に作ったのはクラスメイトたちだ。

サイロ一つ冷風で満たすのには相応の量が必要で手伝ってもらった。

「あ、扉が」

サイロの閂を下した人員は外で待機して、新手が来ることも警戒したけどそれもなく。

中から終了を知らせる合図があったようで、閂に手をかける姿が見えた。

最初に賊が入り込んだ時、あの閂役の護衛が、外で見張りにつこうとしてたファーキン組をサイロに蹴り込んで閂をしたんだよね。

だから全員で入ることになったようで、外にファーキン組はいない。

そしてサイロからまず出て来たのは、凍えて背を丸めたウェアレルだった。

(セフィラ、どう?)

(サイロの中では全員が凍えて抵抗もできない状態です)

追加情報で、一人平気なイクトが用意しておいた縄で賊を縛ってる途中だとか。

その前に武装を剥ぐため衣服を脱がせているので、賊はより凍えてるとか。

「人手がいるでしょうから行きましょう」

「それなら私も。守る者たちから離れるわけにいかないからな」

テリーはそう言い訳をして、勇んで僕について来る。

サイロに近づくと壁越しに冷気を感じるほどだ。

確か氷と塩って合わせると零度以下になる。

そこに風を吹かせたから、相当な寒さだろうな。

僕の説明を飲み込めなかった護衛たちも、サイロからの冷気に気づいて驚いてる。

「先生、大丈夫ですか?」

僕はまず、外に出てるというウェアレルの下へ向かった。

寒さを見越して厚着をしてたんだけど、それでもやっぱり中は寒かったようだ。

僕を見て強張った顔で笑みを浮かべる。

「この、熱源がなければ、少々まずかったです、ね」

口も上手く動かないくらいらしい。

北海道とか、風吹くと体感温度がガクッと下がって街中でも遭難凍死するって聞いたことあるけど。

そのレベルだったとしたら、中に魔法使い入れて使うのは考え直すべきだろうな。

それでも魔法使うからって、魔石込みで発熱粉末渡したのが功を奏したらしい。

暖を取るために意識を逸らさなかったことで、寒い中にいるのは短い時間で済んだ。

結果として僕たちは、新たに顔に傷のある二人に加え六人のファーキン組を捕らえる。

全部で十人の情報源を捕まえて、帝都へ帰ることになったのだった。