軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34話

満景が占い師になった初日。

満景に占ってもらおうという客は、なかなか現れなかった。

これは、当たり前のこと。

そも、平日夜に占いの館に来る客の多くは、特定の占い師の顧客である。

得意の占い師を他所に、特に宣伝もしていないぽっと出の占い師に占ってもらおうという、奇特な客などいるはずもない。

「そもそもの話。平日夜に冷やかしや飛び込みでやってくる客を、僕に相手させるってことだったしね」

満景は、見栄えを整えはした部屋の中で、黒塗りの箱を机に置いて作業をしている。

客が来ないならと、護符や紙の人形を作成して補充しているのだ。

護符は、綺麗な白い厚紙を使い、よく切れる小刀と定規を使って、所定の大きさに切り揃えて短冊状に。短冊型になった厚紙の表面に、筆ペンで梵字による真言を書き入れる。真言が持つ超常的な力でもって、所有者ないしは貼り付けた建物への霊障を防ぐ効果となる。

人形は、コピー紙二枚を科学ノリで張り合わせてから、人の形になるよう鋏で形を切り出していく。貼り合わせるのは、紙の強度と起立性を少し高めるため。貼り合わせたコピー紙一組で、

四つの人形ができる。こちらは護符と違い、真っ新な状態で箱の中に収める。

そうした内職を行っていると、満景の部屋の前に来る客の足音が聞こえた。

満景は、箱の中に内職道具を素早く仕舞って、初めての客を呼び込むことにした。

「占いをお望みでしたら、こちらへどうぞ」

満景の呼びかけに、客が部屋の中に入ってきた。

スーツを着た、ビジネスウーマン。顔に疲れが現れていて、髪の艶めきも弱々しい。霊障を患っているような臭いはないため、本当に占いを求めてやってきたのだと分かる。

女性客は、満景の対面にある椅子に腰かけ、申し訳なさそうな顔を見せる。

「あのー。ここの占い師の中で、お兄さんが一番占い料金が安いと、ビルの出入口にいたお坊さんに聞いたんですけど……」

「はい。僕だと、他の人の半分の値段で占います」

「それじゃあ、先にお支払いをしますので」

女性客はバッグから長財布を取り出すと、五千円を満景に差し出す。

満景は、そういえば占い料金がいくらに設定しているかをソコノ住職に聞いてなかったなと思いながら、五千円を受け取った。

「それじゃあ、占っていきますね。僕はタロット占いなんですけど、構いませんか?」

「は、はい。お願いします」

「では、お姉さんが何を占って欲しいかを教えてください」

「えっと、仕事運を占って欲しくて」

「分かりました」

満景は、タロットカードの束を手に取ると、トランプのように札を切って混ぜる。その後で一まとめに整い直してから、女性客の顔の前にタロットカードの束を差し出した。

「息を、ふっと吹きかけてください」

「は、はい。ふーー」

「ありがとうございます」

満景は、タロットカードの束を机の上に一直線に広げると、両端から順に中央に向って円を描く手つきでタロットカードを混ぜ合わせていく。

その後で、左から順番に一枚ずつカードを集めていき、一つの束に整え直した。

束を机の中央に置き、女性客の前に、左、右、中央の順番で一枚ずつカードを置いた。

満景は、女性客の左に置いたカードに手をかける。

「このカードが貴女がいま置かれている、仕事の状況にあたります」

満景がひっくり返すと、魔術師のカードの逆位置が現れた。

「このカードは、貴女が不安定な立場に置かれていたり、誰かの意図画に巻き込まれて苦しい状況にいることを示しています」

「は、はい。それで、どうしたらいいかは?」

「気を逸ってはいけません。今の状況のまま先に進むとどうなるか。それはこのカードが示してくれます」

満景は右のカードをつまみ、捲る。

現れたのは、塔の正位置。

満景は、悪い結果だと悟られないよう表情を整えながら、カード束からもう一枚引いて、表にして塔のカードの上に置いた。

それは悪魔のカードの正位置だった。

この二枚のカードが示す内容を、満景は気が重く感じながらも女性客に伝えることにした。

「このまま行くと、貴女の仕事は失敗します。致命的とまでは行かないですが、再起することが難しいほどの失敗です。そして貴女を失敗に導く元凶があり、その元凶は失敗から逃げおおせます」

「えーっと、もうちょっと分かり易く言って欲しいんですけど」

「単純に言えば、このままでは仕事の失敗を貴方一人だけが被ることになります」

「えっ、そんな! どうにかできないんですか!」

「その方法を探るために、貴女に一つお手伝いをお願いします。その中央にあるカードを左手で触れながら、このカード束の一番上をめくってください。どうやったら貴女が助かるのか。助かった先の未来ではどうなるかが分かります」

「はい! カードをめくればいいんですね!」

女性客は急ぎ調子で、左手で中央に置かれたカードに触れながら、右手でカード束の一番上をひっくり返した。

現れたカードは、死神のカード。

そのおどろおどろしい絵を見て、女性客が息を飲む。

「こ、これって、死神って書いてますよね。もう何をしてもダメってことですか!?」

「落ち着いてください。現れたのは確かに死神のカードですが、向きが逆位置になっています。死神の逆位置のカードは、一発逆転を意味しているんです」

「ぎゃ、逆転ですか?」

「その逆転に必要な鍵となるのが、貴女が左手に触れている、そのカードです。ひっくり返してみてください」

女性客が左手でカードをひっくり返すと、隠者の正位置が現れた。

「目立たな知識人。引退した権力者。会社の弁護士。そんな貴女の仕事に直接関係していない場所にいる、貴女が相談できそうな人物で、貴女を悪い未来に引き寄せようとする人物の味方ではない人が、良い未来を引き寄せる鍵のようですね」

「そんな人。あっ。一人思い浮かびました、けど……」

あからさまなほどの気乗りのしていない顔になったのを見て、満景はタロットカードを回収して一つの束に戻しながら助言を口にする。

「どの未来を選ぶかを決定するのは、貴女です。このまま何もせずに仕事の失敗を押し付けられる未来か、相談しにくい相手に相談して逆転を狙うのか。そして、僕の占いを信じずに、別の占い師や霊能者に相談を持ち掛けるかもね」

満景が明確に進む道を言葉で示したところ、女性客の疲れた顔に決意の意思が現れた。

「わたし、相談してみます。畑違いの人に相談して何が変わるかなんて分からないけど。とりあえず、やってみます」

女性客は一礼すると、決意が鈍らないうちに行動しようと気が急いている様子で、部屋から飛び出していった。

「……そういえば、占い師が客を見送る際の言葉って、なんって言ったらいいんだろう?」

占いを求める客は、困りごとを解決するために来る。

「『またのお越しを』じゃ、悩みが解決してないか新たな悩みが出来るようで失礼だろうし」

新たな疑問が湧いたものの、しかし今日の客は新たに現れなかったので要らぬ疑問に終わってしまうのだった。