軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30話

体育館に入ると、昨日の入学式とは違い、パイプ椅子は配置されていなかった。

一年生たちは、床に直接座る形で、舞台に身体の正面を向けて座っている。

満景が見る限り、教室の席順に座るわけでも、A組B組に分かれているわけでもないようだ。

それならと満景は最後列に座ろうとする。

しかし舞台近くの場所から、声がかかった。

「おーい、満景! こっちに座りなよー!」

名前が呼ばれた方に目を向けると、小里が大手を振っている。

満景は、周囲から視線を集めながら、小里の方へと小走りに近づいた。すると、どうやら小里は満景を座る場所を取っていてくれたようで、ちょうど人一人が座れるだけの空間が床にあった。

その場所に、満景は座りつつ、小里に文句を言う。

「いまの呼び方、わざとだろ」

「ええー、なんのことか、わからないー」

小里の目に笑いの感情が浮かんでいるのが見える。どうやら、なにを『わざと』やったのかを、満景に言わせたいようだ。

「だから、大声で僕の名前を呼んだのは、他の生徒に聞かせるためだったんだろって」

「あはー、バレちゃった? いやぁ、面白い反応が見れるだろうなって思ったら、ついね」

「ついって。俺は別にいいけど、そっちはいいの?」

「いいのって、なにがよ?」

「勘違いした人を量産するんじゃないかな。公衆の面前で、異性を名前で呼ぶってことをやると」

満景が心配して言うと、小里は理解を示す表情を浮かべてから揶揄うような笑顔を向けてきた。

「んん~? 勘違いって、どっちかなー? 私が満景に好意を向けているって、ここにいる人たちが勘違いするのかな? それとも満景自身が勘違いするのかな~?」

「……単純に揶揄っているだけだって分かっているけど、自分の身を危なくする揶揄い方は止めた方が良いよ」

「ガチの顔で説教しないでよ。結構傷つくんですけど」

小里はムッとした顔を見せたあとで、またもや異性を勘違いさせかねない仕草で、満景の頬に口を近づけてきた。

「ねえ、満景って一人暮らししているの、本当?」

満景は質問の真意がわからず、小里へ首を傾げてみせた。

「本当だけど、それが?」

「高校生で一人暮らしだなんて、恋愛ゲームの主人公っぽいからさー」

「悪いけど、そのネタはわからない。あんまりテレビゲームとかしたことないから」

「あちゃー、話題振りに失敗するとは。でもさ、一人暮らしをいいことに、ハメを外しちゃだめだからね。不純な交友で退学なんてことになったら、悲しいからさ」

「生憎と、そういう相手はいないから、心配要らないよ」

「ほほー、そうなのかー。これはまた貴重な情報が」

冗談の応酬のような会話の最中に、壇上に生徒が一人あがってきた。

どうやらクラブ紹介の進行役のようだ。

『これから各クラブには、各々三分の自己紹介をしてもらうことになっている。新入生諸君は、気になるクラブがあれば、まずは仮入部して欲しい。仮入部であれば、何個掛け持ちしてもいい。その後、自分に合うと感じたクラブを一つに絞って本入部を行って欲しい。以上だ』

進行役が舞台袖へと引っ込むと、すぐにクラブの代表者らしき数名が壇上に現われ、自身の活動内容について話始める。

満景は、あまり興味のない内容のクラブなので、聞き流すことにした。

他の生徒はというと、興味があれば聞き、興味がないなら小声で周囲と会話したりしている。

そして小里はというと、スマホのレンズを向けて、クラブの紹介をしている上級生たちを撮影していた。

一番目のクラブが場所を次のクラブに明け渡すタイミングで、満景は小里に小声で話しかけた。

「なんで撮影しているの?」

「これは実家の仕事さ。ああしてクラブ活動の内容を語る姿は、生徒の親は見れないからねん」

クラブの代表として新入生に語りかける姿は、代表を担った生徒の晴れ舞台。

その生徒の親であれば、見れるものなら見たい場面だ。

そこに商機を見出したから、小里に動画撮影の仕事が頼まれたのだろう。

そうした背景を理解した後で、満景は別のことを考える。

(クラブ紹介は、一組三分。入れ変えと準備に一分かかるとして、合計で四分。一時間で十五のクラブしか紹介できないわけだよね)

この学校には、いくつのクラブ活動が在籍しているのだろうか。

その数によっては、二時間三時間と体育館に拘束される時間がかかる。

(僕が興味をもてるクラブが出てくればいいけど)

最初と二番目のクラブのような運動系は、満景の好みじゃない。

早く文学系のクラブがでてこないかなと、満景は待つことしかできない。