作品タイトル不明
28話
熊野高等専修学校は霊能者を育てる学校である。
そのため授業は、普通の高校とは違ったカリキュラムを組んである。
霊能教育という科目がある点は、最も分かり易い違いだ。
そして通常の科目でも、同じように違う点がある。
A組の担任である鬼瓦が、一週間の時間割が書かれた紙を、A組の生徒たちに配布した。
満景は書かれている内容を見て、意外に感じた。
それは隣に座る小里も同じようで、満景に顔を寄せて耳打ちしてきた。
「なんか、歴史の授業が多いね。その代わりに、理科系がちょー少ない」
満景が中学生の頃、歴史の授業は一週間――平日五日のうち一コマか二コマだった。
しかしいま配られた時間割には、五日で四コマ――ほぼ毎日歴史の授業がある。しかも日本史が三コマで、世界史が一コマという形でだ。
この歴史の授業の多さを確保するためにか、理科と芸術学科が一コマずつになっている。
より詳しく時間割を見れば、他にも違いが見えて来そうだ。
しかし満景が詳しく時間割を見る前に、生徒の一人が鬼瓦に挙手しての質問をしていた。
「せんせー。歴史がやたらめたら多いんですけど、これってどうして?」
鬼瓦は、少し肩をすくませると、言い飽きたといった口調で説明してくれた。
「霊や神ってのは、必ず歴史に関係しているもんなんだ。そして霊や神の歴史――つまり背景を知っていれば、霊や神に交渉しやすくなる。知らなくても、ある程度の時代を推察できれば、その時代の背景を考えれば、突破口が見つかることも多い」
「霊能者活動に役立つから、歴史が多くなっているってことですか?」
「そうだ。悪霊祓いだの悪神鎮めだのを行う際には、前準備で地元の図書館で土着の歴史を調べることだってよくある。その訓練も加味されて、この授業スケジュールになっている」
「でも、神様に歴史があるってのは分かるけど、霊に歴史ってあるんですか?」
「霊ってのは死者だ。そして死者には死んだ理由が必ずある。どうしてその人が死んだかをつまびらかにすれば、それは人の歴史となるんだ」
鬼瓦の説明に、満景は納得する。
満景の生家である、犬塚家は狗神を使役し続けてきた呪術師の家だ。
もし誰かが満景と敵対する場合、犬塚家の歴史を知っていれば、狗神に対抗する術を備えておくことで身の安全を図ることができる。
小里の場合も、彼女が管狐を使役する一族だと家の歴史を知っていれば、管狐避けの香を焚くことで情報や物を盗まれることを予防できる。
(そうした人の背景を調べる癖をつけるために、この学校では歴史の授業に重きを置いているってことなんだろうな)
歴史の授業の多さの意味が理解されたところで、鬼瓦がついでのように霊能関係の授業についての説明を口にし始める。
「昨日、A組の生徒は実際に悪霊を祓ってもらう活動をしてもらうと言っておいたな。そして教師からお前たちの親御さんたちにも同じ内容のことを伝え、もし悪霊と戦うことが嫌だという家庭なら自主退学を勧めるとも伝えてある」
一人暮らしをしている満景には初耳な情報だったが、親元で暮らしている生徒たちは知っているようで、驚いた雰囲気は教室にはない。
「無論、即座に決めるということは難しいのは分かっている。良くも悪くも、この学校は有名だからな。自主退学したと周りに知られたら、霊能者の将来の道は永遠に断たれることになるからな。時間をかけて慎重に判断したいはずだ。だから最初の一ヶ月は、護符や除霊道具の作成をすることに時間をおくことにした」
時間割には、午後の授業の大半が、霊能関係の授業として時間がとられている。
一ヶ月は、この授業時間で道具作りを行うと聞いて、満景は微妙な感情を抱く。
なにせ満景は、両親に落ちこぼれ判定を食らって、占いの館で師匠たちに教えてもらうようになってから、自作の除霊道具を作り続けてきた。
今更学校の授業で学んだとしても、何かが得られるとは思えなかった。
しかし満景は、自分がそんなことを考えていると理解すると、その驕った考えを改めることにした。
(何事にも学びはある。師匠たちから教えてもらったのは、彼ら彼女らが自分に使いやすいよう改変したものである可能性が高い。なら学校で教わるのは、とてもスタンダードなものなはず。その違いを知れば、護符や除霊道具の改良の仕方が見えてくるかもしれない)
満景は謙虚に学ぶ精神を新たにし、学校の授業に身を入れることを誓った。