作品タイトル不明
26話
ソコノ住職が経営する占いの館は、平日は午後五時からオープンとなる。
そのオープン時間の前に、満景はやってきた。ソコノ住職に提案された通りに、占い師になるために。
すると、ソコノ住職が占いの館の出入口で待っていた。
「おう、満景。ちょっと詳しい話をしようか」
その言葉から始まったのは、この占いの館での占い方について。
満景は、中学生時代に土日限定で手伝いをしていたこともあって、占いの館のシステムについて知っている。
しかし復習的に、教えてくれるらしい。
「占いの館じゃあ、多数の占い師が、それぞれの得意な方法で客を占う。客に受けがいいのは、視覚的にも楽しめる占いだな」
「視覚的というと―― 鎮真人(ちんしんじん) さんは道教儀式をアクション的な動きで。 御土路汚泥椎茸(おどろおどろしいたけ) さんは怪しく光る水晶玉を使って。デビル大杉殿下は悪魔が宿るウィジャ盤が自動的に動いて。ぐらいでしたよね?」
「そうそう、そいつらがやっているみたいに占うと、客が盛り上がる。なにか、そういったやり方はできるか?」
「うーん。ちょっと難しいですね」
満景が師匠たちから学んだのは、霊能的な技術だけで、占いは雑談の中でちょこっと基本を教わった程度。
とても視覚的に客を満足させられるような方法は考えつかない。
「それなら、普通に占えばいい。的中率が高ければ高いほど、占いの見た目が地味でも客はつくからな」
「それはそれで、僕には腕に覚えがないんですけど」
「なーに。満景は自分にできる精一杯をすりゃいい。所詮占いってのは、当たるも八卦当たらぬも八卦だ」
「そういうものですか?」
「占ってみて深刻そうな悩みを持った客だったら、他の占い師に投げちまえばいいさ。送った先で悩みが解決できたら、客だって満足する」
満景は納得しきれない気持ちを抱えたまま、ソコノ住職の話の続きに耳を傾ける。
「占いに来る客の中には、霊障に悩まされている人もいる。まあ既に分かっているだろうが」
「そりゃあ、土日の客にもチラホラいましたし」
「その霊障について、満景が祓えそうなら、満景に任せることにするからな」
「……やれと言われればやりますけど」
「心配するな。本当にヤバい霊障持ちは送らねえから。ま、見間違うことはあるかもしれんけど、そのときは占いと同じで他に投げちまえばいい」
「要するに、どうしようもないときの尻拭いはするから、安心して占いをしろってことですね」
そういうことならと、満景は占いの館で占い師として働く決意を固めた。
するとソコノ住職から、こんなことを言われた。
「それで、満景は占いの衣装をどうする? 土日に着ている狩衣でいいのか?」
「そうしようかなと思ってましたけど、なにか問題が?」
「いやよお。狩衣姿の占い師や陰陽師ってのは巷に溢れているからな。差別化したほうがいいんじゃねえかなってな」
言われてみると、テレビ番組で紹介される占い師や陰陽師などは、殆どが狩衣姿だ。
神職の人たちにしても、狩衣に近い恰好をしてテレビに出ていることもある。
要するに昨今の日本人は、霊能者は狩衣を着ている人という認識を持ちがちなのだ。
そういうありきたりな格好は、先ほどのソコノ住職が語った『客を喜ばせる演出』という観点からするとマイナス要因となりえる。
「そう言われても、僕には霊能者の服なんて狩衣以外には持ってませんよ?」
「いいや、持っているぜ。それもとびっきり、客が食いつくヤツをな」
「そんなもの、あったっけ?」
満景は、実家から持ってきた私服や、師匠の一人が引っ越し祝いにくれた服などを思い返す。
しかし、これぞ霊能者という服に心当たりはなかった。
首を傾げる満景を見て、ソコノ住職は呆れ声で言ってくる。
「お前さんが通っている学校はなんだ」
「熊野高等専修学校――ああ~!」
満景が分かったと声を上げると、ソコノ住職が答えを口にした。
「霊能者を育てる学校の制服。これほど、霊能者でございって服装はないだろ」
「いやでも、制服なんだから、珍しいってわけじゃないんじゃ?」
「あの学校の在校生で占い師をやっているヤツなんて、聞いたことあるか?」
つまり、霊能者育成学校の現役学生という看板で占いをしろと、ソコノ住職は言いたいようだ。
「制服なら、新しい衣装を買う必要がないから、経済的に助かりますけど。学生服を着た占い師なんて、見るからに半人前ですよ?」
「実際、満景は半人前だから、看板に偽りはない」
「お客さんが半人前に占われるなんて嫌、っていってきそうですけど」
「他の占い師に比して、満景の占い料を半値にすりゃいい。半人前だからの特別価格ってな」
安いからと満景に占いを頼むような客は、深刻な悩みをもっていない。
そうソコノ住職は見ているのだろう。
満景は、本当に良いのかなと思いつつ、その提案を受け入れることにした。
しかし今日から早速、ということではないらしい。
ソコノ住職が、一枚の紙を満景に渡してきた。
それは熊野高等専修学校に提出する、アルバイト許可申請書。既に書類の文面は完成していて、保証者の欄にもソコノ住職の本名と印鑑が押してあり、あとは満景が名前と押印をすればいい段階になっている。
「こんな書類、どうやって?」
「熊野高等専修学校のホームページに、各種書類のダウンロードページがあるから、そこからだな」
「いや、そういうことを言いたいんじゃなくて、随分と用意周到だなって」
「いやいや。占い師にならなくたって、ここで土日にバイトすることは変わらないだろ。なら、その書類は必要になるだろ?」
そう言われてみればと、満景が納得する。
むしろ満景の方から、雇い主のソコノ住職に書類を書いてくれるように働きかけなければならなかったと反省した。
ソコノ住職から手渡された書類を学校に提出してバイトの許可を得るまで、満景の占い師の仕事はお預けとなった。