軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25話

満景がファミレスで食事を終えて自宅に帰ると、まだ正午近い時間だった。

「この時間なら、大丈夫かな」

満景はスマホを取り出すと、ソコノ住職の番号に電話をかけた。

五回ほどコール音が鳴ってから、通話が始まった。

『どうした、満景。なにか学校で問題が起こったか?』

ソコノ住職の声が聞こえてきたので、満景は電話の用件を伝えることにした。

「学校でA組になったんですけど、A組の生徒は一年生から悪霊退治をすると言われました。それで、どこで悪霊退治をするか、場所をご存じないかと」

『……そういう件で連絡してくるのは、珍しいな。なんか事情があるんじゃねえのかい?』

ソコノ住職に見抜かれてしまったので、満景は事情を語ることにした。

といっても、小里を手助けすることを了承した件を語っただけだが。

『なるほど。その娘っ子に良い恰好をしたいから、事前情報を得たいってわけか』

「いやいや、そういう理由じゃないですよ。ただ、守ると約束したのなら、その約束は果たすべきだってだけのことで」

『かー、約束だ契約だなんて。高校生男子なら男気で女を惚れさせるのが目的だ、とでも言えば格好がつくってもんなのによお』

「そういう目的は欠片も考えてませんでした」

ソコノ住職は満景を揶揄うのに満足したのか、真面目な口調で用件についての回答を口にし始める。

『あの学校が課外授業で使う場所ねえ。実のところ、幾つかあるから候補が絞れねえんだよなあ』

「学校で鬼瓦先生が語ったところによると、東京都を覆う大結界にワザと作ってある結界が弱いところだって。そこには神社もあって、そこで戦うような口ぶりでした」

『その条件でも、二ヶ所だな。いや、後に生まれた綻びの場所を入れたら三ヶ所か。いやでも、高校一年生に戦わせるとなると、やっぱり二ヶ所だな』

「どっちか分かります?」

『多分だが、その二ヶ所を順繰りに使うんじゃねえかなと予想はできる。だが最初に案内されるのがどっちかまでは分からん』

「その二ヶ所で、学校に近い方は?」

『世田谷神社、それと隣接する寺も含まれる場所だろうな』

「そこが高校一年生が霊や妖怪と戦うのに適している理由を教えてもらってもいいですか?」

『東京の南西部――つまりは裏鬼門にあたる位置にあること。これは結界の裏口みたいなもんで、結界強度が弱い場所だ。その強度の弱さを補う形で、美術館と馬術場がある。そこを通過して神社まで到達するとなると、どんな霊でも妖怪でも力が弱まるからな。半人前を戦わせるには、丁度いい場所だ』

「どうして美術館と馬術場があると、霊や妖怪の力が弱まるのですか?」

『美術品ってのは、多かれ少なかれ人が念を込めて作ったものだ。その念に触れると、霊や妖怪が影響を受ける。在り方を歪められると、それらは一時的に力を失うものなのだ。そして馬は、干支に数えられる動物だけあって、存在力が強い。もし蹄で踏まれでもしたら、生半な霊や妖怪など霧散してしまうほどだ』

「人の念、そして存在力の強さで、霊や妖怪が弱くなるから、半人前が戦っても大丈夫なぐらいになるわけですね」

『元は、楽に結界を守るための方策だったのだろうがな』

聞きたい情報を聞けたので、満景はお礼と共に通話を終えようとする。

しかしその前に、ソコノ住職から新たな話題がきた。

『そんでよ、満景。お前さん、平日も占いの館で働く気はないか?』

「えっ。僕の受付は、社会人相手の夜だと時間が限られるんじゃ?」

高校生のバイトは二十二時までと法律で決まっている。

しかし占いの館の平日のコアの時間は、それより後。

世の闇に紛れて、人の目に触れないように忍んで、重大な悩みを解決するための占いを求めて客が来るからだ。

そして、その手の客は事前に予約して来ることが多い。待合時間で他の人の目に触れたくないという気持ちが強いからだ。

ともあれ、いまさら満景のような半人前とも呼べない、占いの手ほどきを受けただけの霊能者が、夜の占いの館に占いの部屋を持つ意味は薄いように感じる。

そんな満景の考えと、ソコノ住職の考えは違うようだ。

『お陰様で、占いの館は人気になってな。夜にも冷やかしや飛び込み客が来るようになった。そんでまあ、占いの値段でひと悶着起きることが多くなってきたな』

「平日夜の占いの料金は、高めに設定されてますもんね」

基本的に、占いの館で行われる占いは、悩みの深刻度に対して料金が上がる仕組みをとっている。

そのため、平日夜の占いは、予約をしてでも大金を払っても解決したいという客向けに、料金が高くなっている。逆に休日の占いは、雑多な人が気安い悩みを解決できるように、料金が低めに設定されている。

占いの館に所属していない外様の占い師にしても、平日には受け入れず、休日にだけ部屋を貸している感じだ。

『つまりだ。冷やかしや一見の客を、満景に取らさせて、他の占い師の負担を減らしたいってわけだ』

「いいんですか、そんなやり方。そういう冷やかしや一見客こそちゃんと対応しないと、すぐに悪評立ちますよ?」

『大丈夫だ。その手の連中の悩みなんて、易でさっと占って済むようなもんだと、相場は決まってる。それに本当に深刻な悩みを持っているヤツだったら、満景なら見抜いて的確な占い師を紹介してやれるだろ?』

「……平日夜は、ソコノ住職が客を占い師に案内する、受付業務担当なんですよね。僕が受付業務を代わって、ソコノ住職が占ってやればいいだけじゃ?」

『馬鹿言え。こちとら平日は寺のお勤めで忙しいんだつーの。夜まで勤勉に働いてられるか』

生臭坊主っぽい物言いに、満景は肩をすくめる。

しかし、ソコノ住職の申し出は、実のところ満景にとって有難いものだった。

一人暮らしは、それなりに金がかかる。

週末だけ働いて得る給料だけだと、節制が必須になる。

しかし平日の夜に、少ない時間だとしても、働いて給料を得られれば、節制をする必要はなくなる。

満景は、今後の生活のことを考えて、自分に占い師が勤まるのかという不安は胸に抱きつつも、結局はソコノ住職の提案を飲むことにした。