軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

24話

鬼瓦先生の話が一段落ついた。

これが普通の高校だったのなら、生徒の自己紹介を行う場面に移るもの。

しかし、この学校では違うようだ。

「つーわけでだ。今日はこれで解散。明日の登校からは、服装は自由だからな。もちろん、学生服を着て通学しても良いぞ。実のところ、その制服には護符が縫いこまれているから、ある程度は悪霊を撥ね退ける力がある。実地研修を行う日は制服着用が推奨だが、お前たちが用意できる護符付きの服でも構わない」

それじゃあと、鬼瓦先生は教壇を下りようとする。

そこに小里が待ったをかけた。

「あの、先生。このA組でやれる気がしなくて、B組に入りたいって生徒がいたら、どうしたらいいんですかねー?」

「それは認められんな。B組は基本的に、一から霊能者の技量を学ぶクラスだ。お前らがB組に入ったら、前世の記憶持ちよろしく、成績で無双しちゃうからな」

「つまり、どうあってもA組で頑張るしかないと?」

「実地研修で戦闘するのが嫌なら、自主退学を勧める。今日、お前たちに自己紹介をして貰わなかったのも、最初の実地研修までに学校を去る者がいると見越されているからだしな」

つまり、いずれ去る人物の名前を覚えるのは脳の記憶容量の無駄になると、鬼瓦先生は言いたいようだ。

小里からの質問がもうないと見てか、鬼瓦先生は教壇を下りて教室の外へと出ていった。

これで今日の学校行事は終わりとのことなので、A組の生徒たちは困惑顔をしながらも下校の準備に入る。

満景も、自分のボストンバッグを持って、教室を出ようとする。しかし席を立とうとする直前で、小里に上着の裾を摘まれて、動きを止めた。

「どうかした?」

「あのさ、ちょっと相談に乗って貰えない?」

「いいけど、この教室で?」

教室内には、まだまばらに生徒がいる。そして何より、二人の近くに座る力雄は、まるで全生徒が教室から出ていくまで席を立たないと言いたげに、腕組みしながら自分の席に座り続けている。

もしここで小里が相談を口にすれば、少なくとも力雄の耳には入ってしまうことだろう。

小里は、どうしたものかと迷う素振りを見せた後で、教室の外を指した。

「学校を出てすぐの場所に、ファミレスがある。そこで話すってことで、いいかな?」

「いいよ。少し早い昼食ついでにね」

話がつき、二人は揃って教室の外へ出ることにした。

学校の正門を出て、満景が歩いてきた通学路とは別の方向の道を進む。

歩いて五分ほどすると、上下合計で六車線の大きな街道が現れた。そして、横断歩道を渡った向かい側に、有名チェーンのファミレスが駐車場付きの一棟立てで存在していた。

そのファミレスの中に入り、二人はそれぞれ注文を通した。

小里は、ソーセージの盛り合わせと、季節のパフェを。満景は、大満足カレーセットを。加えて、二人ともドリンクバーを付けた。

二人がそれぞれ飲み物を取ってきて、席に座り直す。ちなみに小里は温かい紅茶で、満景は炭酸グレープジュースだ。

「それで、相談って?」

飲み物を口にしながらの満景の質問に、小里は袖口から管狐を覗かせる。

「いやさ。私が悪霊退治が苦手なの、この子を見ればわかるでしょ?」

確かに小里の袖から顔を出している管狐は、瞑らな瞳と可愛らしい小さい牙を持つ、小さな獣だ。

悪霊――例えば満景が借りているマンションの部屋にいた、あの女性の悪霊を祓えるかと考えると、無理そうだなという印象しか抱けない。

「管狐の役割は、情報収集とか物品の窃盗とかだもんね。戦うのは不得手だろうね」

「現代社会を生き抜くため、うちの管狐は情報収集に特価しちゃったから、余計にね」

「特化って?」

満景の率直な問いかけが出たところで、店員が料理を運んできた。

テーブルの上に料理が並んだ後、話が再開される。

小里はパフェをスプーンで口に運びながら、袖口から顔を出している管狐にソーセージを食べさせつつ、問いかけの答えを喋る、

「管狐って、名前の通りに、管に入る生き物なわけよ。いや、霊的存在が生きているかどうかの議論は横にしてだかんね」

「その管に入る生き物ってところに、現代社会を生きるために特化する理由があるってこと?」

「そうそう。実のところ現代社会ってのは、管の集まりなわけ。そんで管狐は、その特性から、管の中を自由かつ素早く行き来することができんのさ」

管と言われて、満景が思い浮かべることができるのは、せいぜい水道管や下水管ぐらいなもの。

その類の管は昔から存在しているので、小里がいうほどに現代社会が管に溢れているようには思えなかった。

「うーん。どんな感じに管狐は役に立っているのか、ちょっと教えてもらっていい?」

「本当は情報量をいただきたいとこだけど、相談に乗って貰っている身だかんね。差しさわりのない部分については教えちゃおうかね」

小里はボストンバッグからスマホと充電器を取り出すと、それらを満景に向けてきた。

「例えば、スマホ。これを充電するとき、この充電器が必要でしょ。そして充電器とスマホを接続するには、ケーブルが必要になるわけよ」

「それはそうだけど?」

「わかんないかなー。このケーブル。仕組みはどうなっているか知ってる?」

「使っていたケーブルが断線して中が見えたから知っているよ。薄い皮膜に包まれた中に、電線が入っているんだよね」

「そうそう。でさ、ケーブルってのは、言い換えてしまえば、電線が中に入っている、筒になった被膜なわけよ。ここまで言えば、管狐がどの筒を通っているのか、予想はつくんじゃないかなー?」

言われて、満景はハッとして、自分たちのテーブルの壁際に備え付けられているコンセントを見やる。

もしも電線の中を管狐が通れるのならば、コンセントから電線を通って、このファミレスの何処にでも管狐は移動できることになる。

そして全ての電化製品は、たとえバッテリーが備わっていたとしても、いつかは確実に電源に接続される。

その電源に接続されたときに、管狐に情報を抜いてもらえば、実質的に盗めない情報はないことになる。

いや、電源ケーブルだけじゃない。

「インターネットに接続されているパソコンなら、管狐は何処にでも入り込めるってことか」

「戦闘力を失わせるかわりに、霊的な場所だけでなく電子的な場所にも入り込めるようにしたのが、うちの管狐ってわけよ」

そんな管狐がいれば、誰だって情報屋として大成できる。

なにせやろうと思えば、アメリカの国防総省の中に電源ケーブルを伝って入り、そして電源ケーブルから秘密情報が集積されているパソコンに入り込んで情報を盗んでくるなんてことだってできるのだから。

しかしここまで考えて、満景は完璧に思える小里の管狐にも問題があることが分かった。

「管狐が覚えられる情報には限界がありそうだから、そこまで問題になってないんだろうね」

「あやや、バレちまったか。管狐は盗むのは得意でも、そのまま盗んでくることしかできないし、盗める量も限りがあるのが欠点なんだよねー」

例えば国歌級の秘密が集まる場所に入ってデータを盗む際に、術者が設定した物しか盗めないし、盗む際に情報量が多かったのなら途中までのデータしか持ってこれない。

「管狐の有用性と問題について分かった。それと戦闘力が皆無になっている件についても。それで、僕に相談って?」

話をファミリスに来ることになった理由に戻すと、小里は拝むような手つきを見せてきた。

「悪霊退治の実地研修のとき、私と組んで欲しい!」

要求を理解してから、満景は首を傾げる。

「僕の力が必要なら貸すよ――と約束はできるけどさ。助けを求めるのなら、別の生徒の方が良いんじゃない?」

正直、満景は自分の実力を大したものじゃないと把握している。

占いの館に属する師匠たちから多少の手ほどきを受けているものの、霊能者としての腕前はぺーぺーも良いところ。

マンションの悪霊を追い出したのだって、悪霊を退散させたのではなく、悪霊が行きたい場所にいけるようにするという形で霊を部屋から取り除いただけ。

英孝の狗神を彼岸の向こうへ送ったのだって、狗神を身体に憑りつかせてから施餓鬼を行って呪力を弱まらせてから、彼岸に霊を連れていく力が強い仏の力を借りて、どうにかできたこと。

それこそ師匠たちならば、念仏一つで、悪霊も狗神も彼岸まで除霊することが可能だっただろう。

そう自分の実力を把握しているからこその、満景は自分以外の者に助力を頼む方が良いのではと感じざるをえなかったのだ。

しかし、小里の視点では違うらしい。

「いやいや。この管狐が懐く相手って、結構限られんのさ。それに戦闘力皆無の人を庇ってくれるようなお人よしが、あのA組の生徒に多くいると思う?」

「良く知らないから、いるとも居ないとも言えないよ。でも、情報収集だって話しかけていた小里さんは、その手のお人よしは少ないと見たってわけでしょ」

「ギブアンドテイクなら助けてくれそうな人はいるよ。でもさ、実地研修の度に貸しを作ったんじゃ、私は破産しちゃうってもんよ」

「それで、お人よしで、タダでこき使えそうな僕に白羽の矢を立てってわけ?」

「それは人聞きが悪いてもんさ。でも、お友達価格にはしてくれるんじゃないかなーって、期待はある」

明け透けに言われて、満景は仕方がないと肩をすくませる。

「いいよ。悪霊祓いとかの討伐系な課外授業のとき、僕は小里さんと組むことにするよ。ちなみに、報酬は要らない。タダでいい」

「えっ、本当に!? あっ、ツケとか貸しとかにするっていうのなら、ぬか喜びなんだけどー?」

「ツケにも貸しにもしないよ。本当にタダでいい」

「……そこまで無料を連呼されると怖いんだけど、その心は?」

理由を言って納得してもらえるかなと疑問に思いつつ、満景は偽らない心の内を明かした。

「人に布施する心が大事ってのが、仏教系の師匠の言葉なんだ。だから小里さんを実地研修で助けるのは、小里さんに対するお布施だよ」

「布施って聞くと、お金や物をあげるって感じだけど?」

「本来の布施は、人に何かをしてあげることだよ。転んだ人を助け起こすのも、迷っている人に道を示すのも、お金に困っている人に都合をつけてあげるのも、住むところのない人に宿を貸すのも、全てが布施だよ」

「困っている人に何かしてあげることが、布施ってわけ?」

「必ずしもそうとは言えないけど、まあ大部分はそうだね。そして布施した相手から見返りを求めない。これも布施の一環だから、小里さんから何かを貰おうという気はないよ」

「つまり、お師匠の教えだから、タダで助けてくれると。なんとも、お人よしなことだねぃ」

「お人よしなんかじゃないよ。人に布施をするのは、人のためじゃなくて、自分のため。自分に徳を積むための行動なんだから。見返りを求めないのも、積んだ徳を減らさないためだしね」

「……なんか、知っている仏教と違う気がすんだけどー?」

「僕の仏教感は師匠譲りだから、普通とは違っているかもね」

そんなこんなで、とりあえず満景は小里の手助けをすることが決定した。