軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23話

担任教師として入ってきた先生は、正門前で満景にバッチを渡した、黒スーツの男性だった。

ただし、入学式まではキッチリと付けていたネクタイが、シャツの第二ボタンの位置まで緩んでいた。

黒スーツの男性は、ネクタイを整えることはせずに、教壇に立つ。

「おらー。席なんてどれでもいいから、さっさと座れー」

生徒たちがお喋りを止めて、それぞれが確保していた席へと座る。中には、喋ることに夢中で席を決めていなかった人が、慌てて空いている席に駆け寄っている。

A組の全生徒が席についたのを確認してから、黒スーツの男性は自身の名前を黒板に書いた。

「 鬼瓦(おにがわら) 志咲(しぶき) だ。一般科目では数学を、霊能科目では討伐系を教えることになる。A組の生徒は、一年目から幽霊や妖怪の退治を経験してもらうことになるからな。俺の授業は真面目に学んだ方がいいぞ」

さらりと言ってきた内容。それにツッコミを入れたのは、満景の隣にいる、小里だった。

「鬼瓦先生。討伐って、全員が強制参加なんですかー?」

「当然だ。この学校が設立された目的は、日本国土を荒らす魑魅魍魎どもを呪力の力で持って平定する衛士を育てるためなんだからな」

「でも、霊能者の中には、そういう荒事に向かない人もいるんじゃ?」

「安心しろ。この学校に蓄積されたノウハウを使えば、どんな落ちこぼれでも、雑多な妖怪ぐらいは倒せるように教育できる」

「いやー、そこは、落ちこぼれたなら退学っていう感じなのが、普通じゃないですかー?」

「自主退学は認めているが、こちらから退学しろとは求めたりしない。この学校は普通の高校じゃないんだ。だから何年留年したって、立派な霊能者にしてやる」

この学校を卒業すれば霊能者として認められるという点。

その点について、鬼瓦先生の話を聞いて、満景は真に納得できた。

(卒業すれば霊能者として認められるんじゃなくて、霊能者として認められるレベルにならないと卒業できないってわけなんだ)

卒業資格がそれなら、確かに熊野高等専修学校を卒業した人は霊能者として認められざるを得ない。

小里も、そういう理屈なのだと理解できたのか、質問の口を閉じた。

鬼瓦先生は、他に質問する生徒がいないか確かめるように教室の中を見回してから、話の続くを口にする。

「体育館でも言ったが、A組の生徒は現時点でも、ある程度霊能者としての手腕を持っていると、学校側が判断した者たちだ。特に、いま制服にバッチを付けた者たちは、A組の中でも一段上の実力を持っている。その実力差が、呪力の差なのか、経験の差なのか、知識の差なのか、はたまた発想の差なのかは、区別せずにだがな」

教室の中の生徒たちは一斉に頭を動かして、周囲にいるバッチ持ちを探る。

満景が座っている位置に顔を向けて固定する生徒が多いのは、満景の他に小里と力雄というバッチ持ちが近くにいるからだろう。

(鬼瓦先生が言った区分だと、僕は発想力に優れているって感じなのかな?)

スマホと人形の目を連動させたことを語った際に、鬼瓦先生が笑いながらバッチを差し出してきたことを思い出して、満景はそう判断を下す。

(そうすると小里さんは情報力を活かした知識量で、力男は呪力の強いタイプかな?)

満景が知り合いはどういうタイプだろうと想像を働かせている間に、鬼瓦先生の話が先に進む。

「そして、ある程度の腕前があるのなら、座学と同じく実地も重要になってくる。むしろ一年の座学なんて、お前らからしたら、そんなことは知っていると言いたくなる内容ばかりになるだろうしな」

その実地について、鬼瓦先生は語っていく。

「東京都ってのは、大きな結界の中にある都市だが、意図した設計でその結界に弱い隙間が作ってある。その隙間には、他所からの悪霊や悪い妖怪なんかが東京に入ろうとやってくるんだが、そこに大きな神社を関所として置いてある。その神社に行き、集まった悪霊や妖怪を祓う。それがお前たちの実習になる」

鬼瓦先生の説明に、ある生徒が手を上げる。

それは小里が体育館で興味を示していた人物の中の一人――手水舎家のご令嬢と呼んでいた女子生徒だった。

「そのような有象無象と戦闘せよと? 祓い師の腕前を上げるのであれば、雑魚を多数蹴散らすよりも、大物を相手にした方が成長が見込めるのではなくて?」

自分の腕前に自身がありそうな口調を受けて、鬼瓦先生は大きく頷き返した。

「確かに、大物を相手に戦い倒した方が、実力は付くし、箔もつく。だがな、悪霊がある程度呪力を持つを憑り殺する、その殺された人の呪力の分だけ強力な存在になることは知っているな。なら、わざわざエサを運んでやる必要はないだろ?」

満景は、鬼瓦先生の言葉の意図を瞬時に掴むことはできなかった。

しかし、大物を相手にできるほど実力を持ってないだろうと、そう手水舎家のご令嬢に言ったのだと、時間がかかったものの理解できた。

そんな満景よりも、手水舎家のご令嬢は頭の回転が良いのだろう。

瞬時に言われたことが理解できたようで、顔色に興奮が乗った状態で鬼瓦先生へ言い返していた。

「なんと無礼な! この私が、平安時代より続く陰陽師の大家、手水舎家。その長女、 芍香(しゃっか) と知っての物言いですか!」

「生徒の情報は頭に入っているから知っているよ。陰陽師の大家の娘の魂だ。さぞや悪霊にとって、美味しいご馳走だろうな。まったく。そんな人物を実地研修に連れていかないといけないとなると気苦労が重なりそうだと、今から憂鬱になりそうだ」

歯に衣着せぬ物言いとはこうだと示すような言い方に、手水舎芍香の顔色が興奮に怒りが入ってますます赤くなる。

しかし彼女が何かを言い返す前に、鬼瓦先生は他の生徒に向けて言葉を放っていた。

「お前たちが実家でどう扱われていたかは知らん。だが、この学校の中では、他の生徒よりかは少し腕前がある一年生としか扱わない。俺ら教師を見返したきゃ、学業でいい成績を取るしかない。それ以外のことで評価することはない。分かったか?」

諭す言葉に、全生徒がそれぞれ理解を示す動きを行う。

満景は頷き、小里はやってられないという顔になり、力雄は腕組みしながら口をへの字に曲げ、そして手水舎も悔しそうな顔をしながらも苦情を告げる口を閉じていた。