作品タイトル不明
22話
A組の教室は、今まで通った学校と同じく、生徒の人数分の机と椅子に黒板があるという、ごく普通の部屋だった。
満景は教室に入ると、黒板に書かれている文字に目を向ける。
『席順は決まっていない。好きな席を取れ』
好きな席と言われてもと、満景は教室の中に目を向ける。
席は六列に配置されている。六列目――出入口から最も遠い窓際の列は、他の列より席が一つ分少ない。
(合計で三十五席か。それなら)
満景は、ざっと熊野高等専修学校が東京都のどこにあるのかと、構内の地図を共に思い浮かべる。その後で、この教室の位置がどこかを考える。そして風水的に何処が安全かを計算して考えて、五列目の一番後ろの席に座る事にした。
目当ての席を目指して教室内を進んでいくと、既に生徒が何人か席を取っている姿があった。
活発そうな見た目の生徒は前に、控え目そうな生徒は後ろの席を取りがちのように見える。
満景が無事に五列目の最後尾の席に座ると、四列目の最後尾の席を取った生徒が現れた。それは入学式で右隣だった、小里だった。
「よっ。また隣だね」
微笑みながらの言葉に、満景は直感的にもしかしてと思いついたことがあった。
「教室の後ろの方の席だと、教室内が一望できるからかな?」
「おっ。よくわかったね。情報収集するには、良い席だと思わない?」
「やっぱり、小里さんは霊能情報屋か。管狐を飼っているから、そうじゃないかとは思っていたけど」
「情報が欲しいのなら、お安くしておきますよー」
「今のところ必要ないね。一応僕、占い師の弟子だから」
「うえー。ある意味、商売敵じゃんか」
管狐などの霊的存在を使用して情報を集める、霊能情報屋。
それがどうして占い師を商売敵としているのか。
それは占い師が、生年月日と名前という限られた情報から、依頼者が欲しがっている情報を与える能力があるから。
例えば小里が管狐を使って、時間をかけて情報を集めたとする。占い師は、その情報を占うだけで得ることができる。
労力の少なさと情報習得の早さを考えると、知りたい情報を知るという点において、情報屋は占い師の後塵を拝している。
しかし情報屋が要らないわけではない。
占い師による占いは、確証のない予報のようなもの。当たることもあれば、外れることもある。
ちゃんとした資料や確度の高い情報、もしくは法的に証拠となり得る物証を手に入れるには、情報屋の手腕が必ず必要だ。
そういう、一部で収益を分け合う間柄でありつつも、棲み分けも出来ている間柄が、情報屋と占い師の関係である。
そうした関係をお互いに分かっているからこそ、満景と小里は冗談めいた口調でいられる。
「それで、情報屋として、体育館で言っていた人とは別の、有望株はいるの?」
「いるいるー。でも、その情報は渡さないよー。ってか、いまからお近づきになってくるので、じゃ」
小里は席を立つと、教室の前の方に集まっている生徒たち目掛けて近づいていった。
元気な後ろ姿を呆れ顔で見送っていると、満景に近づいてくる人の影を感じた。
そっちへ目を向けると、入学式で腕組みして座っていた、満景より先に登校してバッチを貰っていた、男子生徒がいた。
身長は百八十センチメートルに届いているように見える。制服を内側から押し上げるように、発達した筋肉を持っている。顔も巌のように角ばった輪郭ながら、贅肉が少ないスッキリとした見た目。
小難しそうに寄せている眉を止めれば、男性向けのファッション誌のモデルになりそうな出で立ちだ。
「なにか、僕に用?」
満景の方から喋りかけると、小難しそうな顔の男子生徒が自己紹介を始めた。
「俺は、 多久頭(おおくず) 力雄(りきお) 。伊角神社を継ぐ息子だ。趣味は相撲。多久頭という名字は響きが嫌いだから、力雄と呼んでくれ」
「えっと、初めまして。僕は犬塚満景。呪術師の家に生まれたけど、祓い師志望だよ。趣味は、特にないかな。名前の呼び方は、犬塚でも満景でも、どちらでもいいよ」
自己紹介の交換を終えて、満景がそれでという顔をする。
力雄は、少し困った顔になってから、満景の座っている椅子を指す。
「窓際の席を取りたい。少し席の位置をずれてもらっても?」
「えっ。あ、ごめんね。道を塞いじゃって」
もちろん満景は、一人が通れるぐらいの幅を、自分の席と教室の後ろの間に空けてあった。
しかし体格のいい力雄が通るとなると、確かに幅が狭いかもしれなかった。
満景が素直に場所を更に空けると、力雄は安堵した顔で窓際の列へ。そして最後尾の席に座り、腕組みして背筋を正している。
他者との関りを拒絶しているような見た目だけれど、満景はそう受け取らなかった。
(なんというか、心優しい大型獣が小さな存在に怪我をさせないよう気を配っている、って感じだよね)
事実、力雄に殴られたら、食事事情が悪い環境で育ったことで体躯が華奢な満景など、教室の端から端まで吹っ飛ばされそうな予感がある。
それに加えて、力雄の制服にあるバッチ。
あのバッチを貰えているということは、彼も一端の霊能者である証だ。
(クラスメイトは、楽しそうな人ばっかりだ)
満景は、小里と力雄という気が合いそうな二人を見つけられたことに心の中で感謝しつつ、教室に入ってきた教師へと視線を向けなおした。