作品タイトル不明
21話
入学式が、進行役の教師の言葉と共に推移していく。
学校長挨拶、来賓者挨拶、在校生代表の祝辞。
学校長の格好が衣冠単の特級だったり、来賓者が現役の閣僚大臣だったりしたが、それ以外は中学校の入学式と同じような段取り。
粛々と式が進んでいくが、時間が進むに従って、新入生たちの態度に変化が現れる。
最初は緊張した面持ちだったが、退屈な時間が続くことで、段々と気が緩んできている。
満景は最前列に座っているため、後方の様子は分からない。
それでも後方から、小さな話し声や、欠伸の音、貧乏揺すりで揺れるパイプ椅子の軋みなどが聞こえてくるようになったことは分かる。
横に目を向ければ、満足して満景の元から戻った管狐を、女子生徒がセーラー服の袖の内に入れてあやしている姿がある。
(暇つぶしが楽にできていいなー)
満景はそんなことを考えながら、視線を体育館の舞台の上へと戻す。
在校生の歌い手が壇上に上がり、国歌の歌唱が始まるところだ。
代表に選ばれるだけあり、しっかりとした声量での歌が、マイクを通して体育館に流れる。
歌が歌われている間は、その歌の上手さからか、先ほどまであった新入生たちが立てる小さな音が消え失せていた。
国歌が歌い終わり、自然と体育館内に拍手が上がった。
歌い手は一礼して舞台を下りると、進行役が次の指示を出す。
『学校長および来賓者、退席』
両者が席を立ち、壇上から下り、体育館の通路を進んで外へと出ていく。
これで後は生徒が出れば、入学式は終了だ。
その段階になって、急に新入生に紙が配られた。
パイプ椅子の列の右端に座る生徒たちにひとまとめにされた紙が配られ、一人一枚手に取ったら左に手渡す形で、新入生全員に行き渡る。
満景が手渡された紙面に目を落とすと、まず目に入ったのは新入生のものと思わしき名前の羅列。ちゃんと満景の名前も、紙面にある。
満景の名前の横には『A』という文字が書かれてある。
他の名前には『A』と書かれているものもあるが、『B』と書かれているものもある。
このAとBの違いについて、壇上に上がった教師の一人がマイクを通した声で説明してくれた。
『自分の名前を確認しろ。そして名前の横に書いてあるAかBかは、お前たちが入る教室だ。AならA組に、BならB組という感じだ』
なるほどと満景が納得していると、隣に座る管狐を持つ女子生徒から肘で突かれた。
なんの用かと顔を向けると、紙の一部に指を向けながら見せてきていた。
「私、A組なんだけど。そっちは?」
彼女が指す場所には、『 小里(こさと) 麻沙美(まさみ) 』の名前とAの文字。
ここで初めて彼女の名前を知ったので、満景も真似て自分の名前が書いてある紙の場所を示す。
「僕もA組みたい」
小里は、どれどれと言いたげに、満景の示す名前を確認する。そしてギョッとした顔で、満景の顔を見直してきた。
「君って、本当に犬塚? この学校に入れる犬塚って、アレでしょ?」
何が言いたいのか理解できないような問いかけだが、満景は小里が何を質問したいのかを理解する。
なにせ霊能関係者で犬塚の名前を出すと、だいたいが同じ質問をしてくるからだ。
「お見通しの通りに、僕の生家は狗神の犬塚家だよ」
満景が肯定すると、小里は混乱したような顔になる。
「ええー、そんなまさか。ああー、私の勘も鈍ったかなー。いやでも、この子も懐いているし~?」
不思議そうな小声での呟きが耳に入り、満景は思わず問いかけ返す。
「なにを、そんなに気にしているんだい?」
「いや、狗神ってほら、犬をアレして作るでしょ。アレしたケガレを、君から感じないんだよねー。それにこの子も、ケガレには敏感な性質だから、ケガレの持ち主に懐いたりしないはずなんだけどな~」
小里の返答を聞いて、満景は納得した。
「そういう事なら、小里さんの勘が鈍ったわけでも、その管狐の性質が変わったわけでもないよ。僕は狗神を作ったことがないってだけだから」
満景が当たり前のことを告げる口調で教えると、小里はそれこそ驚いたという顔になった。
「えっ、犬塚家に生まれておいて、狗神を作らなかったって、本当に?」
「ペットの犬と猫を両親に与えられたんだけど、愛情が移って殺したりできなくてね。寿命がくるまで一緒にいたよ。そして寿命がきても、念仏を唱えて送り出しちゃったしね」
「はえ~。霊能者の家に生まれて、その家の仕来りをぶっちぎるなんて、ロックな生き方してんじゃんー」
「確かにそうかもね。家族から落ちこぼれ扱いされて暮らして、今は親元離れた一人暮らしだし」
「へへー、一人暮らし。これはなんとも、いい情報だねい」
小里の目に何かの企みが浮かんでいることに気付き、満景は喋り過ぎたと反省する。
そんな二人の会話の切れ目を待っていたかのように、壇上の教師から次の言葉がやってきた。
『自分の組み分けが分かったのなら、移動開始だ。まずはB組から移動開始だ』
その言葉の直後、体育館の出入口に『B組』と書かれたプラカードを持った教師が現れた。
満景は、その教師が正門前で待っていた人の中にいた一人だと思い出したが、話した相手ではないことも分かった。
B組に割り振られた新入生がパイプ椅子から立ち上がり、プラカードを持つ教師に近づいていく。そして新たに誰もパイプ椅子から立ち上がらないことを確認してから、プラカードの教師と集まった生徒たちは体育館を去っていった。
その姿を見送ってから、壇上の教師がまたマイクで喋り始める。
『ここに残った連中がA組だ。周囲を見て、顔を覚えておけよ』
そういうのならと、満景は振り向く感じで周囲を見ることにした。
A組の生徒は、満景を含むパイプ椅子列の最前列に座った、胸にバッチをつけている生徒たち。その他には、各列に数人という感じで、バラバラに座っている。
胸にバッチがある人はともかく、その他の生徒に共通点があるようには見えない。
(でもバッチ持ちがA組に一塊にされているってことは、他の生徒も同基準で選ばれているはずだよね)
そんな満景の疑問は、壇上の教師からの発言が答えとなってやってくる。
『A組に入れられた生徒は、ある程度は霊能者として実力があると判断した者たちだ。バッチ持ちはもちろん、バッチを持っていない奴も、前評判がある者ばかりだ』
満景からすると、そうなんだと理解するだけで済ませるしかない情報だ。
しかし隣の小里は違うようで、A組の新入生たちの中に知っている人物がいるようだ。
「うはー。よく見りゃ、一時期子供陰陽師として名をはせた若槻ちゃんに、霊なら全部殴り飛ばして彼岸を渡らせる武装集団閻魔寺の息子がいるよ。そんで最後列で澄まし顔でいるの、手水舎家のご令嬢じゃん。他にも色々といるね。こりゃあ、同じクラスの生徒になった幸運を活かして、コネ作りに励まないと……」
小里は有名人らしき生徒と、仲良くする気でいるようだ。
満景は、それほどのバイタリティーを発揮するのは自分では無理だと感じつつ、気の合う人とだけ友達になれればいいやと気楽に構えることにした。